ルネサスの未来にやっと期待できるようになった
2014年5月15日 23:10

ルネサスの未来がようやく見えてきた。59日に発表された20143月期の決算報告会では、5期連続営業黒字が達成された。ただし、早期退職プログラムなどにかかるリストラ費用など特別損失として計上したため、純損益としては53億円の赤字になったが、昨年の大赤字から1623億円が改善された。

 

元々ルネサスがNECエレクトロニクスと一緒になった時、売り上げに対する社員数が異常に多く、誰が見ても収益は望めないことが合併する前からわかっていた。むしろ、合併する前に工場や人員を整理したうえで合併すべきだと言われていた。にもかかわらず先に合併した。これでは、日立やNECといった親会社の言いなりにならざるを得なくて、気の毒としか言えなかった。

 

この1年で工場の売却や閉鎖などで経費を削減し、過剰な人員も整理しただけではない。ルネサスが成長戦略として採用したことは、「車載のルネサス」戦略を鮮明に打ち出したことだ。これまでは、半導体製品の種類で事業を行っていた。マイコン事業、アナログ事業、パワー半導体事業、システムLSI事業などで区分けし、あくまでも作り手側の見方でしかなく、ユーザーの立場には全く立っていなかった。

 

これを、自動車事業(車載制御・車載情報)と、汎用事業(産業・家電、OAICT、その他汎用品)と応用別に分けた。汎用にどのような価値を設けるのかはわからないが、少なくとも「自動車事業ならルネサスに任せろ」と言わんばかりの組織である。とても頼もしい。自動車用の半導体であれば、マイコンだけではなく、センサ出力からのアナログやアクチュエータを駆動するパワー半導体、そしてアルゴリズムやソフトウエアを盛り込むシステムLSISoC)など、ユーザーの価値を決める重要な機能を提供する。ユーザーはルネサスに頼めば、ワンストップで自動車のECU用のチップを手に入れられ、ソフトウエアを盛り込むことができる。ユーザーは半導体のことを気にすることなく、ECUのシステムや自動車全体のネットワークなどシステムにフォーカスできる。これぞ、ルネサスの価値となる。

 

実は、カーエレクトロニクス分野に参入し始めた米国半導体メーカーは増えている。これまで自動車向けでほとんど実績のない米国メーカーがユニークなチップを設計して自動車メーカーに提案している。ルネサスはうかうかしていられない。だから、これまでののん気なルネサスが心配だった。まだルネサスはカーエレクトロニクスに強いが、いずれ抜かれるのではないかと私は恐れていた。

 

昨年の5月、オムロンから来た作田会長が工場を整理するとともに、ユーザー指向のコンセプトを社員に伝え、事業マインドを変えつつある。記者会見では、ARMのマイコンが浸透し始めているので、どう戦うのか、という質問があった。しかし、ARMマイコンと競争したりコラボしたりするという考えではなく、ユーザーから見てARMのマイコンを使うべきかどうかが重要だ、と答えている。以前、自動車事業を統括する大村執行役員と話をしていた時、彼はユーザーからみて、(ルネサスオリジナルの)SHコアかARMコアか、ユーザーの望むシステムにとってどちらが適しているかという視点で考える、と言っていた。ユーザーにとって、ARMSHVシリーズが揃っているからこそ、最適なアーキテクチャのCPUコアを使えば良いから選択肢が増えたと考えればよい、とする。

 

これらのコメントは、ルネサスがメーカー視点ではなくユーザー視点に変わってきていることを示している。すでに以前のルネサスではない。世界と戦える視点になっている。もはや、ダメなルネサスではなく、世界と戦えるルネサスになりつつある。インドに拠点を設けたこともその積極的な攻めの姿勢の表れである。インドで組み込みシステムを開発しているDelta Embedded Solutions社(写真)を昨年取材した時、彼らはルネサスのマイコンを使っていると言っており、どうやってルネサスにアプローチしたのかを聞いてみた。すると、いろいろなマイコンを比較した結果、

ESEC&AMD 017.JPG

ルネサスのマイコンが開発すべきシステムに最も適していたため、欧州ルネサスから入手したと答えていた。この時点ではまだ日本のルネサスにはアプローチしていなかった。今回のインドに拠点を設けるという姿勢は、インド市場にルネサスの汎用マイコンを普及させる絶好の機会になるだろう。

                            (2014/05/15)