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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)
ファブレスIC半導体は年率13%の高成長産業
2022年7月 8日 12:14
 最近市場調査会社のIC Insightsが発表したグラフを見る限り、ファブレスIC半導体は年率平均13%成長というとんでもない高成長産業であることがわかった。2003年から2021年まで19年間に渡るIC半導体産業の成長率の推移では、ファブレスIC半導体はこの間マイナス成長した年はわずか2年しかない。これに対して、工場を持ち製品ブランドも持つIDM(設計と製造の両方を行う半導体企業)の成長率は、山あり谷ありで、平均6.8%のプラス成長だ。

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1 ファブレス半導体は大きく沈んだことがない超優良な成長産業 出典:IC Insights


 それでも、IC半導体は大きな成長産業である。しかも現在、60兆円を超す巨大産業でもある。この巨大産業が年率平均10%で成長し続けているのだ。この規模で高成長を続ける産業は他にはない。

  中でも工場を持たない、設計だけのファブレス半導体の方が成長率は高い。年率平均13%というとてもなく高成長の産業である。この「おいしい」ファブレス半導体産業に日本は長い間世界の上位10社に一度も入ったことがない。この分野は米国が圧倒的に強い。しかし台湾も頑張っている。特にMediaTek2021年には第4位にランクされている176億ドル(約2兆円)企業だ。さらにNovatekRealtekHimaxの台湾勢もランクインしている。トップ10社の内、米国6社、台湾4社が占めている。

  この結果、2021年にIC全体5105億ドルに占めるファブレスIC半導体の割合は34.8%1777億ドルと1/3以上を占めるようになった。ファブレスの勢いに残念ながら、わが日本は全く付いていっていない。

 

台湾は国策でファブレスを強化


 台湾がここまでファブレスに強くなった理由の一つは、国(注)を挙げてファブレスを強化したからだ。1990年代半ばにTSMCUMCはファウンドリで着実にビジネス実績を挙げてきた。中国でもファウンドリによるブームが起き始めていた。製造部門がやがて中国に移るかもしれないため、台湾はファブレス設計を強化しておこうと政府は考えたのである。

  それを受けて1997年に設立されたMediaTekは当初はCD-ROMドライブ用の読み取りICで大成功を収めた。日本のCD-ROMチップを手掛けた半導体メーカーが特定の規格の読み取りICしか生産しなかったことに対して、MediaTekの読み取りICCD-ROM装置が持つ全ての規格をカバーした。汎用化させることによって、MediaTekICと三洋電機の光ピックアップさえあれば誰でもCD-ROMを作れると言われるようになった。余談だが、三洋のレーザーピックアップはその当時定評があった。

  MediaTekの優れた製品戦略は、その後も汎用性のあるICを開発するという姿勢を示し続けた。CD-ROMの延長で、DVDBlu-RayレコーダやHDTV用のICなども設計したが、大きく成長させたのは、携帯電話機のモデムチップ、さらにはアプリケーションプロセッサだった。特に3G4Gのスマートフォン向けチップで世界的なファブレス半導体メーカーとなった。今や5GQualcommに対抗できるのはMediaTekしかいない。

  日本は、汎用性のあるチップ設計が弱い。特定ユーザー向けのASICチップは言われる通りに作るだけなので強かったが、汎用ユーザー向けに最大公約数の仕様を見つけるという作業ができなかった。こういったマーケティング作業に力を注いでこなかった日本における現在のファブレスは、特定企業向けのICという、いわゆる下請け体質から抜けきっていない。だから世界的な企業になり切れない。特定企業向けではなく、特定用途向けのIC設計を日本はもっと強くしなければならないが、経営者の姿勢にも問題が多く、なかなか特定用途向けの設計は苦手である。だが、MediaTekの考え方を日本の経営者が謙虚に学び実行するという姿勢を持てば、実現できないことではない。

 

 

注)日本政府は台湾を国として認めていないが、ここではあえて国(中華民国)と表現させてもらう。中国は一度も台湾を支配したことのない国だからである。台湾はかつて「流求」あるいは「瑠求」と呼ばれていた(筆者は北京の歴史博物館で確認した)。沖縄がかつて琉球王国であったが、「流求」や「瑠求」はまさに「りゅうきゅう」と読める。琉球王国は、日本と中国の両方に貢物を納めていたという歴史があるが、中国が台湾、すなわち「流求」を支配したことは一度もない。このため、中華人民共和国が台湾を中国の一部と呼ぶことは理に適っていない。