半導体業界の最近のブログ記事

半導体産業で勝ち組になる方法

(2014年2月 8日 14:50)

半導体はどこに今売れているのか。半導体チップを最も多く購入する企業の上位10社を市場調査会社のガートナーが1月下旬に発表した。第1位はサムスン、第2位がアップルである。3位ヒューレット・パッカード(HP)、4位レノボ、5位デル、6位にソニー、7位東芝、8位シスコ、9LG10位華為が続いている。これを見る限り、スマートフォンメーカーが最も購入量が多い。

 

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かつては、パソコンメーカーが大量に購入した。このトップ10社にはパソコンメーカーは3~5位に下がっている。また、4位のレノボはパソコンからタブレットやスマホにも今は力を入れ直している。8位のシスコと10位の華為はモバイル端末よりも通信・ネットワーク機器に強い。

(続く)

半導体シリコンは、三菱マテの操業停止で不足するか

(2014年1月17日 23:22)

先週末の19日、三重県四日市市にある三菱マテリアル四日市工場で、5人が死亡、12人が重軽傷を負うという爆発事故が起きた。同社の従業員3名と、協力会社2名の尊い命が奪われた。ご冥福をお祈りします。

 

事故後、同社は同日プレスリリースを発表し、事故について即応した。さらに翌日、生産設備の操業を一時停止する旨をプレスリリースで述べた。再開時期については未定としている。14日には、役員報酬を1月から一部返上すると発表し、17日には今回の事故を受けて社外4(大学3名と協会関係者1)、社内2名からなる事故調査委員会を設置したことを発表した。これら一連の素早い行動は、経営層の本気度がよく表れており評価に値する。

 

9日の最初の発表によると、「水素精製設備の熱交換器を定期洗浄するために取り外し、所定の酸洗場において前洗浄を実施の後、蓋を開けた際に爆発が発生」とある。このリリースでは、周囲の設備に大きな被害はないと追加説明している。このことから、この熱交換器そのものが何らかの原因で爆発を起こしたものといえる。ここでは原因を追究・考察しない。自己調査委員会の調べを待つことにする。

 

この工場は、半導体シリコンの原料となる、多結晶シリコンを製造している。工場停止による半導体シリコンへの影響はどうなるのだろうか。考察してみたい。

(続く)

社長同士の話し合いができる組織GSA

(2013年12月 5日 23:54)

アメリカだけではなく、欧州もアジアも世界中の半導体メーカーのトップエグゼクティブが集まる会合がある。GSAGlobal Semiconductor Alliance)と呼ばれる組織だ。しかし、ここには日本の半導体メーカーで参加しているのは、東芝とザインエレクトロニクスの2社しかいない。ルネサスエレクトロニクスも富士通セミコンダクターもソニーもパナソニックもロームも参加していない。これでグローバルなコラボレーションができるとでも思っているのだろうか。

 

この組織の特長は、経営トップが一堂に集まることだ。半導体産業はグローバルなコラボレーションが必要なエコシステム(生態系のような仕組み)を作らずして、成長することが極めて難しくなっている産業だ。GSAには垂直統合型の半導体メーカー(IDM)だけではなく、ファブレス半導体企業、製造だけのファウンドリ企業、設計のCADツールを提供するEDAベンダー、複雑なIC回路上の一部の価値ある回路IPを設計するIPベンダー、デザインを請け負うデザインハウス、製造装置メーカー、後工程専門請負のOSATOutsourced Semiconductor Assembly and Test)ベンダー、半導体向け材料メーカーなどが参加している。製造装置メーカー大手の東京エレクトロンもメンバーだ。

 

これらの企業をみているとコンペティターよりも相補関係を結ぶことのできるコラボ向きの企業が圧倒的に多いことがわかる。半導体産業はもはや自社ですべての工程を賄えなくなっている。無理に賄おうとすると利益が出ず赤字に陥る。日本の半導体メーカーの状況はまさにこれである。自社の強みを生かすことなく、苦手の工程までも自社で行うからこそ、T2Mtime to market)に間に合わなくなり、ビジネス機会を失うのである。苦手の工程や作業は、得意な企業と組むこと。これが海外メーカーの勝ちパターンである。世界の半導体が成長しているのに、日本の半導体だけが成長せず落ちて行っているのはここに原因がある。

 

海外とのコラボレーションをしないどころか、海外メーカーを知ろうともしない、ことにも問題がある。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」は、戦いの基本中の基本である。敵を知るためには、世界中の企業と話をして相手を知り、自分の強みを主張し、協力できることは協力(コラボ)する。敵だと思っていた企業がコラボの相手にもなりうる。協力の輪が広がればエコシステムになる。日本の経営トップが海外のトップを知り合い、お互いにコラボできるところを追求していけば双方にメリットのあるビジネスができるはずだ。

 

GSAのコンファレンスがセミコンジャパンに合わせて開催された。参加者があまり多くなかったが、世界と人脈ネットワークを作ろうという気構えが全くないのだろう。今回は先月、東京でセミナーを開催したため、エグゼクティブの海外からの参加は少なかったが、2年ほど前に東京でGSAの会議を開いたときは、ケイデンス、メンター、シノプシスのそれぞれの社長や半導体メーカーの社長らが集まり、ざっくばらんに話をした。ここに集まる人たちは、責任持って経営判断ができるCクラス(CEOCTOCFOCOOなどCの付く地位)の経営陣ばかりである。

 

ところが、日本のこういった集まりは、実がない。お付き合いでメンバーになっているため、社長は出ず、決定権を持たない代わりの人物がお付き合いで集まっている。これでは、サロンにすぎず、ビジネスはできない。GSAには経営トップが出る。トップの都合が悪ければ会合には出ない。決してお付き合いではない。GSAは、少なくとも日本で言うところの業界団体でもなくお付き合い団体とは全く違う。

 

社長同士が集まり話のできる環境だと、工場の売却や買収、エコシステムの構築などをスムースに進めることができる上に、相手と腹を割って話ができるようになる。新聞報道で、パナソニックが3000億円以上もかけたと思われる魚津、砺波、妙高の3工場をわずか100億円という金額でイスラエルの企業に売却するという記事があった。魚津工場は世界で最初に45nm生産ラインを立ち上げた最先端の工場だった。もしパナソニックの社長がGSAのメンバーで、海外企業の社長と深い話ができていたら、ここまで買いたたかれることもなく、工場の価値の高い時に売り払うこともできたはずだ。とにかく相手を知らないために、半導体事業が行き詰り、どうにもならなくなって初めて買ってくれ、と声をかけても結果は目に見えている。

 

GSAの年会費がいくらであるのか知らないが、たとえ1000万円や2000万円を払っても100億円が1000億円に化けると全く安いものだ。グローバルな協力関係を築くためにも国内半導体メーカーの社長が顔を出し、世界中の企業と知り合いになりお互いのメリットを見いだせる話ができるようになれば日本の復活にもつながる。GSA会長のJoep van Beurden氏によると、来週米国で社長が150名集まってディナーを開催するそうだ。ものすごい規模の集会であるが、社長同士の話から実りあるビジネスは多いはずだ。世界に疎い日本こそ、この組織に入り世界のことを学び、復活への糸口をつかんでほしいと願う。日本の企業よ、早く井の中の蛙から脱出してほしい。

2013/12/05

 

世界のメガトレンドから半導体の未来を議論した本

(2013年11月17日 22:03)

国内だけにいると、半導体は落ち目の産業のように思えてしまう。新聞は、リストラや工場売却の話しか報道しないし、半導体企業の成功した仕事について全く報道しない。円ベースで今年の売り上げはソニーが4%増、富士通セミコンダクターは3%増(アナログ・マイコンを8月に売却)、ルネサスは2%増になる見込みで、東芝は全社の利益の半分くらいを半導体フラッシュメモリが稼ぎ出しているようだ。もちろん、世界の半導体産業はもっと成長率が高い。

 

また、半導体はこれから先の成長分野の中核エンジンになる。医療・ヘルスケア、スマートグリッドやコミュニティ、スマートハウス、電気自動車やプラグインハイブリッド、全自律運転カー、ロボット、人工衛星、再

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生可能エネルギー、IoTInternet of Things)、ワイヤレスセンサネットワーク、エネルギーハーベスティング、モバイル端末、通信インフラ、IT/クラウド・コンピューティング、NFCカード、ともかくこれから成長するビジネス分野の全てにおいて頭脳となりエンジンとなる。半導体がなければ、これらの成長分野は成り立たない。

 

残念ながら、半導体というだけで日本ではもう本が売れないと聞く。半導体の作り方、製造技術に関する本は山のようにある。だが今、求められるのは、半導体を使う側の視点である。世界がいまどう動いているから、それに必要なシステムがどうなり、その結果、半導体の未来がどうなる、というストーリーの本は1冊もない。

 

この7月に日経BP 未来研究所から、半導体の未来を議論する本を作ってくれないか、という依頼をいただき、着手した。世界の大きなメガトレンドと人間の自然な要望(安心・安全・健康・長寿など)が作り出す未来のシステム、それに求められる半導体製品、それに必要な設計・製造技術、大きく変わるビジネスモデル、などを中心に半導体の未来を議論する本を作ってきた。大学の先生や企業のエンジニアに原稿を依頼し、自分でも執筆した。ようやく初校が終わり、再校段階まで来た。間もなく終わる。発行は、1217日を予定している。


この作業のため8月~11月のほとんどの土日を費やし、今年のクリスマスイルミネーションはいまだに何もテストしていない。今年のはじめに新たな点滅回路を試作し、テクトロニクス社の4万円台という低価格オシロスコープを使ってテストした(参考資料1)のだが、肝心の本番が手つかずの状態になっていて、近所の子供たちに申し訳ないと思っている。

 

校正の間、この本をもう一度読み直しながら、これまでにない本を作り出すことができて、良かったと思った。世界の大きなメガトレンドをしっかりつかむ企業でなければ今は生き残れない。日本の半導体はかつて、世界のメガトレンドを無視した結果、大敗したという苦い経験がある。DRAMで世界のトップからあらよあらよと転げ落ちていった様はまさにメガトレンドを無視した結果であった。コンピュータの世界で、ダウンサイジングという大きなメガトレンドを見ようともしてこなかったのである。

 

DRAM1980年代前半から大型コンピュータ(メインフレーム)に使われるようになった。日本の半導体メーカーは、16Kビットまでの米国支配から64Kビット以降は我が世の春を謳歌した。1986年には世界半導体ランキングの1NEC2位日立製作所、3位東芝という圧倒的な地位を手に入れた。DRAM64K256K1M4Mとひたすら4倍の集積度を上げていけばよかった。マーケティングで顧客の声を聞かなくてもひたすら4倍の製品を開発すればよかった。当時の大型コンピュータから見るとDRAMの容量は小さすぎて、集積度を上げてくれさえすればよかったからだ。

 

ところが、コンピュータサイドは大きなトレンドを起こしていた。大型コンピュータでは、ユーザーがプログラムを書いても、大勢順番待ちを強いられ3~4日間待たされることが常だった。このためコンピュータユーザーは、もっと性能が低くてもいいから安くていつでも使えるコンピュータが欲しい、という要求を強めていた。このためコンピュータは大型から、ミニコンやオフコン、ワークステーションと小型に向かっていた。その究極がパソコンだ。ところが、パソコンに使うメモリとなればとにかくコストを下げることが最優先。このため誤り訂正回路を使った高信頼のDRAMよりも、低コスト重視のDRAMへとトレンドは動いていった。

 

この動きにいち早く飛びついたのが米国のマイクロン社だった。安く作るための設計技術・製造技術、全てをつぎ込んだ。デザインルールを小さくする微細化(リソグラフィ)技術、同じデザインルールでもチップを小さくできるコンパクトなレイアウト法、そして工程を短くするマスク削減、こういった技術を1985年前後から注ぎ込んだ。彼らはとにかく低コストで作ることに専念し、チップを大きくしない技術を最優先した。狙いはパソコンのみ。もしパソコンがソフトエラーを起こしてフリーズしたら再起動をかければすむ。ソフトエラーを防ぐための回路を集積するとチップが大きくなってしまうことを嫌った。

 

ところが日本のDRAMメーカーは相変わらず大型コンピュータ向けに誤り訂正回路、冗長ビット回路などエラーを起こさない回路を集積した高価なDRAMを作り続けた。マイクロンからライセンス供与を受けたサムスン電子が90年代前半にDRAMを出しても国内トップの責任者は「安売り競争に巻き込まれたくないから安いDRAMは作らない。人件費の安い国の企業とは競争しない」と明言した。ところがマイクロンが安いチップを製品化すると、初めて黒船が来襲したような大騒ぎになった。時すでに遅し。時代は大型コンピュータからパソコンへ主役が交代していた。日本メーカーは世界のトレンドを見ずにやってきた結果、大敗したのである。

 

この苦い経験を二度と味わってほしくない。このためには世界の大きなメガトレンドを知り、自社が向かうべき方向をつかみ、世界のトレンドと一緒に成長していけばよい。こういった願いを込めて、今回の本を作成した。タイトルは「メガトレンド 半導体 2014-2023」である。

 

参考資料

1.    個人で高性能オシロが買える時代が到来-テクトロの4万円台オシロを試す(連載5回)

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/001/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/002/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/003/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/004/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/005/index.html

 

国家プロジェクトはなぜ税金の無駄遣いと言われるのか~どうすれば無駄にならないか

(2013年11月 9日 21:57)

多くの国家プロジェクトが毎年生まれてくる。全て国民の血税で賄われている。これまでのやり方は、5年、7年と期間を区切ってプロジェクトを運営してきた。しかし、その間に数十億円、数百億円もかけて装置を購入する。プロジェクト期間が終われば、高価な装置は捨てざるを得ない。もったいない。どこかに売却しようにも、装置の運転コストが年に1億円規模もしたら、誰も買ってくれない。では、名前を変えてまた新規のプロジェクトとして継続しよう。こうやってゾンビのように次から次へとプロジェクトが消え、生まれてくる。でも運営資金は全て税金だ。これまでと同じようにまたプロジェクトを画策している話も最近、チラホラ聞こえてくる。

 

母体を運営する人たちの多くは「天下り」である。逆に、霞が関に新しいプロジェクトを提案すると、一民間企業の提案はまず採用しない。複数社を集め、工業会などの団体を含ませることが条件となる。その団体があるから天下りできるのである。ただ、私は天下りが悪いというつもりはない。天下りであっても、仕事に見合う給料を与えれば職を確保でき、失業することもない。問題なのは、給料に見合わない仕事しかやらない、できないことである。霞が関から天下りで年収2000万円もらっている人が2000万円に相当する仕事をしていれば全く問題ない。ところが、話を聞くと400万円くらいの仕事しかしていない人がたくさんいるらしい。だったら、400万円にすれば、天下りでも問題はないはずだ。

 

国家プロジェクトの最大の問題は、投入した資金に見合う仕事を生み出したか、という視点がないことだ。市場経済の社会では、投入する資金に対して自律的にお金を生む仕組みを生み出すことが団体を継続できる唯一の解である。自律的にお金を生み出さなければ、無制限に私たちの血税を投入することになる。

 

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海外の国家プロジェクトでは、税金を投入し続けなければ目的を達成できないというプロジェクトはほとんどの場合活力を削ぎ失敗している。逆に成功したところは、税金を回収できたところである。政府からの投入金をはるかに上回るほど自律的に稼ぐのである。IMECというベルギーの中のフランダース地方政府が税金を投入している半導体研究開発会社IMECは、毎年回収できており自律して稼いでいる。全体で使うコストに対する政府の出資金の割合は毎年低下しており、プロジェクトが生まれた時は100%だったが、今では20%にも満たない。シンガポールの国家研究機関IMEを取材した時も、国家が投入する予算の割合を毎年減らすから自律的に稼ぐようになっていると聞かされた。米国の半導体研究開発会社SEMATECHでも米国連邦政府の投入資金は、今はゼロ。ただ、ニューヨーク州が雇用創出のために、資金を出すから本部をニューヨーク州へ移せ、ということでテキサスからニューヨーク州へ移転した経緯がある。ニューヨーク州の目的は、このプロジェクトから起業させ、雇用を生み出すことだ。だから州税を投入するのである。これらの例は全て成功例だ。欧州には失敗例も多いが、彼らのほとんどは日本と同じひたすら国家予算から血税を投入している。

 

成功した国家プロジェクトでは、新たなベンチャー企業を何十社も創出し、雇用を数千人規模で新たに生み出している。同時に彼らがプレゼンするとき、何十社を企業させ、何千人の雇用を生んだ、ことをアピールする。投入した資金は新しい企業が自律的に稼いでいるからもはや税金は投入されていない、と述べているのだ。

 

日本の国家プロジェクトでは、資金の回収はおろか、ベンチャー企業を生み出さない。このプロジェクトから起業し、新たな雇用を生み出せば、税金は国民に還元される。ベンチャーキャピタリスト、ファンド、金融に加え、サプライチェーン、ハードウエア・ソフトウエア・サービスのエコシステムを築くのである。高価な装置も新しい企業に貸し出すなり、売却するなり、市場経済の仕組みの中に取り込んでいく。自律的に運転する方向に導くべきだろう。

 

ところが、国プロでは、出口、出口と研究成果を使うべき応用分野をうるさく言う。しかし、企業や大学の研究者に出口を求めることには無理がある。製品のユーザー(エンジニア)に会ったこともないからだ。研究者に出口を求めても、せいぜい鉛筆ナメナメしてどこかの調査レポートを丸写しにしているだけにすぎない。研究学園都市であるはずのつくばでは、大学と研究機関、企業がバラバラだと言われている。エコシステムどころか、話もしないという。一般に研究者や学者は象牙の塔にとどまっていたい、と考える人たちが多い。だから国内の多くの大学が産業界に十分貢献できていない。

 

英国のブリストル大学では、産業界と一緒になったプロジェクトを1~2年間組まなかった教授の給料を下げている。また海外では、教授の年間給料を12カ月ではなく11カ月しか支給しないところも多い。だから教授は産業界と一緒になって社会に役立つ研究を目指し、資金を稼ぐ。

 

エコシステムは企業同士だけではない。大学や国家の研究機関を研究開発のリソースとして使い、一緒になってエコシステムを作り上げる方が良いモノができる。今は世界的競争力が問われている時代だ。コンペティタは国内ではなく、世界中だ。みんなで知恵を寄せ集め、コスト競争力のある仕組みを作らなければ、世界中から置いてきぼりを食う。それには世界の企業や大学も仲間に組み入れるという視点も重要になる。当然、お金をたくさん出してもらう。日本の地盤沈下の役割を国家が担っているようなことに成り下がってはいけない。世界に勝てる社会を創るための仕組み作りを提供することが本来の国プロである。税金を闇雲に投入することではない。

                             (2013/11/09

東京エレクトロン・Applied Materialsの合併の真実に迫る

(2013年10月17日 00:26)

半導体製造装置で世界第3位と2位である東京エレクトロンとApplied Materialsの経営統合について、これまでの取材をベースに考察してみたい。もちろん取材できないところもあるので、あくまでも考察とする。

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今回の経営統合を、両社のプレスリリースを見る限り対等合併を強調している。日本のメディアもそのように伝えた。しかし、Reuters(ロイター通信)Wall Street Journal(ウォールストリートジャーナル)などの海外メディアは、Appliedが東京エレクトロンを吸収合併すると伝えている。実のところはどうか。海外メディアの言い分の根拠はあいまいである。

 

両社のここ数年の業績を並べて見てみよう。(続きを見る)


半導体からナノエレクトロニクスへ、世界の潮流

(2013年8月 3日 18:40)

近頃、欧州や米国のレポートを読んでいると、半導体という言葉があまり出てこない。ナノエレクトロニクスという言葉が半導体に置き換わっている。100億ユーロをEUや欧州各国政府が出資して、ナノエレクトロニクスのプロジェクトを作ろう、という動きがある。ここでも半導体ではなく、マイクロ/ナノエレクトロニクスという言葉が使われている。

 

半導体という言葉は、実はここ1~2年、米国でもあまり聞かなくなっていた。単にマイクロチップとかチップなどと言われていた。世代の違いかもしれない。年配の方はsemiconductor industryといった表現を多く使うが、少なくとも50歳以下の方たちではchip industryとかchip businessといった表現が多いような気がする。

 

日本語でも半導体は落ち目の産業というトーンで新聞記者は報道するし、半導体という言葉の響きは古臭いイメージがあるかもしれない。日本の半導体企業は不調だが、世界の半導体企業は成長曲線に乗っている。日本だけが不調という産業である。もともと年率20%という異常ともいえるくらいの猛スピードで半導体産業は1960年代から1994~5年まで高成長を遂げてきた。それ以降は6~7%という成長率に落ちた。それでもほかの産業から見れば成長産業ではないか。半導体という言葉をナノエレクトロニクスに変えて、世界の半導体産業と同じように成長することは面白いかもしれない。

 

米国では、オバマ大統領がニューヨーク州の北にあるアルバニー市の半導体研究コンソーシアムSEMATECHを訪れた。半導体産業が雇用を生み出す産業と位置付けているためだ。シリコンバレーよりも今は半導体産業が盛んなテキサス州オースチンの半導体工場にも足を運んだ。やはり米国における雇用に期待しているためだ。残念ながら、アベノミクスの第3の矢である成長戦略に対して、安倍首相が世界最高の半導体工場の一つである東芝の四日市工場や、CMOSイメージセンサで世界のトップを行くソニーの長崎工場を訪れたという話は聞いたことがない。第3の矢は依然として、もたついている。

 

もともと半導体(semiconductor)は、半分導体(semi-conductor)・半分絶縁体(semi-insulator)という性質を持つ材料を半導体と称したことから生まれた。エネルギーバンドギャップ(どれだけのエネルギーを加えると導電体になりやすいかを表す指標)は、導体と絶縁体の中間であり、導電率(電気の流れやすさを表す指標)もそれらの中間である。本質的に半分導体であるから、電気を制御できるように第3の端子を設けると、導体と絶縁体の間を調整できるのではないか、という考えからトランジスタが生まれた。

 

具体的には、マイナスの電荷を持つ電子がいっぱい存在するn型半導体と、電子が抜けてプラスの電荷を持つ正孔がたくさん存在するp型半導体をくっつければダイオードができる。p型側にプラスの電池をつなぎ、もう一方をマイナスの電池の極につなぐと電流が流れる。その逆は流れない。電流をオンオフするのに、電池の極性をいちいちひっくり返さなければならないのならまったく使いにくい。

 

もし、第3の電極に加え、電圧を変えるだけで電気をオンオフできるのなら、制御性は抜群に改善される。トランジスタは第3の電極を設けたものだ。そのトランジスタを多数、今や10億個の単位でシリコンチップ上に集積した半導体ICが今、パソコンやスマホ、タブレットなどの心臓部を動かしている。デジカメや音楽プレイヤー、カーナビ、クルマの衝突防止システム、電車の制御、ロボットなどありとあらゆるところの心臓部あるいは頭脳に使われている。その数と応用範囲はますます広がってくる。

 

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ICのもっとも小さな寸法はもはやナノメートル(1nm1mmの百万分の一)レベルに達している。最先端のIC製品は22nmのインテルの最新プロセッサチップである。ちなみに髪の毛の太さは70~80μmだから、半導体回路の線幅は、その1/300と極めて細い。肉眼では見えない。この半導体チップ、すなわちナノエレクトロニクス製品はスマホやタブレットをサクサク動かしてくれ、クルマのバックモニターやサラウンドビューモニター、監視カメラ、ソーラーパネル、風力発電、デジタルサイネージなどありとあらゆるところに使われ、さらに発展を遂げようとしている。IT機器やセンサネットワーク、クラウドサーバー、USBメモリー、エアコン、プリンター、プロジェクターなどハードウエアの中核に位置する。

 

ただし、ナノエレクトロニクス産業は、技術ノウハウと、情熱、そしてビジョンを持つものが勝利する。ビジョンを持たないために投資せず、技術を手放す企業が日本では出てきた。安易にお金儲けできる産業ではない。地道な努力と先を見通すビジョンがあり、投資があってはじめて結果の出る産業である。だから、解放改革で安易にお金儲けに走ってきた中国では2000年前後から力を入れ始めたものの、いまだに半導体産業が育っていない。製品原価に対する人件費比率はわずか5~8%しかないため、まさに日本に適した産業だと言える。

2013/08/03

 

マイクロプロセッサを定義し直すべき時がきた

(2013年6月17日 23:20)

マイクロプロセッサを定義し直す時期が来た。IntelAMDが今月Computex Taipeiで発表したプロセッサは、1チップにさまざまな回路が集積されたアプリケーションプロセッサである。タブレットやウルトラブック、ノートパソコンなどの用途に使えるアプリケーションプロセッサだ。CPU以上の機能が集積されているのである。

 

Intelが発表した第4世代のCoreプロセッサチップには、CPU4(すなわちクアッドコア)、キャッシュメモリ、GPU(グラフィックスプロセッサ)が20個、さらにビデオプロセッサ、画像処理プロセッサ、システムコントローラ、PCI ExpressDMIなどのI/Oインターフェース回路といった、CPUとキャッシュ以外の回路が多数搭載されている。これまでのMPUなら、CPUコアとキャッシュだけだった。せいぜいキャッシュコントローラがあったかもしれない。グラフィックスコアやビデオ/イメージプロセッサなどは集積していなかった。ここまで集積されたプロセッサの機能は、クアルコムやnVidiaなどが市場に出しているアプリケーションプロセッサと同じである。

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図1 Intelの第4世代Coreプロセッサ 

AMDElite Mobility APUと呼ばれるTemashプロセッサ(タブレットやノートPC向け)も同様に、ジャガーと呼ばれるCPUコア4個に加え、GPUコアやビデオエンコーダ、ディスプレイコントローラ、ノースブリッジ(DDR3メモリと直接インターフェースできる回路)、などを集積している。AMDAPU、すなわちアプリケーションプロセッサと呼んでいる。

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図2 AMDの新プロセッサTemash 

これまでIntelAMDもパソコンやサーバー向けのCPUに特化してきたプロセッサメーカーであり、CPUの性能を上げることに集中してきた。デュアルコア、クアッドコア、さらに共有キャッシュを集積したプロセッサチップであった。MPU(マイクロプロセッサユニット)、CPU(セントラルプロセッサユニット)と呼ぶのにふさわしかった。

 

最近、米国のアリゾナ州スコッツデールを本拠とする市場調査会社のIC InsightsMPUメーカーのトップランキングを発表したが、彼らはこの時にMPUを定義し直した。これまでMPU市場という場合、マイクロプロセッサやDSP、マイコン(マイクロコントローラ)を含めていた。WSTS(世界半導体市場統計)でも同様にMPUとマイコン、DSPを「MOSマイクロ」分野と定義し、携帯電話やスマートフォン、タブレットに使われているアプリケーションプロセッサは、「MOSロジック」という範疇に含めていた。

 

IC Insightsは、MPUの中にアプリケーションプロセッサを含め、これをMPUとして世界のMPUメーカーの売り上げ規模を調査した。520日に同社が発表したMPU販売ランキングは、以下のようになった。IntelAMDx86アーキテクチャのMPUメーカーであるが、それ以外のメーカーは、全てARMアーキテクチャのプロセッサ企業である。IntelAMD以外のMPUは全てアプリケーションプロセッサと呼ばれている。

 

1位:Intel                      36,892 M(米ドル)

2位:Qualcomm               5,322

3位:Samsung (+Apple)  4,664

4位:AMD                        3,605

5位:Freescale                 1,070

6位:nVidia                      764

7位:TI                             565

8位:ST-Ericsson             540

9位:Broadcom                345

10位:MediaTek               325

出典:IC Insights2013520日発表) 


64日から台湾の台北市で開かれたComputex Taipeiにおいて、IntelAMDが発表したプロセッサの新製品が実は、上記に示した第4世代のCoreプロセッサであり、Temashである。これらは中身を見る限り、もはやアプリケーションプロセッサそのものである。

 

ならばMPUを定義し直すべきではないだろうか。マイクロプロセッサとは、演算あるいは制御を司るCPUコア、共有キャッシュまで集積されたプロセッサチップであったが、さらにGPUやビデオプロセッサ、イメージプロセッサ、音声処理プロセッサ、高速インターフェース回路、ディスプレイコントローラなども集積したアプリケーションプロセッサもやはりMPUと呼んでよいのではないだろうか。

 

これまでWSTSでは、「MOSマイクロ」の定義について、これでいいのだろうかという疑問の声は上がったが、カテゴリを定義し直すことはなかった(ある委員の話)。しかし、事実はAMDが新型プロセッサをアプリケーションプロセッサと呼び、Intel1chip SoCあるいはモバイルプロセッサと呼ぶようになってきた。すなわち、パソコン陣営までがアプリケーションプロセッサ、モバイルプロセッサと呼ぶのであれば、MPUを再定義し直す意味はあろう。

 

ちなみに、Intelはこれまでタブレットやスマートフォンに使うプロセッサをモバイルプロセッサと呼び、アプリケーションプロセッサとは呼ばない。かたくなにモバイルプロセッサにこだわる。なぜか。10年以上前に、Intelはアプリケーションプロセッサを開発していた部隊をMarvell Semiconductorとしてスピンオフして外部に出してしまった。このことを、ある元Intel社のエンジニアは「バカな決断をした」といまだに憤慨する。Intel自身も未だにトラウマのように残っているのかもしれない。当時のIntelは携帯電話向けのプロセッサをアプリケーションプロセッサと呼んでいたのである。

                                               (2013/06/17)

ルネサスにファウンドリ事業参入のチャンス

(2013年5月21日 23:43)

今日、EIDECEUVL基盤開発センター)シンポジウムに出席して、夜のパーティで何人かと議論した。製造が得意な日本において、半導体製造を請け負うビジネス、ファウンドリ企業が1社もないことは産業構造としていびつではないかと。

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 EIDECシンポジウムで挨拶を述べる渡辺久恒社長

日本には、ファウンドリ事業を行うのに必要なインフラストラクチャーが揃っている。2012年の世界の半導体市場の売り上げは前年度比2.9%減とマイナス成長だったが、ファウンドリビジネスは何と同20%増のプラス成長している。この成長市場を日本はみすみす逃しているのだ。

 

半導体の製造を請け負うといっても、製造プロセス技術者や営業担当者だけでできるものではない。ファウンドリ事業では、設計の知識やツール、IPコア(半導体回路上の一部の価値ある回路)も揃えていなければならない。営業担当者は半導体設計の知識が欠かせない。ファブレス顧客の要求レベルを理解しなければならないからである。

 

半導体LSIの設計は、一言でいえば、RTLregister transfer level)と呼ばれる論理設計を行い、そのプログラミングの検証やタイミングの検証を行った後、論理合成、ネットリストという回路段階での論理の接続情報を決める。その検証も済ませたら、回路のレイアウトと配置配線を行い、LSIの回路パターンを作成する。そのLSIがタイミング通りに動くかどうかの検証を行い、仕様を満たさなければ時には最初のRTLまで変えなければならないことになる。最終的にOKになって初めてGDS-IIというフォーマットにすると回路パターンのマスクに変換することができる。

 

ファブレスの顧客からいただく設計情報は、どの段階でも受けられるようにしておく必要がある。半導体設計独特の言語であるHDLでプログラミングまでできる顧客、GDS-IIのマスクデータをくれる顧客、あるいはネットリストまでもらう顧客など、どのような顧客にも対応しなければビジネスチャンスを失う。だから設計の専門家や設計ツールが営業に必要なのである。

 

幸い、日本の半導体メーカーはIDM(統合型半導体デバイスメーカー)と呼ばれ、設計から製造まで手掛けてきた。半導体設計という特殊な言語でのプログラミングや論理合成など独特の世界でのスキルは高いが、どのような半導体を設計すべきか、という企画力が米国企業に比べると弱い。

 

ところが、多くの半導体メーカーはファブライトと称して製造を縮小している。多くの半導体メーカーがファブライトにシフトするのは製造に投資資金がかかることを嫌っているためだ。日本は得意な製造を縮小し、半導体設計という特殊な「デザインハウス」のスキルはあるものの、世界のファブレスと競合できる企画力はない。世界のファブレスはシステムのアルゴリズム開発や、ソフトウエアの開発にお金も人間も強化している。ファブレスやファブライトでは世界と戦って勝てないのである。しかもデザインハウスの能力だけならインドの設計能力、スキルの方がコスト・パフォーマンスで上である。

 

では日本が勝てる道は何か。それがファウンドリビジネスである。優秀なプロセスエンジニアがおり、優秀なデザインスキルを持ったエンジニアがいる。例えばルネサスエレクトロニクスには、最先端の工場が二つある。茨城県の那珂工場と、山形県の鶴岡工場だ。しかし、IDMとしてビジネスを行い、月産100万個以上の注文ではないと受けない、というような体質だからラインは埋まらない。製造だけを請け負ってラインを埋めればよいのである。このうちの鶴岡工場を外国企業に売却しようとしているが、虎の子の工場を売ってしまったら、ルネサスは何で稼げるのか?その道筋は描けていない。

 

他社から注文を採ってラインを埋めようとなぜ考えないのだろうか。世界では、同じIDMのインテルとサムスンが、巨大工場を作ったもののラインが今後埋まらなくなることに対して、ファウンドリビジネスを始めている。工場資産を生かしラインを埋め、利益を出そうとしている。ルネサスも今からでも遅くはない。ファウンドリビジネスも事業の柱の一つとしてやっていけば、世界と再び競合できる。ルネサスにはデザインスキルを持ったエンジニアが大勢いる。

 

要は最先端ラインに巨額の投資をしたくないと逃げているためにいつまでも成長戦略が描けなかった。投資先の資金調達に頭を下げて回り、投資資金を確保すればよい。このためには世界中から資金を調達するくらいのバイタリティが経営者には欲しい。可能性は、アラブ系オイルマネーもあるし、ファンドも利用する。顧客からも調達する。専用ラインを作って資金を前金としていただく。ありとあらゆる資金調達に努力を惜しまずにやっていけばよいのである。幸い、日立、NEC、三菱の出資比率が低下したことから親会社も口出しにくくなっただろう。さらに資金を強化し強い財政基盤を作れば、独自の経営ができる。

 

顧客開拓の設計エンジニアは、世界中のIPコアに目を光らせ、ルネサスにとって有効なIP企業からライセンスを買取ったり、ベンチャー企業そのものを買収したり、ルネサスの成長に貢献できる。これまでのマイナス志向からプラス志向へと積極的に打って出れば世界攻略さえできる。

 

成功した暁には、産業革新機構から株を買い戻し、一般市場に放出すれば、資金調達はさらに容易になる。

2013/05/21

インテルは携帯端末時代をどう生きて行くのだろうか

(2013年5月19日 22:11)

パソコン産業に陰りが見えてきた。タブレットやスマートフォンに市場が奪われるというレポートさえ出てきている。旧アイサプライ(現IHSグローバルジャパン)の調査では、タブレットがPCを食うと予想している。パソコンを中心にマイクロプロセッサを開発してきたインテルは今後どうなるか。

 

パソコン用プロセッサに特化

インテルは1980年代中ごろに、マイクロプロセッサ事業に注力すると決めて以来、常に成長路線を歩んできた。マイクロプロセッサの性能向上に力を注ぎ、32ビットの386486、そしてPentiumにたどりつき、不動の地位を築いてきた。1995年はマイクロソフトのWindows 95が発表された年であり、パソコンはMS-DOSからWindowsへとGUIを使った本格的なパソコンへと変わってきた。それまでGUIはアップルのマッキントッシュパソコンの牙城であった。Windows時代になりマイクロソフトとインテルのチップを合わせて、ウインテルと呼ばれる時代もあった。

 

インテルがたどってきた道はパソコンの性能を上げることであった。プロセッサの性能が上がるとWindowsの機能も増やし、さらにプロセッサの性能を上げるといったサイクルを繰り返してきた。x86互換機メーカーとしてAMDも健闘していたのの、入出力にPCIバスを提唱し、インテルはその地位を不動のものにした。インテルが長い間採ってきた戦略は性能向上だった。

 

2005年前後から、クロック周波数をGHzまで上げたが、性能一辺倒ではチップの発熱を許容できなくなり、消費電力を下げる設計も導入せざるを得なくなった。マルチコアは性能を維持しながら消費電力を下げる技術となった。CMOS回路ではクロック周波数に対して性能はほぼリニアに上がるが、消費電力は2乗で増加する。このため、クロック周波数をむしろ下げ、マルチコアで動かすことで、性能を維持しながら消費電力を下げる、あるいは性能を上げながら消費電力を維持する、といったことが可能になった。

 

低消費電力に特化したARM

一方、英国のベンチャーAdvanced RISC Machines社(現在のARM社)はファブレスのCPUメーカーになりたかったが、資金不足から32ビットプロセッサ回路をIPコアとしてライセンス販売するというビジネスモデルを考案した。1990年代の前半は鳴かず飛ばずであった。彼らの戦略は、性能はそこそこでも消費電力を徹底的に下げることであった。ハード的にもソフト的にも消費電力を下げるための工夫を凝らした。最初から、インテルとは全く違うアプローチであった。

 

ARMが多く使われた携帯電話は、単なる通話から、カメラやショートメッセージ機能、アドレスメモリ機能などを搭載するようになり、プロセッサで制御することが王道となった。これによりARMのプロセッサコアが搭載されていく。第3世代の携帯電話となると、ARMコアの搭載はますます進んでいく。ARMは低消費電力を維持させながら性能を上げて行く方向に進んできた。通話主体のフィーチャーフォンからコンピューティング主体のスマートフォンへと変わるにつれ、ARMコアは単なる制御機能だけではなく、演算機能も織り込むようになってきた。これにより性能は高くなり、マルチコアも増えてきた。ARMコア搭載の半導体チップは150億個にも及ぶという。

 

組み込み系に注力

インテルはパソコン時代の先を読み、組み込み向けのAtomプロセッサを2008年に発表したが、消費電力がARMプロセッサよりも高く、携帯機器市場に採用されるまでには至らなかった。その後、設計変更をし、インテルはマルチコアのAtomプロセサベースのSoCとして、今年、Silvermontと名付けられた携帯機器市場向けのAtomベースのアプリケーションプロセッサを発表している(参考資料1)。これはスマホやタブレット狙いのインテル初のアプリケーションプロセッサ(同社はSoCSystem on Chipと呼ぶ)となる。

 

ここ数年インテルの動きを見ていると、2009年のDACDesign Automation Conference)では、ワイヤレス給電をデモしたり、2011年にはインフィニオンテクノロジーズの通信部門を買取ったり、脱PCに向けた動きが活発だ。もちろん、製品発表では相変わらずパソコン向けのCore 3Core 7といった高性能プロセッサを発表している。2012年のInternational CESではスマホ用のリファレンスデザインを発表しており、インテルがスマホを作れる実力を見せた。レノボとモトローラのスマホにインテルのチップが採用された。

 

ところが、インテルの売り上げに陰りが見えてきた。2011年はインフィニオンの買収により、24%増の4969700万ドルを計上したが、2012年は1%減の4911400万ドルとなった。2000年代の後半からインテルは、2位サムスンに対して追いつかれつつあったが、2011年には引き離した。しかし、再びサムスンにその差を詰められた。

 

インテルの強みは何と言ってもパソコン用途だったが、そのパソコンがタブレットやタブレットミニなどに食われつつある。米市場調査会社のIDCによると、PC2年連続マイナス成長、2017年でも世界全体でわずかしか伸びない。2012年の35000万台が、13年には34500万台に減少するが、17年には38000万台と増えると見込んでいる。しかし、17年の数字は願望も含んでおり、パソコンの下降トレンドとして、急速に落ちて行く可能性もありうる。

表 パソコンの将来予測 出典:IDC

PC Shipments by Region and Form Factor, 2012-2017 (Shipments in millions) 

Form Factor

2012

2013*

2017*

Worldwide

Desktop PC

148.4

142.1

141

Worldwide

Portable PC

202

203.8

241

Worldwide

Total PC

350.4

345.8

382

 

スマホとタブレットの境界薄れる

携帯端末では、スマホとタブレットの違いは徐々に薄れつつある。今年のInternational CESでは、ファブレット(Phablet)というジャンルまで現れた。これは5~7インチのスマホ(あるいはタブレット)を指す。4インチ前後のスマホ、ファブレット、8~9インチのタブレットミニ、10インチ前後のタブレット、とこれらのデバイスはシームレスにつながった。

スマホのこれまでタブレットではアップルのプロセッサが強く、スマホではクアルコムのプロセッサがトップだった。さらに、アップル、サムスン、メディアテック、ブロードコムなどが上位を占める。タブレットではアップル、サムスン、nVidiaなどが有力であり、インテルはいずれにも影はない。

これらの市場にインテルがAtomコアを集積したアプリケーションプロセッサ(同社はモバイルプロセッサと呼ぶ)を今年のクリスマス商戦に合わせたタイミングで市場に出してくる。果たして、インテルは市場に食い込めるだろうか。

 

インテルはいける、という見方はできる。インテルは設計だけではなくプロセス技術も持っており、「22nm時代ではTSMCやグローバルファウンドリーズなどのファウンドリメーカーよりも進んでいる」(アルテラ社副社長のVince Hu氏)という声もある。22nmプロセスノードではインテルはトライゲートMOSトランジスタ技術をすでに28nm時代から確立してきた。この技術は、電流が表面だけではなく両側面の3面にも流れるという構造を持ち、電流容量を稼げることに加え、側面とでのリーク電流(正確にはサブスレショルド電流)が少ないという特長を持つため、22nmプロセスでは欠かせなくなると見られている。この技術を使うことで、高性能・低消費電力という特性が他社のプロセッサよりも優れていると考えられる。

 

しかし、インテルは携帯端末市場では負ける、という見方もできる。というのは、同社はかつてアプリケーションプロセッサを開発しておきながら、その部門を1995年にスピンオフさせてしまったからだ。これがマーベル(Marvell Technology)というファブレス企業である。インテルが携帯端末用のプロセッサをモバイルプロセッサと呼ぶのは、アプリケーションプロセッサ部門をスピンオフして外へ出してしまったからだ。マーベルのアプリケーションプロセッサはARMCPUコアを使った低消費電力のチップである。

 

インテルがアプリケーションプロセッサ部門を、もし今でも持っていたら、携帯端末への進出はもっとスムーズにでき、しかもすでに地歩を築いていたに違いない。Atomプロセッサの開発に取り組む必要もなかったのである。リソースを無駄に使ったといえる。

 

インテルが今後、携帯端末市場でどのような実績を残すだろうか。おそらく性能・消費電力とのバランスや、採用する携帯端末メーカーの設計や技術、その端末を消費者が受け入れるかどうか、などの要素が決める。インテルのプロセッサだけでは予測はできない。

2013/05/19

 

参考資料

1.    Silvermont is Latest Intel Atom Processor for Mobile Market SourceTech411