世界のメガトレンドから半導体の未来を議論した本

(2013年11月17日 22:03)

国内だけにいると、半導体は落ち目の産業のように思えてしまう。新聞は、リストラや工場売却の話しか報道しないし、半導体企業の成功した仕事について全く報道しない。円ベースで今年の売り上げはソニーが4%増、富士通セミコンダクターは3%増(アナログ・マイコンを8月に売却)、ルネサスは2%増になる見込みで、東芝は全社の利益の半分くらいを半導体フラッシュメモリが稼ぎ出しているようだ。もちろん、世界の半導体産業はもっと成長率が高い。

 

また、半導体はこれから先の成長分野の中核エンジンになる。医療・ヘルスケア、スマートグリッドやコミュニティ、スマートハウス、電気自動車やプラグインハイブリッド、全自律運転カー、ロボット、人工衛星、再

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生可能エネルギー、IoTInternet of Things)、ワイヤレスセンサネットワーク、エネルギーハーベスティング、モバイル端末、通信インフラ、IT/クラウド・コンピューティング、NFCカード、ともかくこれから成長するビジネス分野の全てにおいて頭脳となりエンジンとなる。半導体がなければ、これらの成長分野は成り立たない。

 

残念ながら、半導体というだけで日本ではもう本が売れないと聞く。半導体の作り方、製造技術に関する本は山のようにある。だが今、求められるのは、半導体を使う側の視点である。世界がいまどう動いているから、それに必要なシステムがどうなり、その結果、半導体の未来がどうなる、というストーリーの本は1冊もない。

 

この7月に日経BP 未来研究所から、半導体の未来を議論する本を作ってくれないか、という依頼をいただき、着手した。世界の大きなメガトレンドと人間の自然な要望(安心・安全・健康・長寿など)が作り出す未来のシステム、それに求められる半導体製品、それに必要な設計・製造技術、大きく変わるビジネスモデル、などを中心に半導体の未来を議論する本を作ってきた。大学の先生や企業のエンジニアに原稿を依頼し、自分でも執筆した。ようやく初校が終わり、再校段階まで来た。間もなく終わる。発行は、1217日を予定している。


この作業のため8月~11月のほとんどの土日を費やし、今年のクリスマスイルミネーションはいまだに何もテストしていない。今年のはじめに新たな点滅回路を試作し、テクトロニクス社の4万円台という低価格オシロスコープを使ってテストした(参考資料1)のだが、肝心の本番が手つかずの状態になっていて、近所の子供たちに申し訳ないと思っている。

 

校正の間、この本をもう一度読み直しながら、これまでにない本を作り出すことができて、良かったと思った。世界の大きなメガトレンドをしっかりつかむ企業でなければ今は生き残れない。日本の半導体はかつて、世界のメガトレンドを無視した結果、大敗したという苦い経験がある。DRAMで世界のトップからあらよあらよと転げ落ちていった様はまさにメガトレンドを無視した結果であった。コンピュータの世界で、ダウンサイジングという大きなメガトレンドを見ようともしてこなかったのである。

 

DRAM1980年代前半から大型コンピュータ(メインフレーム)に使われるようになった。日本の半導体メーカーは、16Kビットまでの米国支配から64Kビット以降は我が世の春を謳歌した。1986年には世界半導体ランキングの1NEC2位日立製作所、3位東芝という圧倒的な地位を手に入れた。DRAM64K256K1M4Mとひたすら4倍の集積度を上げていけばよかった。マーケティングで顧客の声を聞かなくてもひたすら4倍の製品を開発すればよかった。当時の大型コンピュータから見るとDRAMの容量は小さすぎて、集積度を上げてくれさえすればよかったからだ。

 

ところが、コンピュータサイドは大きなトレンドを起こしていた。大型コンピュータでは、ユーザーがプログラムを書いても、大勢順番待ちを強いられ3~4日間待たされることが常だった。このためコンピュータユーザーは、もっと性能が低くてもいいから安くていつでも使えるコンピュータが欲しい、という要求を強めていた。このためコンピュータは大型から、ミニコンやオフコン、ワークステーションと小型に向かっていた。その究極がパソコンだ。ところが、パソコンに使うメモリとなればとにかくコストを下げることが最優先。このため誤り訂正回路を使った高信頼のDRAMよりも、低コスト重視のDRAMへとトレンドは動いていった。

 

この動きにいち早く飛びついたのが米国のマイクロン社だった。安く作るための設計技術・製造技術、全てをつぎ込んだ。デザインルールを小さくする微細化(リソグラフィ)技術、同じデザインルールでもチップを小さくできるコンパクトなレイアウト法、そして工程を短くするマスク削減、こういった技術を1985年前後から注ぎ込んだ。彼らはとにかく低コストで作ることに専念し、チップを大きくしない技術を最優先した。狙いはパソコンのみ。もしパソコンがソフトエラーを起こしてフリーズしたら再起動をかければすむ。ソフトエラーを防ぐための回路を集積するとチップが大きくなってしまうことを嫌った。

 

ところが日本のDRAMメーカーは相変わらず大型コンピュータ向けに誤り訂正回路、冗長ビット回路などエラーを起こさない回路を集積した高価なDRAMを作り続けた。マイクロンからライセンス供与を受けたサムスン電子が90年代前半にDRAMを出しても国内トップの責任者は「安売り競争に巻き込まれたくないから安いDRAMは作らない。人件費の安い国の企業とは競争しない」と明言した。ところがマイクロンが安いチップを製品化すると、初めて黒船が来襲したような大騒ぎになった。時すでに遅し。時代は大型コンピュータからパソコンへ主役が交代していた。日本メーカーは世界のトレンドを見ずにやってきた結果、大敗したのである。

 

この苦い経験を二度と味わってほしくない。このためには世界の大きなメガトレンドを知り、自社が向かうべき方向をつかみ、世界のトレンドと一緒に成長していけばよい。こういった願いを込めて、今回の本を作成した。タイトルは「メガトレンド 半導体 2014-2023」である。

 

参考資料

1.    個人で高性能オシロが買える時代が到来-テクトロの4万円台オシロを試す(連載5回)

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/001/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/002/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/003/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/004/index.html

http://news.mynavi.jp/series/tbs1000/005/index.html

 

   

国家プロジェクトはなぜ税金の無駄遣いと言われるのか~どうすれば無駄にならないか

(2013年11月 9日 21:57)

多くの国家プロジェクトが毎年生まれてくる。全て国民の血税で賄われている。これまでのやり方は、5年、7年と期間を区切ってプロジェクトを運営してきた。しかし、その間に数十億円、数百億円もかけて装置を購入する。プロジェクト期間が終われば、高価な装置は捨てざるを得ない。もったいない。どこかに売却しようにも、装置の運転コストが年に1億円規模もしたら、誰も買ってくれない。では、名前を変えてまた新規のプロジェクトとして継続しよう。こうやってゾンビのように次から次へとプロジェクトが消え、生まれてくる。でも運営資金は全て税金だ。これまでと同じようにまたプロジェクトを画策している話も最近、チラホラ聞こえてくる。

 

母体を運営する人たちの多くは「天下り」である。逆に、霞が関に新しいプロジェクトを提案すると、一民間企業の提案はまず採用しない。複数社を集め、工業会などの団体を含ませることが条件となる。その団体があるから天下りできるのである。ただ、私は天下りが悪いというつもりはない。天下りであっても、仕事に見合う給料を与えれば職を確保でき、失業することもない。問題なのは、給料に見合わない仕事しかやらない、できないことである。霞が関から天下りで年収2000万円もらっている人が2000万円に相当する仕事をしていれば全く問題ない。ところが、話を聞くと400万円くらいの仕事しかしていない人がたくさんいるらしい。だったら、400万円にすれば、天下りでも問題はないはずだ。

 

国家プロジェクトの最大の問題は、投入した資金に見合う仕事を生み出したか、という視点がないことだ。市場経済の社会では、投入する資金に対して自律的にお金を生む仕組みを生み出すことが団体を継続できる唯一の解である。自律的にお金を生み出さなければ、無制限に私たちの血税を投入することになる。

 

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海外の国家プロジェクトでは、税金を投入し続けなければ目的を達成できないというプロジェクトはほとんどの場合活力を削ぎ失敗している。逆に成功したところは、税金を回収できたところである。政府からの投入金をはるかに上回るほど自律的に稼ぐのである。IMECというベルギーの中のフランダース地方政府が税金を投入している半導体研究開発会社IMECは、毎年回収できており自律して稼いでいる。全体で使うコストに対する政府の出資金の割合は毎年低下しており、プロジェクトが生まれた時は100%だったが、今では20%にも満たない。シンガポールの国家研究機関IMEを取材した時も、国家が投入する予算の割合を毎年減らすから自律的に稼ぐようになっていると聞かされた。米国の半導体研究開発会社SEMATECHでも米国連邦政府の投入資金は、今はゼロ。ただ、ニューヨーク州が雇用創出のために、資金を出すから本部をニューヨーク州へ移せ、ということでテキサスからニューヨーク州へ移転した経緯がある。ニューヨーク州の目的は、このプロジェクトから起業させ、雇用を生み出すことだ。だから州税を投入するのである。これらの例は全て成功例だ。欧州には失敗例も多いが、彼らのほとんどは日本と同じひたすら国家予算から血税を投入している。

 

成功した国家プロジェクトでは、新たなベンチャー企業を何十社も創出し、雇用を数千人規模で新たに生み出している。同時に彼らがプレゼンするとき、何十社を企業させ、何千人の雇用を生んだ、ことをアピールする。投入した資金は新しい企業が自律的に稼いでいるからもはや税金は投入されていない、と述べているのだ。

 

日本の国家プロジェクトでは、資金の回収はおろか、ベンチャー企業を生み出さない。このプロジェクトから起業し、新たな雇用を生み出せば、税金は国民に還元される。ベンチャーキャピタリスト、ファンド、金融に加え、サプライチェーン、ハードウエア・ソフトウエア・サービスのエコシステムを築くのである。高価な装置も新しい企業に貸し出すなり、売却するなり、市場経済の仕組みの中に取り込んでいく。自律的に運転する方向に導くべきだろう。

 

ところが、国プロでは、出口、出口と研究成果を使うべき応用分野をうるさく言う。しかし、企業や大学の研究者に出口を求めることには無理がある。製品のユーザー(エンジニア)に会ったこともないからだ。研究者に出口を求めても、せいぜい鉛筆ナメナメしてどこかの調査レポートを丸写しにしているだけにすぎない。研究学園都市であるはずのつくばでは、大学と研究機関、企業がバラバラだと言われている。エコシステムどころか、話もしないという。一般に研究者や学者は象牙の塔にとどまっていたい、と考える人たちが多い。だから国内の多くの大学が産業界に十分貢献できていない。

 

英国のブリストル大学では、産業界と一緒になったプロジェクトを1~2年間組まなかった教授の給料を下げている。また海外では、教授の年間給料を12カ月ではなく11カ月しか支給しないところも多い。だから教授は産業界と一緒になって社会に役立つ研究を目指し、資金を稼ぐ。

 

エコシステムは企業同士だけではない。大学や国家の研究機関を研究開発のリソースとして使い、一緒になってエコシステムを作り上げる方が良いモノができる。今は世界的競争力が問われている時代だ。コンペティタは国内ではなく、世界中だ。みんなで知恵を寄せ集め、コスト競争力のある仕組みを作らなければ、世界中から置いてきぼりを食う。それには世界の企業や大学も仲間に組み入れるという視点も重要になる。当然、お金をたくさん出してもらう。日本の地盤沈下の役割を国家が担っているようなことに成り下がってはいけない。世界に勝てる社会を創るための仕組み作りを提供することが本来の国プロである。税金を闇雲に投入することではない。

                             (2013/11/09

   

スマホ・タブレット用半導体はクアルコムだけじゃない

(2013年10月19日 22:00)

最近、半導体の新しい用途はないですかね?と聞かれることが多くなった。そのたびに答えていることは「スマホやタブレットに使われる半導体はアプリケーションプロセッサ(APU)だけでではないですよ。スマホの仕組みを理解すればもっといろいろなところに半導体が使われています。この市場は大きいです」だ。

 

スマホは世界中でブームになっており、今回の米国でもアップルのiPhoneは相変わらず人気の的だ。次に見かける機種はサムスンだ。逆に言えばアップルとサムスンに納入できるようなチップを開発すればよいのである。彼らの話に耳を傾ければよい。

 

今回の米国取材でも、欧州、アジアのジャーナリストだけではなく、半導体メーカーやEDAベンダー、組み込みベンダーたちと話をすると、みんなスマホ市場を狙っている。APUと通信モデムで圧倒的なシェアを持つクアルコムだけではない。スマホ内部のテクノロジーや、自分たちの家族がどのスマホを使っているかという話も聞くことができる。日本では、スマホはもうクアルコムの一人勝ちだから、狙ってもしょうがない、という消極的な意見や、世界的なテクノロジートレンドについて行ってはいけないといった意見を述べる学者先生もいる。やはり、井の中の蛙なのだ。

 

世界の大きなテクノロジーの流れと一緒に乗っていけば必ず一緒に成長できる。誰も見ていない分野に向けることは実は危険が極めて大きい。市場があるかないかわからないからだ。誰もやっていないところで一発当てる、という発想は博打である。マーケット指向の市場経済でマーケットを見ずして、どうして経済成長できようか。

 

今回の米国取材は、Globalpress Connection主催のEuroAsia 2013をベースにしている。このイベントで話をしてくれる米国の企業は、モバイルコミュニケーションを軸に、スマホやタブレットはいうまでもなく、IoT(最近ではInternet of Thingsとは言わずにInternet of Everythingということが多くなってきた)、通信インフラ系、クラウド、そしてビッグデータ解析といった分野まできちんと見据えて、それに向けたチップを製品化してくる。もちろん、これらのハードに共通する電源用ICもある。クラウドはソフトウエアを貸し出すASP(アプリケーションサービスプロバイダ)ではない。自動化・自律化したシステムをクラウド上に構築することがハードウエアメーカーには求められているのだ。

 

もちろん、数量の出る分野はスマホそのものだ。ただし、その分、価格は安い。となると、安い価格でも設計・製造できるチップ技術を開発する。一つだけ例を紹介しよう。2001年に設立されたSilego(シレゴと発音)Technology社は、2009年ごろまではインテルのプロセッサ向けのクロックICを作っていた。クロックICとは、文字通り時刻を刻むためのICである。パソコンなどのプロセッサは決まった周波数でさまざまな命令やデータを動かす。その周波数のパルスに同期して働く。従来は水晶発振器から基準の周波数のパルスを発生させ、クロックICがそれを逓倍(テイバイと読む)して、いわゆる1GHzとか2GHzなどと言われているクロック周波数を発生させる。だからこそ、プロセッサを動かすためにはクロックICはプロセッサとセットとして使われてきた。

 

ところが、インテル2007年ごろからクロック回路をプロセッサに集積するようになり、クロックICは不要になった。今年発表されている新型プロセッサはすべてクロック内蔵である。シレゴ社はさて困った。このままでは業績は落ちていくだろう。このためには新製品が必要だ。

 

そこで、シレゴは顧客といろいろな話をしているうちに、スマホのプリント回路基板の面積の無駄を見つけた。抵抗やコンデンサなどの受動部品や、CMOS標準ロジック、単体のトランジスタが結構使われており、数十cm2程度の基板面積を占めていた。スマホは動作時間を延ばすために基板面積を減らしても電池の面積を拡大したい。数十cm2の面積を1~2mm2に減らせばスマホの動作時間を延ばせる。そう考えた。

 

しかも、新しいプロセッサの開発から製品化までは数年ある。この間はクロックICも生産中のプロセッサに使わざるを得ないはずだ。だからこの間に新型ICを開発しなければならない。シレゴ社が開発したICは何とFPGAである。常識ではFPGAは高価だ。もちろん、ザイリンクスやアルテラのような何百万ゲート以上に相当するようなICは高価である。シレゴのFPGAはわずか数10ゲートもあれば十分、という声に応えた。顧客と話をしていると、「レジスタ8個分だけのICが欲しい」とか「ほんのわずかなカスタマイズだから単体の部品を集めて構成している」といった声を聞いた。こういったわずかな回路を数十ゲートのプログラマブルなFPGAで作れば、どのような客にも対応できる。

 

この考えがヒットした。2007年~2010年の間は売り上げがフラットだったが、この新型FPGAを出して以来、急

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速に伸びた。予想通り、クロックICの売上は急速に落ちて行き、2013年はピーク時の1/10にまで落ちそうだ。一方、1円単位で勝負する安い新型FPGAは、2009年以降、CAGR(年平均成長率)が46%と驚異的な勢いで成長してきた。この結果、会社全体としても2013年の売り上げは2009年の2倍になりそうだ。

 

シレゴの成功は顧客の悩みに耳を傾けたことにある。それを簡単に開発するためのソフトウエアツールも作った。これさえあれば、顧客は自分の好きな回路を簡単にしかも自由に設計できる。回路自身は簡単だから、この設計ツールは慣れると20分くらいで設計が終わるという。客の声に沿ってスマホを理解し、シレゴは市場を見つけた。諦めずにスマホの技術を理解し、市場を見つけることこそ、成功の王道である。ちなみにシレゴの社長は、「自分の名前は、Ilbok Lee(イルボック・リー)と言うが、イルボOKと言ってくれ」と冗談を言い、極めて明るい前向きの韓国系アメリカ人だ。

2013/10/19

   

東京エレクトロン・Applied Materialsの合併の真実に迫る

(2013年10月17日 00:26)

半導体製造装置で世界第3位と2位である東京エレクトロンとApplied Materialsの経営統合について、これまでの取材をベースに考察してみたい。もちろん取材できないところもあるので、あくまでも考察とする。

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今回の経営統合を、両社のプレスリリースを見る限り対等合併を強調している。日本のメディアもそのように伝えた。しかし、Reuters(ロイター通信)Wall Street Journal(ウォールストリートジャーナル)などの海外メディアは、Appliedが東京エレクトロンを吸収合併すると伝えている。実のところはどうか。海外メディアの言い分の根拠はあいまいである。

 

両社のここ数年の業績を並べて見てみよう。(続きを見る)


   

シリコンバレーはResilientがよく似合う

(2013年10月14日 03:52)

半年ぶりに米国西海岸に来た。このGlobalpress Connections 主催のEuroAsia 2013イベントは14日の月曜日から始まるが、久々に講演スポンサのスロットが全て埋まった。米国の半導体業界は回復してきたといえる。

 

到着した昨日は土曜日で休日だったため、サンノゼの街を歩きながらテクノロジー博物館「The Tech」へ行った。購入したチケットには、「シリコンバレーの精神」をこの館の特徴とする、と書いてある。

 

米国のこういった公共施設には寄付が多い。この建物のプレミアムパートナー(スポンサー)として、サンノゼ市(言うまでもないことだが)、アプライドマテリアルズ、アクセンチュア、シスコシステム、マイクロソフト、フレクストロニクス、インテル、ノキアの名前が入っている。さらに寄付した個人が手形を付けた6インチウェーハが、所狭しとガラスケースに並べている。ここには、ムーアの法則で有名なゴードン・ムーア氏、長い間アプライドマテリアルズの社長だったジェームズ・モーガン氏など業界著名人の名前がずらりと並んでいる。さらにはヒューレット・パッカード社を始めた、ウィリアム・ヒューレットとデビッド・パッカード両氏の名前も見える(写真1)

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米国では施設に寄付が多いのは、税金が控除されるからであり、寄付された側も名前を展示することで敬意を表している。日本ではお金は全て財務省が管理するため、控除にならない。だが、市民側に立てば、寄付するお金は何に使われるのかがはっきりしている。少なくともこの博物館の運営に使われていることだけは確かである。以前紹介したモントレーの水族館でも寄付したハイテク業界の著名人の名前が書かれていた。税金だと、一体何に使われているのかわからない。私たち市民にとって、何に使われるのかわからない税金よりも、使い道のはっきりした寄付の方が納得できる。日本でも寄付が税金から控除されるようになれば、もっと寄付したい気持ちが高まり、寄付金はもっと増えるだろう。米国では寄付は税金控除の対象になる。公務員の方々みんなが滅私奉公の精神を持っているのなら、税金も納得できるのであるが。

 

テクノロジー博物館では、ゲーム感覚でテクノロジーを体験できる見せ方が多い。面白かったのは「ジェットコースターの設計」というシミュレーションだった。ジェットコースターの線路コースを五つくらいに分け、それぞれの形を選ばせる。最初は適度な角度で、のぼりはある程度急な角度にして、下りは緩やかでカーブもつけて、最後は360度回転させる。ここの設計がまずいとゲームは終わってしまう。設計がうまく行くと、今度はそれを、隣にある大スクリーンに移動しその成果を見る。コースターと同じ椅子に腰かけながら大画面のスクリーンを見て、さきほどのシミュレータで設計したコースターを再現する。グラフィックスシミュレータによって、今度はジェットコースターに乗っている感覚が味わえる。

 

ここで感じたことは、National Instruments社の設計ツールLabVIEWや、MathWorks社のMATLAB/Simulinkのように、ドラグ&ペーストで部品を組み合わせて全体を設計できるツールが使えることだ。子供たちに提供されるこういった便利なツールが、自分でテクノロジーを体験できる仕組みになっていることに驚いた。展示するだけや、一方的に教えるだけでは、子供たちは納得しない。ゲーム感覚でものを設計できるという体験はとても大事で、子供は自分で設計したものが成功する、という貴重な体験が得られる。日本はテクノロジーよりも科学の見世物が多いような気がする。米国の方がより実用的で、かつ楽しく体験できるような構成にしている。ここにiPhoneを生み出す原点があるような気がした。

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半導体の説明もしゃれている(写真2)。砂からシリコンへ、というビデオが流れていた。SiO2を主成分とする砂を還元すれはシリコンができるわけだが、そのシリコンから複雑なシステム回路を作り出す様子を示している。原料は、原理的には無尽蔵である。将来に渡ってもシリコン半導体でシステムを構成する、という立脚点に立てば、半導体も日本も将来は明るくなる。

 

最近、よく使われるビジネス英語で、「resilient」という形容詞がある。弾性的とか跳ね返りが強いとか、というような訳が辞書には載っていると思うが、ビジネスや経済の回復力が速いといった場面で使われる。ここしばらく、米国でも半導体は緩やかに回復していたが、今回のGlobalpressのプログラム状況を見ていて感じたが、米国のシリコンバレーにはResilientという言葉がよく似合う。

 

2013/10/14

   

今年のCEATECは静かだった

(2013年10月13日 12:54)

「今年のCEATECは静かだね」、とあるイギリス人から言われた。彼は数年間、日本に滞在した経験があり、かつてのCEATECを見てきた人間だ。今は英国に戻り、今回は久々に来日した。実際、初日のショーに来る人はかつてと比べると非常に少ない(写真)。民生の展示会そのものの傾向だろうか。であればInternational CESも同じように寂しいはずだ。ところが、CESはいまや大勢が来るようになっている。CEATECとは全く様相が違うのである。なぜだろうか。

 

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CESはかつて、Consumer Electronics Showとして新聞でも「家電見本市」と訳されている。しかし、昨年参加した時、報道関係向けの資料には、ショーの正式名称はInternational CESであり、CESConsumer Electronics Showと分解してはいけない、と書かれている。つまり家電見本市と訳してはいけないのだ。CESCESとして扱え、という訳だ。CESCConsumerだけではなく、ComputingCommunicationsなどの意味も含んでいるからだ。

 

International CESCEATECとは何が違うのか。CEATECに限らず、日本の展示会は開発品や新製品を見せるためのショーであることが多い。これに対して、海外の展示会は、展示するものではなく、商談するためのトレードショーである。完全なB2Bのイベントなのだ。だから、参加者数はあまり問題にしない。むしろ、Cクラスの人たちが、参加者の5060%を占める展示会だ、というアピールをする。Cクラスの人とは、CEOCTOCIOCFOなど経営者という範疇に入るエグゼクティブパーソンのこと。予算権限を握る人たちが多く参加するイベントであれば、もはやB2Bである。消費者が来る展示会はビジネスにはならない。だからCEATECに出展してもビジネスにつながらない、ということになる。実際、CEATECへの出展を取りやめた、ある企業は、ビジネスにつながらないことを嘆いていた。

 

日本は東京一極集中である。全てが東京に集まっているからこそ、東京に情報も集中する。あるアメリカ人がテキサスにいるときよりも東京に来る方がアメリカの情報がよく入る、と言っていた。ところが、アメリカでも欧州でも東京ほど、情報が集中する都市はほとんどない。このことはビジネスをするうえで、東京は極めて便利だが、欧米では20社の人と商談するため出張の予定を組むとなると一月くらいかかる。トレードショーでは、3日間で20社に会うことは簡単にできる。だから、出展社の担当者のスケジュール表を見せてもらうと、朝から夕方までびっしり詰まっている。B2Bのトレードショーに出展品に力を入れず、商談ルームに力を入れる。出展する大手企業は、商談室を20室も30室も作り、接待用の飲み物とおつまみを用意する。仮に担当者一人が15社のアポを持ち、常に20室が埋まっているとすると、わずか3日間で300社と商談していることになる。

 

CEATECでは4Kテレビやスマートフォンなどの展示が多く、そこに集まる人たちはコンシューマとして新製品を見ている。B2Bにはなっていない。商談には結び付きにくい。JEITAという工業会に入っているメンバーとして「お付き合い」で参加している企業が多いため、積極的な商談にするつもりのブースの作り方になっていない。

 

かつては電子部品や半導体の出展企業が極めて多かったが、なかでも国内の半導体企業は昨年同様、今年もロームだけだった。かつて出展していた日本企業が出展しない理由は業績が悪く「お付き合いする余裕がない」、という背景がある。ところが、海外企業もかつて常連だったTexas InstrumentsSTMicroelectronics、などはもはやいない。CEATECに来る来場者に魅力がないから海外企業も来ないのであろう。つまり来場者が出展者の顧客になるという関係ができていないのである。

 

この意味で、毎年2月にスペインのバルセロナで開かれるMWCMobile World Congress)は入場料が6~7万円、セミナーの聴講もセットだと15万円程度にもなる。それでも世界中から数万人が集まる。かつては第2世代の携帯電話規格であったGSM方式の通信オペレータの集まりであったが、今や通信機器(インフラ機器からモバイル端末、アクセサリ、半導体、部品まで)に関するトレードショーになった。ここではCクラスエグゼクティブが何万人来場した、と表現している。半導体ベンチャーや中小の企業を取材するときは商談ルームで行うことが多い。エリクソンのような大手インフラ機器メーカーの取材は、巨大な商談ルームで、新規開発機器のデモと説明について行う。スマホの展示はメインではない。

 

ここではモバイルブロードバンドを中心とするエコシステムが出来上がっており、部品から通信機器、通信オペレータに至るまで、それもハードウエアからソフトウエアまで、民生のスマホからインフラ系のソフトまで、完全なエコシステムが出来上がっている。これはビジネスとしては最高の環境になっている。

2013/10/13

   

「買収されてうれしい」企業もある

(2013年9月28日 20:14)

買収で勝った、負けた、はどうでもよい。東京エレクトロンとアプライドマテリアルズの統合のニュースに対しては、アプライド側が勝ち、東京エレクが負けた、というようなトーンの記事やブログが多い。大事なことは、1万人以上の社員の雇用を守り、事業を継続することである。世の中の役に立つ技術を開発してきた東京エレクが数年後に、パナソニックやシャープ、ルネサスのようになってもよいのか?

 

高く売れるうちに売り雇用を守ることこそ、優れた経営者がとるべき道であろう。エルピーダメモリが自力で立ち行かなくなり、企業再建を東京地裁に委ね、その結果米国のマイクロンテクノロジが資金を出すことになったことも同様である。再建を請け負った元社長の坂本氏は社員の首を切らないように頑張り、雇用を守った。坂本氏に対して、快く思っていない債権者も多い。しかし、地裁に委ねたということは、エルピーダの自力再生をギブアップしただけの話であり、債権放棄を含め、再生の道筋をつけたことは評価してよいだろう。

 

今回の東京エレクとアプライドの経営統合の話は現在取材中なので、詳しく今は書かない。近いうちに真相の裏付け記事を書くが、とりあえずは重要なことを忘れてはいけないことを指摘しておきたい。

 

2008年に英国の取材旅行において印象深い話を聞いた。ヘルスケアチップの先駆的ベンチャー企業であるトゥマウズ(Toumaz)社は、血圧や体温、心拍数を24時間1週間連続して測定し、そのデータを、スマホや携帯電話を通じてドクターに届ける、というビジネスを描いていた。この会社は、世界でも大学トップテンに入るほどの優秀なロンドンインペリアルカレッジのChris Toumazou教授とAlison Burdett講師(写真)


Alison Burdett (2560x1920).jpgが立ち上げたもの(参考資料1)。起業資金の一部は家族に出してもらった。ベンチャーキャピタルが日本と同様、あまり機能していなかったためだ。目標とするビジネスに向けて、当座の資金を得るためにデザインハウスを"アルバイト的に"やっていた。特にカナダの企業からデジタル補聴器の設計を受注してからは右肩上がりに成長していた。そろそろ、本業の目標設計に着手しようかと思っていた矢先、カナダの企業は補聴器設計を中止、注文がパタッと止まった。

 

そこで、トゥマウズ社は資金を集めるため、新聞広告を出し、自分の企業を買ってくださいと訴えた。幸い、大手が買収してくれたため、開発を本格的に始めることができた。2008年に半導体のオリンピックともいわれるISSCC(国際半導体回路学会)でヘルスケアチップについて講演し、翌年のISSCCで賞を受けた。講演したCTOAlisonさんは、今やBANbody area network)の世界的権威となっている。

 

要は、この小さなベンチャーは、高齢化問題、病院のベッド不足、病院たらいまわし、医療費削減、など現在、病院が抱えている問題を一気に解決できるヘルスケアチップの設計・生産まで持っていきたかったのである。その資金源のためなら、身売りも厭わない。米国のFDA(日本の厚生労働省に相当)の認可を2年前に取得、米カリフォルニア州サンタモニカにあるセントジョンズ病院で1年間臨床実験した結果、病気の早期発見・早期治療につながり有益な結果を得ている。経済的にも、入院患者の平均入院日数が6日間削減され、その結果コストは9000ドル(90万円)も削減できたと今年の6月に発表している。

 

2年前に米国のインターシル社を訪問した時、同社は画像処理技術を持つテックウェルを買収したのだが、テックウェル社から入社したエンジニアは自分の開発した技術をインターシルが買収して認めてくれた、と喜んでいた。ちなみにテックウェル社はシリコンバレーで日本人の小里文宏氏が起業したベンチャーであった。クルマのバックミラーに液晶パネルを組み込み、バックモニターとするデモを示した。

 

海外では日本と違い、大きな企業に買収されることは自分の技術を認めてくれたことだとして喜ぶケースもある。買収されることが必ずしも悪いことではない。むしろ自分の開発した技術が資金不足で世の中に出なかったり、閉鎖してしまったりするよりは、世の中に出し、世の中を変えるための半導体チップを開発して自己実現できるのであれば、買収されることはむしろ歓迎される。勝ち負けではない。

 

参考資料

欧州ファブレス半導体産業の真実、津田建二著、日刊工業新聞社発行


   

iPhone5Sに見る64ビットプロセッサの時代

(2013年9月11日 23:12)

日本時間本日の午前2時に発表されたiPhone5Sでは、64ビットのアプリケーションプロセッサが使われていることが明らかになった。スマートフォンに初めての64ビットプロセッサが使われたのである。iPhone5Sの技術を解き明かす。

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スマホに64ビットプロセッサとは! まずこのことに驚いた。パソコンに64ビットのインテルのプロセッサが搭載されて以来、まだそれほどの年数月は経っていない。今回アップルが搭載したのは、A7と呼ばれるアプリケーションプロセッサであるが、今回はアプリケーションプロセッサに加えて、もう一つセンサ信号処理用のプロセッサM7A7と共に使うコプロセッサとして搭載している。

 

M7は人の動きを鋭くキャッチする。歩いているのか、走っているのか、車を運転しているのか、全てわかる。ナビゲーションソフトとも連動し、クルマを駐車場に止め、歩き出したことを感知し、地図モードを車モードから歩きモードに切り替える。バッテリを長持ちさせるために、クルマに乗っていることをキャッチするとWi-Fi探索をやめる。また、しばらくの間iPhone5Sが動いていなければ、スリープモードに入ってネットワーク探索をやめ、電力を節約する。

 

M7は、加速度センサ(X,Y,Z軸に沿った直線的な動き)とジャイロセンサ(3軸について回転するような動き)、電子コンパス(北を示すN極を検知する磁気センサ)からの信号を検出・演算処理するもので、それらの組み合わせから、iPhoneユーザーがどのように動いているのかを知ることができる。その演算処理をM7A7と協調しながら実行するためにコプロセッサと呼ばれている。この演算処理するアルゴリズムにiPhoneならではの差別化技術をアップルは開発したのである。

 

iPhoneのようなモバイル端末に64ビットのプロセッサが使われたということは、DRAM容量をもっともっと増やせることを意味する。これまでの32ビットシステムだと232乗=4Gバイトしかアドレッシングできなかった。これ以上のメモリを積む意味がなかったが、64ビットとなると、264乗だから、ほぼ無限大(エクサバイト級)のDRAM容量を理論的には積むことが可能になる。現実にはコストとの兼ね合いになるが、動きセンサと処理コプロセッサを利用するiPhone5Sのユーザーエクスペリエンスは、これまでにないような楽しさを提供するだろう。

 

また、今回はゲームにおいて、本物感を出すためのグラフィックスプロセッサもA7には集積されている。アップルのホームページでその情報を見る限りかなり美しいグラフィックスなので、おそらくImagination TechnologiesのマルチコアのグラフィックスIPコアのPowerVRシリーズを集積しているに違いない。光の陰影処理が可能でまるで映画を見ているようなグラフィックスが同社のホームページに載っている。Imaginationはオートデスクの光効果のソフトウエアを開発した部門を数年前に買収し、当時はまだ消費電力の大きかったこの光処理をスマホレベルでも演算できるような演算アルゴリズムを開発したのであろう。

 

初期画面を出すための押しボタンにはサファイヤ結晶が使われている。サファイヤの薄くて丸いボタン板は、指紋をしっかりつかみ、その下に置かれたイメージセンサで指紋を読み取る。他人がiPhone5Sを拾って、このボタンを押してもiPhone5Sは動作しない。セキュリテイはバッチリだ。

(2013/09/11)

 

   

モノづくりの基本を経営者は理解せよ

(2013年8月18日 15:44)

モノづくりは、設計から始まる。モノづくり学会ともいうべき機械学会のある方がかつておっしゃっていた言葉だ。設計と製造の分離という言葉もあるが、モノづくりの基本は設計から始まり、製造につなげることだ。安易にファブレスやファブライトという言葉で、モノづくりの基本から遠ざかることは、日本の立場を悪くする。日本は何と言ってもモノづくりが得意な国だからだ。

 

モノづくりには、設計・製造ともにソフトウエアを導入することで作業効率を上げてきた。ソフトウエアはサービスに近い、という意見もあるが、ソフトウエアもモノづくりの一工程である。設計=ソフトウエアで、製造=ハードウエア、では決してない。ロボットやクルマなど機能を実現するためにハードウエアだけでやるのはあまりにも効率が悪いとなるとソフトウエアも導入してフレキシブルに新機種・新技術・新規格に対応しようとする。

 

だからこそ、モノづくりの基本をきっちりと理解していることが、国の方針を決める手助けになる。ところが、専門家と称する人たちがくせモノである。自分がこれまでやってきた狭い分野のことだけで全体を判断しがちになるからだ。例えば、スーパーコンピュータに1000億円もかけてコスト競争力のない製品を作るのに税金を投入することが本当に正しいだろうか。東京工業大学は最新のスーパーコンTSUBAME2.0を開発するのにわずか11億円以下で済ませた。性能は1100億円も使った「京」並みである。あるソフトを走らせると京以上、別のソフトなら京以下、という結果だという。にもかかわらず、「世界と比べて常識外れな1000億円という高額のスーパーコン補助金」という510日の記事において、専門家と称する人たちから、「素人が何を言うか」というようなコメントをいただいた。

 

逆に素人だからこそ、全体を見渡し、その正当性を評価できるのではないだろうか、という意見も私のもとに届いた。要は、どうすれば世界を相手に競争力のある製品を作り出すことができるだろうか、という課題に答えを出すことだ。そのためにはシステム全体と世界の競合メーカーの動向・仕組みを分析・評価し、地球規模の視点で判断することが国家の競争力をつけるために必要になってきたのである。そのような目で見ると、やはり1000億円という補助金は一つのプロジェクトに出す金額としては異常である。だからこそ、極めて小さなスーパーコン市場に1000億円も税金投入しても見返りが十分に取れるようなビジネス感覚でこのプロジェクトを再設計する必要があるのだ。

 

スーパーコンのようにあまりに小さい市場を相手にすることを考えるのではなく、もっと大きな市場、これからも大きく見込める市場に導入すべき製品、例えばスマートフォンやタブレット、などのワイヤレス製品を考えてみよう。小さな体積の中に、さまざまな機能を詰め込むわけで、しかも性能をもっと上げたいという要求に応える技術を開発する。ブラウザをもっとサクサク動かしたい、YouTubeをもっと高精細のきれいな大画面で見たい、コンテンツを持ち運びたい、いつでもどこでも楽しみたい、といった要求を満たす技術のカギを握るのはやはり、半導体チップだ。

 

米国カリフォルニア州サンディエゴに本社を構えるクアルコム社はスマホのアプリケーションプロセッサ(APU)のトップメーカーだ。CDMAの基本技術を持ち、さらにLTE、今後のLTE-Aにも集中開発投資し、他社を圧倒している。このAPUこそ、スマホの頭脳あるいは心臓となる半導体チップだ。このチップの中にCPUやグラフィックス回路、コーデック(圧縮・伸長)回路、ビデオ画像補正回路、音質改善回路、モデム(デジタル変復調)回路、RF(高周波)回路など実にさまざまな回路を集積している。極めて複雑な半導体回路だ。

 

このようなチップでは、設計から製造までの一連の工程があまりにも複雑すぎる。設計だけでも2~3年は優にかかる。だからクアルコムはファブレスという設計だけに集中する。製造は台湾のTSMCや米国のグローバルファウンドリーズという製造専門メーカーに依頼する。この設計図にはハードウエアだけではなく、ソフトウエアも乗っている。スマホではいろいろなアプリを搭載できるようにするため、半導体チップの設計図にアプリをダウンロードし動かすための仕組みを書いておく。

 

現在のスマホは10年前のパソコン以上の機能やメモリを持っている。それも例えばストリーミングビデオを無線で見られるように、小さなメモリ領域にビデオを入れるための圧縮アルゴリズムを導入し、メモリからのデータストリーミングを制御する。かつてのパソコンに入っていない機能まで入っている。

 

このような複雑なチップでは、設計も製造もするのではなく、別々に作業する方が、効率が上がる。これが設計と製造の分離である。半導体の設計工程では、システム仕様に基づいて機能をプログラミングし、バグを取り検証し終えたら(RTL完了という)、今度はハードウエアの回路設計に向かう。しかし全体のシステムでは、アプリケーションソフトウエアを載せられるようにミドルウエアや一部のソフトウエアも早くから開発したい。できればハードの設計が終わるのを待たないでソフト開発に着手したい。このためには、RTL完了後にハードウエアのモデルを作り、シミュレーションできるようにしておくと、ハードウエアをシミュレーションしながら、ソフト開発ができる。

 

要は、半導体回路の設計は極めて複雑になっているのだ。一方で、製造も複雑だ。回路の線幅が最先端の製品では、例えばインテルの第4世代のCore i7の場合22nmと狭い。この線幅を、波長193nmArFレーザーをフォトレジストに当てて描くのだが、波長より短い線幅をどうやって形成するのだろうか。狭すぎるスリットには光は入っていかないことは常識だ。縦波と横波という光の性質を利用すると、回路図の配線を全て一方向に揃え、クロスする配線は別に光を照射してクロス配線だけを形成する。光源の光の形を最適化しなければ回路パターンは描けない。この後、酸化膜(SiO2)などをエッチングしてほしい回路パターンを作るわけだが、要は製造もパターン加工の工程だけでも昔(10年前)よりも複雑になっている。

 

設計も製造も複雑になっているのにもかかわらず、製品寿命が短いため、早く製品を市場に出さなければ勝てない。日本の半導体が世界で負けているのは、早く製品を出すことができないからだ。根回しの日本では経営陣の意思決定の遅さもあろう、経営陣の技術に対する理解のなさもあろう、世界の勝ち組の仕組みを知ろうともしない経営陣の態度もあろう、世界のIT・エレクトロニクス産業のトレンドに目をつぶる傾向もあろう、情報というものの価値を理解できないこともあろう、要は、企業の仕組みすべてが今問われているのである。安易なファブライト戦略で世界に勝てるわけがない。もっと経営陣の賢い判断が求められている。

2013/08/17

   

半導体からナノエレクトロニクスへ、世界の潮流

(2013年8月 3日 18:40)

近頃、欧州や米国のレポートを読んでいると、半導体という言葉があまり出てこない。ナノエレクトロニクスという言葉が半導体に置き換わっている。100億ユーロをEUや欧州各国政府が出資して、ナノエレクトロニクスのプロジェクトを作ろう、という動きがある。ここでも半導体ではなく、マイクロ/ナノエレクトロニクスという言葉が使われている。

 

半導体という言葉は、実はここ1~2年、米国でもあまり聞かなくなっていた。単にマイクロチップとかチップなどと言われていた。世代の違いかもしれない。年配の方はsemiconductor industryといった表現を多く使うが、少なくとも50歳以下の方たちではchip industryとかchip businessといった表現が多いような気がする。

 

日本語でも半導体は落ち目の産業というトーンで新聞記者は報道するし、半導体という言葉の響きは古臭いイメージがあるかもしれない。日本の半導体企業は不調だが、世界の半導体企業は成長曲線に乗っている。日本だけが不調という産業である。もともと年率20%という異常ともいえるくらいの猛スピードで半導体産業は1960年代から1994~5年まで高成長を遂げてきた。それ以降は6~7%という成長率に落ちた。それでもほかの産業から見れば成長産業ではないか。半導体という言葉をナノエレクトロニクスに変えて、世界の半導体産業と同じように成長することは面白いかもしれない。

 

米国では、オバマ大統領がニューヨーク州の北にあるアルバニー市の半導体研究コンソーシアムSEMATECHを訪れた。半導体産業が雇用を生み出す産業と位置付けているためだ。シリコンバレーよりも今は半導体産業が盛んなテキサス州オースチンの半導体工場にも足を運んだ。やはり米国における雇用に期待しているためだ。残念ながら、アベノミクスの第3の矢である成長戦略に対して、安倍首相が世界最高の半導体工場の一つである東芝の四日市工場や、CMOSイメージセンサで世界のトップを行くソニーの長崎工場を訪れたという話は聞いたことがない。第3の矢は依然として、もたついている。

 

もともと半導体(semiconductor)は、半分導体(semi-conductor)・半分絶縁体(semi-insulator)という性質を持つ材料を半導体と称したことから生まれた。エネルギーバンドギャップ(どれだけのエネルギーを加えると導電体になりやすいかを表す指標)は、導体と絶縁体の中間であり、導電率(電気の流れやすさを表す指標)もそれらの中間である。本質的に半分導体であるから、電気を制御できるように第3の端子を設けると、導体と絶縁体の間を調整できるのではないか、という考えからトランジスタが生まれた。

 

具体的には、マイナスの電荷を持つ電子がいっぱい存在するn型半導体と、電子が抜けてプラスの電荷を持つ正孔がたくさん存在するp型半導体をくっつければダイオードができる。p型側にプラスの電池をつなぎ、もう一方をマイナスの電池の極につなぐと電流が流れる。その逆は流れない。電流をオンオフするのに、電池の極性をいちいちひっくり返さなければならないのならまったく使いにくい。

 

もし、第3の電極に加え、電圧を変えるだけで電気をオンオフできるのなら、制御性は抜群に改善される。トランジスタは第3の電極を設けたものだ。そのトランジスタを多数、今や10億個の単位でシリコンチップ上に集積した半導体ICが今、パソコンやスマホ、タブレットなどの心臓部を動かしている。デジカメや音楽プレイヤー、カーナビ、クルマの衝突防止システム、電車の制御、ロボットなどありとあらゆるところの心臓部あるいは頭脳に使われている。その数と応用範囲はますます広がってくる。

 

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ICのもっとも小さな寸法はもはやナノメートル(1nm1mmの百万分の一)レベルに達している。最先端のIC製品は22nmのインテルの最新プロセッサチップである。ちなみに髪の毛の太さは70~80μmだから、半導体回路の線幅は、その1/300と極めて細い。肉眼では見えない。この半導体チップ、すなわちナノエレクトロニクス製品はスマホやタブレットをサクサク動かしてくれ、クルマのバックモニターやサラウンドビューモニター、監視カメラ、ソーラーパネル、風力発電、デジタルサイネージなどありとあらゆるところに使われ、さらに発展を遂げようとしている。IT機器やセンサネットワーク、クラウドサーバー、USBメモリー、エアコン、プリンター、プロジェクターなどハードウエアの中核に位置する。

 

ただし、ナノエレクトロニクス産業は、技術ノウハウと、情熱、そしてビジョンを持つものが勝利する。ビジョンを持たないために投資せず、技術を手放す企業が日本では出てきた。安易にお金儲けできる産業ではない。地道な努力と先を見通すビジョンがあり、投資があってはじめて結果の出る産業である。だから、解放改革で安易にお金儲けに走ってきた中国では2000年前後から力を入れ始めたものの、いまだに半導体産業が育っていない。製品原価に対する人件費比率はわずか5~8%しかないため、まさに日本に適した産業だと言える。

2013/08/03