IBMやNvidiaが医療・ヘルスケア向けのAIに力を入れているように、医療・ヘルスケアはAIの大きな分野の一つだ。「AIは今始まったばかり。だからこそ日本が今、これを得意な分野に活かせば、もっと強くなる」。これはNvidiaのCEOであるジェンスン・フアン氏(図1)が語った言葉である。また、AIはカスタマイズが必要な技術でもある。だからこそ、医療・ヘルスケア向けに特化したAIが活躍できる場がある。
図1 Nvidia CEOのジェンスン・フアン氏 2024年11月筆者撮影
医療・ヘルスケアは日本の得意な分野の一つであり、ここにAIを活かそうとする人たちがいる。関西地区で取材した、AI(人工知能)を紹介しよう。一つは、未熟児の失明を防ごうという大阪大学大学院医学系研究科の活動を事業化したネオキュア社。二つ目はPoC(コンセプトの実証実験)だけでは終わらず、実用化まで顧客と付き合うTakumiVisionという企業である。三つめは、必ずしもAIとは言えないが、薬物投与や放射線治療など従来の医療技術では治らないパーキンソン病を半導体技術で直そうとする、奈良先端科学技術大学院大学の技術である。
AIは実は身近な問題を解決できる優れた技術の一つである。だからといってAIで何でもできるわけではない。それなりに「学習」というプロセスを経てはじめて、知見が得られたり、「推論」することで解決案を提示したりする技術である。予め学習してあるコンピュータに問い合わせると答えをくれる生成AIも「推論」を駆使する。
ネオキュアは、未熟児網膜症という病気をAIで発見し早期に治療するという一連のプロセスの中で、AIで簡単に早期発見するビジネスを担う。未熟児網膜症は、網膜に血液を供給する血管が成長しなくなる病気で、早産で生まれた未熟児に多い病気だという。早期発見できれば治療して失明には至らない。網膜の血管を定期的に観察していれば早期発見できるが、ベテラン医師は網膜の写真を見てもすぐに判断できるが、医局に入って間もない医師は網膜内の血管成長度合いを判断するのに時間がかかってしまう。医師は1~3週ごとにチェックして判断する必要がある。しかし、医師不足の今、定期的に何度もしかも素早く判断するベテラン医師は極めて少ない。
失明しないように未熟児を助けたい、という思いでこの問題に立ち向かう阪大医学系研究科で眼免疫再生医学共同研究講座を持つ福嶋葉子特任准教授と、スタートアップビジネスを手掛けながらもPh.Dの称号を持つ祖父江基史代表取締役社長がネオキュアを立ち上げた。ネオキュアは、AIシステムを使うことで低価格で診断できることが特長。このためあらゆる病院での普及を狙う。
TakumiVisionは、AIの普及を狙い、安価でしかも精度よく人間を認識し事故を防ぐという応用に力を入れている。例えば、鉄道踏切の遮断機が下りている中にいる人を検出し、走行している電車に素早く知らせることが従来の数分の一の価格で可能である。データ量を軽量にして人を検知するアルゴリズムと、ぼやけた画像を鮮明に修正する技術の二つがこのスタートアップが持つ技術だ。これを利用してPoCを行う顧客に対して事業化できるまで、とことん付き合うことをミッションとして持つ。すでに鉄道会社に納入し採用されている実績がある。
まだ起業化していないが、奈良先端科学技術大学院大学の理事兼副学長で研究推進機構の特定教授でもある太田淳氏が進めているパーキンソン病の治療法は、半導体技術を駆使しパーキンソン病の原因を作る物質を変えてしまおうというもの。これまで、パーキンソン病は薬物によって進行を遅らせることはできるが治療そのものはできないと言われている。比較的よく知られている病気だ。映画「Back to the Future」で主人公のマーティ・マックフライを演じたマイケル・J・フォックス氏がパーキンソン病に侵されていることを告白している。
このシリーズで、これら3例をこれから紹介していく。3例とも社会課題を半導体で解決する、という考えに沿ったものだ。半導体とは切っても切れない関係にあるAIは、半導体技術の進化を待っている。ベルギーの世界的半導体研究所であるimecが10年前からがん治療のための半導体を開発していたように、医療にも実は半導体は威力を発揮する。この3例はAIや半導体チップを活用することで、社会課題を解決しようとするケーススタディである。
(次回に続く)

