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ここがヘンだよ、日本のITエレ業界!(5)強すぎる企業買収アレルギー
(2013年1月 8日 00:02)最近、米国企業が売り上げを伸ばしている方策の一つに買収策がある。例えば、インテルが2011年に業績を伸ばしたのはインフィニオンの通信部門を買収したからであり、クアルコムが2012年に伸ばしたのはWi-Fiチップのトップメーカーだったアセロス・コミュニケーションズを買収したおかげだ。その他にも、ケイデンスデザインシステムズやメンターグラフィックス社なども買収によって業績を伸ばしてきた。
買収する目的は、自社にない製品やサービスを持つことで、自社では得られなかった製品・サービスによる売り上げ増を見込めることだ。このためブランド力があった企業を買収してもしばらくはその企業の名称やブランドを残すという方法を採ってきた。
買われる側も、例えばベンチャーであれば、喜んで身売りする企業も少なくない。優れた技術で起業した人間にとっては、「お山の大将」になるよりは自分の技術を高く評価してくれることに喜びを感じるからだ。資金が不足するベンチャーの中には、私たちを買ってください、とPRして資金を調達した所もある。起業したことで「お山の大将」になったとしても自己満足に浸っていては将来性が乏しい。それよりも企業を存続させ、従業員の雇用を守り、開発した重要な技術を広めることの方がはるかに世の中のためになる。
日本企業が海外企業と大きく違う点は、買収に対する考え方である。日本ではベンチャーや中小企業が大企業に買われることを潔しとしない風潮がある。自分は小さな企業とはいえ、一国一城の主であるという思いが強すぎるのかもしれない。ただ、社員の雇用を守ることが最優先であり、買われたとしても企業を存続し、社員の雇用が守れるのであれば、それでよいではないか。もちろん、敵対的買収として相手をつぶすために同じような企業を買う手法はまずい。この手法はかつて使われたが、現在はあまり見かけない。ROI(投資見返り)を考えればそのような買収は意味をなさないケースが多いからだ。
買収によって自社を成長させていくという考えを持つ企業が世界的に増えている。例えばTIはアナログに特化すると決めた後、アナログ分野をさらに強化するためにアナログの中で抜けていた分野に強い企業を買収し続けてきた。最初は高精度オペアンプなど高精度に強いバーブラウンを買収、その後、低消費電力の高周波(RF)回路に強いChipcon社を組み入れた。2011年にはナショナルセミコンダクターを買った。TIから見て、パワーマネジメント分野に強いナショセミは魅力的に映ったからだ。一方でTIは、アナログのナンバーワンを目指す以上、競争が激しくなってきたアプリケーションプロセッサOMAPチップを捨てた。この分野はクアルコムやサムスン、アップル、nVidiaなどが強い。
nVidiaはもともとグラフィックスに強いファブレス半導体メーカーだ。特にゲームや映画製作に使うグラフィックスに強い。同社は、グラフィックス機能を利用するタブレットやスマートフォン用のアプリケーションプロセッサにも力を広げてきた。グラフィックスはマルチコアで動作させ、CPUにはARMのコアを集積する。携帯機器では通信機能はマストであるが、nVidiaはその技術を持っていなかった。そこで、英国のモデム専用プロセッサを開発していたファブレスベンチャーのアイセラ社を買収した。アイセラ社のモデムチップはクアルコムのモデムチップと比べ同じ機能でチップ面積が半分という優れモノ。私はアイセラ社を「欧州ファブレス半導体産業の真実~ニッポン復活のヒントを探る」(日刊工業新聞社発行、2010年11月刊)の中で紹介したが、日本の半導体メーカーはこの優れた技術企業を買おうとしなかった。アイセラにとってもその技術の素晴らしさを理解したnVidiaに買われることを嘆いてはいない。

図1 インターシルはビデオ専門企業のテックウェルを買収(右は元テックウェル社マネジャー、左はインターシルのCEO)
半導体の老舗企業のインターシル社は、アナログに注力していたが、シリコンバレーにあるデジタル企業テックウェル社を買収した。テックウェルは、日本人の小里文宏氏が起業したビデオ専門のファブレス半導体ベンチャー。インターシルのデビッド・ベルCEO(当時)はテックウェルを買収した理由を次のように述べている。(1)ビデオ市場が伸びそうでありながらインターシルは持っていなかった、(2)テックウェルはビデオデコーダICで70%のシェアを持っていた、(3)自動車市場でもビデオが伸びる、(4)テックウェルの財務は健全だった。つまり非常に有望な企業で自社にはない製品を持っていたから買ったのである。テックウェルからインターシルへやってきたマネジャー数名に会ったが、全員インターシルに買ってもらったことを歓迎していた。自分たちが設計したICが実現できるとして、そのうちの一人であるビジネス開発マネジャーJonpaul Jandu氏(図1の右)はその喜びを表していた。写真左はインターシルCEOだったベル氏。
日本で企業買収されることに喜びを感じるところはあるだろうか。海外企業を取材する限り、買収される企業の人たちはみんな喜んでいた。ベンチャーで働くことは自己実現の道が近いことだが、財務的な心配はつきまとう。大企業で自分のやりたい製品開発をさせてもらえることはめったにないが、ベンチャーなら可能だ。それも大企業が自分たちの技術を買ってくれるのであれば、エンジニアとしては自分の技術が認められたことになる。だからうれしいのである。
買収する側は、自分たちが持っていない技術の企業を欲しいのである。それも利益がきちんと出ている企業を買う。
一方で、買収が下手な企業もある。アップルはその典型だ。かつて、アップルはファブレス半導体のP.A.セミ社を買収したが、失敗に終わった。しかし、この場合は最初から失敗すると私は確信していた。というのは、PAセミはかつてDECでAlphaチップを開発していた人物が創設した企業であり、Alphaチップはハイエンド志向のチップである。PAセミもハイエンドのチップを作る会社であり、アップルはむしろ低消費電力のプロセッサを望んでいるから、最初から思惑のズレた買収だったのである。案の定、その創立者はアップルを退社した。
米国企業は自社をより強くするため買収を行い、売り上げを上げてきた。日本企業は買収する側もされる側ももっと自社の強みを理解し、自分らの立ち位置をもっと深く考えるべきだろう。そうすると両社とも幸せな買収が成立し、世界的な競争力が付くようになる。
(2013/01/08)
セミコンジャパンには潜在的半導体ユーザーがいっぱいいた
(2012年12月21日 23:17)半導体チップを作るための製造装置とそれに使う材料や部材の展示会であるセミコンジャパンが岐路に立たされている。半導体チップを作る工場を売却ないし閉鎖するようになってきたためだ。セミコンジャパンという展示会に来てもらうべき顧客は半導体メーカーのプロセス開発者であるからだ。かつては、プロセスエンジニアが装置を購入してきた。ところが日本の半導体メーカーはファブライトと称して製造を自ら弱体化させてきた。
プロセスエンジニアこそ、かつての日本の半導体をけん引してきたリーディングエンジニアだった。DRAMというメモリを大量生産していた頃は、メモリチップの設計と製造プロセスとは切っても切り離せない関係だった。だからこそ、プロセスエンジニアに買ってもらう製造装置を展示して動かしてみせるという意味があった。セミコンジャパンは1979年ごろに日本で開催され、今日まで続いてきた。
全盛期を迎えていた頃は、幕張メッセを全館借り切り、1~8ホールだけではなく縦に伸びる9~11ホールまで使った。今年は2~8ホールだけとなり、ブースの数は前年比12%減になった。セミコンジャパンを運営するSEMIジャパンは危機感を持つ。
製造装置を買っていたプロセスエンジニアは半導体メーカーを次々と辞めていった。プロセスエンジニアをリストラの対象とし、企業側は製造を放棄ないし弱体化させてきた。彼らはファブライトという言い方をした。ファブライトは製造設備を軽くするということである。しかし、日本の半導体メーカーが得意な分野は設計ではなく製造である。得意な技術を捨て、不得意な設計を残そうとしているのである。製造設備は1台数億円~数十億円するものもある。要は費用がかかるから製造を弱めようとしてきただけにすぎないのである。
「ここがヘンだよ、日本のITエレ業界!」シリーズの4回目で述べた資金調達できない経営者は、費用のかかる部門を切り離すしかできなかった。自分で資金調達に動かなかった、動けなかった。大田区や東大阪におられる一般のモノづくり経営者から見ると、資金調達ができない社長なんて信じられないだろう。できないから、費用のかかる分野が得意分野であるのにもかかわらず切っていった。これでは弱体化するのは無理もない。投資のお金が必要なら、投資家、金融関係、顧客など世界中を駆け巡って調達してくることが世界の経営者がやっている常識だろう。
半導体メーカー、特に製造部門が弱体化すれば、製造装置を購入しなくなる。だから製造装置の展示会は落ちぶれてくる。しかし、このまま手をこまねいてよいものだろうか。
一つのアイデアを提案しよう。これまでユーザーだった半導体メーカーのプロセスエンジニアを完全に無視して、製造装置をB2B(business to business)ながら「最終製品」と再定義するのである。つまり製造装置を作る企業が最終的な顧客とする。となると製造装置を作るための部品や材料のメーカー、すなわちサプライヤが製造装置メーカーに技術や製品を展示する。半導体メーカーもサプライヤとなる。すなわち製造装置を作るためには半導体ICが欠かせない。ロボットアームを精度よく、高速で塵も出さずに動かすためには高精度な半導体は重要な部品となる。
現実に、セミコンジャパンに出展していた安川電機は、高速のロボットアームを使った部品のピック&プレースマシンを展示した。この高速ロボットアームは高集積半導体ICを使い、プリント回路ボード2枚にまとめることができたためだと、展示の担当者は述べている。

図 安川電機の超高速Pick & Placeマシンは、半導体ICが詰まった2枚のボードがカギ
半導体製造装置は立派な産業機械である。これまで長い間好調な業績を維持してきた米国リニアテクノロジーやマキシム、アナログデバイセズ、ザイリンクス、アルテラなどの半導体メーカーは、産業用分野をこれからの成長分野の一つとして重視する。さまざまな工場で使う機械やボードコンピュータ、産業ロボットなどは半導体ICの応用として安定成長している分野の一つである。日本の製造装置産業は半導体産業とは違い、国際競争力を持っている。トップテンランキングでも4~5社は入っている。東京エレクトロンや日立ハイテクノロジーズ、日立国際電気、大日本スクリーン製造、ディスコなど世界に誇れる企業は健在だ。
彼らは半導体チップを大量に使う半導体ユーザーでもある。だからこそ、SEMIはセミコンショーでの出展社として半導体メーカーを取り込むべきなのである。それを使うユーザーとしての安川電機、東京エレクトロン、アドバンテストなどなど、世界的な産業機械企業が君臨する。セミコンショーに半導体メーカーが出展し、機械メーカーに売り込むのである。幸い、800社程度の潜在顧客がこのショーに来ている。半導体メーカーにとってはビジネスチャンスが転がっていることになる。
半導体メーカーはICチップの使い方やカスタマイズするためのツールも一緒に売りこめるというチャンスになる。製造装置メーカーと半導体メーカーは互いに異なる立場から相補いながら未来の装置を描き、それに必要な半導体チップを議論する。ソフトウエアを駆使したフレキシブルな製造装置や製造装置同士をつなぐEtherCATやCC-Linkなどの通信インターフェースにも半導体を売り込める。成長の期待は大きいのではないだろうか。幸い、日本の製造装置が世界的にも強いからこそ、弱くなった半導体メーカーとのコラボは日本の力を底上げしていく可能性はある。
(2012/12/21)
ここがヘンだよ、日本のITエレ業界!(4)親離れ・子離れできない日本企業
(2012年12月19日 21:52)このシリーズ4回目は、経営者が資金調達に動かない、あるいは動けないことを考察しよう。このほどルネサスに日本政府系ファンドの産業革新機構が増資することが決まった。約1400億円とルネサスの顧客から100億円である。さらに500億円を追加出資あるいは融資の用意がある。ただ、経営者が資金調達に国内外の企業や金融機関を積極的に回ったようには思えないのである。

図 ルネサスの新株主構成 まるで国営企業のようだ
8月にルネサスが第1四半期(4~6月期)の決算報告を行った時、手元のキャッシュとバランスシートにおいて、リストラ費用にメドが付けば当面の資金は間に合うと答えていた。しかし、12月10日に行われた革新機構との共同発表の席上、ルネサスは今年のはじめから革新機構と話合ってきた、と言っていた。だとすれば、手元資金は大丈夫と答えた8月はうそをついていたか、手元資金について心配していなかったか、どちらかである。これまでルネサスの経営陣は決して嘘はついてこなかった。答えにくい質問には、その件に関してはお答えできません、ときっぱり言い切っていたからだ。なぜ今回、ルネサスは今年のはじめから革新機構と話合ってきたと言ったのだろうか。もしかして言わされたのかもしれない。KKRは一時期介入しただけで、ずっと前から革新機構と話合ってきた、と答えた。ではなぜ、KKRの話が浮上した途端に革新機構の話が浮上したのだろうか。このことを追及するつもりはないが、資金調達を東奔西走したようには見えてこない。
今回の第3者割当増資という形で資本を増強するストーリーでは、ユーザからの投資額が少なく、革新機構の1400億円に対して8社合計で100億円だ。このうちトヨタが50億円、日産自動車が30億円で、残りの6社が20億円と少ない。顧客からの資金増強には顧客への供給を第一に、月産xx万個を供給するというコミットを与えてその見返りとして資金をいただく、というスタンスが世界では一般的だ。しかし、6社で20億円しかもらわないような少額の出資では、そういった供給保証まではしないだろう。では何のために6社は出資したのか。これも革新機構などからの圧力で出資者を増やして仲良しクラブを作るためではないだろうか。
9月には、28nmプロセスの生産がまだ立ち上がらないため、アップルとクアルコムがそれぞれ自分専用のラインを作ってくれとTSMCに800億円(10億ドル)を出したが断られた、というような噂がまことしやかに流れた。ファウンドリに専用ラインを依頼する場合には数100億円という金額は妥当である。にもかかわらず、6社合計で20億円、8社合計でも100億円という数字はあまりにも小さい。顧客の意見を取締役会に反映しない程度の金額に抑えたという可能性もある。
経営者自らが資金調達に奔走しないのには訳がある。2回目のシリーズでもお伝えしたように、日本の大手半導体企業は基本的に電機企業の一事業部門にすぎない。親会社が半導体部門を手放さないからだ。この問題の一つは、親会社と霞が関がいつも登場してきて半導体企業の自主性が見られないことである。子離れ、親離れが全くできていない。だから世界と競争できないともいえよう。資金調達でさえ、親会社からの資金をあてにするという体質が抜けきらないのである。
これに対して、世界の半導体産業は、例えば米国では昔から半導体専業メーカーであった。電機メーカーの一部ではなかった。RCAはかつて総合電機メーカーであり、1960年代は半導体も作っていたが、やがて半導体部門を切り離しGEに売った。そのGEも総合電機メーカーだったが、その半導体部門をハリスへ売った。
テキサスインスツルメンツ(TI)もかつてはSpeak&Spellという電子玩具や国防関係の製品までも製造販売していたが、電子機器部門を切り離し半導体だけになった。測定器メーカーから出発したヒューレット-パッカード社は、コンピュータに力を入れ測定器と半導体部門を切り離しアジレントとなった。そのアジレントから半導体部門は独立しアバゴとなった。シリコンバレーの元祖ともいうべきフェアチャイルドセミコンダクターは、軍事エレクトロニクス企業であったフェアチャイルドカメラ&インスツルメント社の一部だったが、やがて半導体部門が独立し、その後ナショナルセミコンダクターに売られた。
欧州では、ドイツの重電メーカー、シーメンスからインフィ二オンテクノロジーズが独立し、さらにインフィニオンからキモンダが分離した。今、シーメンスが持つ株式はインフィニオン全体の10%程度のようだ。2006年にオランダのフィリップスからはNXPセミコンダクターが独立し、2010年にはフィリップスの株式が0%になり完全独立を果たした。
海外の半導体部門は米国も欧州も親会社から独立しているのに対して、日本だけが独立していない。形は独立しても中身は親会社の一部になっていたり、株式を半数以上も持っていたりする。このような状態の経営陣が親会社の影響を受けていないということはあり得ない。たとえ親会社の社長が独立したのだから自由に経営していいのだよ、と言っても子会社の社長は遠慮してつい親会社の顔色をうかがってしまう。逆に、完全に独立して営業や運営活動を始めるとそれが気に入らない親会社の経営陣が子会社あるいは事業部門のトップを切ることさえ珍しくない。
子会社が親会社から独立していない場合には、自分自身で資金調達に動くことはできにくい。親会社の株式価格を希釈してしまう恐れがあり、親会社の配当や投資リターンに影響があるからだ。もし子会社の自主独立を重んじるのであれば、株式をはじめとする資金調達に口出しをしないことを親会社が守れるだろうか。親会社の子離れも、子会社の親離れもできていないのが日本の企業といえよう。
(2012/12/19)
ルネサスよ、改革の手を緩めるな
(2012年11月 6日 22:18)先日、ルネサスエレクトロニクスの決算発表があった。2012年度第1四半期(4~6月期)は、受注が着実に増えており、今年度は営業黒字を見込めるところまできた。第2四半期(7~9月期)は、営業赤字が前期から119億円も減少し、57億円にとどまった。この分では順調に行くように思えた。ところが、その中身を見ると、、、、。
Q2の赤字減少の立役者になった製品は、カスタムLSI(ルネサスはSoCと呼ぶ)だった。任天堂向けのゲーム機用のチップと思われるが、これがまずい。なぜか。ルネサスはカスタムLSIを売却ないし停止しようとしていたからだ。カスタムLSIはよほどのヒット商品ではない限り数量が限られているため、利益を生みにくい。言葉は悪いが、今期、「まぐれ」でカスタムLSIが売れてしまったために、このカスタムLSI部門の整理しようという動きが止まってしまったらしい。
カスタムLSIは、顧客の希望する仕様、設計通りにLSIを設計・製造する商品だ。融通性は全くないため、他社には売れない。半導体の製造ビジネスは1枚のウェーハも10枚のウェーハも処理する上でさほど大きな差はないため、数量が増えれば増えるほど利益が出るビジネスである。しかし、数量がさほど多くなければ赤字になる危険なビジネスである。このため世界の勝ち組と言われる半導体メーカーは、カスタムLSIはよほど数量の出るチップでない限りやらない。
世界の勝ち組が行っている半導体ビジネスは、共通のプラットフォームとも言うべき基盤を作り、顧客ごとにソフトウエアやわずかなハードウエアでカスタマイズするというモデルである。基本的なハードウエアは1チップで済むため量産が可能で、低コストで作ることができる。顧客が他社と差別化するためにカスタマイズできる開発ツールを提供する。顧客が使いやすい開発ツールを作ることが多くの顧客獲得のカギとなる。
今はLSIに億単位の数のトランジスタを集積できる時代になっている。製造だけではなく設計にも膨大な時間がかかる。できるだけ共通部分を多く用意して、ソフトウエアやわずかなハードウエア回路だけをカスタマイズすることで素早く設計し、より多くの顧客を獲得する。このため半導体チップとしてはカスタマイズ可能なようにプログラマブルなチップが求められる。それもできる限り、カスタマイズに必要なソフトウエアコードが少ないチップをメーカーもユーザーも求める。コストを下げられるからだ。
ルネサスのマイコンはまさにプログラマブルチップの代表だ。ソフトウエアのプログラミングやデバッグ、C言語とアセンブラとのリンカーなどのツールを開発し、第3者(サードパーティ)に顧客のソフトウエアを開発してもらう。こういったツールの開発、ソフトウエア開発、などを半導体メーカー以外の企業に開発してもらい、みんながつながる「エコシステム」(環境に優しいという意味ではなく生態系という意味であり、上流から下流、さらに上流へとみんながつながった一つの生態系と似ていることからこのように呼ばれる)を構築した企業が勝つ。半導体メーカーはチップの企画やシステム設計に注力できるからだ。ルネサスがマイコンでトップを行くのは、旧NECエレクトロニクス系にしろ、旧ルネサステクノロジ系にしろ、こういったエコシステムを持っていたからだ。
インテル、ARM、クアルコム、TSMC、TIなど世界の勝ち組はすべてエコシステムを持っている。これまで全て自社で設計から製造、ツール作成、ソフト開発などを行ってきた日本のメーカーが世界から取り残されたのは、こういったエコシステムを持っていなかったことが大きい。
エコシステムが不要なカスタムLSIで「キラーアプリさえあれば儲かる」、という幻想はもはや通じない。ルネサスは資金的な余裕ができた今こそ、カスタムLSIを捨てる改革を早く進めなければ、必ずまた同じことを繰り返す。10月30日の日刊工業新聞によれば、「ある主力行の幹部は『2000億円という数字が出てきた途端に(ルネサスから)システムLSIの整理という話が聞こえなくなった。それではいけない』と話す」という。
ルネサスは資本を強化できたためSoC(カスタムLSIのこと)という言葉が消えたといえる。改革のスピードが緩んできた。29日の決算発表会見でもSoCを売却、閉鎖するという言葉は全く聞かれなかった。このままでは本当につぶれる。経営陣は1~2年持たせればよいとでも考えているのだろうか。本気で改革する気があるとは思えない。少なくとも任天堂以外のカスタムLSI部門を一刻も早く処分し、任天堂向けのカスタムLSIも1~2年という期間を区切ってやめることを告げるべきである。エルピーダは資本を強化した後1~2年後に倒産した。他山の石とせよ。

写真 ルネサスのロゴ
プログラム可能なSoC技術の開発とビジネスへ早く移行しない限り、世界の勝ちパターンからますます離れていく。会社の存続を第一に、カスタムLSIの停止を即刻やってほしい。各従業員にはそれぞれの家族がいることを忘れないでほしい。私の切なる願いだ。
(2012/11/06)
半導体産業のゆくえを話し合おう
(2012年10月30日 16:12)日本の半導体はいったいどうなるのだろう。こうやってみたら、ああやってみたら、いろいろな方が意見を述べる。でも日本の半導体産業全体をどうにかすることははっきり言ってできない。半導体メーカー1社ごとにその性質も、得意分野も、市場動向に対する感度も、全て違うからだ。
これまで世界の半導体メーカーがさまざまな変遷を経て現在に至った背景には、1社ごとにそれぞれが努力し、ソリューションを見つけてきたことがある。日本の半導体産業全体を議論すること自体がナンセンスではないだろうか。1社ごとに知恵を絞り、生き残るための方策を見つけること以外にソリューションがないからだ。
米国では1980年代中ごろ、インテルはDRAMを捨て、マイクロプロセッサにフォーカスした。80年代中ごろからコンピュータはダウンサイジングが叫ばれていたからだ。インテルがこの方針を打ち出した時の記者会見には、故ロバート・ノイス社長が来日、その理由を説明した。「DRAMはインテルが発明したものだが、もはやコモディティになってしまった。もはやインテルが扱うべき製品ではなくなった」と。
DRAMをやめたと述べた米国の半導体メーカーはインテルが最初だった。その後、モステック、モトローラ、ナショナルセミコンダクタなど米国メーカーが次々とDRAMを止めていった。そのような1985年にこれからDRAMを生産し始める、と宣言したメーカーが米国のアイダホ州に生まれた。ポテトチップで成功した男が半導体チップも始めた、と現地でいまだに言い伝えられている。マイクロンテクノロジーだ。マイクロンの経営陣の一人が85年に東京にやってくるという話を聞きつけ、取材した。DRAMの市場として日本メーカーが納入していたメインフレームメーカーではなく、マイクロンはパソコン市場に向けると言った。このためにはとにかくコストを下げる設計を行う。デザイン寸法の微細化だけではなく、メモリセルレイアウトに隙間なく配置するコンパクション設計も導入した。このためにメモリレイアウトの天才と言われたエンジニアをモステックから引き抜いた。プロセス上はできるだけマスク枚数を減らし、工程を簡略化した。自然界の放射線物質からのアルファ粒子によるソフトエラー対策はしない。ECC(誤り訂正回路)や冗長ビット構成などのアーキテクチャは採らない。余計なメモリセルを追加して面積が増えることを嫌ったためだ。パソコン応用なら、ソフトエラーが発生すれば電源を切れば元通りに回復するからだ。銀行用メインフレームだとこうは行かない。マイクロンの低コスト技術は徹底していた。現在、そのマイクロンがエルピーダを買収、傘下に収めた。
1990年代に入ってもDRAMに固執したのはTIだった。そのTIも1995年にパソコンがブレークする時にDRAMを捨てた。DRAMを生産できるメーカーが日本と韓国共にコモディティを生産するからだ。TIは全社的にブレーンストーミングを行い、ポストPC時代をどう生きるかをテーマとして未来のTIを議論した。その結果、アナログに特化し、デジタル製品はDSPと標準ロジックだけを残すことを決めた。
米国企業がみんなで何かをやって復活したわけではない。企業1社1社が自分の生きる道を見つけた結果である。日本の半導体産業を考える時、みんなで一斉に何かをやるのではなく、1社1社が自社の得意な製品にフォーカスすることが強くなる早道である。米国メーカーの教訓こそ、今の日本の半導体メーカー1社1社が考え抜くことではないだろうか。

図 シリコンバレーで行われたe-Summit2012 休憩時間に撮影
私が編集長を請け負っているセミコンポータルでは11月2日に日本半導体産業のゆくえと題して、これからの半導体産業の生き残りについて話し合おうという場を企画した。最初に直近のシリコンバレーの現状を紹介し、では日本の半導体はどう向かうべきかについて話し合うきっかけにしたい。各社が各社で議論して自社の進むべき道を模索する手掛かりにしてほしい。シリコンバレーをとっかかりにしたのは、ベルギーのIMECにせよ、英国のARMにせよ、世界トップの半導体企業・研究機関がモデルにした街だからである。スタンフォード大学やUCバークレイなどの大学と起業家、ベンチャーキャピタル、潜在顧客、サプライチェーンがまとまってあり、いつもイノベーションが生まれてくる街である。グーグルもアップルもフェイスブックも電気自動車のテスラもここにある。いつ行っても、イノベーションという刺激を受ける街でもある。
(2012/10/30)
米系ファンドは敵か味方か
(2012年9月28日 22:24)ルネサスに対して、産業革新機構が中心となって、ルネサスの顧客も含めて出資しようという提案が先週の日本経済新聞1面を賑わした。9月はじめに米系ファンドKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)がルネサスに対して1000億円を出資して、経営を立て直そうと提案したところ、革新機構が後出しじゃんけんのように1000億円を出資しようと提案したというのである。まるで子供のゲームを見ているようだ。
KKRはこれまで半導体産業には、NXPセミコンダクターズに出資してきた実績がある。フリースケールセミコンダクタにはブラックストーン・グループとカーライル・グループが出資、コバレントマテリアルズ(旧東芝セラミックス)にはカーライル・グループなどが出資した。コバレントの業績は今一つでしんどいところだが、フリースケールはようやく良くなってきたところだ。
カーライルについては良くない評判を聞くこともあるが、ブラックストーンの評判はよくわからない。NXPセミコンダクターズに出資してきたKKRの評判は悪くはなさそうだ。NXPは、もともとオランダのフィリップス社から半導体部門がスピンオフして2006年に生まれた会社である。設立した当時、取材してみると、NXPの経営陣はみんな一様に興奮した様子で、自分の自由に会社を運営できるという喜びを感じており、取材した私もその興奮を感じ取った。アジレントテクノロジー(ここもヒューレット-パッカードから計測器部門が独立した企業)から独立したアバゴテクノロジーを米国で取材した時は、経営陣だけではなく、従業員もみんなが自分の方向を自分で責任を持って決められるようになる、と喜びで興奮していたことを覚えている。
ドイツのシーメンスから半導体部門を独立させたインフィニオンテクノロジーズやNXPなど、大きな親会社から独立した欧州の半導体メーカーは日本の旧NECエレクトロニクスとは違い、親会社の出資株式は10%程度しかなかった。しかし、親会社から干渉を受けたという話を、欧州を取材した時に聞いた。NXPは2年前には親会社はその10%の株式さえも売却し、文字通り完全独立を果たした。その直後に取材したNXPの人たちはそのことを素直に喜んでいた。KKRに支配されることよりも親会社からの独立を社員みんなが喜んだのである。
翻って我が国の半導体メーカーを見てみると欧州メーカーとの大きな違いは、親会社から独立していないことである。ルネサスエレクトロニクスは、親会社である日立製作所と三菱電機、NECの3社が所有する株式は90%を超えている。にもかかわらず上場企業である所がおかしい。一般投資家がルネサスの株式を買えないのだから。親会社が90%を超える株式を所有していることは親会社の干渉、人事権、その他全て半導体メーカーとしては自分の責任で思い通りの経営ができないという意味だ。
子会社の経営トップでさえいつでも親会社に帰れるという思いがある。このような甘えの構造を長い間放置したままでは、子会社のトップは親会社の顔色をうかがうばかりで、本気で経営などはできない。親会社のトップが企業改革を実行しようとしても、実は子会社の経営陣が理解せず、親会社の顔色ばかりをうかがっているという話を何度となく聞いてきた。一方で、子会社が本気で改革を進めようとすると子会社の社長を更迭したという話も幾度となく聞いてきた。国内半導体メーカーの弱点は、こういった日本独特の親会社支配にもある。
こういった状況でKKRがルネサスに出資するという情報を知った社員の中には、KKRに支配される方が良くなるかもしれない、と考える者もいるという。革新機構=政府経済産業省がルネサスを救おうとしている状況は、半導体産業の弱体化を促進しているのかもしれないのである。そもそもハイテクのIT業界でライバル企業同士をくっつけようとした経産省と古い体質の大企業トップが半導体産業を最も理解していない。半導体の世界の流れはくっつけるのではなく、分離させる方向だ。AMDから分かれたグローバルファウンドリーズは昨年までの苦労を乗り越え、最近になってどのメーカーよりも最先端の14nmのfinFETプロセスの量産化にメドを付けた。AMDにくっついていたら倒産していたかもしれなかったのである。
ルネサス経営陣は、すぐにでもオランダへ飛び、NXPの経営陣に会って直接話を聞き、KKRが経営陣に対してどのようなアドバイスなり経営指針なりを提供してきたのか、この目で確かめることが望ましい。そしてKKRの本部とも会ってポリシーなりミッションなり話を聞くことがルネサス復活の本当の入口となる。親会社から本当に独立し、自分の責任と経営理念で半導体企業を運営し、資金調達をはじめさまざまな経営努力により、世界と勝負できる半導体企業を目指してほしい。そうやって覚悟を決めてほしい。経営者が首になる覚悟を決めると、社員はついて行く。日産自動車のカルロス・ゴーン会長がそうしたように。
(2012/09/28)
MEMSベンチャーが装置まで作ってしまう時代に
(2012年9月12日 00:25)先週、千葉市幕張で開かれたJASIS(旧分析機器展)2012において、手のひらサイズの超小型IR(赤外線)スペクトロスコピーを製作した英国のPyreos社を取材した。スコットランドのエディンバラに本社を置く同社は、小さな設備を持つMEMSチップの開発企業である。半導体のプロセス装置を使ってMEMSをこれまで作ってきた同社が手のひらサイズのIRスペクトロスコピー装置を作ったのである。

図 右端の手のひらサイズのIRスペクトロスコピーで古いウィスキーと新しいものを識別
東芝やルネサスエレクトロニクス、富士通セミコンダクターのような日本の半導体チップメーカーは装置まで作ることはほとんどない。半導体チップを設計・製造、パッケージして販売するだけだ。しかし、今年のCESでは、半導体メーカーであるはずのインテルがウルトラブックパソコンやタブレットまで作ってアピールした。もちろん、インテルはパソコンメーカーを顧客とする半導体メーカーであるからこそ、パソコンを製造販売することはしない。パソコンやタブレットを作る実力があることを示したのでもない。パソコンやタブレットを顧客がカスタマイズするための開発ツールという位置付けで作ったのだ。
昨今の日本の半導体メーカーと海外の半導体メーカーの最大の違いは、水平分業か垂直統合かではない。新しい半導体チップを使って何ができるかを示せるか、示せないかである。半導体チップを使えば顧客は新しい未来のシステムを手に入れることができる。そのことを半導体メーカーが自ら顧客に示すのである。
今、日本の半導体メーカーはIDM(垂直統合型デバイスメーカー)からファブライトへシフトしようとしているが、残念ながらそれだけでは成長していくことは難しい。新しい商品を企画していく力が伴っていないからだ。結局、インテルやクアルコムのような大手半導体メーカーは商品企画力が優れているために独自ブランドの半導体企業としてやっていけるが、日本のメーカーがファブライト戦略を採っても商品企画力が伴わなければ、ファブレスやファブライトのビジネスモデルではなく、単なるデザインハウスにすぎないのである。
デザインハウスというのは、顧客の言う通りの製品を設計する企業である。本来なら顧客の名前のブランドで収めてもよいのであるが、顧客ごとに個別対応しながら半導体メーカーのブランド名を付けている。しかし、その実態は顧客の言う通りの設計図を書いてあげるデザインハウスである。これに対してファブレス半導体メーカーというのは、自ら商品を企画して自社ブランドで売り出す能力のある企業のことをいう。だから、自ら企画し設計した半導体を使えば、こんなことができる、あんなことができる、と顧客に対して訴求できる。このためファブレス半導体メーカーは顧客の先を行くのである。
ファブライトと称しながらデザインハウスと同じ設計をするだけなら、インドのIC設計者に設計を依頼する方が安くて良いものができる。日本の半導体企業が大きな間違いをしているのは、ファブライトと称しながら、簡単な製造は自社で行い、難しい製造は台湾に依頼する。そして設計力を強化している訳ではない。これでは世界とは互角に戦えない。商品企画力にかけているからだ。
商品企画力があるということは、自分たちの新しい半導体を使えば、こんなこと、あんなことができる、と訴える能力があることを意味する。しかも実際に作って見せる。顧客のいいなりで作るだけのデザインハウスなら、もはや世界との競争力が全くないということになる。
半導体メーカーのエンジニアよ、少なくとも半導体の勉強はもうしなくていい、システムの勉強をしてほしい。システムの勉強をしてシステムを理解し、それを顧客に提案できるくらいにシステム力を付けてほしい。これが世界の半導体メーカーに勝てる唯一の道である。システム力が出来て初めて、顧客への商品企画力もつく。
(2012/09/12)
半導体は成長産業なのに官民共に理解不足、日本の弱点はコスト競争力
(2012年8月 1日 19:36)最近、新聞に登場する半導体産業のニュースは、業界再編の話ばかりだ。これにはもちろん、半導体産業自身の経営体質にもよるが、どこかとどこかをくっつけるという話が多い。A社とB社をくっつけたところで、斜陽産業なら企業数を減らすという考えは成り立つが、いまだに年平均6~7%で成長を続ける世界半導体産業において、この考えは成り立たない。世界の半導体産業の勝ち組の経営戦略は決まって、「経営判断が速く、自社の得意分野を伸ばし、世界のメガトレンドをしっかり押さえている」、ということに尽きる。残念ながら日本の半導体産業は、このどれについても当てはまらない。
この経営戦略を把握していれば、自社の不得意なところを時間かけて開発するのではなく、他社の技術を買うか、他社そのものを買うか、と判断すべきである。他社を買わないのであれば、技術を買うためにどうすることが自社にとってベストなのかを考える。1社だけ買収しても市場をカバーしきれない、あるいは伸ばせないのであれば、数社から買う、あるいは数社と共同開発する、という選択肢に行きつく。最近、世界の勝ち組が採る戦略はコラボレーションであり、エコシステム(自社の得意な技術を持ち寄って新製品をいつでも共同開発できる仕組み)の構築である。
自分は得意な分野に専念し、不得意な分野はコラボレーションで補い、世界でベストな製品を誰よりも早く出す。これが勝ちパターンである。世界の企業買収や合併を見ていると、同じ製品を作っている所とは決して合併しない。負け組ともいえる日本だけが、競合メーカーと合併する。しかもそれを助長しているのが霞が関だ。世界の勝ち組パターンからずれているのである。これではいつまでも勝てない。競争力が付かない。
競争力を付けるとはどういうことか。これも官民共にわかっていない。先端技術を開発すればよいということではない。あくまでもコスト競争力だ。安く作る技術を身につけることである。世界一の半導体メーカーのインテル、2位のサムスン、TI、TSMC、IBMなどは低コスト技術に注力してきた。今はテーマが違うが、SEMATECHという共同開発会社(半導体メーカー数十社が出資)の2000年代の最優先テーマは低コスト技術の開発だった。製品を安いコストで作るためには、設計段階から安く作るための技術を取り込まなければならない。共通化できる部分は共通化する。そのための標準化作りに努力する。共通化できない部分は差別化できる技術となるため、ここはすべて自社開発するか、それでも足りない部分や不得意な部分はコラボで補う。この標準化技術に対しても役所はわかっていない。日本発の規格(標準化案)を作ることにこだわる報道がなされるが、日本発か世界発かはどうでもよい。早く共通化して使える技術にすることが重要なのである。
設計段階から安く、製造段階でも安く、さらに検査でも流通段階でも安く作ることが安定経営には欠かせない。安く作れば利益を確保できる。日本企業が「利益なき繁忙」ということがよく報じられるが、安く作るための努力を怠っているからだ。安く作るということは無駄なコストをかけないということである。私は外資系の出版社にも務めた経験があるが、例えば出張手当はない。全て実費精算だ。飛行機は原則としてエコノミーチケット。出張費を浮かせるというセコイ考えはない。仕事に集中できる。経済産業省やNEDOは低コスト技術を全く理解できないため、いまだに先端技術開発しかプロジェクトに掲げていない。最近の技術はあまりにも複雑になってきたため、低コスト技術は企業1社で考えるテーマとしては大きすぎる。だからSEMATECHは低コスト技術を最優先のテーマとして選んだのである。この結果、米国の競争力は極めて高くなっている。