日本生まれで多様なファブレス半導体EdgeCortixが本格的なAIチップを発売
2024年6月 1日 22:48

  日本生まれのスタートアップが本格的なAI専用チップの製品化にようやくこぎつけた。このEdgeCortix(エッジコーテックス)社の社長兼CEOとなるサキャシンガ・ダスグプタ(Sakyasingha Dasgupta)氏は、これまでドイツのマックスプランク研究所や日本の理化学研究所でAIコンピューティングの開発に携わり、2019年に東京で起業した。北尾吉孝氏率いるSBI Investmentや、ルネサスエレクトロニクスなどの出資を受け、ファブレス半導体企業としてエッジAIをビジネスのコアと置いた。

 

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1 EdgeCortixCEOであるSakya Dasgupta

 

 チップの製品化に先立ち、ソフトウエアベースのエッジAIコンピューティング手法を採り、国内でMERAというコンパイラとソフトウエアフレームワークを開発するとともに、AIチップアーキテクチャの中心となるDNADynamic Neural Accelerator)技術を開発してきた。DNAは動作中に再構成可能なプロセッサアーキテクチャ。ノイマン型の従来のコンピュータの次世代と言われるデータフローコンピュータアーキテクチャを採用する。この二つの技術を生かしたのが今回リリースした「SAKURA-II」というAIアクセラレータチップだ。開発当初は、FPGAでプロセッサ回路を組み、動作を確認し、新アーキテクチャの実用性に自信を持ち、今回の「SAKURA-II」新プロセッサ(図2)となった。

 

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2 今回開発したSAKURA-IIチップ搭載ボード

 

 製品の特長は、60TOPSTera Operations per Second)という性能を持ちながら、消費電力がわずか8Wと極めて低いことだ。MicrosoftAI機能であるCopilotPCの定義の一つとして40TOPS以上の性能であることを掲げているが、SAKURA-IIはこの性能を十分超えている。しかも消費電力は一桁ワットと、パソコン用のエッジAIとしても極めて小さい。

  日本で生まれた、このスタートアップ企業は日本ではエッジAIのニーズがあり、しかもSakyaさん自身も日本を良く知っており、なじみがある。今はむしろ米中対立が激しくなっており、比較的中立的な日本は仕事しやすい環境にあると述べている。とはいえ、さらに広い市場を目指すため、米国とシンガポール、インドにもオフィスを置き、日本には川崎市の武蔵小杉にエンジニアリングセンターを置いている。ミッションとして、クラウドレベルに近い性能をエッジで提供し、エネルギー効率と処理速度を桁違いに向上させ、顧客の運用コストを大幅に削減すること、としている。だから、低コストでしかも低消費電力の生成AIチップを提供することを目的として掲げた。

  もともと生成AIは英語ベースのLLMで、特にチャットGPTは少し古い情報を学習させていた。しかし、日本語ベースの情報を学習させる開発が国内で行われており、消費電力の少ないエッジ端末で日本語ベースでの生成AIを活用できると、かなり日本企業にとっても使い道は多くなりそうだ。

  ちなみに、EdgeCortixは、522日~24日、東京ビッグサイトで開催された第8AI・人工知能EXPO(春)で製品のデモをいくつか行っていた。2台のIR(赤外線)カメラで人物とその距離を測定した二つの映像を示したり、16のシーンを1チップだけで表示したり、超解像技術に使ったりするようなデモを示していた。このチップは放熱フィンはいらない上、エッジ端末のどこにでも組み込める大きさのボードやカードに組み込まれている。

  今回のチップはTSMC12nmプロセスで作られたものだが、今後はJASMの熊本を利用しやすくなる、とSakyaさんは期待する。2nmプロセスはコストが極めて高いため、エッジAIの目的には当分必要ないかもしれないが、ラピダスだけではなく、台湾のPSMCも日本で生産するようになるとファブレス企業の受け皿は増えるようになる。

  また、日本人だけのスタートアップとは違い、さまざまな国からの人材がこの企業には集まり、ワイワイガヤガヤと議論している姿は、まるでシリコンバレーの企業を想起する。日本でもこんな面白いスタートアップのファブレス半導体が出来たことは日本の半導体産業のこれからの未来は明るくなるような予感がする。日本におけるファブレス半導体の起業に期待は大きい。