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メタバースの世界は半導体チップから

(2021年12月29日 14:52)

Facebookがホールディングカンパニー制を採用し、ホールディングカンパニーをMeta(メタ)と名付けた。事業をさまざまな業種に拡大する時の手続きとして定款を書き直す必要がなくなるからだ。つまり、旧Facebookはこれから先に、SNS以外への事業に乗り出す計画があることを意味している。それがまずはメタバースの応用である可能性が高い。

メタは「超」という意味であり、バース(Verse)は宇宙のUniverseから来ている。つまり現実の世界を超えた、超宇宙あるいは超世界とても訳すべきだろうか。とにかくメタバースという言葉が独り歩きし始めた。それもFacebookをはじめとするインターネットサービス業者だけではない。半導体メーカーのQualcommNvidiaのトップがメタバース向けの半導体チップを開発し始めているのだ。

今のところ考えられている応用はゲームの中で自分のアバターと仲間が一緒に戦ったり行動を共にしたり、ZoomTeamsWebExなどのビデオ会議を表現するようなことが想定されている。結局、今のところメタバースはVR/AR(仮想現実/拡張現実)の延長で考えられており、人の没入(immersive)体験を表す技術だと捉えられている。「メタバースの最大の特長はテレポーティング機能だ」とMetaCEOMark Zuckerberg氏は述べている(図1)。テレポーティングとは、まるでタイムマシンのように場所を瞬間移動するという意味。現実には人間が瞬間移動することができないため、アバターがその代わりを果たしてくれるという考え方だ。

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1 MetaCEOZuckerberg氏 出典:Viva Technology社カンファレンスビデオから

 

メタバースをまだ漠然として全体像を捉えられず、場合によってはバズワードで終わる可能性もありうるという指摘はある。

一方で、「メタバースはAIなどを使って、デジタルとリアルをつなぐ新しい手法」とQualcommCEOであるクリスチアーノ・アモン(Christiano Amon)氏は明確に位置付けている。

NvidiaCEOのジェンスン・ファン(Jensen Huang)氏は、3D-CADで設計したクルマやロボットの設計をみんなで相談し、内容を共有しながら変更したり改良したりするというシーンなどを想定している。これは、デジタルツインの表現する手法の一つだという捉え方だ。QualcommのアモンCEO(図2)は、「Snapdragon(同社のアプリケーションプロセッサの名前)はメタバースへのチケットだ」と述べ、自動車産業へのインパクトが大きいと見ている。「例えば、自動車メーカーがゴーグルをかけてクルマの情報を見る場合、クルマの走行情報やサブシステムの部品情報などが見られるようになる」として、メタバースの応用はゲームやビデオ会議に留まらず産業全体への影響が大きいと見ている。

 

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2 QualcommCEOのクリスチアーノ・アモン氏 出典:2021年度第3四半期決算報告会から

 

デジタルツインは、現実に開発している製品や生産ラインを3次元(3D)シミュレーションなどで表現し、不都合を見つけたり、性能や機能を上げる方法を見つけたりするデジタルトランスフォメ―ション(DX)の中核技術だ。ここにメタバースの没入体験に満ちた世界を描くことで、問題をわかりやすい表現に直し、解決へ早期に導くことができるという訳だ。

メタバースでは、VRのゴーグルや眼鏡を世界中の工場のエンジニアたちがリアルタイムで一緒に設計に参加できるようになる。3次元画像で描かれたクルマやロボットをみんなで見ながら、どこを調整したり改良したりするのかを理解し共有できるようになる。世界中のエンジニアがみんなで設計できる環境なら、モノづくりのスピードは圧倒的に速くなり、しかも世界の工場すべてにおいて同時に製品生産を立ち上げることができるようになる。

 ある意味、モノづくりの革命の重要な技術になる。これまでなら、誰がどうしてこんな設計をしたのだろうか、と首をかしげるような設計があっても、どうにもできなかった。しかし、世界中みんなで設計できるようになれば、何が問題なのか、に関しても共有できる。

 特にシステムのどこに問題があり、なぜ問題が起きたのか、それをどうやって解決できるのか、世界の複数の工場で問題も解決策も共有できる。しかも現実の製品とほとんど同じものをデジタルツインで再現しているのであるから、話を理解することは早い。しかも記録として残すことも容易だ。

 メタバースはデジタルツインと共にVRなどを通して使われるので、モノづくりの設計や、問題の同定と解決、さらには情報共有までもが世界レベルで同時にできることになる。

 このようなメタバースの世界に必要な半導体は、グラフィックスプロセッサGPUであり、世界中の人がリアルタイムで見られるようにするためには、高速伝送するための5Gの進化も求められ、そのための第2世代の5Gチップ(ミリ波用のRFやモデム、アンテナアレイなど)も必要になる。もちろんディスプレイドライバICPMIC(電源IC)も欠かせない。GPUよりももっと速い専用回路を作りたければFPGAを使う手もある。メタバースを実現する半導体の開発はすでに始まっている。

Appleはファブレス半導体事業を拡大

(2021年12月25日 14:09)

 Apple社は半導体メーカーになるかもしれない。市場調査会社IC Insightsの調べでは(参考資料1)、キオクシアよりも半導体売上額の多いファブレス半導体メーカーにすでになっている。今年の半導体売上額は前年比17%増の134.3億ドルと見込まれている。最近のニュースでは、さらにワイヤレス通信チップまで設計するようだ(参考資料2)。

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図1 シリコンバレー上空から見たドーナツ型のApple本社 撮影筆者


Appleはこのほど、南カリフォルニアのアーバイン(Irvine)にオフィスを設置、大々的に半導体設計者を募集している。狙いはワイヤレスチップの開発だ。今の所Wi-FiBluetoothのチップをBroadcomSkyworksなどのメーカーから調達してきたが、これらのワイヤレスチップを自前でやろうという狙いのようだ。メキシコとの国境の街、サンディエゴに本社を置くQualcommも実は最近急遽、アーバインにオフィスで半導体設計者を採用しようとしている。4G5GのセルラーネットワークのモデムチップもAppleQualcommから奪い取ろうとしていることへの対応策だ。

 米国では、優秀な技術者を見つけても彼/彼女が別の土地に移動したくないと希望すると、優秀な技術者のいる街をデザインセンターなどのオフィスにする企業が増えている。無理に本社に来る必要がないことを企業側がアピールしているのである。

 Appleは、iPadを設計する時に、モバイルプロセッサの設計を自前にすることを考えた。当初は元DECの技術リーダーのいた企業P.A.Semiを買収したが、失敗に終わった(参考資料3)。このため優秀なエンジニアのいる企業にあたりを付け、スタートアップのIntrisity社を買収、ライセンス供与を受けたArmプロセッサの基本回路に手を加え、より高速のプロセッサ回路をIntrinsityの技術で設計してきたという経緯がある。

 その後Appleは、それまでライセンスを購入してきたImagination TechnolgiesGPUコアを打ち切り、グラフィックス回路を自前で設計した。しかし、回路設計やグラフィックスのアルゴリズムのノウハウが追い付かず、結局Imaginationのエンジニアも一緒に買収した。そしてAppleは電源を供給するパワーマネジメントICPMIC)も自前で作るため、それまで電源回路ICを設計していたDialog社(現ルネサスエレクトロニクス)のPMIC部門を買収した。ここでもエンジニアも一緒に買収した。

 Appleは少しずつ半導体ICを自前で設計するようになり、かつその売上額もキオクシアを超えるまでに成長した。そして、今回はワイヤレス通信回路のICを自社開発するため、エンジニアを大々的に募集し始めた。しかも場所は、BroadcomSkyworksなどが集積している南カリフォルニアのアーバイン市だ。ここはロサンゼルスとサンディエゴの中間に位置する街で、気候が1年中温暖な土地柄である。カリフォルニア大学アーバイン校があり、エンジニアのリクルーティングもやりやすい。

 Appleの狙いは明らかで、その街にオフィスのあるBroadcomSkyworksから通信回路設計技術者やRTL設計者などを雇うためである。Wi-Fi設計を知っていると5Gのようなセルラー通信の設計も比較的容易になる。

 Appleは残念ながら5G向けICの設計はそう容易にはできないことを知っているため、Qualcomm3Gライセンス料に不満を表していたものの、結局Qualcommのチップを泣く泣く継続させることになった。しかし、いつかは5Gチップも自前で開発しようとの思いは断ち切れない。このことに焦ったのはQualcommであり、Qualcommもアーバインに設計者募集の案内をLinked-inで急遽始めたという訳だ。優秀なエンジニアを他社にリクルートされないようにするためである。

 AppleはまずWi-Fiチップからワイヤレス通信ICの設計を始める。ここでOFDM(直交周波数多重)などのデジタル変調技術を磨き、いずれ5Gのモデムにやってくる。ただし5Gはその頃はミリ波技術に中心が移り、QualcommRF回路とアンテナ技術でもさらに強くなっているはずだ。RF回路の習得もそれほど簡単ではない。AppleはおそらくQualcommからのエンジニアをリクルーティングすることになるだろう。無線通信回路技術はアナログとデジタルの両方の回路知識と電磁界解析の知識が必要なため、デジタルしか知らないエンジニアでは設計できない。このためQualcommからエンジニアを引き抜くことは十分考えられるシナリオとなる。

 

参考資料

1.       "17 Semiconductor Companies Forecast to Have >$10.0 Billion in Sales This Year," IC Insights, (2021/12/20)

2.       "Apple Builds New Team in Southern California to Bring More Wireless Chips In-House," Bloomberg, (2021/12/16)

3.      津田建二、「iPadのアプリケーションプロセッサA4を巡るさまざまな憶測から真実を探る」、セミコンポータル、(2010/04/06


東芝の分割案を点検する

(2021年11月 9日 15:09)

東芝がインフラ部門と、半導体デバイス部門、メモリ部門に3分割するという案を検討している、と複数のメディアが報道した。東芝は創業100年続く名門企業である。分割する理由は、それぞれを独立させて未上場会社とし、再上場させることでキャピタルゲインを稼ごうという目論見のようだ。分割することで企業価値が高まるとしている。ただし、東芝は、当社から発表したものではないというニュースリリースを流している。

 

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図 東芝 代表執行役社長CEOの綱川智氏 写真は2017年に筆者が撮影

 

 このニュースを聞いて、感じたことは、東芝というブランドと企業価値をもはや諦め、錬金術で金を得たい、というファンドの発想だな、という思いだ。これまで築き上げてきた東芝というブランドを捨てることで、どういう会社にして東芝が前に進むのか、どのような戦略を描いて世の中に貢献できる会社にしたいのかという思いが全く伝わってこない。

 2015年に東芝の不正会計が明るみに出て以来、東芝は利益が出ていた医療や半導体メモリ部門を次々と手放し、東芝の目指す成長戦略が見えなくなっていた。ひたすら現金を手に入れ、「死に体」の東芝を再建することだけに集中してきた。とにかく儲かっている部門を売却することで多額の収入を得ることに集中すればするほど、残った本体は何をするのか、疑問が持たれていた。2018年のメモリバブルの真っ最中に利益がたんまり出ているメモリ部門をファンドに売却しキオクシアと名前を変えたが、この時は半導体部門を売却したのではなく利益が十分に出ているメモリ部門だけを売却した。半導体企業としての相乗効果は全く無視した。キオクシアは翌19年、メモリバブルが弾け赤字に転落した。

 そしてキオクシアはメモリの会社だというPRも奇妙な宣伝だった。メモリ会社なのにDRAMというメモリを扱わないのだ。NANDフラッシュというストレージデバイスを扱いながら、メモリと称していた。通常パソコンのメモリと言えばDRAMを指し、NANDフラッシュやHDD(ハードディスクドライブ)はストレージを指す。一般常識とは異なる言葉を使っていた。

 だったらストレージ企業かと言えば、そうではない。NANDフラッシュは生産するが、HDDのようなストレージ部門は東芝本体に残しキオクシアは生産しない。その理由は、カニバリズム(自分が自分の肉を食べるという意味)であり、半導体ストレージがHDDを食うようになるからだとしている。しかし、最近の高速HDDは、キャッシュメモリ的な役割として、NANDフラッシュを搭載したHDDが大量に出回っている。カニバリズムではなくシナジーなのだ。キオクシアの四日市工場を共同運営するWestern DigitalHDDNANDフラッシュの両方を持っている。どうやら東芝の経営陣は半導体やシステムを理解していないようだった。

 そして今回の3部門の分割となると、やはりここでも変だなと思わざるを得ない。なぜメモリと半導体部門を切り離すのか、納得できない。NANDフラッシュメモリ部分は信頼性が低いため、技術的に同じところを何度も書き換えないなどのアルゴリズムを使って信頼性を高めると共に、強力な誤り訂正が必要なメモリコントローラが欠かせない。ロジックIC、あるいはシステムLSIというべきこのメモリコントローラを半導体部門が担当していない。メモリと半導体は切っても切れない関係があるのに、いとも簡単に別にする。また、東芝本体にあったシステムLSI部門を2021年2月につぶしてしまった。

 それだけではない。2019年に電子ビーム露光装置を製造している東芝デバイス&ストレージ社傘下のニューフレアテクノロジー社をHOYAが売ってほしいと求めた時は、東芝経営陣がこれまで全く見向きもしなかったニューフレアを絶対売らない、という態度で株式売却を必死に止めた。まるで駄々っ子のように筆者の目には映った。フォトマスクを手掛けるHOYAとしては、自社製の電子ビーム露光装置でフォトマスクを作成するためにニューフレア買収を提案したのに残念な結果に終わった。

 キオクシアと半導体を別にする場合でも、東芝は全株式を支配するのであろう。残念ながらこれでは半導体ビジネスは成長しない。足の長いインフラビジネスとは半導体は経営スピードが全く違うからだ。

理想的にはキオクシアと東芝半導体部門が一緒になり、かつ東芝が株式を一切持たない完全独立の組織にするのなら、成長する余地はある。世界では、オランダのPhilipsから独立したNXPASMLは親会社の株式はもはやゼロ、ドイツのSiemensから独立したInfineonも親会社の株式はゼロ、Hewlett-PackardからAgilentを経て独立したAvago(現Broadcom)も親会社は干渉できない。東芝から完全独立した半導体メーカーであれば、世界と対等に勝負できる企業になりうる。半導体をけん引するITはスピード経営が最優先されるからだ。いちいち親会社にお伺いを立てる経営では勝負にならない。

 もちろんその場合、新半導体メーカーの社長には、半導体企業の社長経験と実績のある国内外の人間を選ぶべきだろう。少なくとも自分で資金調達が出来なければ、半導体の社長は務まらない。日本語を話せるかどうかはどうでもよい。

TSMCが日本に来ても国内半導体産業は変わらない

(2021年10月17日 14:15)

TSMC1014日に開催した2021年第3四半期の決算発表の席で、TSMCが日本にも22nmおよび28nmのチップを製造する工場を来年建設する、と発表した。このニュースは日本経済新聞だけではなく、台湾のTaipei Timesにも掲載されており(参考資料1)、これまでのリーク報道に終止符を打つ。

 TSMCCEOである魏哲家氏が「当社の顧客と日本政府からこのプロジェクトをサポートする強いコミットメント(約束)をいただいた」と述べた。「当社のグローバルな製造拠点を広げることによって、顧客ニーズにもっと良く応えることができ、優秀な人材ともグローバルにリーチできる。もちろん、投資に対する適切な回収を稼ぎ、当社の株主に長期的に利益を生む成長を提供することは言うまでもない」。

ただし、日本工場の生産能力や財務に関する詳細は明らかにしていない。また合弁かどうかについても回答していない。これまでは海外に工場を建てる時、ケースバイケースだが、重要顧客などとの合弁を考えていると述べていた。日経はTSMCとソニー、デンソーと共同で熊本県に新工場を建設する方向で調整を続けていると報じている。また、TSMCは欧州にも工場を建設することも検討しているという。

経済産業省はTSMCを誘致することによって日本の半導体産業を底上げできると述べているようだが、本当だろうか。日本に工場を持つ企業としては、日本のキオクシアや東芝デバイス&ストレージ社、ソニーセミコンダクタソリューションズ、ルネサスエレクトロニクス、ロームなどの大手に加え、すでに外資系の工場も多い。台湾のファウンドリであるUMCは三重工場、Micron Technologyは東広島工場、Texas Instrumentsは会津と美浦に工場を運営し、onsemiも会津工場を操業している。日本における半導体工場の生産能力は、台湾、韓国に続き実に世界の16%も占めているのだ(図1)。

 

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1 日本の半導体生産能力は世界3位 出典:IC Insights


にもかかわらず日本企業の半導体世界シェアは10%、半導体ICに限ると6%しかない。つまり国内に外資を含めて半導体工場は韓国並みにたくさんあるが、国内半導体企業のシェアはとても小さいのである。ここにTSMCが加わることになり、日本の生産能力はさらに高まる。しかしこれによって日本の半導体企業のシェアがどうして増えようか。

日本は半導体製造装置や半導体関連材料は世界的に強いが、その理由は日本の半導体メーカーにさっさと見切りをつけて海外の半導体メーカーを顧客としていち早く取り入れたからだ。例えば、半導体製造装置で世界の3位を行く東京エレクトロンの海外売上比率は85%に達し、半導体テスト装置メーカーのアドバンテストとなると92%以上も海外売り上げとなっている。東京エレクトロンやアドバンテストはすでにTSMCや韓国のサムスンに大量に出荷しているのである。ここにTSMCが日本に来て事態は変わると思うだろうか。

日本の半導体産業を強くするならやはり日本の半導体企業を強くするしかない。かといって世界の半導体の潮流と大きくずれてはやはり発展しないだろう。世界と同様、ファブレスかファウンドリになる道と、昔からの大量生産ビジネスであるメモリのIDM(設計も製造も手掛ける企業)をやる道しかない。それもファブレスは10数年推進してきたが、いまだに弱い。世界のトップテンすら入らない。メモリのIDMはキオクシアがまさにそうだが、ウェスタンデジタル社との共同出資による工場を運営している。ここにDRAM工場を設立するという選択肢はありうる。しかしNANDフラッシュと同様、設備投資が大きくのしかかる。

日本が得意な製造技術を活かすなら、やはりファウンドリだろう。筆者は10年前から日本独自のファウンドリを起こすべきだと提案してきた(参考資料2)が、誰も手を上げていない。それどころが10年前に、今からでは遅すぎる、とも言われた。

また日本ではファウンドリと称する事業をやっていたが、それは「製造ラインが余っていたら使わせてあげる」という殿様商売だった。このためにフォトマスクセットを持ってきたら、使わせてあげるということだった。つまりファブレスの実態も半導体設計の実態も知らずしてラインを持っていただけにすぎなかった。世界のファウンドリの常識からは大きく逸脱している。

世界のファウンドリは顧客のことをよく知っている。半導体LSI設計のどの段階でもサポートするのである。顧客によっては、システムの論理設計はやるが、レイアウト設計はやらないし興味もない、という客が多い。論理設計さえしたくない顧客もいる。OTTOver the top)と呼ばれるインターネットサービス企業が自社チップを欲しいとしてもLSI設計言語であるHDLVerilogを覚える気がなければ設計できない。だから、LSI論理設計からフォトマスク出力までを請け負うデザインハウスを利用して設計してもらうのである。このためTSMCのようなファウンドリはデザインハウスを当初は自社で行っていたが、今は外部にスピンアウトさせた。また複数のデザインハウスともパートナーシップを結んでいる。日本でファウンドリ事業を行うならLSI設計を熟知した技術セールスパーソンが欠かせないのだ。しかし、これまでの日本はラインを貸すだけの自称ファウンドリでは世界と勝負にならない。

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2 半導体生産量が多いのは20~10nmプロセス 出典:IC Insights


半導体LSI7nm5nmプロセスばかりではない(2)。むしろ20nm以上のプロセスや、パワーICのように0.8µmプロセスなどに根強い需要がある。どのような電子回路でも電源となるPMICが欠かせない上に、これからの自律化社会やDX(デジタルトランスフォーメーション)では微細化ではないプロセスの半導体センサが欠かせないからだ。根強い需要をさまざまな顧客から得られれば、微細化しなくてもファウンドリビジネスはやっていける。どうしても微細化したいなら、少しずつ追いつくようにプロセス開発を行えばよい。その時のプロセスの先生は日本の半導体製造装置メーカーとなろう。

 

参考資料

1.       Wang, L, "TSMC plans new plant in Japan," Taipei Times, Oct.15, 2021

2.       津田建二、「一刻も早く日本はファウンドリを設立すべき」、セミコンポータル、(2010/10/29


 

「インフィニオンが設立したオーストリア300mm新工場は欧州の野心」

(2021年9月18日 21:25)

ドイツのインフィニオンがオーストリアに2番目の300mm工場をオープン、そのセレモニーでインフィニオン関係者だけではなく、オーストリア連邦政府やフィラハ市長、欧州委員会(EC)をはじめ欧州全体がこの工場開設を祝い、半導体産業を盛り上げることで一致した。「いよいよ欧州のキャッチアップが始まった」と表現する人もいて、欧州は半導体の世界シェアを今の10%から2030年に20%へ上げるという目標に本気で取り組んでいく姿勢をうかがい知ることができた。


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1 薄い300mmウェーハを生産するインフィニオンの関係者たち 真ん中がインフィニオンCEOのラインハルト・プロス氏、右が同COOのヨッヘン・ハネベック氏、左がインフィニンオーストリアCEOのザビーネ・ヘーリシュカ氏 出典:Infineon Technologies

 

これは、インフィニオンがオーストリアのフィラハに300mmウェーハのプロセス工場をオープンし、セレモニーをリアルとバーチャルのハイブリッドで開催した917日に欧州やオーストリアの関係者たちが話していたシーンである。インフィニオンは300mm工場をすでにドイツ国内のドレスデンに持っているが、今回は2番目の工場をオーストリアのフィラハ市に設立した。この工場の特長は、300mmウェーハといっても髪の毛(直径70~100ミクロン)よりも薄い厚さのウェーハを扱うこと。つまり、数十A(アンペア)以上の電流をオンオフできるパワー半導体を生産するのであるが、この半導体は厚さが薄ければ薄いほど熱を外へ排出できる。だからこそ、インフィニオン側は、髪の毛よりも薄い300mmウェーハを扱う工場であると何度も表現した。

 

2018年に工場建設に着手

 工場建設に着手したのは2018年。2022~23年ごろから本格的に立ちあがるEV(電気自動車)需要を見据えて、パワー半導体の需要拡大をビジネス機会だと捉えたからだ。翌年は世界半導体産業が2017~18年のメモリバブルが弾けて落ち込んだが、インフィニオンは売上額を落とさなかった。

今回、予定よりも3ヵ月前倒して工場を稼働させた。今が半導体不足の真っ最中だからである。

 この工場オープンに際して、インフィニオンはオープニングセレモニーを開催、その様子を日本からもバーチャルで見ることができた。本来なら出張でオーストリアまで行かなければならない所、新型コロナによりバーチャル開催となったため、日本からでもセレモニーに参加・取材できた。

 オープニングセレモニーでは、ECの委員の一人ティエリー・ブルトン氏のビデオで参加し、彼は「半導体は今やあらゆる産業に欠かせない重要なモノになった。クルマや航空機、スマートフォン、パソコンなどさまざまな応用に使われている。産業だけではなく社会にも浸透してきた。ところが今は半導体不足を迎えている。欧州はまだ十分な半導体を持っていない。今回インフィニオンが新工場を設立したことは強く歓迎する」と述べている。

 さらにはEC関係者の中には、「新しい工場は欧州の野心(ambition)である」と表現する人もいた。

 オーストリアのフィラハ市長も「フィラハの市民の65%はハイテク企業に勤めている。既存のインフィニオンの工場を拡張して新工場を作ってきたことは、フィラハはインフィニオンと一緒に歩んできたといえる」と表現した。今回の工場建設には延べで180万時間を要し、900名が建設現場で働いた。使ったコンクリートは7万立方メートル、使用した鉄鋼は1.5万トン、工場に這わせたケーブル接続の長さは1500kmにも及ぶ。この1年間は新型コロナ禍の中で作業したが、作業者を突き動かしたのは「フィラハの思い」だったとしている。

 

半導体はカーボンニュートラルにも欠かせない

 

 セレモニーに先駆けて開かれた記者会見では、インフィニオンのCEOであるReinhard Ploss氏は、「(同社は)モビリティ(自動車や電車、航空機などの輸送手段)やエネルギー効率を上げるための半導体で成長してきた。これまで(DRAM子会社キモンダの倒産という)経営危機があったが長期的な視点で投資してきた。新工場で何を作るかは、製品と応用で決まる。EVやソーラー、風力など高電圧で少ないロスが求められる分野、デジタル化とそのための電源に向けたICなどの半導体を生産する。さらに地球温暖化という大きなロスにも挑戦している。300mmの薄いウェーハは成長を続けるためのカギとなる」と述べている。

 半導体はあらゆる産業だけではなく社会を賢くするスマート化の頭脳となり、パワー半導体はその手足となる。人間の手足にも脳に匹敵するような神経があり、脳(MPUMCUSoC)と、手足を動かす筋肉(パワー半導体)は近くにいて連携しているとも言われているように、MCUとパワー半導体がEVやソーラー、ロボットなどの機械を動かすのに威力を発揮する。インフィニオンがサイプレスを買収した動機の一つはマイコン(MCU)を充実させたかったことがある。

 賢いクルマ、すなわち自動運転車や、賢いエネルギー、すなわちロスの少ない効率の良いエネルギーの実現は、カーボンニュートラルを実現する技術でもある。消費電力を下げて省エネを推進する重要な技術が半導体でもある。欧州の人たちの話を聞いて、半導体は、EVを発展させるだけではなくカーボンニュートラルを実現する手段でもあることを彼らはよく知っていると思った。

 翻って日本はどうか。半導体の世界シェアが10%まで落ち、ICのシェアとなると6%まで落ちている。これを救おうという意思は未だに総合電機からは出てこない。半導体に政府が肩入れすることを良く思わない人たちが総合電機に大勢いるからだ。半導体は外から買えばよいという態度でいる限り、IT/エレクトロニクスは世界に負けたままから抜け出せない。GAFAMに匹敵する企業が日本から生まれないことにもつながっている。

半導体不足を総括し、その後の世界をイメージしよう

(2021年8月28日 10:40)

半導体不足が自動車産業からスマートフォンやパソコン、さらには産業機械にまで広がってきた。産業機械の一つ、半導体製造装置に使うマイコンなどの半導体に影響を及ぼし、半導体がないから半導体を作るための製造装置が作れない、という事態に発展しようとしている。

そもそも半導体不足を起こしたきっかけは、車載用半導体を今すぐほしいという要求から始まった。この騒動は、昨年1~2月に顕在化した新型コロナにより世界各地でロックダウンが始まり、自動車工場が止まったことによる。ロックダウンで工場の社員は出られなくなり、世界各地の自動車工場が止まった。しかし工場を1週間止めると損失は大きい。例えばトヨタでは売上額が2019年度約30兆円だから、5日(1週間)/300日(実働)として荒っぽいが単純に計算すると、実に5000億円の機会損失になる。これを取り戻さなければ、機会損失から社員の雇用にまで影響が出てくる。そこで、自動車メーカーは、マスクや手洗い、三密回避などコロナ対策をした上で、工場を動かし始めた。

 停止する時は、半導体の入荷をすぐに止める。不足する時はすぐに納入する。いわゆるこのようなジャストインタイム方式が世界中の自動車メーカーに広まってきたことも車載半導体不足の一因だ。他の部品はともかく、半導体は1週間後にすぐ持って来いと言われても、すぐに作れるものではない。シリコンウェーハから半導体IC製品を製造するには約3カ月かかる。ウェーハからチップに切り出し、配線しプラスチックに封止、テストして良品を出荷するにはさらに1カ月かかる。つまり4ヵ月もかかるのだ。

 

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図 300mmシリコンウェーハ 出典:Infineon Technologiesの本社で筆者撮影

 

 半導体ICを製造するにはまっさらのシリコンウェーハ(直径が300mm、厚さ0.8mm程度のシリコンの円盤)から半導体回路を形成するまでに、1000以上の工程を通る。例えば10~20階建ての高層ビルを建てていく工事に似ている。つまり、1階ずつ形成していくようなもの。1階作るためにの工程数は多いだろうが、半導体の場合は1階作ってもそのうちのいくつかの場所は削り落として、更地にする部分も出てくる。そう、凸凹のあるビルを作るような工程を経て、最上階はフラットにする。ざっとこのようなイメージで半導体ICを形成していくため、とても時間がかかる。

 にもかかわらず、自動車メーカーはこれまで生産をずっと絶やさず工場を運営してきたためにジャストインタイムでも半導体側は生産計画を立て、製品を納期に間に合うように生産してきた。しかし、コロナのようにラインを完全停止してから製品を要求しても、在庫がある分は提供できてもゼロから作り直しとなると、どうしても時間がかかるから半導体側は生産計画を見直して優先順位を付けなければならない。半導体ICはパソコンやスマートフォンの製造は欠かせない。電気製品だけではなくあらゆる社会問題を解決するために絶対必要なツールになっている。かつては産業のコメと言ったが今はシステムの頭脳に変わってしまっている。さらに最近ではデジタルトランスフォーメーション(DX)やスマートシティをはじめとするスマートXXXといった新しい需要が出てきている。

 旺盛な半導体需要を満たすために優先度を見直してきた。スマートフォン向けだと手のひらサイズの中に30年前のスーパーコンピュータに匹敵する機能を詰めた半導体チップを作るために最先端の微細技術を使い高いコストかけながら生産している。もちろんその分高い価格で売る訳だが、車載半導体は低価格で高信頼性・高品質が要求される。つまり手間ヒマがかかり割に合わないのである。当然、優先度は下がる。しかし、半導体不足が表面化し自動車メーカーが政府まで動かし出荷を促すようになれば、それに従わざるを得なくなる。実際、半導体製造を請け負う専門業者(ファウンドリと呼ぶ)の台湾TSMCは、半導体不足が問題になり始めた2020年第4四半期の車載向けチップの販売額を前四半期比30%増、2021年第1四半期も同30%増、と増産し続け、2021年第2四半期になって12%増と少しピッチを緩めた。

 そうすると、スマホやパソコン、五輪需要でモニターやテレビなどのIC不足が表面化してきてきた。その他数量はスマホなどと比べるとそれほどでもないが、一般家電の洗濯機や炊飯器、冷蔵庫、ロボット掃除機、エアコンなど、賢くなり始めた家電向けの半導体も足りなくなる。もっとも足りないのは、クラウド需要で大量のコンピュータが必要なデータセンターである。クラウド需要は今回の新型コロナでも需要が大きく、企業向けのオンプレミス需要と相まってハイブリッドクラウド需要も高まってきている。

 余談だが、賢い家電に見られるように賢いことを英語ではスマートという言葉をよく使う。スマートXXXとはまさに賢くすることに他ならない。賢くするために絶対欠かせないのが半導体である。だから半導体は今やシステムの頭脳になった、と表現した。ところが、日本の電機のトップ経営者は「半導体は外から買って来ればいい」という態度にいまだに終始している。最近アマゾンンのクラウドサービス部門(ここがアマゾンの最大の稼ぎ頭)であるAWSAmazon Web Service)が開発した独自チップGraviton 2の性能をさらに高めるGraviton 3の開発を計画している。加えて、AWSは、セキュリティICも開発しており、さらに独自チップをAI推論向けに開発しており、年内には学習用AIチップも発表する予定だ。

 では、半導体不足はいつ解消するか。現在の需要のままなら22年後半あたりに解消し、23年には過剰になるという見方はある。しかし、その頃にスマート化やDXが進むと半導体需要は追加される。このため23年でも不足が続くという見方もある。24年には一段落するかもしれないが、スマート化とDXの進展で新たな需要が必ず増えてくるため、やはりいち早く増産し市場をとる方が勝ち組になるだろう。半導体市場は、一段落することはあっても必ずまた需要が旺盛になってくる。これがシリコンサイクルだ。半導体という頭脳はいくらあっても人間の頭脳に追いつけないからだ。

 先ほどのアマゾンの例で示したのは、独自チップで競争企業と差をつけるために半導体を独自に開発し、それを継続するという方向だ。独自チップは消費電力が少なく、しかも独自の機能を追加できる。ファブレス半導体のアマゾンやグーグル、アップル、フェイスブック、マイクロソフトなどのインターネットサービス企業だけではなく、エリクソンやノキアなどの通信機器メーカー、HPEのようなコンピュータメーカーまでも独自チップを開発しており、ファブレスで半導体を設計する企業は増えている。こういった新しいファブレス需要に応えるため、TSMCUMC、グローバルファウンドリーズのファウンドリ企業なども新工場を続々計画している。日本だけが指をくわえている状況だが、これで良いのだろうか。

半導体のサプライチェーンとは何か

(2021年8月 1日 12:01)

 

 米バイデン政権が半導体に520億ドルの投資計画を発表した後に、日本も経済産業省が「半導体・デジタル産業戦略」を発表した。これまでに計上されている予算として、グリーンイノベーション基金の2兆円と、ポスト5G関係の2000億円を当てにしているだけの報告書に見えた。新たに予算を付けたわけではない。

 米国が半導体に注目した主な理由は、国防と経済活性化のために半導体という成長産業を強化する必要を理解したからだ。国防、経済、共にサプライチェーンがグローバルな諸国と手を組まなくては半導体製品を手に入れることができなくなったことを認識した。半導体サプライチェーンという関係(図1)から、米国経済を強化する上で、半導体を強化する必要性を深く理解した。

 

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1 半導体のサプライチェーン 出典:筆者作成

 

 図1を見てほしい。米国が半導体でいかに強い国であるか、がわかる。しかし、この中で、米国の弱点も明白だ。明らかにファウンドリとOSATが弱い。OSATとは、半導体ウェーハからチップに切り出した後にプラスチックモールドに封止してテストまで終え、完成品を作る業者のことである。1980年代までは半導体メーカー自らが前工程の製造工場も後工程の工程も持っていたが、餅は餅屋の精神で世界各地の得意な国(日本政府は台湾を国として認めていないが、実質的には国であるので、敢えて国とした)へと展開してきた。

 米国の持つ危機感は、もし台湾を中国が侵略すると製造を専門に請け負うファウンドリが中国の手に渡ってしまうことである。すでに香港が1997年の中国返還の時に50年間自由な民主主義を保証する、と英国との間で取り交わされていた約束を中国政府が反故にした、という経緯がある。1997年までの香港は、英国が植民地として支配していたが、何でもできる自由な植民地だった(日本よりも自由だった)。それが言論の自由を奪われた、不自由な独立地域となってきた。最悪のシナリオだが、一度も支配したことのない台湾を中国が侵略するという可能性が出てきたために、米国はその事態が起きてもサプライチェーンを維持するために、米国内に製造拠点を強化しようとしているのである。IntelGlobalFoundriesの製造強化を歓迎し、TSMCをアリゾナ州へ誘致してきた。

 米国は自国内に製造拠点を置くだけではなく、同盟国の中にも製造拠点を置いておきたいのだ。米国が中国の一帯一路を避け、同盟国だけのサプライチェーンを築くように先日のG7でも働きかけていた。だからこそ、日本のような同盟国内で半導体製造を専門とするファウンドリがあれば米国は大歓迎である。しかし、残念ながら日本はそのような意識がなく、製造装置が強い今のうちにファウンドリメーカーの台湾TSMCを誘致することに経産省は一所懸命になっているが、日本地場のファウンドリについては全く言及していない。おそらくアタマの隅っこにも入っていないのだろう。

日本が強化すべきはITサービスと半導体ユーザー、ファブレス、そしてファウンドリ

日本政府は、本当に半導体サプライチェーンを理解しているのだろうか。日本にTSMCを誘致したところで、製造装置メーカーは少しは喜ぶだろうが、すでに製造装置メーカーは日本の半導体メーカーよりも韓国と台湾、米国(Intel)に長い間売り込んできた。例えば半導体製造装置メーカー世界3位の東京エレクトロンの海外売上比率は85%前後であり、半導体テストメーカートップのアドバンテストは92%以上と高い。つまり日本での半導体メーカーを当てにせず海外での顧客に立派に売り込んでいるのだ(これで立派に日本政府に税金を納めている)。

日本に足りないのは、図1からもわかるように、世界に通じるITサービスや電子機器メーカーであり、ファブレス半導体メーカー、そしてファウンドリである。半導体を買ってくれる客がいない日本でどうしてTSMCが来てくれると活性化するのだろうか。むしろ、ファウンドリからファブレス半導体、電子機器メーカー、ITサービスを支援して初めて、日本経済が活性化していくのである。もちろん、サプライチェーンの図1からOSATが抜けている点も強化すべきであろう。

米国がファウンドリ1社のために補助金を出す議論を開始、ニッポンはどうする?

(2021年7月23日 10:28)

経済産業省は、1社のために補助金を出すだろうか。これまでは数社が集まればコンソーシアムとして国家プロジェクトにして出してきた。しかし、ことごとく全て失敗した。補助金を出した総合電機が半導体から手を引いたからだ。国家プロジェクトでたとえ、優れた結果が得られても、プロジェクトの期限が切れた後に総合電機に持ち帰るとことごとく捨てられた、という過去がある。

今回、経産省が半導体を支援する戦略を打ち出したが、JEITA(電子情報技術産業協会)の半導体部会が半導体支援の声明を出した。これまでは、半導体部会といっても親会社である総合電機の下で半導体部門が活動しており、実はこの体質はさほど変わっていない。東芝はキオクシアの株式の4割を持ち、いまだに支配を続けるという姿勢を見せている。ただ、ルネサスはもはや総合電機の傘下にはなく、総合電機からの支配から脱したため、シリコンバレー風の経営(AgileResilientMarketingScalable戦略)を進めている。

TSMCの国内誘致を積極的に推進している経産省は、日本経済新聞を使って、盛んにTSMCが熊本県に半導体工場を検討しているというニュースを流しているが、果たしてうまくいくかどうかは、インセンティブ次第であろう。もちろん、TSMCは未だ答えてはいない。


米国はサプライチェーン寸断の恐れ

日本の戦略とは全く異なり、政治的な問題からTSMCをアリゾナ州に誘致した米国が半導体製造を強化しようとした意図は明確だ。中国が台湾を侵略する恐れがあるからだ。中国が台湾を侵略すれば、TSMCはもはや使えなくなる。ファブレス半導体で65%のシェアを占める米国にとって死活問題となる。5G通信やモバイルプロセッサで圧倒的な力を持つファブレスのQualcomm、今やゲーム機やパソコンでIntelを凌ぐAMDAI(機械学習やディープラーニング)で圧倒的な力を持つNvidia、誰でも自分のハードウエア専用回路を作れるFPGAXilinxなど、世界中が使っているチップが使えなくなるのである。これらが力を失えば、米国経済に及ぼす影響は計り知れない。

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 1 GlobalFoundriesのニューヨーク州マルタにあるFab 8の全景 ここに本社をシリコンバレーから移転した 出典:GlobalFoundries

 

7月20日、ファウンドリビジネスのGlobalFoundries社が生産能力倍増計画を発表したが、ここに米国政府の支援を求めている。これまで米国では政府が半導体企業を支援することはなかった。1987年に設立されたSEMATECHというコンソーシアムは、連邦政府の援助の下で半導体メーカー10数社が集まる組織だったが、残念ながら機能せず失敗に終わり、改めて民間組織のInternational SEMATECHが生まれた。最初のSEMATECHは資金力のある半導体メーカーが集まった「金持ちクラブ」だと猛烈に反対するスタートアップのCEOもいた。

ところが韓国や台湾では、コンソーシアムを作らず、1社のためにインセンティブや支援する体制を作り、国家(日本政府は台湾を国家と認めていないが、ここではあえて国家とする)が半導体企業を応援し発展させてきた。


官民の出資を仰ぐ

719日にGlobalFoundriesが発表したプレスリリース(参考資料1)によると、この発表では政府関係者や業界関係者も集まり半導体サプライチェーンを考えようというものである。ここでのサプライチェーンとは、ファブレス半導体で大きな影響力のある米国の設計力に対して、製造は前工程(TSMCUMCなどのファウンドリ)も後工程(ASESPILなどのOSAT請負)も台湾に頼りっぱなしであることを指している。リスクのある台湾に頼らず、国内でファウンドリや後工程を強化しようという訳だ。

そこで、GF社のCEOであるTom Caulfield氏は、与党リーダーのChuck Schumer上院議員や、Gina M. Raimondo商務省長官、前国防総省関係者、業界関係者を集め議論するとしている。全てバイデン政権の520億ドル支援を歓迎する者たちばかりだ。GFは、ニューヨーク州マルタ(アルバニーから40Km程度北)にある既存の工場Fab 8の生産能力増強に10億ドルを投資し、さらに官民のパートナーシップを通じ、新工場を建設する。特に自動車用半導体、5GIoT用半導体を生産するとしている。政府からの資金に加え、自動車メーカーや半導体ユーザーからの出資も加え総計で生産の能力を倍増する。建設には数千人、新工場には1000人の雇用が生まれるため、州政府、連邦政府とも歓迎すると読んでいる。

翻って、日本の経産省は1社のために資金を援助するだろうか。ここが最大の問題だ。1社のために出さずに数社の国プロにするのであれば、これまでの国プロと同様、やはり失敗するだろう。誰も責任を取らない体制になるからだ。責任のある民間企業1社のために出資し、成功に導くことで経済発展に寄与する、というストーリーを受け入れるかどうかで決まるだろう。米国はおそらく受け入れる方向になるだろう。韓国・台湾と同じ土俵にのるからだ。日本だけが従来と変わらないのであれば、未来は開けない。もちろん具体的な役割は世界中にお手本があるからそれらから学べばよい。

 

参考資料

1.       GlobalFoundries Plans to Build New Fab in Upstate New York in Private-Public Partnership to Support U.S. Semiconductor ManufacturingGlobalFoundriesプレスリリース、2021719

 

日本は未だに半導体製造に強い国、半導体を巻き返す秘策を探る

(2021年7月14日 22:18)

日本の半導体製造能力はまんざらでもない。世界の半導体製造能力で見ると、台湾の444.8万枚/月、韓国の425.3万枚/月に続いて328.1万枚/月と、堂々の世界3位の地域なのだ。日本の半導体ICの市場シェアが世界のわずか6%しかないというのに、製造能力では十分高いレベルに来ている。なぜか。この裏の背景は何なのか。

 

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1 地域別の半導体ウェーハ処理生産能力 出典:IC Insights

 

1に示す世界の半導体ウェーハ処理生産能力における地域別の地域という意味は、半導体プロセス工場(ファブ)が存在する地域を指している。また、日本の半導体ICのシェアという場合の日本とは、日本に本社を置く企業のことである。つまり日本企業の半導体市場におけるシェアが6%しかないということは日本の半導体企業が弱いということを示しており、図1は日本における半導体ウェーハ処理工場(通常ファブと呼ぶ)の生産能力を表している。つまり外資系企業の日本における工場も含めている。

 日本におけるファブの生産能力が16%もあり、製造は強いのになぜ日本の半導体産業が弱いのかという問いに対する答えは簡単。日本には外資の工場がたくさんあるからだ。三重県には富士通が手放し台湾のファウンドリUMCが買った300mmラインがあるし、東広島には旧エルピーダメモリを買ったMicron Technologyの工場がある。福島の会津にはON Semiconductorの工場やTexas Instrumentsの工場がある。TIは茨城県の美穂にも工場を持っている。ここでは半導体前工程の工場について議論しているが、後工程の工場もAmkorが買収した旧Jデバイスの九州工場がある。

日本は総合電機という半導体の親会社が長年、半導体事業を支配してきた。総合電機の経営者が経済産業省と手を組み、半導体事業を没落させてきた、といえないこともない。総合電機も経産省も日本国内しか見ない公共事業依存型のドメスティックな内弁慶社会。しかし半導体産業では競争相手は常に海外企業であり、俊敏な動きが特長のビジネスである。親会社に相談しないと何も進まない会社ではハナッから勝負にならない。半導体ビジネスは、ITと同様、AgileFlexibilityResilienceScalabilityなどの言葉が並ぶ業界だから。Agileではなく、Flexibleでもなく、Resilientでもないような企業が半導体をやっても世界からは相手にされない。

さて、経産省が画策してきたようにTSMCを日本に誘致して日本の半導体産業は活性化するだろうか。しないだろう。するならば、これまでのMicronや、UMCTION Semiconductorなどが日本の工場を活用しているが、これで日本の半導体が活性化しただろうか。日本を本社とする半導体は依然として低迷が続いているではないか。

本来、日本は設計よりも製造が得意な国だ。にもかかわらずファブレス、ファブライトへと製造を弱体化した結果、設計は強くなったか。ルネサスだけはなったかもしれない。しかし、他の半導体メーカーでは、システムLSIはそれほどでもない。東芝はシステムLSIを捨てた。

日本の半導体を強くするならやはり、製造を強くすることであろう。それも設計の言葉がわかる技術営業をたくさん雇って注文をとれる体制を作ればファウンドリビジネスは成り立つ。これまでのファウンドリ事業と勝手に称した日本のビジネスは、ラインが余っていたら使わせてあげる、という態度から一歩も出ていない。お客さんが来るのをひたすら待っているだけで、しかもマスクを持ってくる顧客しか相手にしない。

半導体ユーザーの本質を全く理解していないから顧客をとれないのである。半導体ユーザーは、論理設計するためのLSI設計言語であるVHDLVerilogなどをゼロから学ぶ気はない。そんな暇があったら、自分が開発したいシステムの改良のことに頭を使う。だから、ファウンドリは、論理設計から論理合成、レイアウト、配置配線、マスク出力といった設計工程の面倒を見る必要があるのだ。もちろん、設計工程をデザインハウスに依頼してもよい。この場合はデザインハウスやEDAベンダーなどとのエコシステムを作らなければならない。加えて、自分の製造ラインに合わせたようなMOSトランジスタのVth(ゲートしきい電圧)をいくつか用意してそれに合うようなトランジスタを作るようにPDK(プロセス開発キット)を用意する必要がある。

日本ではこれらのユーザーサポート体制を作ってこなかった。だからビジネスできなかったのだ。TSMCは日本で大量のLSI設計技術者を雇ってきた。日本にデザインセンターの機能を持たせるためだ。これによって次々と微細化しても、それに対応するトランジスタや配線ピッチなどのルールを再構成し性能を引き出せるLSI回路を設計し製造してみて正常に動くことを確認する。残念ながら、日本ではファウンドリビジネスそのものを理解してこなかったと言ってよいだろう。

だが、ファウンドリビジネスを根底から理解し、設計技術者、デザインハウス、などとのエコシステムを作り、製造技術に磨きをかけて、順々に微細化、3次元化で新しい時代のLSIを生み出すことができるようになるはずだ。日本で力を入れるべきはTSMCの誘致ではなく、ファウンドリビジネスを導くための支援であろう。かつてのように、1社のためには何もしないが、数社集まればコンソーシアムを作って補助金を取る、という考えだと、再び失敗を繰り返すことになる。経産省に期待することは、1社のために支援することであり、財務省と一緒になって研究開発コストへの補助金や税制優遇策などを導入することであろう。成功事例を作れば、必ず日本は2匹目、3匹目のどじょうを狙う企業が出てくる。かつてのシリコンバレーでのスタートアップフィーバーのようなファウンドリのフィーバーが現れれば日本の半導体、さらに経済が活性化することは間違いない。

半導体を含めた日本の製造業を強化するならSTEM教育を!

(2021年6月27日 16:56)

昨今の半導体ブームを見て早速飛びついた議員連盟が結成されたのは半導体産業がいかに重要ということではなく、米国のバイデン大統領が半導体製造強化に520億ドルの予算を計上したという事実にプレッシャーを感じたからだ。つまり外圧である。議員連盟は過去にもたくさんできては消えを繰り返してきた茶飯事であり、現在ある議員連盟だけでは5つも6つもある。半導体はその一つにすぎない。

ただし、議員連盟に期待する気持ちもある。霞が関のタコつぼ的な各省庁の組織ではデジタル化が遅れ、ワクチン接種も遅れ、組織が硬直化して正しい判断が出来なくなりつつあるからだ。半導体の政府援助を台湾や米国レベルで見ると、1年度の補助金ではなく税制優遇や補助金など各企業に援助することが多い。しかし、これまで経済産業省は1企業のために援助はしないと公言してきた。コンソシアムなら支援してきたが、この国家プロジェクト方式はことごとく失敗した。

経産省は、今回TSMCという1企業を支援することを決めた。しかし、税制優遇や研究開発支援は財務省の問題であり、アンタッチャブルだという姿勢を今も崩していない。だからこそ、世界と同じ土俵で半導体企業を支援しようとすると、各省庁に横グシを入れられるように変えるしかない。各省庁に横グシを入れられる立場にいるのは、議員と内閣だけである。内閣が期待できそうにないから、議員にかすかな期待を寄せるのである。米国でさえ、バイデン大統領を動かしたのは、超党派の議員が半導体産業のサプライチェーンの世界的変化を訴求し、半導体製造が国の安全保障にとって最重要であることを訴えたからだ。

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図 国会議事堂

 

デジタル化の3大要素はコンピュータ、通信、半導体

半導体はIT(デジタル化)の3大要素の一つである。すなわち、コンピュータ、通信、そして半導体というIT3大要素はいずれが欠けても成り立たない。通信は今やITインフラの一つであるから総務省管轄で大事にされているものの、経済産業省が管轄のコンピュータと半導体は残念ながら重要視されてこなかった。ITやそれを支える要素のことを最近ではデジタル化と呼んでいるが、そのテクノロジーがエレクトロニクス技術であることに変わりはない。ただし、言葉として、半導体やエレクトロニクス、電子というフレーズは古い、と思われているのが現状である。

2~3年前はIoTCPS(サイバー・フィジカルシステム)という言葉がはやっていたが、IoTシステムそのものがデジタルトランスフォーメーション(DX)のテクノロジーである。上っ面の言葉だけが変化しても、中身のテクノロジーは実は70年以上も変わっていない。70数年前に、IT3大要素は生まれた。1947年にトランジスタ動作の発見、1946年に電子式コンピュータの発明、1948年クロード・シャノンによるデジタル通信の限界理論の提言があった。これらの3大要素は別々に生まれたものの、少しずつ重なり始め1971Intel社がマイクロプロセッサとメモリを発明した当時、それらはオモチャだと揶揄されたが、ムーアの法則と共に集積度が上がり、半導体技術でコンピュータの性能を上げ消費電力を下げられることが可能になり、半導体とコンピュータはつながった。さらにデータを転送するためのデジタル通信が通信基幹システムだけではなく、携帯電話にも広がってきたことで半導体とコンピュータと通信がつながってきた。

 

半導体製造だけを勉強しても無駄

こういった動きを認識していなければ半導体の重要性は認識できないのである。小学校や中学校から半導体の授業をやるべきだという意見はあるが、それだけではテクノロジーの本質にはたどり着けない。むしろSTEMScience, Technology, Engineering, Mathematics)教育が重要だと述べると、Facebookなどで多くの大学関係者から賛同を得た。半導体製造だけを学んでもそれでは未来に向かえない。むしろ、物理や化学、生物学、医学などをしっかりと身に着け、数学を駆使してさまざまな問題を解いていく方が、融通が利く。物理学をしっかり学んでいれば量子コンコンピュータや量子アニーリング、量子暗号技術だって理解できる。また数学をしっかり身に着けていれば、AI(機械学習やディープラーニング)も理解できる。STEM教育で、これらをしっかり身に着けておけば半導体を理解することは難しくない。

半導体議員連盟に期待するのはどうかな、と思ったのは、最高顧問に就任された麻生財務大臣が、学校で微分・積分を学んで何の役に立つのか、やめていいのではないか、という発言をされたことだ。日本を支える製造業でむしろ微分・積分を使わない先端企業があるなら教えてほしいくらいだ。製造業はどこでも微分・積分は常識的に使う。半導体でさえ、MOSトランジスタの動作を理解しようとすれば、ポアソン方程式と電流連続の式と呼ばれる微分方程式を解かなければならない。微分・積分の考え方を知っていれば、通信技術での圧縮や伸長でよく使われるDCTやフーリエ変換を理解したり、DSP(デジタル信号プロセッサ)を理解したりすることも容易だ。逆に知らなければ、テクノロジーでますます世界からも置いていかれることになる。中国やインド、東南アジアで優秀なエンジニアは誰でもみんなSTEM教育の重要さを理解している。つまり、日本はこれらの国から遅れてしまう危険があるのだ。

また、小中高学校から教えるべきは、暗記ではなく、微分・積分や行列演算、物理法則、化学法則などの原理と考え方である。考え方さえしっかり身についていれば、年を重ねてもそれらの原理を理解できるから、将来どのようなテクノロジーが生まれてきても十分理解できる。半導体製造だけを学んでも、量子力学の本質を理解していなければ、量子の世界だけではなく、固体の量子論、すなわち半導体物理や物性物理の理論も身につかない。文部科学省に期待するのは、STEM教育が日本のモノづくりを強化する基本であることを理解してくれることである。