全国のトンネル/橋にワイヤレスセンサネットワークを導入しトンネル崩落を未然に防げ

(2012年12月 2日 23:50)

中央道の笹子トンネル崩落事故のニュースが流れた。トンネル自身が崩れたのではなく、天井の板が落下したという。その天井を吊っている鉄のワイヤーが天井の重みに耐えられなくなった可能性が指摘されている。

 

こういった事故があると、なぜハイテク技術で武装しなかったのかと思う。今はワイヤレスセンサネットワークという便利なテクノロジーが使える。これはエネルギーハーベスティングかM2Mあるいは電池などでセンサ装置を作り、金属疲労の劣化を圧力センサやゲージセンサで常時モニターしておき、その変化があると知らせるという仕組みだ。韓国のつり橋でその実験が行われている。

 

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図 韓国の第2Jindo

 

しかし、こういったハイテクを知らないエンジニアが多い。福島原発の事故もローテクがいまだに使われていた。経時変化を記録するペンレコーダが不思議なことにいまだに使われていた。50年以上も前から使われていた極めてローテクな技術だ。現在なら、A-D変換してマイコン制御など単純なハイテクさえ使っていなかった。加えて、ミッションクリティカルな冷却ポンプは2重化されていなかった。単なる補助ポンプしかなく、冗長構成システムさえ出来ていなかった。あきれるほどのローテクだった。

 

今回のトンネル事故はワイヤレスセンサネットワークで常時モニターしてさえいれば、起きなかった。なぜ土木エンジニアはITエレクトロニクスをもっと導入しないのか。原子力エンジニアはなぜITエレクトロニクスを採り入れないのか。知らないのならなぜ、委員会メンバーなどにITエレクトロニクスエンジニアを入れないのか。ワイヤレスセンサネットワークが万全とは言えないまでも、エレクトロニクスエンジニアや半導体エンジニアに相談すれば問題解決の何か新しい知恵を出してくれるはずだ。

 

エレクトロニクスや半導体は斜陽産業というような新聞記事を見かけるが、決してそうではない。人命を救う技術としても世界では半導体を採り入れる動きが多い。例えば、来年2月に米国で開かれるISSCCでは、てんかん患者の脳波から発作を検出し即、治療する半導体技術を台湾の大学が発表する。てんかんの発作を防止し、治療するという半導体回路だ。

 

ワイヤレスセンサネットワークは金属疲労や、建造物の状態を、センサを使って常時モニターし、変化が生じればそれを遠隔地でも観測できるというシステムだ。半導体技術を使ってセンサを作り、半導体で電波を飛ばす無線回路を作り、半導体を使って解析し、半導体を使ってディスプレイを動作させる。遠く離れていても、海外にいても今ならインターネットを通じてトンネル内の金属やコンクリートの劣化をモニターで観測できる。こういったシステムがワイヤレスセンサネットワークだ。

 

人間が常に監視することができない、トンネルや橋梁など巨大なシステムにワイヤレスセンサネットワークが威力を発揮する。今回は笹子トンネルに起きたが、建設省やNEXCO(旧道路公団)は、一刻も早く、ワイヤレスセンサネットワークを全国全てのトンネル、橋に設置すべきだ。笹子トンネルの事故は今回に限ったことではない。

 

さらに、今回の事故の教訓にするため、事故調査委員会やなんらかの委員会にエレクトロニクス関係者を入れることを忘れてはならない。以前、原子力安全委員会にエレクトロニクスエンジニアを入れるように提案したが、今回の事故の調査委員会にもエレクトロニクス関係者や半導体関係者をメンバーに加えるべきだ。原子力関係者だけでは相変わらずローテクを使い続けることになり、福島の教訓が生かされないことになる。今回は、笹子トンネルの教訓を生かすことを考えるべきだ。

2012/12/02

   

ここがヘンだよ、日本のITエレ業界!(1)経営判断を速めよ

(2012年11月22日 22:23)

世界のエレクトロニクス産業がまだ成長し続けているのに対して、日本だけが没落している。特にリーマンショック後の回復が止まっている。世界と日本との違いはいったい何か。違いを整理してみると、日本の経営が世界から見て実に特異な位置にある。その一つは経営スピードの遅さ、2番目に親会社、子会社、孫会社といった中央集権支配の強さ、3番目に垂直統合であることを標榜しながらその良さをちっとも生かしていないこと、4番目に経営者が資金調達に動かないこと、5番目に企業買収に対するアレルギーがいまだにあること、などこれらの点は全て世界の企業との大きな違いだろう。もちろん、リーダーシップの強い中堅企業や中小企業が独自の地位を築き、成長を続けている所もある。今問題にしているのは、大手のエレクトロニクス企業である。まずはこの5つについて考察してみよう。このシリーズは5回続けることにする。

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図 アイロボット社のルンバ 同社ホームページから

世界のエレクトロニクス、ITビジネスのスピードは極めて速い。世界の産業界では、経営スピードが速いことから昨日の常識が今日の非常識になり、その逆もしかりである。しかし、日本の動きは何とも遅い。海外のエレクトロニクス産業人の本音を聞くと、日本の経営判断の遅さを大きな問題にする。昔に比べると少しは速くなったけど、世界の業界はそれ以上に速くなったため、やはり日本の遅さが目に付く。日本とのビジネスのやりにくさはこの遅さにあることを上げる海外の産業人は多い。

 

かつて、日本のエレクトロニクス産業にはソニーという強烈なテクノロジリーダーがいた。故スティーブ・ジョブズ氏が手本にしたとも言われている。トランジスタラジオを発明し、トランジスタテレビ、テープレコーダー、「ウォークマン」、CD-ROMMDディスク、CDプレーヤー(フィリップスが先行したが)、超小型ビデオ撮影機「バンディカム」などで世の中をアッと言わせた。その後を追って、「マネシタデンキ」と揶揄された松下電器産業が同じような製品を開発し、巨大な量産工場を作りソニーの市場を食って成長した。ソニーが先行し、松下が2番手、さらに大手が続く戦略で市場を形成するという、日本の必勝パターンがかつてはあった。

 

しかし、デジタル時代には何よりも開発スピードが違ってきた。いわゆる設計から市場に出すまでの期間Time-to-marketT2M)がグンと短くなった。かつての家電製品の寿命は8~10年はあった。今の携帯機器は2~3年しかない。10年寿命の時代は2番手戦略でも十分間に合った。開発に2~3年はかかるからだ。しかし、2~3年の寿命の時代になった今は、この戦略は使えない。さらに、グローバル化によって日本のある企業が世界の先頭を切って製品を出しても韓国企業がすぐ後を追う。国内の2番手企業よりも先に製品を出す。もう、みんなが「ソニー」にならなければ勝てない時代になったともいえよう。

 

例えば、アップルとサムスン。スマートフォンを見ている限り、アップルが生み出したiPhoneの革新性は言うまでもないが、当初のサムスンはアンドロイドを使って似たようなユーザーインターフェースを採用した。しかし、その開発期間は短かった。2007年の春にiPhoneが発明され、その夏にはグーグルがアンドロイドOSを発表し、2008年春のMobile World Congressでは早くもTIがアンドロイドベースの開発キットを発表した。サムスンがスマホを生んだのはわずかその1年後である。アンドロイドベースでタッチスクリーンの高機能な携帯電話をiPhoneと区別するためにスマートフォンと呼んだ。2000年ころから米国で使われていたBlackBerryもスマホの仲間に入れた。ギャラクシノートはさらにiPhoneにはないお絵描き機能が充実しており、もはやiPhoneの真似モノとはいえなくなった。

 

しかも、製品化のスピードが速い。韓国のサムスン製ギャラクシーと台湾のHTC製のスマホはいつの間にか日本市場で大きな存在感を持っていた。それまでの普通の携帯電話では世界一だったノキアもサムスンも絶対に入れなかった日本市場を台湾、韓国企業がスマホではいとも簡単に攻略した。それは日本メーカーよりもずっと早く出してきたからだ。

 

日本の携帯電話メーカーのスマホ対応は実に遅かった。これこそ、世界から取り残されたスマホだった。いまさら世界には売れない。iPhoneよりもギャラクシーよりも魅力的な何か、楽しいことを体験できる何か、が残念ながら何もないからだ。防水だけでは無理。機械的に強いだけでは無理。サムスンがアップルよりも楽しい機能を付け、オリジナリティを出したのに対して、日本のスマホは相変わらず驚きがない。このために、日本の携帯電話メーカー各社は、ビジネス機会を失ったのである。おそらく1社当たり数百億円を超えるレベルの機会損失だろう。その責任はあいまいにされているが、やはり経営判断の遅さに尽きる。

 

要は、速い経営判断をしなければ数百億円の損害を会社に与えているのだという自覚が足りないのである。

 

経営判断が遅くてもまだ日本企業がやっていける分野もある。冷蔵庫や洗濯機、掃除機など白物家電の分野だ。ここではまだ間に合っている。しかし、1家に1台の家電が一人に1台になるにつれ、間に合わなくなってくる。その一つの例が掃除機だ。お掃除ロボット「ルンバ」は1家に2~3台は欲しいと言われている。あるいは従来の掃除機にプラスして「ルンバ」が欲しいという声も聞く。アイロボット社やダイソン社が日本市場に参入できたのは、1家に2~3台時代に入ったからだ。1家に1台の白物家電製品を10年使う場合にはT2Mの短さは影響しなかったが、1家に2~3台時代には数年おきに買い足すため、実質的な製品寿命は3~4年になったと見なしてもよいはずだ。

 

経営者が判断をもっと早くすることが、ビジネス損失というリスクを減らし、利益を生むことにつながる。経営者は判断を早くするための仕組み作りを最優先して取り組まなければ、日本のエレクトロニクス産業は負けてしまう。日本の再起は経営判断を短縮するための仕組みを早く作りだして実行することにかかっている。これができるところが生き残るだろう。技術は勝っているがビジネスで負けているのではなく、経営判断の遅さで負けているのである。

2012/11/22

   

楽しいクリスマスイルミネーション自作の季節がやってきた

(2012年11月16日 10:51)

今年もクリスマスイルミネーションの季節がやってきた。私は1995年ごろからイルミネーションを自作してきた。半導体野郎を自称する私がクリスマスイルミネーションを手掛ける以上、光る半導体であるLEDを利用することをモットーとしてきた。秋葉原へ行って、できるだけ安いLEDを入手し、大量に並べて光らせる。どの店がどのLEDを大量に安く売ってくれるか、ずいぶん覚えた。

 

毎年少しずつLEDを買い足して、作品を作っていく。当初は赤、橙、緑、黄色しか手に入らなかった。各色50個単位でストリングを作っていく。当時の青色ダイオードは開発されたばかりで1300円以上もした。50個で1万円を軽く超えてしまうため、当分手が出なかった。そのあと青色LEDの上に黄色い蛍光塗料を塗った白色LEDが登場した。現在のLEDランプと同じ構造のモノだ。

 

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図 2階のLEDイルミネーションが自作

 

青色LEDに黄色い蛍光塗料を塗るとなぜ白色になるか。白色は基本的には赤、緑、青の光の三原色を混ぜることで実現するが、赤の光と緑の光を混ぜると黄色になることから、青に黄色の光を混ぜると、白色になるという訳だ。ただし黄色の光と一口に言っても赤よりの黄色だったり、緑よりの黄色だったりすると、白色が冷たい色や暖かい色に変わる。蛍光塗料がその決め手となる。基本的な青色LEDは変わらない。ただし、最近では紫色や紫外線LEDも出てきたため、波長の短い紫外線に赤、青、緑の色フィルタをかけることで白色にする方法もある。

 

ともあれ、1995年ごろ、LEDを点滅させるために、標準ロジックを秋葉原で買ってきて、点滅時間をRC定数を変えて調整し、LEDドライバ回路を作った。この回路を考える時が楽しくでしょうがない。家内から、「なんだか楽しそうね」と何度も言われた。回路を作り間欠動作を確認すると、今度は外に置くための防水対策である。ここが最も難しかった。試行錯誤で何とかソリューションを見出した。カギはいい加減にパッケージすることだ。きっちりとパッケージすると、パッケージ前の空気に含まれる湿度が悪さして却って金属部分が腐食してポロリと腐って落ちた。パッケージしなければ水が入る。決め手は、水が入らない程度に空気が流れるくらい穴をあけて収めることだった。

 

試作したLEDドライバ回路はプリント基板上に形成したもので、それをアルミのシャーシに入れた。あれから17年経過したが、いまだに壊れない。信頼性は極めて高い。CMOS標準ロジックは17年間、故障なしである。

 

LEDで故障するのは半導体部分ではなく、外部に出ている金属のリード線や、はんだ付け部分などの金属部分である。これが金属疲労を起こす。LED50個単位で直列接続すると、機械的なストレスによって金属リードがはがれたり、腐ってしまったりする故障が圧倒的に多い。クリスマスシーズンの1~2ヵ月間、LEDから外部に露出している配線やリード線が腐食する。pn接合の半導体が壊れることは雷などによるサージでも入らない限り一度もない。半導体は丈夫だなあ、とつくづく感じる。屋内に飾るLEDは実は17年間故障しなかった作品も多い。屋内では水分が少ないからだ。

 

半導体を知っていると、エネルギーバンドギャップから想定されるpn接合順電圧、それを直列接続してLEDにかかる直流電圧、さらに全波整流してアルミの電解コンデンサとコイルあるいは抵抗で一定にした直流電圧を割り出すことができる。直流電圧を測定し、直列接続できるLEDの個数を求め、動作させる電流を求め、バラスト抵抗値を決めた。これによって、極めて低い消費電力でLEDを光らせることを17年間続けることができた。

 

昨年は震災の影響であまり派手にせず、緑のLEDで、「Saving Power」という文字板を作った。今年は何にするか、考え中だ。この時が最も楽しい。昔のラジオ少年に戻った気分を楽しんでいる。

2012/11/16

   

エコシステムこそ、世界の勝ちパターン

(2012年11月12日 23:16)

エコシステム、直訳すれば生態系という意味だ。環境に優しい、という意味ではない。生態系は、太陽、空気、水、生物が係わりながら一つの循環システムを作っている。動物が植物を食べ、体の中で循環した後、排泄し太陽と空気、バクテリアの力を借りて肥料となり再び植物となる。太陽、空気、水、生物はエコシステムの中で、いずれも欠かせない存在になる。この繰り返しシステム(sustainable system)が産業界にも当てはまる。ここに産業界を当てはめて、機器メーカー、OEM、顧客、製造装置メーカー、材料メーカー、開発ツールベンダー、ソフトウエア開発ハウスいった各企業がチームを作って新製品を開発する。各社とも得意とする技術を持ち、プロジェクトチームとして新製品や新サービスを作り出し、成長していく。このプロジェクトチームとなるシステムをエコシステムと呼んでいる。

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エコシステムという言葉を最初に聞いたのは、2004~2005年ごろ、英国ケンブリッジにある半導体IPビジネスの雄、ARM社を訪れ、当時COOTudor Brownさんを取材した中で言われた言葉だった。日本ではエコといえば環境に優しいという意味が主流だったためそう思い込んでいたが、やがて言っていることが何か変だと気が付き、聞きなおして理解を求めた。

 

ARMのビジネスは、半導体チップの中のマイクロプロセッサ回路だけをライセンスして販売・サポートする。携帯電話やスマートフォン向けの、いわゆるアプリケーションプロセッサやモバイルプロセッサ、組み込みシステムのプロセッサなどの制御プロセッサや演算プロセッサとして使われている。累積で300億個ARMのプロセッサコアを搭載したチップが出荷されてきたという。ライセンスしているメーカーにはクワルコムやTI、インテル、nVidia、フリースケール、ルネサスエレクトロニクス、富士通セミコンダクター、東芝などほとんどの大手半導体メーカーが含まれる。1台の携帯機器には数個のARMコアが使われており、特に携帯電話やスマートフォンには100%、使われていると言ってもよい。

 

ARMはプロセッサコアを半導体チップに組み込むために開発しやすいツールを提供する。また設計したプロセスコアがシリコン上で性能を本当に発揮できるのか、シリコンに集積して実際に試作してみなければわからない。このため製造専門のファウンドリ企業と組む。さらに、設計ツールを販売するベンダー、それを使ってソフトウエアをプログラミングしてくれる企業、LSI設計ベンダー、設計通りに書かれているかどうかをチェックする検証やシミュレーションのツールも必要だ。最終顧客の求めるLSIには、ARMのプロセッサコアだけではなく他の回路も集積されているため、全ての回路を搭載した時に顧客の望む性能が出ているかどうかも検証しなければならない。だから、ARMのプロセッサコアを使ってLSIを開発するためにはさまざまな専門家企業と一丸となって取り組まなければならない。だから、エコシステムが求められるのである。

 

これがARMだけではない。LSIが複雑になればなるほど、電子機器の機能が増えて複雑度が増せば増すほど、それぞれの専門の得意な企業に仕事を依頼しなければ求められる期日に間に合わなくなる。エコシステムはIPビジネスだけではなく半導体や電子機器ビジネスにも当てはまるのである。

 

なぜこういったエコシステムが勝ち組になるのか。かつては製品寿命が長く、家電品はテレビ、冷蔵庫、エアコン、ビデオプレイヤーなどは10年間使うことが前提だった。デジタル家電はわずか2~3年で新製品を買い替えるようになっている。また2~3年で性能・機能はガラリと変わるため、全く新しい商品が生まれたこととして受け入れる。商品寿命の短さは、メーカーにとってタイムツーマーケット(市場へ投入するまでの期間:Time to marketあるいはT2M)が短くなっているため、一つの商品を開発するのに自社だけでは間に合わない。他社の得意な部品や要素はライセンスを受けたり購入したりする。設計・製造するための装置やツールも専門メーカーから購入する。

 

この考え方は東京大学の藤本隆宏教授らが提唱する、擦り合わせ方式からモジュール方式への転換の時代に共通する。今はモジュールのようにインターフェースをハードもソフトも共通化し、ドッキングできるようになっている。まるで子供のおもちゃのレゴブロックのようにして組み立てていく。部品がなければ自分で作るのではなく外から買ってくる。日常生活では常識だ。しかし産業界では長い間、非常識になっていた。その結果、ビジネス機会を失い、開発しても市場へ投入できなくなった。無理に商品を出すと価格を下げられざるを得ない。これでは利益は生まれない。

 

世界的にT2Mが短くなっているため、さっさとエコシステムに則り開発、商品化することが他社に先駆けることにつながる。少なくとも先行者利益を上げることができる。全て自社で開発して市場に出した時はもう手遅れ、ビジネス機会を失ってきたのが日本の垂直統合システムだった。

 

エコシステムを作るには、ツールやソフト開発、サプライチェーンなどの世界のトップ企業と組む。必要な全ての分野で世界トップ企業を寄せ集める。日本に世界一がいなければグローバルに相手を求める。このためには海外の標準化委員会に顔を出しておき、海外の動きをいち早く社内に伝える。海外情報をいち早く活用できるのはインターネットの時代になったおかげだ。社内で即、活用すれば、同時開発・同時マーケティングが可能になる。

 

   

ルネサスよ、改革の手を緩めるな

(2012年11月 6日 22:18)

先日、ルネサスエレクトロニクスの決算発表があった。2012年度第1四半期(4~6月期)は、受注が着実に増えており、今年度は営業黒字を見込めるところまできた。第2四半期(7~9月期)は、営業赤字が前期から119億円も減少し、57億円にとどまった。この分では順調に行くように思えた。ところが、その中身を見ると、、、、。

 

Q2の赤字減少の立役者になった製品は、カスタムLSI(ルネサスはSoCと呼ぶ)だった。任天堂向けのゲーム機用のチップと思われるが、これがまずい。なぜか。ルネサスはカスタムLSIを売却ないし停止しようとしていたからだ。カスタムLSIはよほどのヒット商品ではない限り数量が限られているため、利益を生みにくい。言葉は悪いが、今期、「まぐれ」でカスタムLSIが売れてしまったために、このカスタムLSI部門の整理しようという動きが止まってしまったらしい。

 

カスタムLSIは、顧客の希望する仕様、設計通りにLSIを設計・製造する商品だ。融通性は全くないため、他社には売れない。半導体の製造ビジネスは1枚のウェーハも10枚のウェーハも処理する上でさほど大きな差はないため、数量が増えれば増えるほど利益が出るビジネスである。しかし、数量がさほど多くなければ赤字になる危険なビジネスである。このため世界の勝ち組と言われる半導体メーカーは、カスタムLSIはよほど数量の出るチップでない限りやらない。

 

世界の勝ち組が行っている半導体ビジネスは、共通のプラットフォームとも言うべき基盤を作り、顧客ごとにソフトウエアやわずかなハードウエアでカスタマイズするというモデルである。基本的なハードウエアは1チップで済むため量産が可能で、低コストで作ることができる。顧客が他社と差別化するためにカスタマイズできる開発ツールを提供する。顧客が使いやすい開発ツールを作ることが多くの顧客獲得のカギとなる。

 

今はLSIに億単位の数のトランジスタを集積できる時代になっている。製造だけではなく設計にも膨大な時間がかかる。できるだけ共通部分を多く用意して、ソフトウエアやわずかなハードウエア回路だけをカスタマイズすることで素早く設計し、より多くの顧客を獲得する。このため半導体チップとしてはカスタマイズ可能なようにプログラマブルなチップが求められる。それもできる限り、カスタマイズに必要なソフトウエアコードが少ないチップをメーカーもユーザーも求める。コストを下げられるからだ。

 

ルネサスのマイコンはまさにプログラマブルチップの代表だ。ソフトウエアのプログラミングやデバッグ、C言語とアセンブラとのリンカーなどのツールを開発し、第3(サードパーティ)に顧客のソフトウエアを開発してもらう。こういったツールの開発、ソフトウエア開発、などを半導体メーカー以外の企業に開発してもらい、みんながつながる「エコシステム」(環境に優しいという意味ではなく生態系という意味であり、上流から下流、さらに上流へとみんながつながった一つの生態系と似ていることからこのように呼ばれる)を構築した企業が勝つ。半導体メーカーはチップの企画やシステム設計に注力できるからだ。ルネサスがマイコンでトップを行くのは、旧NECエレクトロニクス系にしろ、旧ルネサステクノロジ系にしろ、こういったエコシステムを持っていたからだ。

 

インテル、ARM、クアルコム、TSMCTIなど世界の勝ち組はすべてエコシステムを持っている。これまで全て自社で設計から製造、ツール作成、ソフト開発などを行ってきた日本のメーカーが世界から取り残されたのは、こういったエコシステムを持っていなかったことが大きい。

 

エコシステムが不要なカスタムLSIで「キラーアプリさえあれば儲かる」、という幻想はもはや通じない。ルネサスは資金的な余裕ができた今こそ、カスタムLSIを捨てる改革を早く進めなければ、必ずまた同じことを繰り返す。1030日の日刊工業新聞によれば、「ある主力行の幹部は『2000億円という数字が出てきた途端に(ルネサスから)システムLSIの整理という話が聞こえなくなった。それではいけない』と話す」という。

 

ルネサスは資本を強化できたためSoC(カスタムLSIのこと)という言葉が消えたといえる。改革のスピードが緩んできた。29日の決算発表会見でもSoCを売却、閉鎖するという言葉は全く聞かれなかった。このままでは本当につぶれる。経営陣は1~2年持たせればよいとでも考えているのだろうか。本気で改革する気があるとは思えない。少なくとも任天堂以外のカスタムLSI部門を一刻も早く処分し、任天堂向けのカスタムLSI1~2年という期間を区切ってやめることを告げるべきである。エルピーダは資本を強化した後1~2年後に倒産した。他山の石とせよ。

 

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写真 ルネサスのロゴ

 

プログラム可能なSoC技術の開発とビジネスへ早く移行しない限り、世界の勝ちパターンからますます離れていく。会社の存続を第一に、カスタムLSIの停止を即刻やってほしい。各従業員にはそれぞれの家族がいることを忘れないでほしい。私の切なる願いだ。

2012/11/06

   

日本の若者も起業したい気持ちは強い

(2012年11月 4日 18:15)

今の若者は起業する意欲が少ない、と何かの記事で読んだことがある。実際に20~30代の若者に聞いてみたら、とんでもない間違いだった。記者か取材先の相手が勝手にそう思いこんでいるだけではないか。彼らは若者の本音を聞いたことがあるのだろうか。取材先の相手はたいていの場合、部長以上の年齢の人たちだが、彼らが上から目線で見下すような質問をしても若者の本音は引き出せない。同じ目線で同じ人間という意識で質問したことがあるだろうか。若者の本音を引き出せる問い方を企業の管理職は本気で考えたことがあるか。

 

私のようなジャーナリストは、聞くことが商売である。しかも真実はどこにあるのかを知ることが本質的な作業である。もちろん、このためにあの手この手を使うが、最終目的は真実を知ることである。自分が勝手に思い込んだストーリーに合わせるような「ねつ造」などは問題外である。なぜ真実が大切か。真実に届かなければ、この世の中がどう動いているのか全くつかめないからだ。つかめなければ適切な判断はできない。

 

取材する場合も同じ。仮説は立てるが、仮説はあくまでも仮説であり、聞いた声が仮説と違う場合はいつでも仮説を修正する。マスコミやメディアの中には記者が思いこんだまま記事を書いているように思える場合もあるが、ある意味でこれは「ねつ造」に匹敵する。ジャーナリストの役割は真実の声を反映させることであり、自分の考えを押しつけることではない。

 

ある記者に、インタビュー記事は最初から8割がた物語りができているもので、なにもない状態から相手の意のままに言われて記事を作るのは宣伝の片棒を担ぐことになる、と言われたことがある。しかし、これは一見もっともらしく聞こえるが、真実を追求するという姿勢からはほど遠い。宣伝の片棒を担ぐかどうかは、記者が判断して宣伝だと思う部分はカットすればよいだけのことだ。仮にインタビュー相手の意のままのことを書いたとしても、それを読む読者は宣伝ばかりする人だな、と思うだけであり、それも真実には違いない。

 

最近のルネサス報道のひどさは海外にも伝わっている。海外の人は、まるでひどいスポーツ新聞のような感覚で報道を受け止めている。事実を見極めるように注意して日本の報道を読んでいるようだ。真実はルネサス社員やルネサスの顧客がよく知っている。ルネサスは、ようやく製品戦略、ビジネス戦略が固まり、未来に向けたモノづくりに向かっている。このことをまともに報道したメディアが少ない。ただ、キャッシュが足りなくなり自己資本比率が低下したために資本を強化しようというのが正しい姿だ。自己資本比率が10%を割りながらも未来に向けてどう立て直すのかまだ全く見えないシャープや、倒産したエルピーダと同列に議論する企業ではない。

 

今何が起きているのかを短い言葉で世の中に伝えようとすれば、できる限り真実に迫らなければいえない。自分の仮説を無理やり相手に言わせるという強引な手法は決して真実を表していない。

 

取材するときだけではない。講演会などで司会やモデレートする時も、大枠(これが取材の仮説に相当)は決めておくが詳細は決めない。参加者の声、それも正直な声を聞くためだ。その時々の議論に応じて、話を変えていく。そうやって大きなテーマからははずれずにいけば、新しい発見が次々と現れる。これが最も楽しい。

 

若者の言葉が真実だと確信したのは、ワークショップを開催して、誰でも発言できる雰囲気を作ることに成功したからだ。多少アルコールも入れたが、最初はシニア世代が発言し、自由にモノ申した後、若者に振ると、では私にも僕にも言わせてほしい、ということになった。若者は決して気取ったり、心にもないことを言ったりはしない。シニアの前では遠慮するのが普通だからだ。

 

彼らは、企業で働きながら今すぐ何かを立ち上げようということではなく、いつかは起業してみたいと思っている。ということは、日本を元気にするためには若者が起業できる環境を作ってやることがシニアのやるべき仕事ではないだろうか。エンジェルや本当の意味のベンチャーキャピタルの育成、若者の提案を正しく評価する仕組み作り、ベンチャーを成功させるために起業した仕事内容を定期的にチェックし、適切なアドバイスをし成功へと導くことのできる人材のソース作りなど、起業するためのさまざまな仕組み作りを始めるべきだろう。

2012/11/04

 

   

半導体産業のゆくえを話し合おう

(2012年10月30日 16:12)

日本の半導体はいったいどうなるのだろう。こうやってみたら、ああやってみたら、いろいろな方が意見を述べる。でも日本の半導体産業全体をどうにかすることははっきり言ってできない。半導体メーカー1社ごとにその性質も、得意分野も、市場動向に対する感度も、全て違うからだ。

 

これまで世界の半導体メーカーがさまざまな変遷を経て現在に至った背景には、1社ごとにそれぞれが努力し、ソリューションを見つけてきたことがある。日本の半導体産業全体を議論すること自体がナンセンスではないだろうか。1社ごとに知恵を絞り、生き残るための方策を見つけること以外にソリューションがないからだ。

 

米国では1980年代中ごろ、インテルはDRAMを捨て、マイクロプロセッサにフォーカスした。80年代中ごろからコンピュータはダウンサイジングが叫ばれていたからだ。インテルがこの方針を打ち出した時の記者会見には、故ロバート・ノイス社長が来日、その理由を説明した。「DRAMはインテルが発明したものだが、もはやコモディティになってしまった。もはやインテルが扱うべき製品ではなくなった」と。

 

DRAMをやめたと述べた米国の半導体メーカーはインテルが最初だった。その後、モステック、モトローラ、ナショナルセミコンダクタなど米国メーカーが次々とDRAMを止めていった。そのような1985年にこれからDRAMを生産し始める、と宣言したメーカーが米国のアイダホ州に生まれた。ポテトチップで成功した男が半導体チップも始めた、と現地でいまだに言い伝えられている。マイクロンテクノロジーだ。マイクロンの経営陣の一人が85年に東京にやってくるという話を聞きつけ、取材した。DRAMの市場として日本メーカーが納入していたメインフレームメーカーではなく、マイクロンはパソコン市場に向けると言った。このためにはとにかくコストを下げる設計を行う。デザイン寸法の微細化だけではなく、メモリセルレイアウトに隙間なく配置するコンパクション設計も導入した。このためにメモリレイアウトの天才と言われたエンジニアをモステックから引き抜いた。プロセス上はできるだけマスク枚数を減らし、工程を簡略化した。自然界の放射線物質からのアルファ粒子によるソフトエラー対策はしない。ECC(誤り訂正回路)や冗長ビット構成などのアーキテクチャは採らない。余計なメモリセルを追加して面積が増えることを嫌ったためだ。パソコン応用なら、ソフトエラーが発生すれば電源を切れば元通りに回復するからだ。銀行用メインフレームだとこうは行かない。マイクロンの低コスト技術は徹底していた。現在、そのマイクロンがエルピーダを買収、傘下に収めた。

 

1990年代に入ってもDRAMに固執したのはTIだった。そのTI1995年にパソコンがブレークする時にDRAMを捨てた。DRAMを生産できるメーカーが日本と韓国共にコモディティを生産するからだ。TIは全社的にブレーンストーミングを行い、ポストPC時代をどう生きるかをテーマとして未来のTIを議論した。その結果、アナログに特化し、デジタル製品はDSPと標準ロジックだけを残すことを決めた。

 

米国企業がみんなで何かをやって復活したわけではない。企業11社が自分の生きる道を見つけた結果である。日本の半導体産業を考える時、みんなで一斉に何かをやるのではなく、11社が自社の得意な製品にフォーカスすることが強くなる早道である。米国メーカーの教訓こそ、今の日本の半導体メーカー11社が考え抜くことではないだろうか。

 

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図 シリコンバレーで行われたe-Summit2012 休憩時間に撮影

私が編集長を請け負っているセミコンポータルでは112日に日本半導体産業のゆくえと題して、これからの半導体産業の生き残りについて話し合おうという場を企画した。最初に直近のシリコンバレーの現状を紹介し、では日本の半導体はどう向かうべきかについて話し合うきっかけにしたい。各社が各社で議論して自社の進むべき道を模索する手掛かりにしてほしい。シリコンバレーをとっかかりにしたのは、ベルギーのIMECにせよ、英国のARMにせよ、世界トップの半導体企業・研究機関がモデルにした街だからである。スタンフォード大学やUCバークレイなどの大学と起業家、ベンチャーキャピタル、潜在顧客、サプライチェーンがまとまってあり、いつもイノベーションが生まれてくる街である。グーグルもアップルもフェイスブックも電気自動車のテスラもここにある。いつ行っても、イノベーションという刺激を受ける街でもある。

 

(2012/10/30)

   

グローバル化対応が産業を活発に

(2012年10月22日 21:42)

産業界において現在の日本と、アメリカあるいは欧州、アジアと比べて最も大きな違いは、失われた20年を反省し前向きの戦略を立てられないことではないだろうか。アメリカにやってきて、いろいろな国の記者と話をしているうちに、いまだに失われた20年をきっちり反省していないことに気がついた。失われた20年の反省とはグローバル化への対応である。

 

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図 国内半導体産業はグローバル化対応のまずさで世界から置いてきぼりを食らった  次は民生電子産業だった

 

1980年代後半のバブル崩壊と共に、日本の半導体産業は徐々に崩れていった。半導体産業だけではない。民生用エレクトロニクス産業、IT産業も実は、じわじわと衰退しつつある。大きな要因はグローバル化に対応できなかったことだ。国内市場中心に製品を開発し、それを海外にもただ売っていただけであった。グローバル化への対応ができていなかったことによって真っ先に衰退してきたのが半導体産業であった。次に民生用エレクトロニクス産業がその影響を受け、ソニー、パナソニック、シャープが沈み始めた。通信産業では国内で極めて強かったNECが下降し始め、続いて富士通、沖電気がグローバル化への対応に出遅れた影響を受け始めた。

 

グローバル化は否が応でも日本に迫ってきているのにもかかわらずその対応を怠った産業から影響を受け始めているのである。先に影響を受けたのが半導体であり、時代の最先端を行くからこそ、経営のかじ取りを誤ると大きくその影響を受け衰退していくことになる。この傾向は次第に他の産業へも影響を受けていくだろう。B2Bbusiness to business)の素材産業はまだしも、最終製品の産業、例えば農業や水産漁業、土木・建築産業、医療・薬品産業、エネルギー産業、交通産業などへもグローバル化の影響はじわじわと進んでいく。

 

世界の半導体産業は成長が止まらないのにもかかわらず、日本だけが落ちている、その実情を「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」(日刊工業新聞社刊)で報告した()CEATECでの衰退、NECの業績不振、スマートフォンビジネスでの韓国企業の日本での躍進、こういった要素を見ているうちに、「グローバル化に対応していないことに衰退の原因がある」と気がついた。ということは、現在はまだグローバル化が進んでいない分野においてもいずれ同じことが起きることになる。

 

グローバル化に対応していない、とはどういうことか。一言でいえば、グローバルな視点で自社の強み・弱み・メガトレンドを分析せず受け身に流されその影響に対応していない、ことである。IBMは設計が最も強い場所を本拠地にすると考えインドのバンガロールを全世界のIBMの中で設計拠点に選んだ。マクドナルドは今最も安い牛肉を提供できる所を毎日リアルタイムで探し、オーストラリア、ブラジルなどから大量に仕入れ、世界各地に配送する。いずれもグローバルな視点で自社に最も有利な条件は何か、と考えている。

 

ところが日本では従来、国内で開発した商品を海外でも売るだけのビジネスをしていた。これをグローバル化と呼んでいた。しかし、日本の商品を海外に押し付けていただけにすぎないのである。海外の人たちが本当に欲しい商品作りになっていなかった。日本の商品が世界をリードしていた時代はこれでよかった。

 

しかし、世界の技術・文化・商品などのレベルが上がってくると、世界の人たちは日本の商品に満足できなくなった。世界の人たちが欲しい商品をどの企業よりも早く安く届けるために戦略を立て直し実行することが世界で勝てる方法になった。実際、世界の勝ち組を見ているとこのことに尽きる。この方法に対応できないことをグローバル化に対応していない、と私は表現した。

 

CEATECでの衰退は、日本の民生用エレクトロニクス産業の衰退とリンクしている。「CEATECが象徴する民生機器の凋落」で紹介した図が示すもう一つの意味は、日本の民生エレクトロニクス産業は、リーマンショックの後も回復していない、ことである。これは海外の民生用エレクトロニクス産業が活発になり、例えばCEATECと似たような展示会であるCESConsumer Electronics Show)が成長し続けていることと全く対照的である。つまり民生用エレクトロニクス産業でも半導体と同様、世界は成長しているのに日本だけが成長が止まっている。

 

実は、世界のハイテク技術・製品・ビジネスモデルなどが変化しつつあることに日本はまだ対応していない。時代の変化は激しく、例えば商品の定義は変わりつつある。かつてコンピュータや通信機器は産業機器に分類された。ところが、今ではコンピュータはその中心がパソコンになり、通信電話機はスマートフォンになり、しかもどちらも民生機器に分類されるようになっている。では日本企業は、パソコンや携帯電話を民生機器と定義しているか。企業の集まりであるJEITA(電子情報技術産業協会)はこれらをいまだに産業機器に分類している。

 

半導体も民生機器もグローバル化の波が激しくうねっている。携帯電話は例えばかつて世界第1位のノキアも、2位だったサムスンも日本仕様に凝り固まっていた日本市場に参入できなかった。しかし、スマートフォンは米国のアップルや韓国のサムスンが日本市場でも主流になっている。世界の企業が日本市場に溶け込んできているのである。パソコンはデルやHP、レノボ、エイスース、エイサーなども日本市場にすっかり溶け込んでいる。海外市場に日本のパソコンの存在感はもうなくなった。

 

米国カリフォルニア州のシリコンバレーに来て、リニアテクノロジーを訪問し、新しい半導体ICのデモをするためのディスプレイモニターがCoby社製であったことに気がついた。Coby社はアメリカで設立された新しい民生用エレクトロニクスメーカーである。ファブレスモデルを使い、消費者が満足できる程度の性能を持つ製品を早く安く作り、最初はフォトフレームから参入し、モニターやテレビも作るようになった。アメリカでは民生エレクトロニクス産業はかつて日本に押され、いったん衰退したが、この10年くらいの間にVizio社やCobyなど新しい米国企業が民生エレクトロニクスで活躍しているのだ。

 

さまざまな産業がグローバル化を意識し、海外企業に負けないように先駆ける気持ちで製品開発、標準化作り、コラボレーション、企業買収など、グローバル化に必要な仕事を進めていただきたいと願う。半導体産業は他山の石である。

2012/10/22

   

日本の産業を心配する欧米の産業人

(2012年10月18日 22:49)

米国西海岸シリコンバレーの(ロスガトスLos Gatos)にやってきた。久しぶりに会った人たちは一様に、日本はどうなっているの?と質問する。これまでにはなかったことだ。ルネサスエレクトロニクスには資金を注入して今にもつぶれそうな報道を読んでいるから、いったい日本はどうなるのか、どうなっていくのか、を心配している。


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図 Los Gatosのダウンタウンの一つ Old Town

 

830日のブログルネサスを巡る報道の在り方に思うにおいて、ルネサス報道問題を議論し、同意していただける人が業界には多いことに改めて確信を持った。経営的に見れば、技術戦略、製品戦略がようやく明確になってきたが、将来に向けて投資するにはキャッシュが足りないという状態であった。今にもつぶれそうという状態ではない。正確な報道がされていないためにルネサスは過少評価されていた。米国の産業人、欧州のジャーナリストたちは心配していた。正しい姿を伝えると、ホッとした様子を見せてくれた。

 

日本にいると、半導体は斜陽産業、という報道がなされているが、米国へ来るといつものように全く違う話がいっぱいある。活気に満ちている。デジタル電源を低コストで作るための新しいIC技術や、ユニークなMEMSファウンドリとIPビジネス、効率29%のフレキシブルなソーラーパネル(タブレットPC程度の大きさ)などが続々出てきている。

 

斜陽産業はむしろコンピュータである。サーバ市場は毎年縮んできている。パソコンはこの第3四半期は出荷台数ベースで-8~9%と縮んでいる。スマートフォンとタブレットは急速に立ち上がっているが、このブームは3~4年で終わるだろう。世界同時にブームになっているため、飽和すれば一斉に縮んでしまうからだ。コンピュータの出荷台数が減ることは、メガトレンドとして、仮想化技術とクラウド利用の進展がある。パソコンは、次々と新しい性能を追求する時代は終わったといえよう。

 

台湾の記者とも鴻海精密工業について、意見交換した。アジアを長いことウォッチしてきた私は、シャープと鴻海とのコンビネーションはうまい相補関係ができることを伝えると同意してくれた。すなわち、技術開発の得意なシャープと低コストで生産することが得意な鴻海との役割分担である。例えば、シャープはIGZOInGaZnの酸化物半導体)技術を鴻海が盗むのではないかと疑心暗鬼になっているように見えるが、IGZOの量産技術を鴻海に開発してもらえばよい。シャープには月産1000万個の液晶を生産できる能力はない。これまでは100万個レベルしか経験がない。シャープは量産ではなく次の技術を開発する。きちんと割り切った役割分担を行い、2重の開発や生産投資をするのではなく、それぞれが得意な分野に集中すればもっと効率は上がり、すごいチームが出来上がる。

 

また鴻海は台湾の記者は取材できない、取材したくない、とも言っていた。鴻海は少しでも批判記事が出ると、記者を訴えるという手段を常に駆使してきたからだという。鴻海は言論の自由を奪っているのである。こうも専制的だと将来は明るくない。アップルがサムスンと同様、鴻海を外すことになったら極めて危うくなる。台湾にはEMSやサブコントラクタの業務を喜んで行う文化がある。ブランドよりも実を取る。新しいNexas-7UltrabookWindows 8などさまざまなデバイスが今後出るようになると、全て台湾のサブコンが請け負う。アップルが鴻海を外す可能性はサムスンほど高くはないが、ないとは言えない。

 

原子力発電の見方に対して日本は一体どうするのか、についても聞かれた。原発廃止と容認はほぼ均衡しているか、廃止がやや多い、という国民の声を伝えた。産業界は廃止に反対しているが、原発は廃止してからも30~40年という同位元素の長い半減期があるためメンテナンスが必要であることも伝えた。

 

どの分野でも日本の正しい姿を伝えることが重要で、私の出張はその役割ではないかと思っている。特に欧州のジャーナリストは、経済効果がはっきり見えない欧州危機よりも日本のエレクトロニクス産業・半導体産業を心配している。日本がコケれば、世界は大きな市場を失うのである。日本につぶれてほしくない。これが海外の人たちの本音である。

   

CEATECが象徴する民生機器の凋落

(2012年10月15日 21:11)

先週、CEATECに行かれた方はいつもと違う様子に気付かれたことだろう。私は、初日の特別公開日とウィークデイ最後の5日の金曜日に行ったが、いつもほどの人通りはいなかった。5日のブログでお伝えしたように、記者が集まるプレスセンターもやはり、まばらだった。昨年は、プレスセンターの机を独占して持ち物だけを置いて行く輩がたくさんいたが、今年はいつでも机を使うことができた。

 

CEATECが終わってから参加者をグラフ化してみた(1)CEATECの来場者数は、民生機器の国内出荷額とほぼ似たような傾向がある。このグラフはJEITAが毎月発表している民生用電子機器製品の出荷額、すなわち売上額を毎年1~7月の累計で表したものだ。今年の数字が7月までしかデータが出ていないため、2000年から2011年までの数字もすべて1~7月の累計数字を集めることで、グラフ化した。この累積統計手法は、季節変動を除外することができる。


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図 CEATEC参加者推移と民生機器売上との相関

出典 JEITA、エレクトロニクスショー協会


これによると、ソニー、パナソニック、シャープなど民生用電子機器メーカーの売上の低迷が続いているが、それと共にCEATECの来場者も減っているのである。これは何を意味するのであろうか。

 

会社の経営が不振になったから、CEATECに来なくなったということは、CEATECで市場動向や技術・製品動向を調べなくなった、という意味である。企業が調子悪いから情報収集さえやめろと指示しているだろうか。YESなら、負のスパイラルに入りこみ、V字回復はさらに難しいだろう。上昇力まで削ってしまう訳だから。R&D経費と同様、情報収集の時間とお金をケチればケチるほど、将来の投資がなされないから、企業は沈む一方になる。

 

今の総合電機、民生電機がダメなのは、この負のスパイラルに入ってしまったからではないか。V字回復しようという気概が感じられない。研究開発経費や情報収集費用まで削ってどうやって今後の売上を増やしていくのだろうか。R&D経費カットで利益を出せば経営陣が株主などへの言い訳はできる。経営者自身が2~3年つつがなく過ごし首切られないように問題を先送りしたい気持ちが働くのだろう。しかし将来成長するのに必要な経費まで削ってしまえばその会社の将来を切り捨てることと同じである。

 

展示会での来場者の減少はセミナーへの来客が減少していることとも関係する。最新情報を取りそれを生かして将来の売上アップにつなげていく、ということが出来ていないのだ。最近はどのようなセミナーに参加しても来場者が少なくなっている。有料だけではない。多くの無料のセミナーでさえ来場者は減少している。ますます暗くなるばかりだ。

 

セミナーは単に技術情報を得るだけではない。人との出会いを通じて、人脈を形成するというかけがえのない仕事でもある。その負のスパイラルを断ち切らなければ、企業の不振はいつまでも続くということを経営者は推して知るべし。ここは経営者が勇気を奮って、巻き返していかなければならない。