ルネサス子会社とSynaptics社の会見、新聞の見出しに違和感
(2014年6月12日 23:26)ルネサスエレクトロニクスが株式の55%を持つ純然たる子会社であるRSP(ルネサスエスピードライバ)社を、米国の中堅ファブレス半導体メーカーのSynapticsが買収するという記者会見を昨夕開いた。Synaptics社のCEO兼社長であるリック・バーグマン氏がRSP買収のいきさつについて語った会見であった。それが翌12日の日本経済新聞に掲載されると「ルネサス再建、見えぬ成長」という見出しの記事になり、これが今日の朝刊に掲載された。なんで?と思った。
会見に出席したのは、Synaptics社側はCEOをはじめ合計3名、片やRSPは工藤郁夫社長ひとりだけ。記者からルネサスに関する質問が出ても、工藤社長は「ルネサス本体のことは言えない。本社が買収を決めたことだから」と答えるだけだった。そもそも6月12日朝刊の記事は、先月9日のルネサスの決算発表で作田久男会長が話したことと一歩も出ていない。昨日の会見から、なぜ「ルネサス再建、見えぬ成長」となるのか全くわからない。
(2014/06/12)
クルマのドアミラーがなくなる
(2014年6月 4日 23:14)ドアミラーのないクルマが何年か先には登場する。ドアミラーは駐車場など狭い場所や道路で、人とぶつかることがあり、クルマから出っ張っている分だけ邪魔な存在だ。とはいえ、ドライバーからは後ろが見えなければとても不安で、バックミラーと併せて後ろのクルマを見る場合などは欠かせない。ところが、「今のテクノロジー」を駆使すればドアミラーがなくても後ろが全く死角なく見えるようにできる。
これが「電子ミラー」だ。大きさがわずか1cm四方のCMOSセンサカメラをしっかり左右に固定し、液晶ディスプレイでセンサからの映像を見る。米国の電気自動車ベンチャーのテスラモーターズは、すでに電子ミラーを搭載したドアミラーレスのコンセプトカーを提案している(写真1)。欧州では電子ミラーの規格の話し合いを始めているという。
電子ミラーはこれまでのドアミラーでは見えなかった死角までも除去する。クルマをバックさせている時に、かわいい孫をひいてしまったというような痛ましい事故を撲滅できる。米国では少なくともバックモニターを新車に取り付けることが今年から義務付けられた。クルマは少なくとも死角を完全に除去することが安全性を上げる重要な要素だ。
CMOSセンサで死角をなくすには魚眼レンズを使う。4方向に渡って180度のパノラマ映像が見られれば死角はなくなる。魚眼レンズの歪んだ画像・映像は半導体チップで修正する。歪んだ座標から直交座標へと変換するアルゴリズムを実行するソフトウエアも必要だ。座標変換を行うチップには、プロセッサ方式、FPGA方式などがある。
「今のテクノロジー」とは、半導体、組み込みシステム、ソフトウエアである。CMOSセンサも画像/映像処理プロセッサは半導体である。これにコモディティ部品の液晶を調達し、システムを構成しソフトウエアをプログラムすることで、電子ミラーは出来上がる。
5月、パシフィコ横浜で開催された「人とクルマのテクノロジー展」では、萩原電機が電子ミラーを試作、クルマに魚眼レンズセンサを取り付け、走行している映像をデモした(写真2)。彼らは専用のハードウエアで座標変換のアルゴリズムを実行させている。計算速度を速めるためだ。専用のハードウエアはFPGAで実現している。
米国には、魚眼レンズの映像を180度、あるは350度回転させられる技術を持つベンチャーがある。GEO Semiconductorだ。同社のデモ映像をビデオに収めた。彼らは、非常に広角レンズによる映像を時間的に左右(Pan)、上下(Tilt)、さらにズーム(Zoom)させられるようにした(PTZ動作)。クルマのドアミラーの代替に使った映像も、萩原電機のデモと同様だが、こちらは専用のプロセッサを開発した。ソフトウエアを変えることで、時間的なPTZ動作でも180度パノラマでも調整できる。
国内でも富士通は、自社のソリューションを提案・展示する「富士通フォーラム2014」において、電子ミラーを搭載したコンセプトカーを展示した。このコンセプトモデル(写真3)では、フロントガラスやダッシュボードにドアミラーの映像を置くという考えだ。スピードメーターとタコメーターは個人認証できるタブレットを利用し、タブレットを設置して始めてエンジンがかかる仕組みを提案している。
(2014/06/04)
次世代半導体、14/16nm FinFETか20nmFD SOIか
(2014年5月29日 23:42)インテルは22nm FinFETプロセスで製造した高性能マイクロプロセッサHaswellなどを1億個出荷したと言ってきた。ところが、その次の14/16nm FinFETプロセスでは生産を遅らせるという決定を最近行ったらしい。TSMCでも14nmFinFETプロセスはかなり苦労しているようだ。FinFETプロセス技術は歩留り良く製造できるのだろうか。懐疑的な見方が広がっている。
対抗馬として浮上してきたのが、STマイクロエレクトロニクスが力を入れている20nmのプレーナ型FETを用いたFD SOI(Fully Depleted Silicon on Insulator)技術だ(写真)。今月14日にはサムスンがSTからライセンスを受け、28nm FD SOI技術のマルチソース製造協力に関して提携合意した。ケイデンスは16日、自社のIPを28nm FD SOIプロセスでも動作することを発表した。
FinFETは、ドレイン-ソース間のリーク電流を下げるため、3方向から空乏層でパンチスルーさせた構造を持つ。従来のプレーナ型MOSFETでは、空乏層はゲートから伸びるだけの1方向しかなかったため、十分に閉じられない場合には、ドレインからソースにかけてリーク電流が増大した。十分に広げられるように不純物濃度を下げるとゲートしきい電圧Vthが変わるため下げられない。
基板バイアスを印加して空乏層を広げるというアイデアもある。しかし、トランジスタをオンさせる場合には電流はたっぷり流れてほしいから、基板バイアスもゲートと同時に戻さなければならない。つまり使いにくい。CMOSチップでは、できるだけ単純にオンオフさせなければ、ただでさえ複雑な設計回路は動作しなくなる。この結果、基板バイアスもかけにくい。
FD SOIは基板下に酸化膜があり、その空乏層を利用できる。つまり、ゲート電圧で上から空乏層を広げ、下の酸化膜側からの空乏層とパンチスルーさせて十分な高さの空乏層バリアを設けることでリーク電流を減らすというもの。いわば2方向からの空乏層でリーク電流が流れないように止めてしまうのである。
これまでSOIウェーハは価格が高く、バルクCMOSほど安くはできないと言われていた。SOIウェーハは2枚のウェーハを張り合わせて作るため、コストが1枚のバルクCMOSよりも高くなってしまう。
ところが、バルクCMOSは、HKMG(ゲート絶縁膜に誘電率の高い材料を用い、ゲート電極に従来のポリサイドとは異なる金属を用いるMOSFET)プロセスやFinFETというこれまでとは異なる材料や3次元構造を利用するため、コストがこれまでと同じという訳にはいかなくなった。しかも14/16nmのFinFETだと、Finが高くなり加工は難しくなる。インテルが22nmで用いていたFinFETのFinの高さはそれほどでもないと思われるが、14/16nmだと深くしなければ、空乏層の効果が効かなくなる。恐らく、このアスペクト比の高いFinを作る技術で難航し、インテルは製品化を遅らせたのではないだろうか。
これに対して、FD SOIは基板材料こそ、高くついていたが、ゲート構造やMOSFETそのものは従来方式をそのまま使えるため、トランジスタの歩留まりを確保しやすい。つまり、SOIでトランジスタを作ってもトランジスタ歩留まりは落ちない。
市場調査会社のIBS(International Business Strategies)は、28nmのHKMG(High Performance)プロセスによる100mm2および200mm2のチップと、28nmのFD SOIプロセス(HP)による100mm2および200mm2のチップのコストを調べると、どちらもFD SOIの方が少し安いというシミュレーション結果を示している。
プロセスがさらに複雑になる14/16nm FinFETでは、このコスト差はもっと大きく開いていくことになることは容易に想像できる。となると、FinFETプロセスは、本当は10nm以下から使われるべきだという意見も出てきそうだ。ただ、どうせなら14/16nmプロセスから習熟するという意味で始めるという考えもある。その場合には習熟によって歩留まりを上げることが前提となる。
しかも、28nmから20nmではなく、14/16nmへスキップすることが当たり前の認識になりつつある。今になって、14/16nm FinFETプロセスは意外と難しいぞ、という感覚を持つようになった。その先頭がインテルである。20nmプロセスは28nmプロセスと比べると性能や消費電力でそれほど大きなメリットを持たないことがわかってきた。だから14/16nmへのスキップすることが言われるようになった。しかし、そう単純ではなくなった今、FD
SOIは急浮上する可能性も出てくる。そうなるとSTマイクロが先端プロセスで主導権を握るようになるかもしれない。先端半導体は、目まぐるしく動いている。日本はいったいどうするのか?
(2014/05/29)
自前主義だから、ファウンドリ事業をできないニッポン
(2014年5月29日 00:17)日本のエレクトロニクス産業も半導体産業も、設計から製造・販売まで垂直統合方式で今日までやってきている。商品のライフが長い時代(1990年代半ばくらいまで)は、モノづくりに長い時間がかかってもやっていけた。2番手戦略でも十分に追いつけた。ソニーが画期的な製品(ウォークマンやカムコーダー、CD-ROM、MDドライブなど独自の発明商品)を発売しても、2~3年で松下電器産業が追い付いた。商品ライフは長かったから、最初にリスクを負いながら開発せずに最初の商品を見た後に、残業・徹夜で追いつけば十分に利益を出せた。
今日、アナログからデジタルに進み、特に民生品の商品寿命が短くなると、これまでの2番手商法はもはや使えない。ここに日本の悩みがある。民生品はデジタルのモジュール方式になり、アナログの擦り合わせ方式は必要ではなくなった。東京大学のものづくり経営研究センターの藤本隆宏教授のグループは、日本が得意なのは擦り合わせ方式だと主張する。デジタル化はモジュール方式になり、レゴのようにモジュールを組み合わせれば深いノウハウがなくてもデジタル民生品を作れるとする。
日本の擦り合わせ方式は、垂直統合の良さを追求し、阿吽(あうん)の呼吸で設計から生産まで詳細な契約マニュアルを書かなくても製品を流すことができた、と言われている。全部が全部この通りではないが、一理ある。
海外出張旅費の価値とは何か
(2014年5月16日 23:16)海外出張する時にいつも気になっていることがある。訪問した街にいると日本人をほとんど見かけないが、空港へ行くとどこからか来るのかと思うくらい日本人が大勢集まる。特にJALやANAのような日本の大航空会社の場合はなおさらだ。しかし、その街を歩いていても、ほとんど日本人を見かけないことが多い。多くの日本人観光客は旅行会社のツアーで来ているせいであろう。
西欧の人々は個人で行動することが多いせいか、大勢一緒にいるという状況をあまり見たことがない。特に英国は日本と同じように島国なのに、一人で海外へ行くことに全く抵抗がない。同じ島国なのに、日本は英国とはずいぶん違う。英国に限らず日本は外国とは考え方が大きく異なる。
最近の企業における海外出張はどういった行動パターンなのだろうか。私は昔からふつうは一人で出張してきた。かつて大会社にいた時は社長のかばん持ちのようなスタッフとして出かけたことが2~3度あったが、決して見聞を広められる楽しい出張ではなかった。
ここ10数年は、1人あるいは、せいぜい2人での出張が多い。それも最も安いUnited Airlineが多く、それなりに面白い。日本人が少なく、いろいろな人種の人たちと出会えることも面白い。先月米国からの帰りの便では、インド人の2人の幼い姉妹が隣に座っていた。私は通路側に座っていた。父親が時々心配そうに見に来るので、代わりましょうか?というと、いやいい、と素っ気ない。20席くらい前の座席に夫人らしき人と座っていた。
その父親は、時々見に来て、子供がうるさいかもしれませんがすみませんね、と言う。いや、子供たちは仲良く、「アナと雪の女王」に見入っていて、おとなしいですよ、と返す。父親はインドなまりの聞いづらい英語だが、子供たちは米国で育っているせいか、聞きやすい英語を話す。幼い姉妹は映画を見ながら楽しそうに時々笑い、こちらまで何かほのぼのとした気持ちになり、リラックスさせていただいた。日本の航空会社やビジネスクラスでは、こういった思いを経験したことがない。
日本の航空会社のビジネスクラスでは昔、嫌な思いを何度か味わった。それは、女性のキャビンアテンダントに威張り散らす日本人オッサンが隣に座る場合だった。横柄な態度で女性のアテンダントに酒を注文する。なんでもすぐに「客」をカサに着る。こんなオッサンとは口も聞きたくない。結局、エコノミークラスの方がずっと楽しい記憶が多い。
考えてみれば、ビジネスクラスはわずか10~13時間の間に40~50万円も高い料金を払っている。エコノミーだと米国西海岸15~20万円で往復できるが、ビジネスだと少なくとも30万円以上上乗せることになる。その価値はあるだろうか。その分、1泊のホテル代を1万円上乗せしてビジネスに適したホテルに泊まる方がずっとお金を有効に使えるのではないか。
危険な安いホテルではビジネスの信用にもかかわる。仮に5泊してもアップするお金はわずか5万円だ。1泊3万円のホテルに5泊、エコノミーチケットで出張する場合の出張費は30~35万円。1泊2万円のホテルに5泊、ビジネスチケットで行く場合は55~60万円。ビジネスの信用と効率を考えれば、どちらが有効なお金の使い方なのか、一目瞭然だ。米国の代表的な通信機器企業のシスコシステムズの経営トップが安売りのエコノミーで日米を往復するという話は本当だ。そのほかにもエコノミーで米国出張する外国人社長を何人も知っている。利益率の高い企業は、「価値」をしっかり意識している。
ソニーのストリンガー元CEOは社長時代、毎週ロンドンの自宅からニューヨーク、東京をファーストクラスで出張し、ソニーが赤字を出してもこのスタイルを変えることはなかった。誰も文句は言わなかった。言えなかった。「価値」を議論したことがないのだろう。
(2014/05/16)
ルネサスの未来にやっと期待できるようになった
(2014年5月15日 23:10)ルネサスの未来がようやく見えてきた。5月9日に発表された2014年3月期の決算報告会では、5期連続営業黒字が達成された。ただし、早期退職プログラムなどにかかるリストラ費用など特別損失として計上したため、純損益としては53億円の赤字になったが、昨年の大赤字から1623億円が改善された。
元々ルネサスがNECエレクトロニクスと一緒になった時、売り上げに対する社員数が異常に多く、誰が見ても収益は望めないことが合併する前からわかっていた。むしろ、合併する前に工場や人員を整理したうえで合併すべきだと言われていた。にもかかわらず先に合併した。これでは、日立やNECといった親会社の言いなりにならざるを得なくて、気の毒としか言えなかった。
この1年で工場の売却や閉鎖などで経費を削減し、過剰な人員も整理しただけではない。ルネサスが成長戦略として採用したことは、「車載のルネサス」戦略を鮮明に打ち出したことだ。これまでは、半導体製品の種類で事業を行っていた。マイコン事業、アナログ事業、パワー半導体事業、システムLSI事業などで区分けし、あくまでも作り手側の見方でしかなく、ユーザーの立場には全く立っていなかった。
これを、自動車事業(車載制御・車載情報)と、汎用事業(産業・家電、OA・ICT、その他汎用品)と応用別に分けた。汎用にどのような価値を設けるのかはわからないが、少なくとも「自動車事業ならルネサスに任せろ」と言わんばかりの組織である。とても頼もしい。自動車用の半導体であれば、マイコンだけではなく、センサ出力からのアナログやアクチュエータを駆動するパワー半導体、そしてアルゴリズムやソフトウエアを盛り込むシステムLSI(SoC)など、ユーザーの価値を決める重要な機能を提供する。ユーザーはルネサスに頼めば、ワンストップで自動車のECU用のチップを手に入れられ、ソフトウエアを盛り込むことができる。ユーザーは半導体のことを気にすることなく、ECUのシステムや自動車全体のネットワークなどシステムにフォーカスできる。これぞ、ルネサスの価値となる。
実は、カーエレクトロニクス分野に参入し始めた米国半導体メーカーは増えている。これまで自動車向けでほとんど実績のない米国メーカーがユニークなチップを設計して自動車メーカーに提案している。ルネサスはうかうかしていられない。だから、これまでののん気なルネサスが心配だった。まだルネサスはカーエレクトロニクスに強いが、いずれ抜かれるのではないかと私は恐れていた。
昨年の5月、オムロンから来た作田会長が工場を整理するとともに、ユーザー指向のコンセプトを社員に伝え、事業マインドを変えつつある。記者会見では、ARMのマイコンが浸透し始めているので、どう戦うのか、という質問があった。しかし、ARMマイコンと競争したりコラボしたりするという考えではなく、ユーザーから見てARMのマイコンを使うべきかどうかが重要だ、と答えている。以前、自動車事業を統括する大村執行役員と話をしていた時、彼はユーザーからみて、(ルネサスオリジナルの)SHコアかARMコアか、ユーザーの望むシステムにとってどちらが適しているかという視点で考える、と言っていた。ユーザーにとって、ARMもSHもVシリーズが揃っているからこそ、最適なアーキテクチャのCPUコアを使えば良いから選択肢が増えたと考えればよい、とする。
これらのコメントは、ルネサスがメーカー視点ではなくユーザー視点に変わってきていることを示している。すでに以前のルネサスではない。世界と戦える視点になっている。もはや、ダメなルネサスではなく、世界と戦えるルネサスになりつつある。インドに拠点を設けたこともその積極的な攻めの姿勢の表れである。インドで組み込みシステムを開発しているDelta Embedded Solutions社(写真)を昨年取材した時、彼らはルネサスのマイコンを使っていると言っており、どうやってルネサスにアプローチしたのかを聞いてみた。すると、いろいろなマイコンを比較した結果、
ルネサスのマイコンが開発すべきシステムに最も適していたため、欧州ルネサスから入手したと答えていた。この時点ではまだ日本のルネサスにはアプローチしていなかった。今回のインドに拠点を設けるという姿勢は、インド市場にルネサスの汎用マイコンを普及させる絶好の機会になるだろう。
(2014/05/15)
サムスンとグローバルファウンドリーズの提携の裏側
(2014年4月26日 10:53)サムスンとグローバルファウンドリーズ(GF)は、次世代技術である14nm finFET技術で提携した。このニュースの裏側から提携の真実に迫ってみよう。
この裏側にあるものは、両社ともトラブルを抱えている点である。このトラブルのタネを提携によって解決することで、両社ともウィン-ウィンの関係が得られる。日本経済新聞は、サムスンがGFにライセンス供与したとあり、サムスンの方が技術的に優位性を保っているような印象を受けるが、ライセンスを供与するのかどうかはどうでもよい。サムスンにとっては渡りに船のうまい話であり、同時にGFにとっても飛びつく話であった。なぜか。
富士通とパナソニックの統合が失敗する理由
(2014年4月16日 23:19)二日前、富士通とパナソニックを統合した新会社が設立されるというニュースがあった。1年以上も前に、「富士通とパナソニックを統合して成功するわけがない」という記事を書いた。今回も、何人かの人間に聞いてみた。成功すると思っている人は一人もいなかった。なぜか。ダメ同士の部門がくっついてどうして成功するのかわからない、と皆異口同音に言った。なぜダメ同士か。
1年前とは違う視点で考察してみよう。15日のロイターは、富士通とパナソニックは半導体システムLSIの設計・開発部門を統合する計画について今年秋新会社を設立することで大筋合意した、と報じた。そもそも、システムLSIとは何か?実は半導体メーカーの多くがシステムとは何かを知らずにこの言葉を使っていると複数の人たちから聞いた。メモリではない高集積の半導体チップを、ただ漠然とシステムLSIと呼んでいるようだ。
だからここではっきりと定義しよう。システムLSIとは、ハードウエアとソフトウエアからなるシステムという概念を取り入れた高集積の半導体チップ、と定義しよう。するとASIC(application specific IC)やASSP(application specific standard product)とは全く異なる概念であることがわかる。ASICは、カスタム仕様のハードワイヤードロジックである。ここにはソフトウエアという概念はない。ASICを他の企業も使えるように仕様を少し緩和して複数社が採用できるようにした半導体チップをASSPと呼ぶ。こちらもハードだけのチップである。設計件数はどちらも減少している(図1)。
システムLSIは別名SoC(システムオンチップ)とも言い、チップにシステムという概念が入る。ハードウエアの回路と、ソフトウエアを焼き込めるようなメモリを搭載したロジック回路である。具体的にはマイクロプロセッサとROM、RAM、周辺回路、I/Oインターフェース、ストレージなどを搭載している(図2)。ROMには独自のソフトウエアを焼き込んでよし。差別化できる独自のアルゴリズムを格納してもよし。複数の仕様をソフトウエアで格納してもよし。一方、周辺回路には独自のハードウエアをロジックで組み、高速化回路とする。回路の中身は変えられないが、ソフトウエアよりもずっと高速にデータを処理できる。
システムを構成する場合、何をハードウエアで考え、どれをソフトウエアで構築するか、何を半導体チップに集積し、何を別チップにするか、などを大きな俯瞰図のようにシステム全体を見て判断する。ファブレス半導体企業とは、ハードとソフトの塩梅(あんばい)を考えながら低コストで顧客のシステムを実現するための半導体を企画できる会社を指す。顧客の言われるとおりにプログラムを組み、RTL出力するだけのデザインハウスではない。
では、富士通のシステムLSI部門は、パナソニックのシステムLSI部門は、ハードとソフトをうまく切り分けてシステムを半導体チップに焼き付けることをやってきただろうか?筆者が取材する限り、残念ながら顧客の言われるとおりに半導体設計用言語HDLを使ってプログラムしてきただけである。いわば注文を受けてプログラムを書くプログラマ集団のデザインハウスに近い。半導体でシステム概念を企画・構成した経験があまりない。この作業を実は、富士通やパナソニックの半導体を発注しているコンピュータ事業部門やテレビ事業部門がやっていた。半導体部門はただ単にHDLでプログラム作業をしていただけなのだ。HDLでプログラムするのなら、インドの企業の方がコード効率の優れたRTLを出力できると言われている。
こういったデザインハウス部門同士をくっつけて、クアルコムやブロードコム、AMD、nVidia、メディアテックなどのようなユニークで、しかも価値のある半導体を企画開発できるのだろうか。まずこの出発点が間違っているのではないだろうか。
百歩譲って、ファブレス半導体企画メーカーを設立するのであれば、システムのことを熟知しているハードとソフトの人間を大量に採用しなければならない。親会社から移動させる手もあろう。外部から採用する手もあろう。とにかく、ソフトウエアにも大量の人員が必要なのだ。NORフラッシュメモリで復活したスパンションでさえ、ソフトウエア人材を大量に採用したとCEOのジョン・キスパート氏は述べている。ファブレスを目指すのならソフトウエア技術者を大量に採用する覚悟があるのだろうか。
経営者がMOTというか、IT・システム技術を理解しているのなら、システムLSI半導体部門を切り離すのなら、企画のできるコンピュータ部門なり通信機器部門なりからソフトウエアエンジニアを半導体部門に投入することは欠かせない。これなしでは半導体部門だけをくっつけさせても失敗することは目に見えている。
さらに言えば、世界の勝ち組半導体メーカーは、顧客の一つ上のレイヤーまで抑えたソリューションプロバイダに変身してきている。ソリューション提案をすることで顧客を納得させ、増やしている。もはや御用聞きだけでは務まらない。こういった世界的な流れまで捉えた仕組みを理解しているだろうか。1年以上前に言ったことから、結局何も変わっていない。
(2014/04/16)
日本は相変わらず井の中の蛙
(2014年4月10日 19:53)日本のIT・半導体・エレクトロニクス業界が外国企業や経営層などの要人と付き合いが少なく、グローバルマインドからほど遠いことは、何度か指摘してきたが、取材記者も同様だ。「またしても日本人の存在感がない」と記者も負けずに「超ドメスティック」であることを以前、指摘した。残念ながら今でもその考えは、変わらない。
カリフォルニアのシリコンバレーに4月5日に来て毎日、テレビと新聞(USA Today)のニュースを見ているが、日本で大騒ぎしている小保方晴子さんの記者会見の模様などはこちらではほとんどニュースにならない。CNNは、マレーシア航空のゆくえを追いかけた特集を毎日流している。高校での銃による乱射事件がその間に流れる程度だ。日本と米国の関心事は大きく違う。
小保方さんのテレビ会見のニュースを見ても、これでもか、これでもか、と執拗に質問攻めにしている。まるでいじめだというコメントを見た。これまでの流れを整理すると、(1)STAP細胞は存在すると主張し続けており、研究にかける情熱は非常に強い。(2)反面、論文を書くことにはあまり熱心ではない。要はこれだけではないか。論文がいい加減だったために全ていい加減と見るのは正しいことだろうか。
ごく一般論であるが、エンジニアや学者の世界では、研究熱心で常に俺が一番とか、俺の方がオリジナリティにあふれているなどを口走る一方で、一つの雑誌に投稿した原稿をそのまま別のメディアに投稿して平気な人間もいる。つまり著作権に関しては全く気にしないのである。数年前に、ある雑誌に投稿した原稿と全く同じ原稿を投稿してきた人間に対し書き直してくれ、と要求したら、俺は社会学者だからそのようなことはできない、と突っぱねられたことがある。もちろんボツにした。学者の世界では、著作権を気にするメディア側の常識が通用しない。メディアの世界では、別のメディアに書いた原稿を記者が書くなら、即クビである。逆に学者の世界では、別の人間に手柄を取られたくない、という意識が鮮明に強い。常にオリジナリティ、俺が最初、を主張する。
化学の世界では、限られた時間でさまざまな条件を振って実験するためにコンビナトリアルという手法がある。最近は新材料が出てきたためにこの手法を半導体プロセス開発に応用するという動きもある。生物化学・医学でもコンビナトリアルを使えるように技術を開発すればもっと簡単にSTAP細胞を生み出す条件を絞り込むことができる。理研ではこの手法を適用しようと工夫してきたのだろうか。
カリフォルニアのエンジェル(ベンチャーキャピタリスト)の話では、一度失敗した人に対しては出資する可能性は高いという。失敗したことで必ず何か教訓を得ているはずだからである。日本は、失敗するとずっと末代までダメと言われる。せっかく教訓を得ても何にもならない。今回、小保方さんは論文も研究と同様にしっかりとオリジナルな文章を書くべきことを教訓として得たはずだ。
やはり、放送を見た視聴者のコメントにあったが、日本から脱出して米国でSTAP細胞の研究をしてはどうか、という意見だった。少なくともカリフォルニアは一度の失敗には寛容である。日本は本当に井の中の蛙である。外国の記者と政治までも含めた話をすると、彼らは日本のことをほとんど知らない。名前だけ知っている尖閣諸島のことは、グリーンランドと比較して語られる。グリーンランドはデンマーク王国の所属であるが、多数の島がカナダとの国境に面するため、国境線上の島の領有権を巡って係争中だそうだ。最近、ここに資源があることがわかり、中国が領有権を主張し始めたそうだ。デンマークの記者からの話である。日本にいると、こういった話を聴くことができない。
アジアと欧州の記者が集まり、カリフォルニアの企業を訪問したり、小さなベンチャーにはホテルの会議室でプレゼンしてもらったりするEuroAsia 2014に来ている日本人は、残念ながら私と、電子ジャーナルのコレスポンデントである服部毅さんの二人しか来ていない。シリコンバレーの企業には他のメディアはリーチできていないことになる。ちなみにアジアの記者は、台湾、中国、韓国と日本、欧州はイタリア、デンマーク、ドイツ、英国などであり、英国以外の記者は英語を母国語としないため、時々もっとゆっくり話してくれということもある。
やはり現地で話を聞くと、十分な説得力があり、なおかついろいろな資料をいただける上に質問にもとことん答えてもらえる。極めて効率が良い。理解も深まる。もちろん、知り合いの記者も多いが、新しい記者とも知り合える。最近のサムスンやTSMC、GlobalFoundriesなどの動きについても情報交換する。東芝の研究データを盗んだ産業スパイのことを台湾人以外は知らなかった。どうしたら日本は井の中の蛙から抜け出せるのだろうか。もう私にはわからない。
(2014/04/10)
IoTとは何か、位置づけを考える
(2014年4月 6日 13:02)IoT(Internet of Things)とは何か。騒がれている割には定義がはっきりしていない。M2M(マシンツーマシン)やWSN(ワイヤレスセンサネットワーク)とはどう違うのか。その違いを考察してみる。
インテルが2013年11月、IoT Solution事業部を新設、日本にもその事業を説明するための記者会見が開かれた。会見後、Jim Robinson事業部長(図1) をつかまえて「Intelが狙うのはM2Mやワイヤレスセンサネットワーク(WSN)のゲートウェイから上のレイヤーだと理解したが、IoTとインダストリアルインターネット(Industrial Internet)とはどう違うと定義しているのか?」と聞いてみた。彼の答えは、「Intelが上のレイヤーをIoTビジネスとしてやっていくことはその通りだ。IBMのスマータープラネット(Smarter Planet)もGEのインダストリアルインターネットもIoTもみんな同じことを指している。企業によって言葉が違うだけさ」と答えた。