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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)
半導体設計者のバイブル本とLGBT
2022年6月30日 17:21

 半導体設計者のバイブルという言うべき本「Introduction to VLSI Systems」(写真1)がある。半導体関係を専攻した人なら誰でも知っている名著であると同時に、現在の高集積半導体集積回路(VLSI)の階層設計技術を表したものだ。この著者の一人であるカリフォルニア工科大学名誉教授のCarver Mead氏が最近、2022年京都賞を受賞した。この賞は、京セラの創業者であった稲森和夫氏が200億円の私財を投じて設立された稲盛財団が与える賞で、先端技術部門、基礎科学部門、思想・芸術部門に与えられる。Carver Mead氏は先端技術部門で受賞した。

 

Fig1VLSIDesign.jpg

写真1 「Introduction to VLSI Systems」の最初の本

 

 半導体といえば、たいてい半導体製造プロセスの話しばかりがトピックスとして出てくるが、数百億トランジスタのチップを設計することは、まるで1200万人が住む東京都の家や建物を1軒ずつくっきりと地図を描くような作業に等しい。その作業を階層設計で表し、最大数百憶トランジスタをくっきりと描くような作業が求められる。この設計手法を著したのがCarver Mead氏とLynn Conway氏である。

  筆者は実は、このお二人に1983年ごろにお会いしたことがある。場所は当時日経エレクトロニウスの姉妹紙であったElectronics誌を発行していたMcGraw-Hill(マグロウヒル)社のオフィスだ。筆者はElectronics誌の編集者と会って情報交換する目的で、ニューヨークのアメリカ通りに面したオフィスを訪れていた。編集者と話をしていると、Introduction to VLSI Systemsがエレクトロニクス産業に貢献したということで、Electronics誌が二人を表彰し、社長、編集長とランチに招待しているという。ぜひお会いしたいと申し出たら、ランチ後に面会させていただいたというわけである。

 

Fig2Conway.jpg

写真2 Lynn Conwayさん

 

 Lynn Conwayさんはとても背が高く、Mead教授よりも高いくらいだった。お二人ともとても優雅な雰囲気をかもし出していた。VLSI設計者のバイブルを書いたMead氏は、半導体の物理的限界(ハイゼンベルグの不確定性原理から導かれる)を示したり、GaAs(ガリウムひ素)FETを提案したりするなど設計以外でも活躍されていた。しかし、もう一人のLynn ConwayさんはXeroxPalo Alto研究所の優秀なエンジニアであるということしか知らなかった。最近、Facebookを通じて知ったことだが、彼女(写真2)は数奇な運命を経て最近ようやく表に出てくるようになった。

  数奇な運命とは、LGBTで迫害されたことだ。彼女は生まれた時は男の子であった。コンピュータメーカーに働いていた時に、どうしても自分の性に違和感を覚えたため、性転換手術を受けた。それを告白した会社の上司は彼女を即クビにした。そのコンピュータ企業で彼女は、今のCPUに入っているOut-of-order実行命令やスーパースケーラ技術を開発した極めて優秀なエンジニアだった。

  その後は別のコンピュータ会社で臨時のプログラマーとして働き、スティルス状態で働いていたが、やがてXeroxに入社し、コンピュータ設計者となった。そこで、Carver Mead教授らと共に本を著した。この本は1983年までに120校の大学でVLSI設計の教科書として使われ、専門書としては異例の7万部以上を売り上げたという。この「MeadConwayの本」はVLSI設計のバイバルとなった。

  Lynn Conwayさんは1985年にミシガン大学の電子工学の教授になり、名誉教授にもなり現在は引退している。最近は、LGBTなど性的なマイノリティが認められる世の中になり、彼女はトランスジェンダーの方たちの良き相談相手になり、彼らの支援活動をしている。