コロナ禍で半導体産業が絶好調な理由
2020年12月13日 10:39

12月第1週における世界半導体販売額は前年同週比で10%を超える伸びを見せ、100億ドル(1400億円)を記録した。世界の半導体産業はコロナ禍においても活況を見せている。新型コロナは、感染力が強いため、潜在保菌者とは触れないことが大前提になっているが、人と触れない技術や、感染ルートを見つける技術、モノにも触れずにマシンを動かすHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)、さらにはテレワークによるコンピュータ需要など、全て半導体で解決できるからだ。もちろん、触ることが前提のスマートフォンや、消費者向けの自動車用の半導体チップは今年前半、低迷を続けてきたが、後半になりようやく回復してきたからだ。アップルの新しいiPhone 12などの需要が立ち上がってきている。

こういった需要だけではない。半導体産業は、ほこりやチリを入れないクリーン度が要求されるビジネスである。半導体工場は、手術のような医療現場以上に清浄度が要求され、工場内ではコロナウイルスさえ入る余地はない。新型コロナよりも微細なものを問題にしているからだ。クリーンルーム内は周囲よりも常に気圧が高く設定されており、たとえコロナがクリーンルーム内に無理やり入ろうとしても空気で押し返される構造になっている。

もちろん、クリーンルーム以外のオフィス環境は一般の働く人と同じレベルの環境ではあるが、クリーンルームにはほこりやチリなど汚染物(Contamination:通常、コンタミという)を入れないという習慣が根付いており、半導体工場のオフィス棟では、靴を履き替えることが常識となっている。

 

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1 廊下を赤チーム用、青チーム用に分けた 出典:Micron Technology

 

今回の新型コロナでも広島県東広島にある米マイクロンテクノロジー社の工場では、在宅勤務ができない作業者・技術者を赤チームと青チームに分け、廊下の真ん中に簡易な壁を作り完全に二手に分けた(図1)。異なる作業をする部門同士をそれぞれ赤チーム、青チームとし触れ合わないようにした。同じ作業をする従業員には作業時間、食事時間をシフトさせ互いに触れ合わないようにする、食堂はアクリル板の仕切りを徹底する(2)など、今では常識となっている対策を5月に発表しており、社内ではその前から実行されていた。各チームを管理するためにリモートコントロールセンターを設け、コックピットのように、全ての業務を可視化できるようにしている。マスクの着用や体温管理、手洗い、消毒などは言うまでもない。

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2 社員食堂 出典:Micron Technology


この広島工場は元日本のエルピーダメモリ(日立とNECの合弁会社で出発したが、2~3年で倒産寸前となり、坂本幸雄氏が立て直し、10年間続けたがリーマンショックで銀行が1円も貸さなくなり会社更生法の適用を申請した)であった。今回のコロナ対策は従業員が自ら提案したもので、マイクロンの経営陣はここの従業員を高く評価している。さらに生産しているDRAMメモリを緊急病院に納入したり、顧客と共にクラウド業者への納入を優先してワクチン開発を支援したりするなど、コロナを撲滅するための支援にも従業員たちは知恵を絞っていた、とMicronの経営陣の一人は語っていた。

半導体の作り手だけではなく、半導体を使う応用も広がってきている。これまでの民生用・産業用から社会問題を解決するために使われることが多くなってきた。例えばDX(デジタルトランスフォーメーション)。センサを使って取得したデータをクラウドに上げ解析、可視化することでセンサのある現場にフィードバックし、顧客の生産性を上げたり売上増のアイデアに変換したりする。センサもデータを処理する物理的なモノは半導体である。エッジで処理したデータをクラウドに上げるための通信手段も半導体の塊であり、クラウド上で、データを収集、管理、紐づけ、保存、解析、可視化する直接のツールがソフトウエアであっても実際にソフトウエア通りに動かしてくれるモノは半導体である。可視化してくれるスマホやパソコン、タブレットなどの端末はもちろん半導体がなければ動かない。

実は、ソフトウエアもハードウエア(半導体)も今や一体となっているのである。ソフトだけ、半導体だけ、ということは今やほとんど意味がない。ソフトウエア技術者を大量に採用する半導体メーカーは実は極めて多いのである。

1週間で1兆円ものビジネスを売り上げる半導体を発表したのは、米市場調査会社のVLSI Researchで、同社はプロセッサや専用回路のようなロジック半導体もメモリ半導体も、アナログもパワー半導体も全て上向きになってきたと述べている。

2020/12/13