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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)
Intelの社長交代にみるハイテク企業経営者の日米の違い
2021年1月14日 19:19

 Intelの新CEOPat Gelsinger氏(図1)に決まった。同氏は元々Intel30年以上在籍しCTO(最高技術責任者)を務めていた。半導体業界においてプロセス技術に熟知したテクノロジーの最高責任者であり、創業者のRobert Noyceやムーアの法則で有名なGordon Moore氏、ビジネス書籍「パラノイアだけが生き残る」を記したAndy Grove氏などから、技術と経営を学んでいた。Intel退社後EMC、そしてVMwareに入社、2012年からその仮想化ソフトウエア会社のCEOを務めていた。これまでIntelCEOだったBob Swan氏は215日に退任する。

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1 Intelの新CEOに決まったPat Gelsinger

 

 2020年のIntelは、第2四半期までは比較的順調に成長していたが、第3四半期は前年同期比10%減という残念な結果に終わった。Intelの株価は少しずつだが落ちて行き、2020年の4~5月ごろからAMDに大きく引き離される結果になった。すでにその兆候が少しずつ表れていた。その前の第2四半期の決算発表で、7nmプロセスの立上りの延期を発表した。TSMC7nmプロセスサービスですでに大きな利益を手にしていたことと対照的だった。第3四半期の決算報告では、IntelCPUの製造を自社工場ではなく、他のファウンドリに依頼することも選択肢にあると述べた。もはやIntelには未来がないとまでも言われた。

  Intelは、7nmプロセスの遅れに対してプロセス開発のマネージャーをガラリと変えた。しかし、Intelの株価低迷は止まらず、CEOBob Swan氏に対する風当たりはますます強くなった。シリコンバレーの論客で、元Cypress Semiconductorの創業者兼CEOだったT. J. Rogers氏は、米国のニュース番組専門チャンネルのCNBC放送の1231日におけるインタビューで、IntelCEOを代えなければIntelは危ないと警告していた(参考資料1)。同氏は、Intelのようなハイテク企業では、Ph.Dなどの資格を持つ、もっとテクノロジーを熟知した人間をCEOにすべきだ、と主張していた。現に差を付けられたAMDCEOPh.D(博士)を持つLisa Sue氏(参考資料2)であり、彼女はIEEE Robert Noyce賞も2020年に受賞している。

  このほど退任するBob Swan氏は、その前のCEOであったBrian Krzanich氏が社内の従業員と関係を持った、ということが社内規定に触れるとして退任した20186月に、CEOとなった元CFO(最高財務責任者)であった。Intelに入社する前もずっと財務畑を歩んできた人間である。テクノロジーには詳しくないため、ワンポイントリリーフだと見られていた。ところが2年余りCEOの地位にいたものの、テクノロジーに疎いため将来の絵を自分で描くことができなかった。

  Intelのプロセスは、TSMCSamsungよりも微細なプロセスを使っていたと言われてきた。例えば、Intel16nmプロセスはTSMC10nmプロセスと同程度といわれており、TSMC7nmIntel10nmプロセスよりも少し小さい程度だった。しかし、一般投資家やアナリストにはそういった技術の詳細は通用しない。容赦なくIntelのプロセスは遅れている、と言われていた。

  だが、TSMCの微細化のスピードは極めて速い。114日に発表したTSMCの第4四半期決算報告会では、第4四半期の売上額の20%7nmプロセスの一つ先の5nmプロセスをすでに占めていた(図2)。第3四半期では10%程度しかなかったのにもかかわらずだ。第2四半期には5nmプロセスは影も形もなかった。Intelがプロセス技術でもたついている間に、TSMCはあっという間にその先を走り、大きく差を広げていたのである。

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2 TSMCの売上額はすでに5nmプロセスが20%も占める 出典:TSMC

 

 Intelでは、テクノロジーに付いていけない経営トップはもはや用済みなのだ。米国のソフトウエアベースの計測器メーカーでありLabVIEWで有名なNational Instruments社でも、2017年からCEOとなった財務出身のAlex Davern氏は、20202月にアプリケーションエンジニアから戦略立案のリーダーを務めていたEric Starloff氏に代わった。Davern氏がCEOに任命される前は、創業者のJames Truchard博士が1976年以来、201612月まで40年間、CEOを務めていた。

  日本ではハイテク企業であってもテクノロジーに疎い人間がトップを務める例が実に多いが、これこそが、日本が遅れている要因の一つかもしれない。半導体やITのようなスピードが求められる産業では、常にテクノロジートレンドに気を配っていなければハイテク世界から置いていかれる。こういったテクノロジートレンドを先読みできない経営トップがいる限り、日本の成長は遅れるであろう。

 

参考資料

1.    米国ニュス専門チャネルCNBC2020/12/30

2.    CES2021AMD CEOの基調講演;コロナで大きく変わったことは何か?(20201/13