3D-CADに見る日本企業の弱点
2015年10月 6日 23:46

機械や機械部品など外形のデザインを含めた3次元CADは、使いやすさ(ユーザーインターフェース)重視に向かっている。フランスのDassault Systems(ダッソーシステム)が傘下に収めたSolid Works(ソリッドワークス)の新しい3D-CADSOLIDWORKS 2016」がリリースされた。これはユーザーの要望を9割実装したものだ、とダッソー・システムズとソリッドワークスジャパンの代表取締役社長を兼ねる鍛冶屋清二氏(1)は語る。

 

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図1 ダッソー・システムズ/ソリッドワークスジャパン両社の代表取締役社長 鍛冶屋清二氏

 

同社がユーザーに対してCADで最も重要なことは何か、とユーザーにたずねたところ、最も多い28%の人が「使いやすさ」と答え、「計算速度や快適さ」は24%、「価格」は20%だった。このため、使いやすさを追求するユーザーインターフェース(UI)をこのほど見直した。CADは設計する物体によって異なるが、同じ物体を描くのにマウスのトラッキング(軌跡)を評価してみると、昨年版の「SOLODWORKS 2015」と比べ半分しか、マウスは行き来しなかった。この結果、昨年版だと248秒かかった作図が119秒で済んでいる。

 

さらにこのSOLIDWORKSCADは、シミュレーション機能ともリンクしており、例えば使用中の機械の温度分布などをシミュレーションで可視化できるようにしている。機械を設計し、その機械を動作させた状態の温度分布を把握できれば、熱を逃がす対策をすぐに打てる。3D-CADとシミュレータの魅力は可視化することで改良すべきところをすぐにわかることだ。こういったシミュレーションを実行する場合、CADで設計図を描きシミュレーションで検証し、改良点があればすぐにCAD設計に戻る。今回の新バージョンは、同じコンピュータ画面上ですぐに解析し、すぐにCAD設計に戻れることだという。

 

また、機械部品同士が接触してしまうような設計図を書いてしまったときでも接触する様子をシミュレーションで解析する場合、新バージョンでは、28%高速に計算できたという。プラスチックを金型に流し込む場合の樹脂流動解析でも計算速度は52%速かったとしている。マルチコアのCPUを使える環境での解析が可能になったことによる。しかもシミュレーションで数値計算のメッシュを切る場合、流動シミュレーションなどでは自動的にメッシュ間隔を変えるという。例えば、変化の激しい個所は細かいメッシュを切り、変化の少ない所は粗いメッシュで計算すると高精度で高速の演算ができるが、このメッシュの切り方を自動的に行う。

 

SOLIDWORKS 2016」の特長はさらに、CADPDMProduct Data Management)の一体化も進んだことだ。PDMは流す製品の開発工程から生産工程に至る全ての情報を一元化管理するためのツールである。工程の無駄を省き、開発期間を短縮する。今回はPDMをブラウザベースで見るためのツール「Web2」も提供するため、タブレットなどのモバイル端末からもCADデータをアクセスできる。また、PDMCADのインストーラーも統合し、使いやすくした。CADPDMの統合により、作業効率が上がり、通知処理は400倍も速くなったとしている。

 

最近では、3D-CADデータから3Dプリンタに出力して、造形をいち早く得ることが可能になっている。2016版は、3Dプリンタで印刷する前のプレビューを見て、目的物の滑らかさを事前にチェックできる上に、目的物のサポート材が必要か、どこに必要か、に関してもプレビューで確認できる。今後、3D-CADのトップメーカーであるStratasys(ストラタシス)社をはじめとする大手の製品だけではなく、さまざまな企業の3Dプリンタにも出力できるようにしていく。

 

日本の設計者はコスト高になることを嫌い、3D-CADを敬遠する傾向がある。2次元CADで十分だ、という訳である。しかし、CADで設計した物体の形状は、設計者だけが想像できればよいというものではない。プロジェクトチーム全員が一目で理解できるように可視化すれば、予算を握る上司を説得しやすい。また、顧客に対しても早い段階からこっそり見せて、顧客を逃がさないように囲い込むためにも使える。ビジネスを考えると、プロジェクトは設計者だけではなく、生産技術者や営業担当者、管理職、経営層等チーム全員がイメージしたものを共有できれば仕事は早い。ビジネスチャンスを逃がさずにすむ。3D-CADは設計者だけのツールではないことを設計者が理解しなければ、結局、技術で勝ってもビジネスに負ける、ことになりかねない。技術者が過剰に強いところが、日本企業の弱点かもしれない。

2015/10/05