半導体メディアがなぜ潰れたか

(2015年4月16日 06:29)

電子ジャーナル誌が331日を持って休刊・発行元は解散した。日経BP社が発行していた電子媒体の「日経BP半導体リサーチ」も6月末を持って休刊する。なぜこうも半導体関係の雑誌やメディアが休刊するのだろうか?その答えを分析する。

 

半導体産業は極めて流れが速く、その流れについていけなかった企業が続々脱落している。ここ1年の講演でよく述べていることだが、半導体産業には大きな動向(メガトレンド)が二つある。一つは半導体チップがこれまで想定されていた分野よりももっと広い分野へと使われるようになってきたこと。もう一つは集積回路(IC)の集積度が上がり、極めて複雑になったため、一つの企業が全てをカバーするのではなく、自分の得意な分野にだけ集中するようになったこと。水平分業はその結果である。

 

半導体の使われる分野が極めて広くなったということは、実の多くの顧客をカバーする必要があり、もはや1社で全分野をカバーすることが難しくなった。次の半導体チップがどこの誰がどのようなシステムに使おうとしているのか、これを半導体企業側がつかみ、半導体を使うユーザ企業(OEM)に提案していく。これが現在の世界の半導体企業の勝ち組パターンとなっているが、限られた分野にフォーカスせずにこれはできない。逆にこれができない企業、あるいは何でもできると称している企業は脱落する。

続く

                                                         (2015/04/16)

   

急ぎ足の英国出張記

(2015年4月 1日 04:25)

29日の日曜の朝、成田を経って急きょ、英国にやってきた。ケンブリッジとサザンプトンの企業計3社を取材するためだ。出張が決まったのは出発の4日前。フライト、ホテルの手配は全て自分でやるしかなかったため、時間をとられた。ここまで直前になると旅行代理店のウェブサイトからはホテルがとれない。やむなく、インターネット専用の旅行サイトで予約した。あまりリーズナブルな価格ではない。

 

ただ、旅行を楽しむという観点からはフライト到着が遅れたのも悪くない。ヒースロー空港に到着したのが、1615分の予定が1時間ほど遅れ、実際に出口を出たのは18時だった。当初は、ヒースローからエクスプレスに載って、ロンドン市内のパディントン駅まで行き、そこで地下鉄に乗り換え、地下鉄で1か所乗換えて、キングスクロス駅に行き、ケンブリッジに向かう予定だった。しかし、荷物は嵩張るので、もしかしてケンブリッジまでの直行バスがないかどうか空港で聞いてみた。すると、あるという返事。では、ヒースロー空港からケンブリッジのシティセンターまでのバスのチケット(30ポンドだから悪くはない)を買い1830分のバスに乗った。ただ、ヒースロー空港は広いから他のターミナルを三つくらい周り、空港を抜けるのに50分もかかった。

 

1時間後、途中のスタンステッド空港に立ち寄り、さらにもう1カ所停まり、ケンブリッジについたのが夜の9時半になっていた。近くにタクシーがいたから、ドライバーに、ホテルまで行って、と言ったら、どこかの国のタクシーと同じで、公園を横切ればすぐだから、歩いたほうがいいよ、体よく断られた。公園を横切り、向こうの通りに行くと4人組の中年男女がいたので道を聞くと、その通りをまっすぐ行けばよい、と言われ歩いた。本当かなと思いながらさらに歩くと、人が来たのでまた聞くと、もう少しまっすぐ進めばあるという。同じことを言っているので、間違いなさそうだと確信できた。すると18世紀の大学らしき建物が見えたので、この近くだなと思いさらに進むと、ホテルの名前が塀に書いてあるが、入り口がない。その先は暗くて何も見えなくなるので、道を引き返すと、大学らしき門が見えたので、入ってみた。ここはホテルですかと尋ねたら、そうだという返事。やっと泊まれると思った時は945分だった。チェックインを済ませると「あなたは、入学試験をパスしました」と言われたので、「今日から私も大学生だな」と切り返し大笑いした。

 

さて、この安宿(場所の割に価格は高い)は面白い。ケンブリッジで泊まったホテルは、様相が大学のキャンパスだ(図)。周囲が石の壁に囲まれ、入り口には守衛がおり、そこがフロントに相当するのだから。部屋に行くためには、広いキャンパスの中庭を二つも通り抜けなければならない。しかも宿は狭く、まるで学生寮のようだった。バスタブがなく、シャワーのみ。部屋にも何もない。石鹸とシャンプー、紅茶があるのみ。ただ、さすがイギリスだと思ったのは、クッキーが置いてあった。食欲があまりなかったので、クッキーを夕食にして、取材の準備を始めた。

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図 宿泊したホテルキャンパス内の建物

このような形で出発した今回の取材だが、最後の31日は、ロンドンからサザンプトンまで日帰り出張のような感じの取材であった。私自身は一匹狼のフリーランス技術ジャーナリストであるから、仲間であろうと、一人であろうと依頼されれば受ける。それもテクノロジーであればなおのこと。もちろん展示会や学会などの取材とは違い、資料が常に準備されている訳ではなく、ヒアリングが基本となる。それだけに準備は入念に行わなければならず、結構時間をとられることが多い。それでも、通常のイベント取材では得られない情報が多く、いくつになってもやめられない。

 

ケンブリッジは大学の街である。産業的にもR&Dの強い街だ。たぶん最高の製品は、ケンブリッジで研究し、シリコンバレーで開発、日本かドイツで生産を始め、中国か台湾で量産する、というサイクルが最も成功するパターンかもしれない。

 

英国の面白いところは、ケンブリッジによく似たシステムで起業させ、ビジネスにつなげようとする動きは多い。サザンプトン大学も同じで、ブリストル、バースなどの地域も含め、SETsquareと呼ばれる地域は、大学と中小企業やスタートアップのベンチャー企業も多く、大学発ベンチャーを生みやすい環境にある(参考資料1)。31日に訪問したところも、サザンプトン大学からスピンオフして、起業したスタートアップであった。社員のほとんどがドクターだという、訪問した会社は、ビジネスマインドのある大学の教員と博士課程を終えたエンジニアが単純作業の部分はできるだけ自動化するなど、楽しく開発することに重点を置いていた。ポスドク問題の解決に一役買っている。

 

やはり、これからの時代は、人間としての楽しさ、すなわちユーザーエクスペリエンスを追求する時代に入ったことを改めて実感した。もはや性能追求の時代ではない。

                                              (2015/03/31)

参考資料

1.    津田著「欧州ファブレス半導体産業の真実~日本復活のヒントを探る」、日刊工業新聞社刊、2011

   

大雪で見えないLED信号機は改善できる

(2015年3月13日 22:04)

この冬の大雪は、LED信号機にも雪を積もらせてしまい、従来の白熱灯の信号機よりも優れたメリットが仇になった、というような記事を見た。雪が赤、青、黄の信号灯をふさいでしまい、色が認識できなくなったのだ。従来の信号機は白熱灯だったから、無駄に発熱し雪を溶かしてくれた。このため、雪がランプに付着しても熱で溶け、赤、青、黄の色が見えなくなることはなかった。

 

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この記事を読んだとき、まるでLED信号機が悪いように読めた。また、好き勝手に書き込むツイッターでは、雪国にLED信号機を設置したのはバカだ、という口調も少なくない。ではどうすればよいのか?だからと言って消費電力が大きく、明け方・夕方の斜めからの太陽に反射されて青、黄、赤の信号が見えにくかった白熱ランプに戻るのか。そういう訳には行かない。

 

答えは簡単だ。雪に強いLED回路設計をすればよい。むしろ、大雪という災害は、LED信号機にもっと改善の余地のアイデアをくれたと考えるべきではないか。普段のLED信号機は、消費電力が少なく、CO2の排出を減らし環境に優しいだけではなく、視認性が高く、事故を起こしにくい信号であることに変わりはない。だったら、大雪でも雪を解かすような構造にすればよいのである。

 

ここにテクノロジーを活用する。例えば、大雪の時にだけ、電気を無駄に使うように電圧を上げ電流をたくさん流し、発熱を促せばよいのである。LEDは電流を流せば流すほど輝度は増し、発熱する。ただし、発熱しすぎると熱暴走を起こす恐れがある。有名な787機のバッテリ故障と同じように熱暴走を起こしてしまえば、LEDを配線しているボンディング線は溶けだして使えなくなる。つまり、熱暴走を起こさない範囲で電流をたくさん流し、輝度を上げ発熱させる。幸い、雪は冷却材として発熱を抑える役割を果たすから、熱暴走を防ぐ役割もある。

 

さらに、センサを付けて、雪を検出したら、LED電流をたくさん流すようにパワートランジスタを動作させればよい。雪を溶かせるかどうかを実験して確認する。一つの信号機あるいは一つの交差点の4台の信号機で雪を検出すると同時に、他の場所にある信号機にもその情報をM2M(マシン-ツー-マシン)などで伝える。LED信号機もIoT(インターネットオブシングス)になる。各地の信号機に全てこのような対策を施せば、回路部品コストを大量生産でき、LED信号機のコスト上昇を抑えることができる。

 

要は、LED信号機を悪者にせず、テクノロジーをしっかりと駆使すれば済むことだ。新しいテクノロジーは、古いテクノロジーよりもメリットは非常に多い。もし新しいテクノロジーに欠点が見つかれば、その欠点を次のテクノロジーで克服していく。これが人類の進化の歴史である。大雪でLED信号機が使えない、という事実が出てきたら、LED信号機を使えるようにするためにはどうすればよいか、を考えればよい。白熱灯に戻ってはデメリットが多すぎて、人類の進歩に逆行する。

 

環境に優しい社会を作ると称して、昔の生活に戻ればよいとする人たちがいるが、テクノロジーをもっと知って欲しいと思う。CO2排出量を下げよう、環境をもっと良くしようと思うのなら、テクノロジーで解決する方法を求めればよいのであり、昔に戻ることではない。人類が他の動物よりも賢く、しかも進化できたのは、現状よりもさらに改善する方法を考え、実行してきたからに他ならない。

 

数年前にクルマの制御に使っているソフトウエアの不具合(バグ)発生を知り、だからソフトを使わずに昔のような純粋機械のクルマを作るべきだという記者がいた。これも今回の大雪事件と同じ態度だ。交通事故死がここまで激減したのはクルマのエレクトロニクス化、コンピュータ化によるところが大きい。さらに進化させるためには、ではどうやってバグ取りを効率よくできないか、というテクノロジーによる解決法を見つけることが重要だ。

 

だから、今回の大雪によるLED信号機故障の記事やツイッターをみて、これを解決する方向へ持っていこうという意見が出なかったことは、テクノロジーを知らなかったからではないかと思う。もっと謙虚にテクノロジーを知り、人類の進歩を進め、社会を変えていく。これこそ、今は亡きスティーブ・ジョブズ氏が言っていた「Stay hungryStay foolish」に通じるものがある。

                                                (2015/03/13)

   

シリコンバレーは世界一差別のない所

(2015年3月 1日 20:24)

シリコンバレーでは男女差別がない。国籍による差別もない。米国は差別をなくすことに非常な努力をしてきた国だが、東海岸の企業や欧州の企業はまだそこまで行かない。しかし、シリコンバレーは全く平等なところだ。差別をしていては競争に負けるからだ。

 

これは、シリコンバレーの新聞、サンノゼマーキュリーニュース紙の記者を20年経験した後、シリコンバレーのコンサルタント会社、シリコンバレーリーダーシップグループ(SVL Group)で、コミュニケーションズ担当VPのスティーブ・ライト氏がその調査について発表したもの。シリコンバレーでハイテク企業を動かすCEOにアンケート調査した。それによると、シリコンバレーのハイテク企業で働くアメリカ人と、非アメリカ人の割合は、ほぼ半々、むしろ非アメリカ人の方が少し多い()。グーグルの創業者の一人、セルゲイ・ブリン氏はロシア出身、インテルの元社長アンドリュー・グローブ氏はハンガリーからの移民である。

 

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図 シリコンバレーで働く外国人や女性は多い 出典:SVL Groupのデータを元に津田建二が作成

 

また、女性と男性の割合についても、女性の方がわずか多い。1999年から2005年までヒューレット・パッカード社の社長を勤めたのはカーリー・フィオリーナ氏だったし、ヤフーの現在社長はメリッサ・マイヤー氏だ。

 

シリコンバレー以外の企業でも、優秀な外国人や女性を確保しようとする企業は増えている。例えば欧州では、シーメンスから独立したインフィニオン・テクノロジーズ社のミュンヘン本社に働く外国人は多い。そこでは50数カ国からの人々が働いていると簡単に言う。英国のエディンバラ大学を訪問した時も、世界中から人々が留学し、何百人も研究者や教師として働いていると聞いた。アームやイマジネーションテクノロジーズでも数十カ国からきていると聞かされた。外国人と一緒に働くことは当たり前なのだ。

 

加えて、人を大事にする企業風土がインフィニオンにはあり、その究極は家族である。小学校入学前の子供を預かる保育所と幼稚園が本社敷地内にある。優秀な社員の子供がいずれインフィニオンに入って欲しいという経営判断からきているという。この「魅力ある人材育成」のために女性の管理職を増やす計画もある。現在、ワーカーを除くホワイトカラー社員の25%が女性で、その内の管理職は12%しかまだいない。これを2020年までに20%に増やそうとしている。そのために働く環境を充実させ、子供のケアが重要だとしている。

 

シリコンバレー以外の地域や国では、外国人や男女の差別をなくし、優秀ならば国籍や性別は無関係にしようと思う気持ちは強い。優秀な人が辞めると、その人と同等以上の力のある人を採用することが極めて難しいからだ。だから今は、簡単には首を切らない。現実に即戦力となる人を一人採用するためにかかるコストは300~400万円と言われている。リクルーティングのための仲介企業へのコストや、ヘッドハンティングなどのコストは実に高い。

 

だからこそ、優秀な人が辞めないように福利厚生に投資することは常識となっている。グーグルやアップルは24時間、社内のカフェテリアをオープンしており、しかも社員は全員無料だということは、有名な話だ。リニアテクノロジーのボブ・スワンソン会長は、私とのインタビューで「優秀な人間を見つけ、その場所を離れたくないというのであれば、本人の住んでいる場所をデザインセンターにする」と答えている。この方針は、ライバル会社でも採用するようになってきた。他のアナログ半導体メーカーでも同様なことを2年後に聞かされた。優秀な人間ならば国内外、男女を問わない。その理由をスワンソン氏は「優秀なアナログ技術者の採用は、いつも大変苦労する。絶えず大学と掛け合うことが多く、労力を費やすからだ」と述べている。同氏は、リーマンショックの時には一人もクビにしなかった、と胸を張って自慢する。

 

外国企業に引き換え、日本は本当に、差別の多い国だと思う。日本の企業や団体では外国人の比率は極めて低い。1%にも及ばない。学会や講演会に出席してもほとんどが日本人、それも男性ばかりである。女性は1割に満たない。ましてや外国人はほぼゼロである。国際化、グローバル化とは名ばかりだ。外国人が家を借りる場合、差別や偏見も多いと言われている。この現状に対して、企業や団体などの努力が見られない。外国人採用の条件が、ただ日本語を話せることになっているという現状は、能力開発にならない。

 

かつて、外国人を採用した日本企業では、外国人に翻訳や通訳をさせていた。その人の持つ能力を活かそうとは考えていなかった。このため、日本企業を止めていった外国人は多かった。

 

政府が女性の地位向上と称して「男女共同参画プロジェクト」を推進していても、誰も責任もってこのプロジェクトを管理、進行させていない。こう書くと、男女共同参画プロジェクト」の責任者はいる、と政府は言うだろう。では、社会で女性の責任ある地位が増えていなければ、命を賭けて責任をとっているか。指導者の責任とは、強いリーダーシップを与えられ、成功に導くための道筋を描き、実行したうえで、部下を一つの方向に導くことを指す。これができていなければ責任を果たしているとは言えない。もちろん、目標を達成していなければ、そのやり方が間違っていたわけだからリーダーを辞めなければならない。どう見ても責任者は不在だ。だから日本で女性や外国人の地位は上がらない。プロジェクトを推進する以上、責任を持って結果を出してほしい。

(2015/3/1)

   

アップルは電気自動車を作るのか

(2015年3月 1日 10:46)

アメリカでは、アップルがクルマを作るのではないか、といううわさで持ちきりだ。先週、Wall Street JournalBloombergなどのメディアがアップルいよいよクルマ(電気自動車EV)を作るという話を伝えている。本当だろうか。

 

アップルが正式に発表するまで、様々なブロガーやメディアは憶測を流すのはこれまでの常識だ。219日の日経産業新聞はWall Street Journalを引用し、「米アップルが電気自動車(EV)の開発を進めていることが欧米メディアの報道で明らかになった」という書き出しで記事を飾っている。しかも、記事中にはご丁寧に、プロジェクト名は「タイタン」、受託製造工場は「マグナ・ステイヤー」社という最もらしさまでついている。

 

グーグルが、自動運転のグーグルカーを設計・製造していることはすでに知られている。しかも自動運転車で世界をリードしているかのように報道されている。グーグルだけではない。

--続く


   

うれしい、理系の復権

(2015年2月24日 21:59)

216日の日本経済新聞朝刊の大学欄を見て、理系人口が再び増えていることにホッとした。理系の減少が長い間、続いてきており、これからの日本のモノづくりに先行きの不安を覚えていたからだ。ここ10年以上、理系の没落が叫ばれ、現実に理系が減り大学入試も簡単になったと言われていた。しかし、文科省が発表している学校調査を元に、工学部と理工学部の志願者の数を合計したグラフ(図1)によると2007~2009年を底に、増加傾向にある。

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1 工学系・理工学系がリーマンショック後増加 出典:日本経済新聞、2015216日朝刊

 

かつて、理系離れが叫ばれたころは、経済が発展していた時期で、理系学生でさえ金融関係への就職が増加していた。理系・工学系の学生の就職先がモノづくり系から金融へのシフトは、実は金融商品としてのデリバティブと呼ばれる派生製品がもてはやされた頃と符合する。学生を求める金融業界は、数日後に派生商品の価値がどう高まるか、を予測する『ブラック・ショールズの式』と呼ばれる偏微分方程式を理解する必要があったからだ。偏微分方程式は、そもそも時間と共にあるパラメータが変化する様子を表す方程式であるからこそ、数学的な理解が欠かせない。理系学生はこういった訓練を受けてきているから、金融業界からの要請が出ていたのである。

 

しかし、ある程度これが定着しても理系離れは止まらなかった。それは正確なデータで議論するのではなく、雰囲気あるいは感覚といった勝手なうわさ話として伝わっただけにすぎなかった。2010年ころには、心理学や社会学などが人気を博していた。

 

しかし、実際の社会では、理系の方が給料は高く続くというデータも示されるようになった(図2)。文科系で就職してもその後の給料に理系・文系が反映されるとなると人々の事情は変わってくる。

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2 理系の方が年収は高い 出典:日本経済新聞2010920日朝刊

 

理系か文系かの議論でよく言われることだが、理系の方がより実利的なデータやロジックで話を展開すると言われている。マレーシアの首相を長年務めたマハティール氏は医科大学出身で医師の資格を持つ。ドイツのメルケル首相は物理学の博士号を持っている。インドでは政治家や主導者はインド工科大学の卒業者が非常に多い。リーダーとしてのデータに基づく判断を行うのに理系出身者が向いているのかもしれない。現に、日産自動車のカルロス・ゴーン会長は元エンジニアだ。本田技研工業を創立した本田宗一郎氏は言うまでもなく理工系のエンジニアだった。

 

しかし、今の日本の政治の世界は別だ。理工系というだけで目の敵にされ、理工系をたたく傾向も強い。実際に理工系の優れた指導者は極めて少ない。一方で、理系は研究や技術開発だけやっていればよい、という風潮はないだろうか。だとすれば、優秀な理系経営者はつぶされてしまう恐れがある。一方の理工系のエンジニアはもっとお金を稼ぐことにも頭を使ってほしい。物理原理や法則を見つけたり、理解したりする能力は、大きな技術や経済・金融の流れを見出す能力にも通じる。残念ながら、一部の大手経営トップはテクノロジーの常識を持たなかったばかりに、重要な判断を誤り多くの人命を奪ったことを「FUKUSHIMAレポート」(日経BP)は語っている。

   

米企業に買収されて復活する日本半導体

(2015年1月 3日 22:00)

明けましておめでとうございます。今年もご愛読、よろしくお願いします。

 

国内半導体産業は、ようやく復活する気配が見えてきた。エルピーダメモリ、ルネサスエレクトロニクス、旧三洋電機半導体、富士通セミコンダクターなど今年はさらに伸びそうだ。

 

20122月に会社更生法の適用を申請したエルピーダは、米マイクロンテクノロジーに買収され、復活した。マイクロンテクノロジーは2014年に16%増の成長を遂げた。この数字は、2013年にマイクロンとエルピーダを合算した数字よりも16%も伸びたという意味である。世界の半導体市場の伸びが9%程度だったから、エルピーダを合併したことで相乗効果があったと見るべきだろう。

 

ルネサスエレクトロニクスは、2013年にオムロンからCEOとして作田久男氏を招へいし、企業改革を実行させた。まずは売り上げ比べて多すぎる人員と工場削減によるCOOCost of ownership:いわゆる工場の運転稼働コスト)をカットし、固定費を減らした。そのリストラコストに数百億円を使った。それを見越して、親会社3社からの出資と顧客(自動車関連企業)、産業革新機構からの出資を仰いだ。中でも革新機構は2014331日現在、同社への出資比率は69.15%と桁外れに高い。つまり政府系ファンドがルネサスを支配した。

 

ルネサスは、財政支援だけではなく、成長戦略も実行した。ルネサスの成長戦略は、これまでのメーカー視点による製品ごとの事業部から、アプリケーションごとの事業部へ変えたと同時に、成長分野にフォーカスした。具体的には、自動車ビジネスを主体とする事業部と、IoTInternet of Things)などの工業用市場を対象とする汎用事業部に分けた。この結果、7四半期連続の利益を挙げた。

 

富士通はマイコンとアナログ部門を米スパンションに売却した。スパンションは、富士通が休止した45nm28nmなどの最先端技術の開発を明言している(参考資料1)。旧富士通セミコンダクターのエンジニアは、合併前は戦々恐々としていたが、スパンションが示した先端技術の開発はエンジニアにやる気を惹起させた。スパンションのジョン・キスパートCEOはインタビューの時は、日本法人のエンジニアをいつも「Excellent tremendously」と表現している。日本人エンジニアの優秀さを常に評価する姿勢を見せていた。「企業は人なり」を実践しているのがキスパートCEO(写真)といえる。

 

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三洋電機の半導体部門はオン・セミコンダクタに組み込まれた。パナソニックが買収しなかった三洋電機の半導体部門をオンセミが買収した。オンセミは、かつてモトローラから独立したディスクリート主体の半導体メーカーから出発した。同じモトローラから独立分離したフリースケールは、単価の大きなマイクロプロセッサやSoCなど差別化できる製品を持っていたため、売り上げはオンセミよりも大きかった。オンセミは、これにめげず、アナログにフォーカスしながらアナログの強い企業や企業内の部門を買収し続け成長してきた。三洋半導体はアナログの中でもパワーマネジメントやミクストシグナル製品に定評があった。

 

オンセミは旧三洋半導体部門をSSG(システムソリューショングループ)として、組み込み、さらに元々あったオンセミの日本法人と協力して相乗効果を上げている。FAE(フィールドアプリケーションエンジニア)や営業、デザインセンターとのコラボを通して、デザインインの件数は前年同期比2~3倍、新規製品提案金額は同5倍となり、新規案件獲得金額は同70%増と増えた。提案金額の伸びが大きいのは、旧三洋電機ではほとんど提案がなかったからだ。半導体ビジネスは今や、ソリューション提案できるところが勝ち組となるビジネスに変わっている。オンセミのやり方は世界の時流に乗っているといえる。旧三洋の新潟および群馬の工場は、オンセミ全体の製品も製造する社内ファウンドリとして使われている。

 

米国企業に買われたおかげで、旧三洋半導体部門の海外売上比率は、三洋時代の10%前後からわずか3年で50%を超えるようになった。これは、日本の顧客が海外進出したり、海外に販売したりする場合にでもオンセミの販売ネットワークを利用できるようになったためだ。

 

これらの例は、米国企業に買収されたことで、日本の半導体は復活し、業績を伸ばし始めている。日本だけでは生き残ることはできなかった。このことは、海外の半導体と比べ日本の半導体がいかに歪(いびつ)で、世界との競争に勝てる体質を構築できなかったことをよく表している。

 

日本の半導体が世界とは全く違い歪であることの一つに、親会社との従属関係がある。例えば東芝やパナソニックの半導体事業は今でも一事業部門である。また、富士通セミコンダクターは100%富士通の子会社だった。ルネサスは日立と三菱、NECとの3社による合弁会社であった。

 

これに対して、海外では電機メーカーから独立した半導体メーカーは子会社ではなく、自立した会社である。ドイツのシーメンスから独立したインフィニオンテクノロジーズも、フィリップスから独立したNXPセミコンダクターズも、ヒューレット-パッカード(正確には先にスピンオフしたアジレントテクノロジーズから独立)を源流とするアバゴも、親会社からの出資比率は最初から10%以下だった。どれも現在は共にゼロ%である。モトローラから独立したフリースケールやオンセミも親会社の出資はすでにない。

 

完全独立の海外の会社を取材すると、自分の責任で自由に経営できるという喜びを社員みんなが共有していた。企業としてのリスクは高まるが、自由度がそれに勝り、社員のモチベーションは非常に高い。

 

これに対して、日本の半導体メーカーの経営陣には、親会社にいつでも帰れるという甘えが生まれる。しかも日本企業特有の雰囲気として、子会社の経営陣は親会社の顔色ばかりうかがっていることが多い。これでは世界の競争に全く勝てない。霞が関も親会社も最初から排除する組織こそ、日本の半導体メーカー復活の第一歩になろう。

 

参考資料)

1.    買収されて良かった~日本企業では先端技術を開発させてもらえなかった

 

   

アップルが開発拠点を置く本当の狙い

(2014年12月13日 11:02)

数日前、アップルが「テクニカル・デベロップメント・センター」を横浜みなとみらいに設置するという発表が安倍首相を通じて行われた。即、いくつかのメディアが、ヘルスケアビジネスを日本で進めるため、という捉え方をしていたが、本当だろうか。

 

ヘルスケアビジネスは日本では非常に参入バリアが高い。特に二つのバリアがある。一つは厚労省、もう一つは医者の組織である。厚労省は医療機器としての認可、医者の組織も医師としての「認証」が必要だ。IT企業やメーカーがヘルスケアを製造し、体温や心拍数、血圧などのデータを測定したとしても、彼らがデータ値を信じなければそれでおしまいである。体温計で38度なら信じるが、スマホやヘルスケア端末で38度であるという保証はないからだ。彼らの保証がなければ、それはただのおもちゃにすぎないのである。アップルといえども、おもちゃを最もバリアの高い日本で売るだろうか。

 

アップルが本気でヘルスケア端末を販売するのなら、臨床試験の認可を最も早くもらえる米国でまず進めるべきだろう。米国では英国Toumaz社のヘルスケア端末を使った臨床結果がすでに出ており、そのメリットも述べられている。FDAの認可は臨床実験を始める前に取得しており、臨床試験はカリフォルニアの病院で行われた(参考資料1~3)

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 図 Toumaz社CTOのAlison Burdett氏

筆者も3年前、ある人と組み、ヘルスケア用半導体チップを開発するベンチャーを設立すべきと、霞が関や官製ファンドなどを回ったが、誰も関心を示さなかった。日本ではヘルスケアをビジネスとして市場を作ることは極めて難しい。賛同し協力してくれそうな医師のグループにも彼は接触できたが、その先に進めなかった。半導体・エレクトロニクス産業がそのメリットに気づかなかったからだ。

 

アップルがおもちゃを売るのなら、アップルファンなりが購入するだろうから、それなりの量ははけるだろうが、大きな市場にはなりえない。ではアップルの狙いは何か。

 

ビジネスとして最も重要な日本の役割は、サプライチェーンである。日本は部品や機能的な材料を作るのが世界一うまい。セラミックコンデンサや抵抗などの受動部品は、今や0201と呼ばれるくらい、0.2mm台×0.1mm台という肉眼で見るのが難しいくらいの超小型の部品を村田製作所など開発し、次世代のスマートフォンに導入しようとしている。部品を小さく、回路基板面積を小さくできれば、その分バッテリを大きくできるため、電池が長持ちする。スマホに強く求められる重要な機能だ。

 

かつて、ノキアが世界一の携帯電話会社だった時、日本市場には2Gデジタル電話の独自方式のため参入が難しく、日本だけは市場を取れなかった。しかし、日本に法人をしっかりと残した。狙いは部品調達だった。

 

スマホは今や性能・機能を争う時代ではない。ユーザーエクスペリエンスと呼ばれる、「楽しいインターフェース」を競う時代である。アップルが日本に拠点、それも横浜を選んだのは、横浜がこれからの日本のシリコンバレーにあると見たのであろう。すでにモバイルプロセッサのトップメーカーARM社、ローム、スパンション(旧富士通セミコンダクターのマイコン・アナログ部隊)EDAツールのケイデンスなど、そうそうたるハイテク企業が集まってきている。ここにアップルが来れば、頭脳が売り物の設計開発拠点と十分になりうる。

 

そして、部品調達といえば研究開発とは関係ないと思われがちだが、実はそうではない。Time to market (T2M)が最大の競争力になってきた現在、開発段階から生産に使う部品を決め、その調達先を確保することが世界では行われている。研究開発に使った部品や材料と生産段階で使った部品などが違うといった、かつての日本のモノづくりでは、もはや世界に勝てない。研究開発から生産、量産、生産終了まで一気通貫のサプライチェーンを作ることが開発の大きな役目である。現実にこれをサポートするためのPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)ソフトウエアが入手できる時代になっている。フランスのダッソー社、米国のPTC社、ドイツのシーメンスソフトウエア社など、モノづくりを効率よく進めるためのPLMすなわちCMS(コンテンツマネジメントシステム)ソフトウエアが普及している。

 

アップルはスマホやタブレットの次機種に備え、ユニークな部品を求め、日本のテクノロジーを探しに学会や業界団体などに参加して来るだろう。部品や材料の情報収集にアンテナを張り巡らせる役割が横浜の開発拠点の最大の役割となる、と私は見る。

 

参考資料

1.    人に優しい未来を生み出すテクノロジー「第1回:ITテクノロジーで病気を防ぐ――ウェアラブル端末が実現する」

 2.    Toumazのヘルスケア半導体チップ、米国の病院で効果を実証(2013/06/05)、セミコンポータル

3. 津田建二「欧州ファブレス半導体産業の真実」、日刊工業新聞社刊 2010年

                                                                                 (2014/12/12

   

[速報]クアルコムが600人をレイオフ

(2014年12月12日 21:31)

ファブレス半導体のトップメーカーであり、世界第3位の半導体メーカーでもある米クアルコム(Qualcomm)が600名のレイオフに踏み切るというニュースが流れた。米国で300名弱、海外で300名をレイオフするという。

 

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クアルコムは2014年の売り上げが11%増の191億ドル(2兆円強)を見込まれる優良企業である。世界の半導体産業全体が9%の伸びを示しそうだから、クアルコムの業績が決して悪い訳ではない。そのクアルコムがなぜレイオフに踏み切るのか?同社のスポークスパーソンは多くを語りたがらない。「定期的に自社ビジネスを見直しており、効率の良さを求め優先順位を付けている。社内のスキルやサイズを調整して、プロジェクトを辞めたり新規プロジェクトを開始あるいは伸ばしたりしている」と語るのにとどまっている。

 

しかし、これまでのクアルコムの動向を見ていると、理解できない訳ではない。クアルコムは3G通信のデジタル変調方式であるCDMAの基本特許を持っていた。3G通信は、ノキアやNTTドコモなどが使ってきたWCDMAと、クアルコム自身が使っていたCDMA 2000 1xという主として2方式が使われた。KDDIが採用していたCDMA2000は、クアルコムのチップを買うことで使えたが、WCDMA方式の携帯電話を作るとその特許料を携帯電話メーカーあるいは半導体メーカーが支払ってきた。クアルコムにとって3Gビジネスはどちらの方式でもお金が入る仕組みになっていた。

 

ただし、唯一の例外がメディアテック(MediaTek)だった。台湾のメディアテックは自社のチップが中国で偽物携帯電話機に流れてしまったことへの反省から、流通経路を見直し、偽物機メーカーが入手できないようなルートを確保することをクアルコムに約束し、ライセンス料を無料にしてもらったらしい。このため、メディアテックは、WCDMAモデムのライセンス料を支払わない分安く提供できた。これによって急成長を遂げた。

 

3Gモデムチップは、実はLTEになっても音声データのモデムに使われてきた。このためクアルコムはLTE時代でも繁栄できた。もちろん、クアルコムは、LTEに関する特許を持っている。しかし、同社以外の多くのモデムメーカーもLTE技術の特許を持ってはいる。このため、クアルコムにとって、LTEは基本特許ではないため、必ずIPRで稼げるという訳ではなくなった。しかもLTEでは、音声データもLTEネットワークを使うVoLTEVoice over LTE:ボルテと発音)技術が普及するようになれば、音声用の3Gモデムチップは要らなくなる。

 

さらにクアルコムにとって、メディアテックという存在が大きくなりすぎた、という不運も重なってきた。メディアテックは売り上げがルネサスエレクトロニクスとほぼ並ぶ、第11位の企業に成長した。コスト競争力では、クアルコムはメディアテックにかなわない。中国市場ではメディアテックの方が強い。

 

LTE時代はクアルコムにとってマイナスの材料が並ぶ時代になってきたのである。だからこそ、スマホの急速充電規格である、Quick Charge 2.0や、クルマのワイヤレス給電技術に力を入れ、Wi-FiIEEE802.11ac技術のアセロスと802.11adのウィロシティを買収した。11月にはBluetoothの老舗CSR社を買収提案するなど、ワイヤレス技術の全てを取ろうと必死である。

                                                                                   (2014/12/12)

   

日本のスマホ普及率はクロアチア並み46%

(2014年11月30日 08:20)

日本の新聞では、時々「ポストスマホ」という言葉が散逸されるが、海外を取材している限り、スマートフォンの時代は少なくとも10年は続く。あらゆることがスマホをベースにして起きるからだ。20132月のMobile World Congress (MWC) の基調講演で、ファブレス半導体のトップ企業、クアルコム社の前CEOであったポール・ジェイコブズ氏(1)が「今やスマートフォンがコンピューティングのプラットフォームになったと言ってもいいだろう」と述べたが、その通りに時代は動いている。

 

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コンピューティングのプラットフォームになった、と彼が述べた理由はこうである。「2012年のスマホの出荷台数はパソコンの2倍になった。これからもますます伸びるだろう」。彼の言葉通り、その1年後、2013年のスマホの出荷台数はパソコンの3倍に達した。2014年もスマホの出荷数量は伸び続けており、パソコンの何倍になるのか楽しみだ。

 

日本しか見ていなければ、テクノロジーの大きな流れを見失ってしまう。1~2週間ほど前、グーグルが世界各国の人口当たりのスマホの普及率を発表した(2)。これによると日本のスマホ普及率は46%、とクロアチアと並んでいる。1位のシンガポールは85%2位の韓国は80%3位スウェーデン75%4位香港72%5位スペイン70%となっている。ちなみに英国は68%、米国は57%、ドイツ50%、フランス49%で、日本とクロアチアはフランスの次である。

 

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図2 世界主要国の人口当たりのスマホ普及率 出典:Google Consumer Barometer

日本でスマホはまだ飽和していない。東京では電車内で見かけるスマホが80%以上普及しているように見えるが、地方へ行くと全く様子が違う。いわゆるガラケーさえ持っていない人も多い。ましてやスマホを持っている人は極めて少数派だ。地方ではこれからスマホが普及し始める。ポストスマホと喧伝すると、スマホのビジネス機会を見失い、ビジネス全体を失う恐れがあるから注意を要する。

 

歴史的に見ると、今のスマホは、かつてワープロからパソコンへ移行した1990年代を彷彿とさせる。通話を目的とする携帯電話がワープロに相当し、スマホは汎用のパソコンに匹敵する。アプリというソフトをダウンロードするとスマホに機能を追加できる。パソコンと同じブラウザを見ることができる。検索も容易だ。さらにカメラやビデオが付いており、テレビ電話も標準装備されており、音楽やビデオを再生できる。GPSで目的地に間違いなく到着できる。画面に沿って文字や写真が90度自動的に見やすい方向に回転してくれる。タッチパネル操作はiPhoneから始まった。集合写真を撮る場合のセルフタイマーのシャッタとしてスマホを使うシーンも一般的になった。

 

さらに、10年以上前から、ユビキタス時代とは言っていたものの、パソコンを持ち歩く時代は「いつでもどこでも」インターネットとつながっている訳ではなかった。Wi-Fiなどインターネットの環境があったとしても、必ずどこかに「座る」という行為をしなければ使えなかった。スマホやファブレット、タブレットなどは歩きながらでさえ操作している。カバンを片手に持っていても楽に使える。このようなコンピュータは今までなかった。今まさに、ユビキタス時代になったのである。

 

この先も、汎用リモコンとして使ったり、ヘルスケア端末をBluetooth SmartLow Energyでつなぐハブとなったりする。スマートハウスでは電力量のモニターや各部屋の電化製品のモニターとしても標準となるだろう。調光と制御機能を設けたスマート照明用のモニターとしてのアプリも入手可能だ。ポストスマホではなく、スマホをハブとしてヘルスケアやウェアラブル端末を周辺機器として使われるようになる。スマホがウェアラブル端末にとって代られるのではなく、ウェアラブルのハブになるのである。

 

だからこそ、例えば、スマホやウェアラブルに使うセンサの開発が世界各地で活発になっている。動きや重力を検出する加速度センサ、回転する状況を検出するジャイロセンサ、あらゆる圧力を検出する圧力センサ、地磁気をはじめ微弱な磁力を検出する磁気センサなど、スマホにはMEMSと呼ばれる半導体技術を駆使したセンサが盛りだくさん搭載されている。センサを中央にまとめるセンサハブという機能を実現する半導体チップも登場した。センサからの信号をユーザーエクスペリエンスに変換するアルゴリズムも続々開発されている。ここでもだが、半導体チップとソフトウエアが一緒になった、センサ技術が実用化のキモとなっている。

 

ただし、スマホ用の部品や半導体は世代ごとに代わる恐れがあり、今ビジネスを勝ち取っていても安穏としていられない。逆にまだスマホ部品市場に入れないサプライヤにはビジネスチャンスとなっている。諦めてはいけない。米国の中小ベンチャーは何とかしてスマホ市場に入り込むことを鵜の目鷹の目で狙っている。

                                                    (2014/11/30)