急ぎ足の英国出張記
2015年4月 1日 04:25

29日の日曜の朝、成田を経って急きょ、英国にやってきた。ケンブリッジとサザンプトンの企業計3社を取材するためだ。出張が決まったのは出発の4日前。フライト、ホテルの手配は全て自分でやるしかなかったため、時間をとられた。ここまで直前になると旅行代理店のウェブサイトからはホテルがとれない。やむなく、インターネット専用の旅行サイトで予約した。あまりリーズナブルな価格ではない。

 

ただ、旅行を楽しむという観点からはフライト到着が遅れたのも悪くない。ヒースロー空港に到着したのが、1615分の予定が1時間ほど遅れ、実際に出口を出たのは18時だった。当初は、ヒースローからエクスプレスに載って、ロンドン市内のパディントン駅まで行き、そこで地下鉄に乗り換え、地下鉄で1か所乗換えて、キングスクロス駅に行き、ケンブリッジに向かう予定だった。しかし、荷物は嵩張るので、もしかしてケンブリッジまでの直行バスがないかどうか空港で聞いてみた。すると、あるという返事。では、ヒースロー空港からケンブリッジのシティセンターまでのバスのチケット(30ポンドだから悪くはない)を買い1830分のバスに乗った。ただ、ヒースロー空港は広いから他のターミナルを三つくらい周り、空港を抜けるのに50分もかかった。

 

1時間後、途中のスタンステッド空港に立ち寄り、さらにもう1カ所停まり、ケンブリッジについたのが夜の9時半になっていた。近くにタクシーがいたから、ドライバーに、ホテルまで行って、と言ったら、どこかの国のタクシーと同じで、公園を横切ればすぐだから、歩いたほうがいいよ、体よく断られた。公園を横切り、向こうの通りに行くと4人組の中年男女がいたので道を聞くと、その通りをまっすぐ行けばよい、と言われ歩いた。本当かなと思いながらさらに歩くと、人が来たのでまた聞くと、もう少しまっすぐ進めばあるという。同じことを言っているので、間違いなさそうだと確信できた。すると18世紀の大学らしき建物が見えたので、この近くだなと思いさらに進むと、ホテルの名前が塀に書いてあるが、入り口がない。その先は暗くて何も見えなくなるので、道を引き返すと、大学らしき門が見えたので、入ってみた。ここはホテルですかと尋ねたら、そうだという返事。やっと泊まれると思った時は945分だった。チェックインを済ませると「あなたは、入学試験をパスしました」と言われたので、「今日から私も大学生だな」と切り返し大笑いした。

 

さて、この安宿(場所の割に価格は高い)は面白い。ケンブリッジで泊まったホテルは、様相が大学のキャンパスだ(図)。周囲が石の壁に囲まれ、入り口には守衛がおり、そこがフロントに相当するのだから。部屋に行くためには、広いキャンパスの中庭を二つも通り抜けなければならない。しかも宿は狭く、まるで学生寮のようだった。バスタブがなく、シャワーのみ。部屋にも何もない。石鹸とシャンプー、紅茶があるのみ。ただ、さすがイギリスだと思ったのは、クッキーが置いてあった。食欲があまりなかったので、クッキーを夕食にして、取材の準備を始めた。

DSCN8526.JPG

 

図 宿泊したホテルキャンパス内の建物

このような形で出発した今回の取材だが、最後の31日は、ロンドンからサザンプトンまで日帰り出張のような感じの取材であった。私自身は一匹狼のフリーランス技術ジャーナリストであるから、仲間であろうと、一人であろうと依頼されれば受ける。それもテクノロジーであればなおのこと。もちろん展示会や学会などの取材とは違い、資料が常に準備されている訳ではなく、ヒアリングが基本となる。それだけに準備は入念に行わなければならず、結構時間をとられることが多い。それでも、通常のイベント取材では得られない情報が多く、いくつになってもやめられない。

 

ケンブリッジは大学の街である。産業的にもR&Dの強い街だ。たぶん最高の製品は、ケンブリッジで研究し、シリコンバレーで開発、日本かドイツで生産を始め、中国か台湾で量産する、というサイクルが最も成功するパターンかもしれない。

 

英国の面白いところは、ケンブリッジによく似たシステムで起業させ、ビジネスにつなげようとする動きは多い。サザンプトン大学も同じで、ブリストル、バースなどの地域も含め、SETsquareと呼ばれる地域は、大学と中小企業やスタートアップのベンチャー企業も多く、大学発ベンチャーを生みやすい環境にある(参考資料1)。31日に訪問したところも、サザンプトン大学からスピンオフして、起業したスタートアップであった。社員のほとんどがドクターだという、訪問した会社は、ビジネスマインドのある大学の教員と博士課程を終えたエンジニアが単純作業の部分はできるだけ自動化するなど、楽しく開発することに重点を置いていた。ポスドク問題の解決に一役買っている。

 

やはり、これからの時代は、人間としての楽しさ、すなわちユーザーエクスペリエンスを追求する時代に入ったことを改めて実感した。もはや性能追求の時代ではない。

                                              (2015/03/31)

参考資料

1.    津田著「欧州ファブレス半導体産業の真実~日本復活のヒントを探る」、日刊工業新聞社刊、2011