半導体は成長産業なのに官民共に理解不足、日本の弱点はコスト競争力

(2012年8月 1日 19:36)

最近、新聞に登場する半導体産業のニュースは、業界再編の話ばかりだ。これにはもちろん、半導体産業自身の経営体質にもよるが、どこかとどこかをくっつけるという話が多い。A社とB社をくっつけたところで、斜陽産業なら企業数を減らすという考えは成り立つが、いまだに年平均6~7%で成長を続ける世界半導体産業において、この考えは成り立たない。世界の半導体産業の勝ち組の経営戦略は決まって、「経営判断が速く、自社の得意分野を伸ばし、世界のメガトレンドをしっかり押さえている」、ということに尽きる。残念ながら日本の半導体産業は、このどれについても当てはまらない。

この経営戦略を把握していれば、自社の不得意なところを時間かけて開発するのではなく、他社の技術を買うか、他社そのものを買うか、と判断すべきである。他社を買わないのであれば、技術を買うためにどうすることが自社にとってベストなのかを考える。1社だけ買収しても市場をカバーしきれない、あるいは伸ばせないのであれば、数社から買う、あるいは数社と共同開発する、という選択肢に行きつく。最近、世界の勝ち組が採る戦略はコラボレーションであり、エコシステム(自社の得意な技術を持ち寄って新製品をいつでも共同開発できる仕組み)の構築である。

自分は得意な分野に専念し、不得意な分野はコラボレーションで補い、世界でベストな製品を誰よりも早く出す。これが勝ちパターンである。世界の企業買収や合併を見ていると、同じ製品を作っている所とは決して合併しない。負け組ともいえる日本だけが、競合メーカーと合併する。しかもそれを助長しているのが霞が関だ。世界の勝ち組パターンからずれているのである。これではいつまでも勝てない。競争力が付かない。

競争力を付けるとはどういうことか。これも官民共にわかっていない。先端技術を開発すればよいということではない。あくまでもコスト競争力だ。安く作る技術を身につけることである。世界一の半導体メーカーのインテル、2位のサムスン、TITSMCIBMなどは低コスト技術に注力してきた。今はテーマが違うが、SEMATECHという共同開発会社(半導体メーカー数十社が出資)の2000年代の最優先テーマは低コスト技術の開発だった。製品を安いコストで作るためには、設計段階から安く作るための技術を取り込まなければならない。共通化できる部分は共通化する。そのための標準化作りに努力する。共通化できない部分は差別化できる技術となるため、ここはすべて自社開発するか、それでも足りない部分や不得意な部分はコラボで補う。この標準化技術に対しても役所はわかっていない。日本発の規格(標準化案)を作ることにこだわる報道がなされるが、日本発か世界発かはどうでもよい。早く共通化して使える技術にすることが重要なのである。

設計段階から安く、製造段階でも安く、さらに検査でも流通段階でも安く作ることが安定経営には欠かせない。安く作れば利益を確保できる。日本企業が「利益なき繁忙」ということがよく報じられるが、安く作るための努力を怠っているからだ。安く作るということは無駄なコストをかけないということである。私は外資系の出版社にも務めた経験があるが、例えば出張手当はない。全て実費精算だ。飛行機は原則としてエコノミーチケット。出張費を浮かせるというセコイ考えはない。仕事に集中できる。経済産業省やNEDOは低コスト技術を全く理解できないため、いまだに先端技術開発しかプロジェクトに掲げていない。最近の技術はあまりにも複雑になってきたため、低コスト技術は企業1社で考えるテーマとしては大きすぎる。だからSEMATECHは低コスト技術を最優先のテーマとして選んだのである。この結果、米国の競争力は極めて高くなっている。

   

B2Bメディアの興亡:紙からインターネット媒体へのシフトに見えるもの

(2012年8月 1日 18:32)

B2Bのエレクトロニクス、半導体をカバーしている雑誌が今や少なくなった。日本では、日経マイクロデバイスの休刊、Semiconductor International日本版の休刊、電子材料を発行していた工業調査会、セミコンダクタワールドを発行していたプレスジャーナルの倒産、といった出来事がこの1~2年でめまぐるしく起きた。この結果、エレクトロニクス関係の雑誌や新聞は、日経エレクトロニクス、電子ジャーナル、半導体産業新聞の三つしかなくなった。まるで半導体業界の再編を見ているかのような紙媒体の衰退が起きた。

代わって生き残りを図っているのが、インターネット媒体である。日経BP社はTech-On!にエレクトロニクスと半導体を含めており、日経マイクロデバイスという紙媒体からインターネット媒体へ移したようなコンテンツを構成している。EDN JapanEE Times Japanは紙媒体を止め、インターネット媒体へシフトした。マイナビニュースやセミコンポータル、WirelessWire Newは最初からインターネット媒体として生きている。

こういった動きは実は日本だけではない。米国のエレクトロニクス・半導体メディアも紙からインターネットへシフトしている。EDN JapanEE Times Japanの姉妹誌であるEDNEE Timesはインターネットが主体で、EE Timesの紙媒体は極めて薄くなっている。もう一つの競合誌であるElectronic Designも同様だ。

これに代わって、さまざまなインターネットサイトが登場している。紙媒体も持つChipdesign Magazineは雑誌とウェブサイトに加えて、エレクトロニクスをさらに細分化してまるで分科会のようなウェブサイトを三つ持つ。一つは「Low-Power Engineering」、もう一つは「Semiconductor Manufacturing & Design」、そして「System-Level Design」である。いずれも半導体の設計とシステム設計、半導体製造をカバーしている。

B2Bのウェブサイトのビジネスモデルもユニークになってきた。EE Times Japanを設立したのは、チップワンストップという電子部品のネット商社である。これまでメディアは業界から独立した出版社が発行してきた。編集の独立性を維持するためだ。チップワンストップがEETJを設立した時も編集の独立性は担保されたという。同様に、WirelessWire Newsはノキア・シーメンスが唯一のスポンサであるが、編集の独立性は担保されているという。ただ、EETJはこの後、インプレス、IT Mediaへと売られるという数奇な運命をたどる。

インターネットのメディアは興亡を繰り返し、まだビジネス的にしっかりと確立されたものではない。しかし、新しいビジネスモデル次第では、利益の出るネットビジネスが可能だと信じている。

   

8月6日からのNI Week

(2012年8月 1日 17:23)

今年は、テキサス州オースチンで開かれるNI Weekに参加することになった。NINational Instruments社の略である。オースチンは、米国の半導体コンソシアムであるSEMATECHがあった街であるし、かつてモトローラやモステック、SRCなど半導体関係の企業やコンソシアムが集まっていた。今でもサムスン電子、SiliconLabsなどの拠点もある。

NIは、もともとソフトウエアを利用したフレキシブルな測定器としてこの業界に参入した。その発想は極めて革新的だ。ソフトウエアと、ハードウエアボードがあれば、パソコンがオシロスコープにもスペクトルアナライザにもなる。NIは当初、Virtual Instrument(仮想測定器)と呼んだ。

ただし、この呼び名は誤解を受けやすい。例えばオシロスコープなら時間軸に対する電圧や電流の波形を表示するが、まるでシミュレーションだけで本当は測定していないようにもとれる。このため、同社はこの呼び名をやめた。その後、データ測定だけではなく、設計、シミュレーション、テストが可能なさらにフレキシブルなLabVIEWと呼ぶ、開発環境をリリース、これが現在同社の大きな原動力になっている。

LabVIEWは、グラフィカルユーザーインターフェースを使って、回路やシステムを組み、組んだ回路を測定・テストする総合的な開発環境である。LabVIEWの開発環境に、グラフィカルプログラミング言語(G言語)とコンパイラやデバッガ、リンカなども統合されているため、グラフィカルなユーザインターフェースを利用してプログラミングしてすぐに結果を知ることが可能だ。例えば、回路図をライブラリからコピペしてプログラミング言語も加えて回路の機能をテストすることができる。

このLabVIEWと、ちょっとしたカスタム設計のハードウエアボードを使えば、ソフトウエアを書き直し、ハードウエア部分もFPGA等のソフトウエアベースの半導体チップで回路構成をし直すだけで、ほとんどすべての機能をフレキシブルに実現できる。例えば、まだ規格が決まらない先端技術の開発などにはピッタリだ。規格がたくさんあってとてもASICのようなハードワイヤードでカスタム半導体回路を起こしきれない、といった開発案件にも対応できる。特に携帯通信規格のLTELTE-Advanced(4G)など、各国で規格や周波数が違う技術にはピッタリだ。

今回、久しぶりに企業の招待での海外出張となる。NIの創業者の一人でありCEOでもある、James Truchard氏は米国のハイテク経営者の中でも尊敬されている経営者の一人だ。話を聞くのがとても楽しみである。