富士通とパナソニックの統合が失敗する理由
2014年4月16日 23:19

二日前、富士通とパナソニックを統合した新会社が設立されるというニュースがあった。1年以上も前に、「富士通とパナソニックを統合して成功するわけがない」という記事を書いた。今回も、何人かの人間に聞いてみた。成功すると思っている人は一人もいなかった。なぜか。ダメ同士の部門がくっついてどうして成功するのかわからない、と皆異口同音に言った。なぜダメ同士か。

 

1年前とは違う視点で考察してみよう。15日のロイターは、富士通とパナソニックは半導体システムLSIの設計・開発部門を統合する計画について今年秋新会社を設立することで大筋合意した、と報じた。そもそも、システムLSIとは何か?実は半導体メーカーの多くがシステムとは何かを知らずにこの言葉を使っていると複数の人たちから聞いた。メモリではない高集積の半導体チップを、ただ漠然とシステムLSIと呼んでいるようだ。

 

だからここではっきりと定義しよう。システムLSIとは、ハードウエアとソフトウエアからなるシステムという概念を取り入れた高集積の半導体チップ、と定義しよう。するとASICapplication specific IC)やASSPapplication specific standard product)とは全く異なる概念であることがわかる。ASICは、カスタム仕様のハードワイヤードロジックである。ここにはソフトウエアという概念はない。ASICを他の企業も使えるように仕様を少し緩和して複数社が採用できるようにした半導体チップをASSPと呼ぶ。こちらもハードだけのチップである。設計件数はどちらも減少している(1)

 

ASIC-ASSPtrend.jpg

システムLSIは別名SoC(システムオンチップ)とも言い、チップにシステムという概念が入る。ハードウエアの回路と、ソフトウエアを焼き込めるようなメモリを搭載したロジック回路である。具体的にはマイクロプロセッサとROMRAM、周辺回路、I/Oインターフェース、ストレージなどを搭載している(図2)。ROMには独自のソフトウエアを焼き込んでよし。差別化できる独自のアルゴリズムを格納してもよし。複数の仕様をソフトウエアで格納してもよし。一方、周辺回路には独自のハードウエアをロジックで組み、高速化回路とする。回路の中身は変えられないが、ソフトウエアよりもずっと高速にデータを処理できる。

 

zu 2.png

システムを構成する場合、何をハードウエアで考え、どれをソフトウエアで構築するか、何を半導体チップに集積し、何を別チップにするか、などを大きな俯瞰図のようにシステム全体を見て判断する。ファブレス半導体企業とは、ハードとソフトの塩梅(あんばい)を考えながら低コストで顧客のシステムを実現するための半導体を企画できる会社を指す。顧客の言われるとおりにプログラムを組み、RTL出力するだけのデザインハウスではない。

 

では、富士通のシステムLSI部門は、パナソニックのシステムLSI部門は、ハードとソフトをうまく切り分けてシステムを半導体チップに焼き付けることをやってきただろうか?筆者が取材する限り、残念ながら顧客の言われるとおりに半導体設計用言語HDLを使ってプログラムしてきただけである。いわば注文を受けてプログラムを書くプログラマ集団のデザインハウスに近い。半導体でシステム概念を企画・構成した経験があまりない。この作業を実は、富士通やパナソニックの半導体を発注しているコンピュータ事業部門やテレビ事業部門がやっていた。半導体部門はただ単にHDLでプログラム作業をしていただけなのだ。HDLでプログラムするのなら、インドの企業の方がコード効率の優れたRTLを出力できると言われている。

 

こういったデザインハウス部門同士をくっつけて、クアルコムやブロードコム、AMDnVidia、メディアテックなどのようなユニークで、しかも価値のある半導体を企画開発できるのだろうか。まずこの出発点が間違っているのではないだろうか。

 

百歩譲って、ファブレス半導体企画メーカーを設立するのであれば、システムのことを熟知しているハードとソフトの人間を大量に採用しなければならない。親会社から移動させる手もあろう。外部から採用する手もあろう。とにかく、ソフトウエアにも大量の人員が必要なのだ。NORフラッシュメモリで復活したスパンションでさえ、ソフトウエア人材を大量に採用したとCEOのジョン・キスパート氏は述べている。ファブレスを目指すのならソフトウエア技術者を大量に採用する覚悟があるのだろうか。

 

経営者がMOTというか、IT・システム技術を理解しているのなら、システムLSI半導体部門を切り離すのなら、企画のできるコンピュータ部門なり通信機器部門なりからソフトウエアエンジニアを半導体部門に投入することは欠かせない。これなしでは半導体部門だけをくっつけさせても失敗することは目に見えている。

 

さらに言えば、世界の勝ち組半導体メーカーは、顧客の一つ上のレイヤーまで抑えたソリューションプロバイダに変身してきている。ソリューション提案をすることで顧客を納得させ、増やしている。もはや御用聞きだけでは務まらない。こういった世界的な流れまで捉えた仕組みを理解しているだろうか。1年以上前に言ったことから、結局何も変わっていない。

2014/04/16