マイクロプロセッサを定義し直す時期が来た。IntelやAMDが今月Computex Taipeiで発表したプロセッサは、1チップにさまざまな回路が集積されたアプリケーションプロセッサである。タブレットやウルトラブック、ノートパソコンなどの用途に使えるアプリケーションプロセッサだ。CPU以上の機能が集積されているのである。
Intelが発表した第4世代のCoreプロセッサチップには、CPUが4個(すなわちクアッドコア)、キャッシュメモリ、GPU(グラフィックスプロセッサ)が20個、さらにビデオプロセッサ、画像処理プロセッサ、システムコントローラ、PCI Express、DMIなどのI/Oインターフェース回路といった、CPUとキャッシュ以外の回路が多数搭載されている。これまでのMPUなら、CPUコアとキャッシュだけだった。せいぜいキャッシュコントローラがあったかもしれない。グラフィックスコアやビデオ/イメージプロセッサなどは集積していなかった。ここまで集積されたプロセッサの機能は、クアルコムやnVidiaなどが市場に出しているアプリケーションプロセッサと同じである。
図1 Intelの第4世代Coreプロセッサ
AMDのElite Mobility APUと呼ばれるTemashプロセッサ(タブレットやノートPC向け)も同様に、ジャガーと呼ばれるCPUコア4個に加え、GPUコアやビデオエンコーダ、ディスプレイコントローラ、ノースブリッジ(DDR3メモリと直接インターフェースできる回路)、などを集積している。AMDはAPU、すなわちアプリケーションプロセッサと呼んでいる。
図2 AMDの新プロセッサTemash
これまでIntelもAMDもパソコンやサーバー向けのCPUに特化してきたプロセッサメーカーであり、CPUの性能を上げることに集中してきた。デュアルコア、クアッドコア、さらに共有キャッシュを集積したプロセッサチップであった。MPU(マイクロプロセッサユニット)、CPU(セントラルプロセッサユニット)と呼ぶのにふさわしかった。
最近、米国のアリゾナ州スコッツデールを本拠とする市場調査会社のIC InsightsがMPUメーカーのトップランキングを発表したが、彼らはこの時にMPUを定義し直した。これまでMPU市場という場合、マイクロプロセッサやDSP、マイコン(マイクロコントローラ)を含めていた。WSTS(世界半導体市場統計)でも同様にMPUとマイコン、DSPを「MOSマイクロ」分野と定義し、携帯電話やスマートフォン、タブレットに使われているアプリケーションプロセッサは、「MOSロジック」という範疇に含めていた。
IC Insightsは、MPUの中にアプリケーションプロセッサを含め、これをMPUとして世界のMPUメーカーの売り上げ規模を調査した。5月20日に同社が発表したMPU販売ランキングは、以下のようになった。IntelとAMDはx86アーキテクチャのMPUメーカーであるが、それ以外のメーカーは、全てARMアーキテクチャのプロセッサ企業である。IntelとAMD以外のMPUは全てアプリケーションプロセッサと呼ばれている。
1位:Intel 36,892 M(米ドル)
2位:Qualcomm 5,322
3位:Samsung (+Apple) 4,664
4位:AMD 3,605
5位:Freescale 1,070
6位:nVidia 764
7位:TI 565
8位:ST-Ericsson 540
9位:Broadcom 345
10位:MediaTek 325
6月4日から台湾の台北市で開かれたComputex Taipeiにおいて、IntelとAMDが発表したプロセッサの新製品が実は、上記に示した第4世代のCoreプロセッサであり、Temashである。これらは中身を見る限り、もはやアプリケーションプロセッサそのものである。
ならばMPUを定義し直すべきではないだろうか。マイクロプロセッサとは、演算あるいは制御を司るCPUコア、共有キャッシュまで集積されたプロセッサチップであったが、さらにGPUやビデオプロセッサ、イメージプロセッサ、音声処理プロセッサ、高速インターフェース回路、ディスプレイコントローラなども集積したアプリケーションプロセッサもやはりMPUと呼んでよいのではないだろうか。
これまでWSTSでは、「MOSマイクロ」の定義について、これでいいのだろうかという疑問の声は上がったが、カテゴリを定義し直すことはなかった(ある委員の話)。しかし、事実はAMDが新型プロセッサをアプリケーションプロセッサと呼び、Intelは1chip SoCあるいはモバイルプロセッサと呼ぶようになってきた。すなわち、パソコン陣営までがアプリケーションプロセッサ、モバイルプロセッサと呼ぶのであれば、MPUを再定義し直す意味はあろう。
ちなみに、Intelはこれまでタブレットやスマートフォンに使うプロセッサをモバイルプロセッサと呼び、アプリケーションプロセッサとは呼ばない。かたくなにモバイルプロセッサにこだわる。なぜか。10年以上前に、Intelはアプリケーションプロセッサを開発していた部隊をMarvell Semiconductorとしてスピンオフして外部に出してしまった。このことを、ある元Intel社のエンジニアは「バカな決断をした」といまだに憤慨する。Intel自身も未だにトラウマのように残っているのかもしれない。当時のIntelは携帯電話向けのプロセッサをアプリケーションプロセッサと呼んでいたのである。
(2013/06/17)