生まれたばかりの赤ちゃんは、網膜が形成されたばかりでまだ十分目が見えていない。早産などで生まれた未熟児となると目の網膜形成が遅れている。網膜の血管が全体に行き渡らず、その手前で異常に多くの血管が止まってしまい、そのまま固まってしまうと失明する恐れがある。このため、医師が赤ちゃんの目を定期的にチェックして正常な網膜形成に向けた状況を把握し、早期に治療すれば失明を防ぐことができる。しかし、医師の数と赤ちゃんの数にもよるが、医師が対応できない場合もある。医師たちはさまざまな仕事(臨床、検査、研究、学習など)で手が回らないことが起こりうるからだ。しかも、ベテラン医師ばかりではない。若い医師は網膜検査だけでも数時間もかかってしまう。
「この未熟児網膜症で失明する小児は世界中で年間3万人もいる。しかも早産児は年間で2000万人もいる」と大阪大学大学院医学系研究科眼免疫再生医学共同研究講座 特任准教授の福嶋葉子氏(図1)は言う。この病気は適切な時期に介入すれば80%は治療できるが、72時間以内に治療しなければならないという。
図1 ネオキュアの中心チーム 真ん中が大阪大学大学院医学系研究科眼免疫再生医学共同研究講座 特任准教授の福嶋葉子氏、左はネオキュア代表取締役社長の祖父江基史氏、右は大阪大学医学部教授の川崎良氏 出典:ネオキュア
しかし、小児眼科専門医が全国に60人しかいない。米国でさえ数百人にとどまっている。この状態を救い、助かる失明を防ぎたい、との思いで福嶋医師はこの問題に取り組んだ。これまで、出産したばかりの小児はすぐさまバイタルデータ(心拍数や動脈酸素飽和度、呼吸数、体重、身長)を取り1分おきに記録され続けている。同時に眼底検査を在胎28週未満の204症例を対象に、大阪府立母子医療センターで行ってきた。一つのバイタルデータだけでは治療した例としない例の差は見られないが、機械学習を用いて出生時から治療時までと、治療日時を起点として逆算して出生日までの間におけるバイタルデータを追いかけてみると、治療しなかった例と治療した例との間に明確な違いがみられた(図2)。
図2 機械学習によって治療すべき症例としなくてもよい症例に明確な差が出てくる 出典:ネオキュア
どの特徴量が予測に強く影響するかを解析することによって正しく予測できるAIモデルを構築した。90%の確率で正しく予測できるようになった。
この方法では、さまざまなバイタルデータからAI解析で未熟児網膜症のリスクを予測できるため、新たなハードウエア機器を追加する必要はなく、ソフトウエアだけで済むためコストは安くできる。そのソフトウエアとしてNICU(新生児集中治療管理室)医療機器からのバイタルデータ解析プログラムを開発した。
ネオキュアは、大阪・関西万博に向けたスタートアップを創出するためのプログラム「起動」の第3期で採択され、1000万円の資金を得た。さらに(財)京都産業21の「産学公の森」の令和7年推進事業からも724万円の交付を受けることが決まった。自己資金1000万円を合わせ合計2724万円から事業化をスタートさせた(図3)。
図3 スタートアップの資金を得て今後のロードマップを作成 出典:ネオキュア
2025年度はAIモデルの改良や海外市場調査、26年臨床前開発により予測精度を95%まで上げることにより28年には国内医療機器の承認を取り、29年には海外医療機器の認証を取るというロードマップを描いている。26年にはベンチャーキャピタリストから2億円の資金を見込んでいる。ビジネスモデルとしては、AI解析アルゴリズムを搭載したソフトウエアを組み込んだパソコン機器を医療機関に販売することで利益を見込む。国内販売とほぼ同時に海外販売も可能にしていくビジネスを展開する。未熟児の失明を防ぐためにこのビジネスの成功に期待したい。

