関西発のスタートアップたち(3)~AIをPoC止まりで終わらせないTakumiVision
2025年10月11日 10:22

AIIoTなどの世界ではPoCProof of Concept:実証実験)が大流行だが、これだけでとまってしまうことが多い。PoCとは、新たに製品やサービスを始めるにあたって、それが実現可能か、それに顧客がいて事業化可能かを確かめる検証作業のことである(参考資料1)。PoCだけで終わってしまい事業化まで達しないことが極めて多いと言われている。「PoC止まりの壁」という言葉があるようだ。

 

PoCの壁を突破する

 この壁を突破し、とことん顧客と付き合う。そのためには「世界一付き合いやすいAI会社を目指す」とTakumiVision代表取締役の片桐一樹氏(図1)は言う。この会社は、画像認識のAIを利用して「ラストワンマイル」を解決しようとするスタートアップだ。すでに踏切事故防止に採用した電鉄会社も増えている。具体的な電鉄会社の名前を出せないが、関東・関西の電鉄会社の大手がTakumiVisionAIを採用している。

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1  TakumiVision代表取締役の片桐一樹氏 出典:TakumiVision

 

 人を認識できるというAIの画像認識技術を利用して、踏切の警報機が鳴り、遮断機が下りていてもまだ人がいるケースや、自殺しようとしている人を助けるケースなどで実際に使われている。特に鉄道の踏切事故は年間200件、死者は80名もいるという。ここに導入すれば救える命を増やすことができる。しかも最小限の価格を目指す。

 ある鉄道会社の例では、従来レーザーによる3次元画像検出技術を使っていたが、システム価格が3000万円もしたため、導入すべき踏切が限られてしまっていた。それをTakumiVisionのシステムに換えると1/10程度の価格ですんだ例もあるという。

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図2 3次元レーザーをカメラ&AIに変更することにより大幅コストダウン 出典:TakumiVision

 

 同社のシステムでは、低照度カメラでも夜間に鮮明に撮れるカメラからの映像を、次のAI処理部でリアルタイムに解析、車両と人物の滞留を検知する。その検知信号を既設の踏切保安装置と連携し特殊信号発光器を作動させる。AI処理部のデータはすぐクラウドに送り管理する。電車の運転手は特殊信号発光器の光を見てすぐ電車を停止させる。

 また転落防止策を設ける駅が少しずつ増えているが、まだ多くない。駅構内での転落を検出することも可能であり、すぐに駅員や運転手に連絡することも可能だ。また踏切内に長時間とどまっている人の検知も難しくない。

駅以外でもエスカレータの監視や柵を越えて侵入する不審者の検出などにも使える。また車いすの方や介護者、あるいは盲目の方の白杖などの検出もできるようになった。

 

人流解析でマーケティングツールに

この技術の応用はそれだけではない。広告やマーケティングなどで使う人流解析にも使える。混雑した街で多くの人の数や、人がどちらに向かっているかの流れなど人であることをマーケティングなどに活かすことができる。

人を検出した後は向きを色分けして黄色い丸や緑の丸などで囲み、顔そのものを不鮮明にしたり、あるいは応用シーンによってはスケルトン表示で動きの表示だけにしたりするなどによって、データを軽くする。これによりプライバシーも守られる。

 TakumiVisionの得意な技術は、こういった検知アルゴリズムに加え、ぼやけた画像を鮮明にする技術もある。画像の統計情報と周波数解析でシーンを判定した後にΓ補正や諧調補正、ノイズ除去などを施す。さらに霞を除去するフィルタ技術も開発している(図3)。画像の特徴量から霞成分情報を抽出、推定した霞マップに基づいてトーンカーブ調整による霞除去処理を行う。大手カメラメーカーがこれらの技術を採用しているという。

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3 画像を鮮明にするフィルタリング技術 出典:TakumiVision

 

 同社の強みはAI技術を実用化につなげることだ。画像そのものをディープラーニングで認識したり、いろいろなデータの統計処理をAIで行ったりすることが得意な会社である。片桐氏は三つの強みを持つ会社だという。一つは、これまでのノウハウや資産を活用し最小限の労力と費用で開始できること、二つ目は小さなAIモデルでエッジでも快適に動作すること、三つめは開発を継続したくなる付き合いやすさ、を挙げる。いわゆる技術だけではない、ビジネスの人対人の関係も重視する。継続率は95%だという。

 

参考資料

1.       「『PoC止まりの壁』を考える~SmartTimes 大阪大学教授 栄藤稔氏」、日本経済新聞、(2021/06/04