いつまでたっても成長しない中国の半導体産業
2022年5月21日 09:07

 中国政府が何兆円を投資しても半導体製品のシェアがちっとも高まっていない。中国内の半導体IC市場に対して、中国生産IC製品の市場シェアは2012年に12.7%しかなかったのに10年間でわずか16.7%に留まっている(図1)。中国政府が旗を振る「中国製造2025」計画では2025年には70%シェアという目標だが、どう考えても達成は無理だろう。なにせ10年で4%ポイントも上がらなかったのに今年も含めて残りの4年で54%ポイントも上げなければならないのだから。

中国半導体が盛り上がらない理由.jpg

1 中国国内のIC市場と中国製半導体ICの販売額 出典:IC Insights


 なぜ中国政府は半導体に力を入れても企業は世界レベルにならないのか。その答えを求める前に、中国政府はなぜ半導体産業を盛り上げようとしているのか。その答えは図1を見ればすぐわかる。中国国内で使う半導体ICの市場規模は、2021年に1870億ドルであったが、中国産のICはその16.7%312億ドルしかない。つまり、中国は1870-3121558億ドル分(20.2兆円)のIC製品を輸入しているのである。逆に言えば、半導体IC製品のために20兆円もの外貨が流出した。それもグラフを見る限り、いつまでも毎年その程度のドルが流出することになる。これは中国共産党政府にとっては容認できない。だから内部で作れ、という訳だ。

 共産党政府はそのために国家ファンドを作り、年間数兆円相当の投資を行ってきた。輸入超過の半導体産業による外貨流出を防ぎたい中国政府は、外国(韓国Samsungや台湾のTSMCなど)の大手半導体に対しても大歓迎で受け入れている。中国生産の312億ドルの内60%以上が外資による生産である。中国の地場企業のシェアは中国市場の6.6%しかない。共産党政府にとっては半導体を国内で生産したくでもできないのが現状だ。

 その理由の一つとして、肝心のエンジニアが中国内にはいない。そこで、台湾、韓国、日本から半導体関係者を大量に採用している。中国人エンジニアが自立するまでのつなぎとして、例えば台湾から3000名以上を採用しているという。ただ、政治的に東西対立が目立つと、人材確保はますます困難になる。また台湾では経済スパイ法を成立させ、実質的に技術者の中国行きを防ぐ法案を2022520日に成立させた。

 中国の学生は半導体産業にどのくらい来るのか、業界関係者に質問したことがあるが、残念ながら学生はアリババや百度、テンセントなどのインターネット企業にばかり行く、という。半導体にはさっぱり来ない、と嘆く。筆者は2000年ころにSMICが起業され中国で半導体製造ブームがやってきた頃、地元の半導体企業を10社ほど取材したことがある。最も苦労したことは人材確保であった。「中国の若い学生は安易に金儲けできるところにすぐ行く」という声を至る所で聞いた。この状況は今でも変わっていない。先ほどの中国における業界関係者の言葉は現在の発言だ。

 半導体製造技術では、固体物理学や量子力学、プラズマ化学、光化学、光学、熱力学、もちろんニュートン力学、電子回路、電磁気学、IT、データ解析、ソフトウエア、コンピュータ科学、数学、通信工学など幅広いさまざまな勉強が必要である。簡単にちゃちゃっと習得できる技術ではない。「三角関数なんになる」という愚かな知識人や政治家が重要な産業を理解できないのは日本だけではない。

 米国は実は、半導体産業では圧倒的に強いのにもかかわらず、「中国の脅威」を議会や世の中に訴求することで、巨額の補助金を出そうとしている。日本は本当に半導体産業をちゃんとしないと中国よりもダメになるリスクは残っていることをもっと自覚すべきであろう。円安、輸入超過、経済没落の道筋は他人ごとではない。