世界と比べて常識はずれな1000億円という高額のスーパーコン補助金
2013年5月10日 00:43

スーパーコンピュータに1000億円を国の補助金として出すというニュースを見て、常識外れの金額だと思った。国内におけるスーパーコン市場は富士通のその売上1000億円しかない。世界的にも100億ドル(1兆円)しかない小さな市場である。ここに税金で1000億円をつぎ込むのである。

 

さらに、世界のスーパーコンメーカーを見ると、スーパーコンを製造している富士通よりも小さなクレイやSGIなどが生き残っている。彼らは市販のCPUを超並列動作させ、CPU同士をつなぐ高速バスやインターコネクトを太くして高速化を図っている。CPUを自社開発しない。IntelAMDCPUプロセッサを購入している。いわば、コストを有効に使おうという訳だ。

 

クレイの2012年の年次報告書を見ると、売り上げは42100万ドル(約421億円)、研究開発費は6400万ドル(64億円)、販売管理費も含めた全コストを除くと利益は2900万ドル程度しかないが、インターコネクトハードウエア開発プログラム収入として13900万ドルが計上されている。これがいわば補助金だろう。すなわち、軍関係からの補助金が139億円程度と見積もることができる。

 

CrayXC30.png

クレイはこの程度の補助金で赤字を出さない経営をしている。研究開発費は64億円しか使わない。これで世界一のスーパーコンを開発するのである。コストを無駄に使わないようにするため、CPUには市販の製品を使い、速度のボトルネックになっているインターコネクト部分だけに技術を集中している。もちろん、超並列で動作させるために、マルチスレッド技術や、スケジューリング技術を駆使し、キャッシュコヒーレンシなどの技術を加味してレイテンシを短くする。実質的な速度を上げる努力をする。

 

これに対して、日本は世界一を目指すために1000億円もの大量の補助金を国家が出す、という訳だ。しかも研究開発費がこれだけの資金になるのなら、税金の有効利用とはほど遠い。何でも自社開発しようというスタンスは、競争力からはほど遠いのである。競争力は性能の高い製品を安く作ることによって付く。お金をかけりゃ、いいというものではない。

 

国は、この1000億円という要請を十分に吟味したのだろうか。スーパーコンで何ができる、という話はテレビでなされているが、それは何も今さら、という応用(いわゆる出口)を示しただけにしかならない。

 

そもそもスーパーコンピュータは科学技術計算に昔から使ってきた。解析的に解けない問題を偏微分方程式で数値解を求めて解く訳だが、時間や変量を細かく刻めば刻むほど精度は高まるが、計算時間がかかる。天気予報では地球上の3次元地点を細かく刻むほど予報の確度は高まる。パソコンでは時間がかかるからスーパーコンで計算しようという訳だが、独自のOSで動かしている以上、限られた人間しかスーパーコンを触れない。計算プログラムの前処理や後処理が必要なこともあり、今でも本当に早く計算できるのだろうか。クルマの衝突実験は今ではパソコンでシミュレーションしている。スーパーコンでなくても十分な性能を出せる。

 

かつては、ダウンサイジングの流れで、スーパーコンよりも安くて性能の劣るミニスーパーコンの方が、実質的には速かった。待ち時間がないからだ。この話は、市販のプロセッサの性能が自社開発していたゲートアレイロジックの性能よりも向上し始めた1980年代終わり頃から出ていたことは、「スーパーコンピュータ市場はなぜ小さいか」ですでに述べた。

 

日本の産業が世界と競争力を持って、戦えるようにすることが国の役割ではないか。ひたすらたくさんの補助金を出して無駄な開発を許すことによって、却って競争力を弱めてきたことは90年代から今日までの歴史が証明してきたことではないか。スーパーコンの補助金として1000億円が妥当だと判断した科学者、文科省をはじめとする霞が関は、その根拠を国民の前に示すべきではないだろうか。

2013/05/10