ARMはファブレス半導体メーカーになるのか
2025年5月17日 16:06

 ArmAI時代を迎え、IPライセンスビジネスというこれまでの業態から、ファブレス半導体企業に近づいているように見える。「Armの進化:IPからAI時代のプラットフォームへ、というタイトルのブログを同社CEOのレネ・ハース氏が最近ウェブに掲載した。また、Meta(元Facebook)向けにSoC(システムオンチップ)半導体を開発、提供する。さらにここ12年、CPUGPUなども集積した巨大なIPとしてCSSCompute Subsystems)をコンピュータメーカーや自動車メーカー、IoTメーカーなどに提供して来た。

 

Arm CSS.jpg

1 Armの巨大なIPコアであるCSSCompute Subsystems)  出典:Arm Holdings

 

Armは、元々CPU(中央処理装置)という回路だけを価値あるIP(知的財産)としてファブレス半導体企業やIDM(設計も製造も行う半導体企業)などにライセンス提供してきた。NvidiaQualcommAMDなど有名なファブレス半導体メーカーだけではなく、日本のルネサスエレクトロニクスや欧州のInfineon Technologiesなど多くのIDMにも提供してきた。

Armの創業者の一人、ロビン・サクスビー卿に取材した1990年ころの創業した当時は資金が少なく、ファブレス半導体企業は無理だったため、半導体ICの全回路ではなく一部の価値ある回路だけを提供するIPベンダーとなった、と述べている。Armは、創業当時は顧客を獲得するために苦労していたが、日本企業のハンディ機器の心臓部となるCPUを低消費電力で動くように注力してきた。このため、性能を最優先していたIntelとは対照的に、性能はそこそこでも32ビットアーキテクチャの基本を押さえ低消費電力を追求してきた。

ハンディゲーム機を手始めに携帯電話が登場した後、ArmCPUコアと呼ぶIPが徐々に携帯電話に入るようになった。携帯電話が単なる通話から電話帳や写真保存・転送などコンピュータ機能を導入してソフトウエアで機能を追加する方向へと進化してきたからだ。さらにiPhoneの登場でスマートフォンが普及してくるとコンピュータ機能は欠かせなくなった。ArmCPUコアは携帯電話にピッタリだった。


スマホで大きく花開いた

iPhoneを開発する直前、Appleは、CPU開発するためにかつてミニコンのCPU設計者チームをかなり採用して、適切なコンピュータ機能をモバイル機器に導入することを考えるようになった。Intelも当初はアプリケーションプロセッサを持っていた。しかし、それをMarvellに売却し、携帯事業から手を引いた。スマホの時代がやってくるのはその後だった。Intelはモバイル分野でArmに大きく出遅れることになった。

スマホに採用されるようになってからのArmの快進撃は言うまでもない。AppleだけではなくQualcommArmのアーキテクチャをベースにしたSnapdragonプロセッサを開発、Androidベースのモバイルプロセッサの地位を確立した。モバイル用のGPU(グラフィックプロセッサ)を開発していたImagination Technologiesも消費電力の低さを売りに、ArmCPUとセットで、iPhoneのプロセッサに集積されながら成長した。スマホで成長していたArmの歴代CEOにファブレスになるつもりはあるかと何度も聞いたが、全員見事に否定した。ファブレス企業はArmの顧客だったからだ。

Armはスマホの進化と共に成長してきたが、スマホが鈍化し始めるとデータセンターや車載へと新分野を開拓時始めた。そしてAI2012年のAlexNetによって画像認識能力を一躍アップさせたことで今のAIブームが押し寄せた。さらに2022年の生成AIによってAIブームは新しいトレンドとなった。しかもAIは、第1次産業(農業や漁業、鉱業など)から第2次産業(工業)、第3次産業(情報)のどの産業でも使える技術であることも明白になり、全ての産業に浸透するまでの成長産業になりつつある。

 

AI時代への対応を見逃さなかった

Armはこの動きを見逃さなかった。IPベンダーとしてAIをどう生かすか、その答えがArm CSSだった。CPUに加えAIを演算するコンピュータを搭載したサブシステムのIPである。しかし、もはやシステムICすなわちSoCに近くなった。Armの能力は単なるCPUというIPだけではない。CPUGPU、さらにIPコア接続インターコネクトなどを搭載すると共にAI向けのソフトウエアKleidiも搭載することのできる巨大なIPである。もはやチップといっても過言ではない。

ArmはこれまでIPベンダーと言ってきたが、ここまでシステム的な巨大なIPまで作ると、半導体企業は、単なるインターフェイスや外部端子取り出すI/O回路だけを作るという単純な作業になってしまう。これでは技術力のある半導体メーカーは、どこで差別化するのか、あるいはハードウエアでの差別化をあきらめソフトウエアだけで差別化するのか、ArmCSSは歓迎されているのか。Armはもはや半導体企業の競合相手になってしまっている可能性もある。今後のArmは微妙なところに入り込む可能性が高い。