「電源規制レベルVIに気を付けて」

(2015年6月28日 12:40)

電源規制レベルVIをクリヤしなければ米国に電子機器を輸出できなくなる。「日本企業がそうならないようにお手伝いしたい」。こう述べるのは、デジタル電源を引っ提げて日本でのビジネスを進める米CUI社。日本とは25年の付き合いだと言う同社CEOMatt McKenzie氏は、ローパワーからハイパワーまでの製品ポートフォリオを揃え、日本市場をさらに強固にするためにこのほど来日した(1)

 

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1 CUICEOMatt McKenzie() 左は同社Global Marketing担当のJeff Schnabel氏

 

デジタル電源とは、デジタルで電源電圧を自在に制御できる電源、という意味で今は使われることが多い。当初は、電源回路の中をデジタルで制御する方式をデジタル電源と言っていた。電源回路は元々、出力の電圧変動をアナログ的にPWM(パルス幅変調)でパワートランジスタの入力を調整することで安定な直流電圧を供給する。パルス幅変調をアナログではなく、さらに非常に細かいパルスの数で幅を調整する方式が、かつてはデジタル電源と呼ばれた。その細かいパルスを作り出すのがDSP(デジタルシグナルプロセッサ)と呼ばれる、積和演算専門のマイクロプロセッサである。DSPが得意なテキサスインスツルメンツ(TI)は、DSPの新しい応用として、デジタル電源を提案した。

 

今や、マイコンやプロセッサを使ってデジタルコマンドで供給電圧を調整する電源をデジタル電源(Digital power supply)と呼ぶことが圧倒的に多い。電圧を供給するシステムの消費電力を削減するためである。ここではDSPを使うことなくコストを削減できる。電源への要求デジタルのコマンドはPMBusと呼ばれるプロトコルを利用して通信する。

 

CUI社は、電源機能をコンパクトにモジュールにまとめるモジュールや電源と電源用部品のメーカー。AC-DC電源に加え、DC-DCコンバータも手掛ける。一般の家庭やビルなどで使われている100Vの交流(AC)を12V5V24Vなどの直流電圧に変換する電源では1Wから、12kWといったサーバーラック用の電源までカバーする。DC-DCコンバータだと0.25Wの小型から600Wまで手掛ける。LEDの電源となるLEDドライバや、IGBTパワートランジスタを駆動するIGBTドライバもある。

 

狙う市場は、通信インフラ系やネットワーク機器、データセンターのサーバー、医療機器、工業機器など。製品ポートフォリオを広げることができたのは、高出力電源を設計・製造していたカナダのテクトロール(Tectrol)社を買収したことによる。もともとCUIは電力の低い電源を得意としてきた。この買収によって、製品ポートフォリオが広がっただけではなく、標準品の変更によるセミカスタム電源やカスタム電源に対する高出力製品にも対応できるようになった。

 

例えば、AC-DC電源として最も出力の高い3kW1Uラック対応の電源「PSE-3000-48」ファミリを先日リリースしている。標準的な1Uラックに収まる40.64mm×101.6mm×355.6mmの大きさで33.48W/立方インチの電力密度を持つ。直流48V出力だが、42V~55Vの範囲で調整できる。通信インフラやサーバー、ネットワーク機器などエネルギー削減の要求が強い分野に向く。50%負荷における変換効率は94%と高いからだ。この製品こそ、テクトロール社のリソースを使って開発したもの。1U19インチの電源シェルフには4基の電源を搭載し12kWの電源を並列運用できる。デジタル制御用の標準バス、PMBusバスを内蔵している。

 

デジタル電源は、長い間、なかなか広まらなかった。電源内のフィードバック回路にまでデジタルで制御することのメリットを見いだせなかったからだ。

 

デジタル電源の普及と、セカンドソースの確保を目的として、CUI社は村田製作所、スウェーデンのEricsson Power Modules社と一緒にAMPArchitects of Modern Power)グループと呼ぶコンソーシアムを設立した。通信インフラやネットワーク機器、データセンター向けにデジタル電源を普及させるための標準仕様を設定する。さらに互いにセカンドソースとなり、いろいろな顧客やコントローラ企業と次世代電源について共同で開発、議論する。

 

インテルのマイクロプロセッサやFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)など最も微細な製造技術を使う半導体チップでは、1V程度の電源電圧で10A程度もの電流を流すことが多くなってきた。このため、チップのそばに電源を置かなければノイズなどの問題で正常動作が難しい。電源電圧を下げなければ消費電力を許容範囲に収めることができないためだ。そこでPOLPoint of Load)電源も登場したが、CUI社はデジタルPOL電源も持っている。最近の製品例ではAMPグループが定めたteraAMP標準に準拠した90A1V出力のPOLデジタル電源(DC-DCコンバータ)がある(2)。出力電圧は0.6V~1.8Vで変えることもできる。モジュールの大きさはわずか、50.8mm×19.11mm×9.47mmで、4個並列接続して360Aまで拡張できる。

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2 1V90A出力のPOL電源モジュール 出典:CUI

 

米国ポートランド市郊外にある本社を拠点とするCUI社は、日本の顧客にレベルVI規制に気を付けて、と注意を喚起する。これは米国のDoE(エネルギー省)が定める消費電力に関する規制であり、これまではレベルV規制までだったが、2016年の2月からは一段と厳しいレベルVIに準拠した電源を持つ電子機器しか、米国へ輸出できなくなる。これは出力電圧に応じて規制される消費電力を規定した仕様である。動作時の平均電力効率と無負荷での最大消費電力を、出力電力に応じて決めている。McKenzie氏は、米国に輸出する日本の機器メーカーがレベルVIをクリヤできるように支援したいと述べている。

                                                                (2015/06/28

   

非技術系の「デジタル」にも違和感

(2015年6月17日 20:27)

先日、「テクノロジー」という言葉に違和感を覚えるという記事(参考資料1)を書いた。早速、元エンジニアのトモダチから「同感、私はデジタルという言葉にも違和感を覚えます」、という意見をいただいた。この声にも全く同感である。事実、1980年から2014年まで、アナログICの出荷数量の方がデジタルICのそれよりも増え続けてきた。その数量の成長率もアナログの方が大きい。デジタル時代なのになぜアナログICの方が成長は速いのだろうか。考察してみよう。

 

デジタルエレクトロニクスという言葉を最初に聞いたのは、米McGraw-Hill(マグロウヒル)社が発行していたElectronics誌の記事を日経エレクトロニクスが翻訳した、1977~78年頃だった。その記事では、これからのエレクトロニクス技術はアナログからデジタルに変わっていく、というトーンだった。

 

1971年にはIntel4ビットのマイクロプロセッサ4004を発明し、Texas Instruments1トンジスタ/セル方式のDRAMを発明し、デジタルLSI時代は幕を開けた。それ以前は、TTL標準ロジックがデジタルICの数を圧倒していた。当初は、コンピュータエンジニアから「おもちゃ」と見られていた4004だが、8ビットの8080時代へと突入した。統計的な数字を持っていないが、70年代はデジタルICが増え続けたのだろう。特にDRAMメモリは容量が少なすぎて話にならないほどだったから、1Kビットから4K16K64K256Kと増加の一途をたどり、数量も月産1000万個、2000万個と増えていた。

 

80年代に入り、16ビットの80868028680386、そして32ビットの80486へと進化した。16ビットプロセッサ全盛の1980年代半ばに、デジタル時代には必ず人とのインターフェースに使われるアナログ半導体が求められるはず、との信念を持った男ボブ・スワンソン氏がLinear Technologyを創業した。アナログ専業メーカーのMaxim IntegratedIntersilなども設立された。Analog DevicesTIもアナログが強かった。

 

80年代後半になると、コンピュータエンジニアは半導体マイクロプロセッサを本気で考えるようになった。ゲートアレイなどのロジックでCPUボードを作るよりもIntel486Pentiumを購入する方が安くて高性能が得られるようになったからだ。

 

ところが、デジタルのマイクロプロセッサ技術の進展と共にアナログ半導体の数は増えていった。しかも、1980年から2014年に至るまで出荷された全IC総数の内、アナログ半導体の占める割合はずっと一貫して増え続けてきたのである()1980年には出荷されたICの総数の68%がデジタルで、アナログは32%だったが、2014年には47%がデジタルで53%がアナログ半導体と逆転した。今後の成長率でさえ、アナログICとマイクロコンピュータ(MCU/MPU)、MOSロジック、メモリという分類で見ると、アナログ半導体の成長率が最も高い年率平均8.9%2013~2018年を成長していくという予測がある。

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 図 アナログICの比率は増え続けている 出典:IC Insights

 

これを物語るのは、時代はデジタルに向かってきているものの、使われる半導体はアナログの方が増加率は高い、ということだ。入力の光センサや圧力センサとそのインターフェース回路はアナログ、A-D変換器(コンバータ)もアナログ、D-A変換器もアナログ、そして出力の液晶ディスプレイドライバ、モータの駆動インバータ、無線のトランシーバ、など人間を含む外界とのインターフェースは全てアナログICで出来ている。

 

さらに2000年代に入り登場したスマートフォンはアナログだらけである。タッチパネルのタッチセンサやジェスチャーセンサ、画面を90度回転させると画像も90度する加速度センサ、電子コンパスに使う磁気センサ、カメラの手ぶれ防止に使うジャイロセンサなど、こういったユーザーエクスペリエンスと言われる機能は全てアナログ回路である。そして今、時代はユーザーエクスペリエンスの時代に入るとアナログICの需要はますます増える。人間の指タッチや、ポーズ、ジェスチャーなど楽しいしぐさを入力デバイスとして表現するようになってきたからだ。音声のマイクロフォンは音を電気に変換するセンサである。音声入力もますます増えていく。スマホやタブレット、IoT端末のユーザーインタフェースは全てアナログ主体の回路となる。だから、アナログICがこれからも増えていくのである。

 

スマホやタブレットのデジタル回路部分はコンピュータと同じ構造だが、その入出力部分はまさにアナログである。そして電源用IC(最近ではパワーマネジメントICと呼ぶ)もアナログであり、約4Vのリチウムイオン電池から、1.2V3.3V5V7Vなど10種類程度のDC電源を作り出さなければならない。もちろん、据え置き型の機器は100Vの交流から、やはりさまざまな種類の直流電源を作り出す。

 

要は、マイクロプロセッサとメモリ(ROM/RAM、ストレージ)、周辺の専用ロジック回路などはデジタルだが、それらは制御と演算を受け持つ。演算処理が終わると出力するためのアナログ回路が欠かせない。

 

以上のように、「デジタル機器」にはアナログICが山のように増え続けている。だからこそ、デジタル時代と言われることにエンジニアは違和感を覚える。おそらく、非技術系の使うデジタルとは、機器の中身はどうでもよく、表示が数字だとデジタルで、表示が色の濃淡やグレイスケールだとアナログと言っているだけではないだろうか。これからのIoT端末の中身はデジタルICよりもアナログICの方がずっと多くなる。

 

ただ、エンジニアが注意しなければならないのは、非技術系のデジタルこそがユーザーエクスペリエンスであるという認識ではないだろうか。厳密にはやはりアナログ回路なのだが、コンピュータや専用ロジックのようなデジタル技術一辺倒ではなく、非技術系の言う「デジタル」、すなわち技術系の言う「アナログ技術」に商品価値が移っていることに気が付くべきかもしれない。

参考資料

1.    非技術系の「テクノロジー」に違和感(2015/05/07

                                                   (2015/06/17)

   

アラン・チューリング博士の考えは生きている

(2015年5月29日 00:39)

コンピュータは、メモリに命令とデータを蓄積し、それらを読み出して、「1番地のデータを5番地にコピーせよ」というような命令を実行することで、制御や演算を行う。メモリに格納する命令やデータをソフトウエアで書き換えるだけで、さまざまな制御や演算を行わせることができる。こういった汎用の演算器、すなわちコンピュータの概念を生み出したアラン・チューリング博士の生き様を描いた映画「イミテーションゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」を見た。

 

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図 アラン・チューリング博士が描いた抽象画 エジンバラ大学にて筆者撮影

実用的なコンピュータを作り上げたのはモークリーとエッカートだと言われているが、コンピュータのすごいところは計算が速いことではない。ソフトウエアを書き換えるだけで、いろいろな業務を行うことのできる汎用性だ。例えば、地球の軌道計算や無理数のπ(3.14159....という数字)の計算だけなら、ロジック回路だけで計算させる専用計算機の方が計算速度ははるかに高い。

 

天才、アラン・チューリングは、映画の中で「専用の暗号解読器を作るのではなく、プログラムを変えるだけでいろいろな計算ができるマシン(エニグマ)を作る」と言っていた。彼が生み出したフレキシブルなコンピュータの概念こそ、現在のデジタル機器の基礎になっている。ほとんどのデジタル機器は、CPUとメモリ(主にデータを出し入れするRAMと、命令を格納するROM)、その他外部へデータを入出力するI/Oインターフェース、独自の周辺回路、で出来ている。パソコンはもちろん、デジカメもスマホもテレビもプリンタもカーナビも、デジタル機器と言われるモノの基本は、このCPUとメモリ、周辺回路、I/Oインターフェースである。ここにソフトウエアを載せることで、違う機能を実現する。

 

ソフトウエアは、全てゼロから開発しなくても済むように、基本的なOS、ミドルウエア、アプリケーションという階層構成になっている。それぞれのソフトウエアをそれぞれの専門家が開発することで、ソフトウエアはつながっていく。例えば、ゲーム用のソフトウエア(アプリケーション)開発では、アプリだけを開発し、OSは出来合いのものを使う。

 

今の半導体産業・電子産業は、それぞれの回路をそれぞれの専門企業が担当している。だから全てを1社が開発する必要がない。CPUならインテルやアーム、ミップスなどの回路を購入し、メモリだとサムスンやマイクロンの製品が秋葉原で手に入る。インターフェースは共通化・標準化されているから、これも簡単に手に入る。ソフトウエアでさえもOSだとアンドロイドやマイクロソフトのウィンドウズなどを導入すればよい。

 

では、何を持ってデジカメやスマホなどの製品ができ、他社の製品と差別化できるのか。それこそがアプリケーションやミドルウエアであり、周辺回路である。つまり、ここに注力して、それ以外の部品や回路は市販のモノで済ませる。これが、良いものを安く、早く作るコツである。

 

以前、1000億円しかないスーパーコンピュータ市場で、1000億円もの国家予算をかけるスーパーコンピュータの国家プロジェクトは、全てゼロから開発しようとしていた (参考資料1)。だから、このやり方はおかしくないか、と問いかけた。国から予算をいただいて仕事している人たちだと思うが、ブログが炎上するほど非難を受けた。

 

しかし、同じスーパーコンピュータでも東京工業大学の「つばめ」は、「京」の1/10のコストで同様な性能を得ている。もちろん、ソフトウエアによって、それぞれ得意・不得意の計算があるから一概には言えないことは重々承知の上だ。東工大の方法は、CPUを外から買い、他の差別化すべき回路、ボトルネックとなっている部分だけにフォーカスして開発してきたからこそ、安いコストで高性能なスーパーコンピュータを実現できたのである。この手法こそが、世界の勝ち組企業が使っている手法に他ならない。日本の電子産業が没落したのは、何でもかんでも自前でやろうとしてきたからだ。

 

今でも日本製のOSCPUを開発しようという時代錯誤の発言を未だに聞くことがある。もうOSCPUは差別化できる部品ではない。そのようなところにこだわっていると世界から取り残されてしまう。だからこそ、何を開発して、何を開発すべきではないのかを明確にして、ハードあるいはソフトの開発に力を入れるべきだろう。

 

では、すでに「京」の渦中にいるエンジニアが世界にコスト的にも、Time-to-market的にも負けないスーパーコンピュータに仕上げるためにはどうすればよいか。これが、参考資料2で提案した、プラットフォームとしてのスーパーコンピュータである。下位展開できるように、まるで、「レゴブロック」のように簡単に取り外しできるような仕組みのシステムを作ればよい。いわゆる「専用」のスーパーコンピュータを作っても絶対にコスト競争力は付かない。「超汎用」のスーパーコンピュータを作ることこそ、コスト競争力が備わる開発手法、すなわちプラットフォーム戦略だと言える。

 

専用の計算機ではなく、汎用の計算機を作ろうと考えた、アラン・チューリング博士の考え方は、さまざまな少量多品種、さまざまな応用に適用できる手法である。日本がキラーアプリの開発、という考えに凝り固まっていては、いつまでたっても世界の勝ち組の仲間入りはできないだろう。どのような応用にも柔軟に対応できるモノ(プラットフォーム)を作ることが変化の激しい時代に生き残れる考え方だといえる。

 

参考資料

1.    世界と比べて常識はずれな1000億円という高額のスーパーコン補助金2013/05/10

2.    スーパーコンピュータの補助金1000億円をジャスティファイする方法2013/06/18

   

液晶は今やローテク

(2015年5月18日 22:10)

シャープの自己資本比率は限りなくゼロに近い1.5%だ、と日本経済新聞が報じた。連結ではなく単独なら債務超過に陥っているという。ほとんど倒産に近い。にもかかわらず、なぜ会社更生法適用に踏み切らないのだろうか。

 

514日に発表したシャープの20153月期の決算では、最終損益が2223億円の赤字となった。しかも、自己資本比率が1.5%とゼロに近いのに対して、みずほ銀行や三菱東京UFJ銀行などが2250億円を出資するという。ルネサスに産業革新機構が資金を投入した時でさえ、10%以上の自己資本比率はあった。ルネサスに比べると財務状態ははるかに重病である。

 

今回の経営危機に陥った最大の原因は、堺コンビナートへの5000億円近い投資による。それも当初(2007年ころ)は、総額1兆円を投資すると報じられた。この話は海外でもよく知られており、筆者は当時、インテルとIBMのそれぞれの米国人から聞いたことだが、両社とも「うちではありえない」と述べていた。両社とも同様だが、それほどまでの投資が必要ならば、コラボレーションを他社(製造装置産業や顧客など)と組み、投資金額を抑えることが米国企業の常識であった。インテルは日本の半導体メーカーよりも数十倍高価なチップ単価で量産しながら、コストダウンの意識は極めて強く、低コスト技術を徹底していた。だから営業利益率が3割、4割を超えるのである。数1000億円規模の投資もできた。それでも1兆円規模の投資に対して会社はOKを出さなかった。

 

今となっては手遅れだが、今後シャープが生きていくためには液晶を捨てるか、レベルの高いユーザーエクスペリエンス技術を開発するか、どちらかしかない。もし、その未来技術がないのであれば、会社更生法の適用がふさわしいと思う。「がんばれシャープ」という応援団がいるようだが、残念ながら従来型液晶にこだわる限り、シャープには未来がない。液晶ディスプレイはもはやハイテクではないからだ。なぜか。

 

液晶は、基本的には画素と言われる基本素子を設計さえすれば、後はハンコのように同じ画素をひたすら並べていくだけの製品である。欧米ではラバースタンピングインダストリー(ゴム印産業)と言われている。だから、台湾や韓国、さらには中国といった企業でも追いつける。特にこれからは中国企業が液晶産業を支配し、もはや台湾と韓国でさえ出番が来なくなる。

 

液晶の動向は、タッチセンサパネルを設け、ユーザーエクスペリエンスを重視することになる。このため、タッチセンサ制御回路と液晶ドライバ回路との1チップ集積ICや、タッチパネルに新しい意味を付加するアルゴリズムなどがこれからのテクノロジーを握る。液晶自体に差別化技術はもう少ない。だから液晶だけでは生き残れないのである。

 

514日に米国の市場調査会社IHSが予測した5インチのスマートフォン用液晶パネルの低価格化のトレンドによれば、昨年パネル価格は34%も低下したのにもかかわらず、液晶製造コストは14%しか下がらなかった。もしこのトレンドが続くのなら、年末にはブレークイーブン点を超えてしまうと見ている。スマホ用の液晶パネルの価格がここまで下がるのは、作る工場が中国などで増えてきたからだ。供給過剰になっている。従来のテレビ用液晶パネルの価格は底に達し、これ以上は下がらないが、スマホ用パネルの価格はもっと下がるという。

 

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先週の決算報告会では、もう一つの液晶会社、ジャパンディスプレイも122億円の赤字を出した。スマホ用液晶パネルの値下がりが続く限り、どのようにして液晶で中国企業とコスト競争力を持てるのか、この難しい答えを見つけない限り、液晶産業の淘汰は進む。

 

液晶がゴム印産業である限り、次のアプリケーションが出てきてもすぐ低価格になるため、低コスト技術を磨かない限り、中国企業には勝てないだろう。シャープやJDIが低コスト技術を持っているのなら、とっくに競争力があっただろうが、それは期待できない。

 

液晶パネルだけではないが、ユーザーエクスペリエンスこそがモバイルの世界だけではなく、計測器産業や3D-CADソフトウエア産業、など産業用のハードやソフトにも巨大なメガトレンドとしてやってきている。最も身近にある液晶産業がユーザーエクスペリエンスをリードしていかなければ、世界から取り残されてしまうことは当然の帰結になる。IT、半導体、液晶、部品などの産業は極めて動きが速い。ゆったりとした大企業病の会社では、この世界で競争することは無理かもしれない。

 

かつて、中国の携帯電話市場で圧倒的な強さを誇ってきたサムスンが、最近(13)のスマホ市場で4位に落ちた。サムスンの没落はもはや時間の問題になってきている。モバイルやIT、半導体の世界では、産業やトレンドの動きは実に速い。日本企業が勝負するからには、完全分社化(独立)・責任移譲を経営者が決断する必要があるが、未だにその動きは出てこない。モバイルで競争する以上、液晶パネルにプラスアルファの付加価値をユーザーエクスペリエンスの視点で追加できるかどうかが生き残れるかどうかを決めるだろう。

 (2015/05/18)

   

日本半導体が成長するために必要なこと

(2015年5月14日 23:45)

先日、久しぶりに、デザインセンターを開設するという発表を聞いた。何年ぶりだろうか。欧州オーストリアをベースとする半導体メーカーams社が東京・品川にデザインセンターを開設、そのために必要な優秀な(talented)アナログ回路設計者を募集している。かつて日本の半導体メーカーは、ICチップを開発・設計するためのデザインセンターを各地に開いた。外資系半導体企業も東京や関西、名古屋にデザインセンターをよく開いた。

 

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図 amsが東京・品川にデザインセンターを開設、テープカット儀式

しかし、最近では、「半導体=落ち目の産業」、という図式が経済産業省や産業界にあるようだ。半導体産業の本質を理解していない人間ほど、この傾向が強く、我々メディアの記者も同様だ。日本の半導体が製造を手放していくのに反して、編集コンテンツを製造にこだわり続けた「電子ジャーナル誌」は3月末に廃刊した。

 

昨年、世界の半導体産業は10%成長したが、日本だけがマイナスだった。日本が世界の成長の足を引っ張らなかったなら、もっと高い11~12%くらい成長していた可能性がある。円安の影響は、ドルベースで外国企業と比べると低い数字になることを考慮すると、日本市場がたとえ横ばいでもマイナス成長となってしまう。

 

しかし、半導体産業の本質は、今や製造ではない。半導体チップにソフトウエアを組み込むことができるようになったこと、それによってシステムを半導体チップに組み込むことができるようになってきたことだ(参考資料1)。たとえ微細化技術が止まったとしても、ソフトウエアという人間の知恵を組み込むわけだから、その成長の可能性は無限にある。

 

外国の半導体がいまだに成長できているのは、チップに埋め込むソフトウエアの開発に力を入れ、そのソフトウエアを差別化技術(コアコンピタンス)にしているからだ。

 

日本の半導体産業は、得意だった製造技術を放棄し、ファブライト・ファブレスに向かってきた。その割にシステム設計できるエンジニアを養成してこなかったツケが不振を増長している。製造工場が必要なのは、大量生産が未だに強く求められるメモリ(NANDフラッシュやDRAM)とCMOSセンサくらいなもの。それぞれ東芝、マイクロン(旧エルピーダ)、ソニーが自前の工場を持っているのは、20世紀型の(ソフトウエアを必要としない)大量生産方式が必要な製品だからである。NANDフラッシュメモリとCMOSセンサはこれからも市場があるから大量生産が求められる。だから当分はしのげる。しかし、メモリもイメージセンサも十分足りるという時代が来ると、さあ大変になる。

 

韓国のサムスンは、NANDフラッシュもDRAMも大量生産しているメモリメーカーであるが、製造だけを請け負う「ファウンドリ」事業も持っている。ファウンドリ事業は自社のブランドを持たない、「黒子ビジネス」である。サムスンに続きインテルもファウンドリに力を入れ始めた。しかし、日本は得意な製造を捨て、ファウンドリビジネスに切り替えることができなかった。自社ブランドにこだわり続けたからだ。

 

一方の台湾は、昔から自社ブランドよりは「実」を取る企業文化がある。古くはパソコンの請負製造をエイサーやマイタック、エリートグループなどが請け負っていた。次に半導体ビジネスを始めた時、製造だけの請負というビジネスを選び、TSMCUMCという世界的な企業を生み出した。かつてはパソコンのケーブルやコネクタを生産していた鴻海精密工業は今や、iPhoneの製造を請け負う企業として世界一になった。いずれも自社ブランドを持たない。エイサーは今でこそ自社ブランドのパソコンを持っているが、ブランドにこだわらない。この柔軟さが台湾を一大IT/エレクトロニクス製品の巨大基地にのし上げた。

 

では、製造を捨てたこれから日本のファブライト半導体が生きていくためにはどうすべきか。システムソリューションを提案できるような、ソフトウエアとハードウエアを理解できる能力を持つことである。外国のファブライト/ファブレスメーカーは、これができるから成長できているのである。

 

幸い、ルネサスは512日の決算報告会で、ルネサスはこれからシステムソリューションを提案できる会社に脱皮する、と作田久男CEOが語っていた。もう、石(シリコン)の時代ではない。システムソリューションを握る企業が勝つ時代だ、という認識を持っている。だから、元日本オラクルの社長であり、長年IBMで活躍された遠藤隆雄氏を次期CEOに推薦した、と述べた。クアルコムやメディアテック、ブロードコム、ザイリンクスなどの成長するファブレス企業と同じようにシステムソリューションを提案できる企業を目指すのである。日本の半導体企業でここまで言い切った経営トップはいない。非常に頼もしい。筆者は、「システムソリューションの提案には優秀な人材が欠かせない。どうやって確保するのか。その選択肢の一つに企業買収は視野に入れているのか」と質問すると、作田氏は「企業買収の可能性はある」と強く答えた。エレクトロニクス業界にいる外資系のエンジニアも私と同様なことを言う。ルネサスのエンジニアと話をしている彼は「最近のルネサスは変わった。日本の半導体の中で最も将来成長できる要素を持っている企業だと思う」と言っている。

 

アナログとミクストシグナル半導体を手掛けるamsが日本にデザインセンターを開いたのは、日本市場が自動車製造と、産業機器の製造の大きな市場があるからだ。これまでの日本の半導体がだめだったのは、日本の民生エレクトロニクス業界を相手にしてきたからだ。日本の民生が沈みゆくから半導体も引きずられたのである。今のソニーやシャープが好例だ。だから強い半導体メーカーは海外市場を見る。国内なら民生ではなく自動車と産業応用を見る。むしろ、民生なら外国市場を狙うべきなのだ。

 

世界をよく見て、日本をよく見て、自社の強みを伸ばし、顧客のシステムを理解し、世の中の動向(メガトレンド)をつかめば、日本の半導体は必ず復活する。30年以上も前にディスクリートのマイクロ波ダイオードを開発していた時、上司から「君たちはもう、半導体の勉強はやらなくていいから、システムの勉強をしろ」と言われた記憶が鮮明によみがえる。SoC(システムLSI)は今その時代に来ている。

 

参考資料

1.    津田建二「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、日刊工業新聞刊、20104

   

テクノロジーよりユーザーエクスペリエンスの時代

(2015年5月12日 20:26)

ユーザーエクスペリエンスの時代に来ている。テクノロジーよりも楽しいユーザーインタフェースが市場を支配している。もはや、何ナノメートルの半導体を使っているとか、月産何万枚のスループットの工場で生産されるとか、ほとんど意味をなさなくなってきた。CPUはクロック周波数を競わない。消費電力が大きくなるだけだからだ。

 

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図 タッチすると音の出るポスター、音の出る櫛、ピアノ音の出る本

ユーザーエクスペリエンスという言葉が使われるようになったのは、iPhoneが誕生してからである。iPhoneをはじめとするスマートフォンの画面の拡大縮小を2本指の操作(ピンチイン・ピンチアウトという)では、静電容量型タッチパネルを利用している。しかし、エンジニア、特に日本のエンジニアは、iPhoneが登場しこれを見た時、「新しいテクノロジー(技術)は何もない」と言い切った。その通り、タッチパネルの歴史は数十年に及ぶ。キーボードがなく、画面に映し出されるソフトキーボードで入力するが、これとてテクノロジーという点では何も新しいものはない。画面を90度傾けると画像も90度変わってしまう機能もついた。これとて、加速度センサで重力加速度を検出しさえすれば実現できることは容易に想像がつく。新しい技術ではない。昔からある。

 

ところが技術者ではない消費者や一般のビジネスマンから見ると、全く新しいテクノロジーを導入した携帯電話が登場したと思った。私はこんな楽しい携帯電話なら欲しい、と即座に思った。全く新しい画期的な技術は何もないiPhoneに、なぜ魅力を感じたのか。楽しさを表現しているからだ。これを最近では、ユーザーエクスペリエンスと呼ぶ。

 

日本のエレクトロニクス産業がダメなのは、新しい原理で動作する材料やデバイス、トランジスタ、半導体、部品などを「技術」と呼んでおり、ユーザーエクスペリエンスを新しい機能だと考えなかった点ではないだろうか。性能は、動作速度が速く、消費電力が低い、という能力を追求するが、それをテクノロジーだと錯覚していた。しかも、長い間、このことに気が付かなかった。今でも気が付かずに性能追求に一生懸命になってテクノロジーを開発しているエンジニアはいる。実は国家プロジェクトがそうだった。高性能・低消費電力・高集積・微細化、これらを先端技術だと錯覚していた。国家プロジェクトが失敗した要因の一つともいえる。


続く

   

非技術系の「テクノロジー」に違和感

(2015年5月 7日 22:12)

最近、ITなどで使われているテクノロジーという言葉に違和感を抱く。技術的に高度な難しさを克服して実現した技術ではないことにさえ、安易にテクノロジーという言葉が使われている。元エンジニアだった私には異質な言葉だと感じてしまうため、このテクノロジーという言葉の違和感について、ある外資系半導体メーカーの方に聞いてみた。彼は、「そういわれてみればそうですね。スマートフォンやウェアラブル端末などのガジェットをテクノロジーと呼んでいるケースが多いですね」と同意してくれた。

 

Information Technology (IT) と言われている分野は、エンジニアから見ると、コンピュータを使ったサービスとしか見えない。ここにはテクノロジーがあるとは思えない」と言っている元エンジニアの記者もいる。彼はインターネットでさえテクノロジーではないと言い切る。今、IT4大トレンドと言われるものは、クラウド、ビッグデータ、モバイル、ソーシャル、である。これらはテクノロジーと呼ぶよりもサービスと呼ぶ方がふさわしい。

 

クラウドコンピュータは、端末のコンピュータで処理・保存するのではなくクラウドコンピュータでハンドリングする。ビッグデータはさまざまなデータを集め、意味のある相関を探したり、解析したりして、結果を生み出すためのツールとなる。もちろん、クラウド同様、サービスとして利用する。

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モバイルはスマホなどを利用して検索や、ゲームなど、何らかのサービスを享受するためのガジェットである。ソーシャルは、facebookLINETwitterなど、仲間同士での情報共有や検索などに有力な手段となる。やはりサービスである。

 

また、「スマートニュース」が分類している「テクノロジー」というジャンルでは、スマホやウェアラブルのような、単なるガジェットのニュースばかりで、そこに使われている最新技術に関してはほとんど触れられていない。また、Yahooニュースの分類には、「IT」と「科学」しかなく、テクノロジーはない。ITにはガジェットの話が多く、「科学」には身の回りと宇宙の話題が多い。やはりテクノロジーではない。

 

テクノロジーとは、これらのITシステムやスマホなどの端末を動かすために必要なハードウエアとソフトウエアであるといえそうだ。もちろん、その範囲はITから電力システムや自動車技術にまで及ぶ。インテルのチップや、ザイリンクスのFPGAField Programmable  Gate Array)、クアルコムのモデムチップ、アナログデバイセズのMEMSMechanical-Electrical Manufacturing System)チップや電子部品などのハードに加え、OSOperating System)やミドルウェア、アプリケーションなどのソフトウエアを使って、汎用ハードウエア(コンピュータともいう)を動かす概念をテクノロジーとエンジニアは呼んでいる。

 

iPhoneが最初に登場した時、日本のエンジニアは何も新しい技術はない、と即座に切り捨てた。確かに全く新しい部品や半導体のテクノロジーはなかった。ここにエンジニアが考えるテクノロジーと、非技術系人間が考えるテクノロジーとは違いがある。

 

例えば、ソニーが1980年代に片手で持ち運びのできる『ハンディカム』を開発した時、独自の技術を開発することで実現した。CCDイメージセンサ、リチウムイオン電池、高密度実装技術、2インチの液晶ディスプレイ、などこれまでになかった技術が多かった。イメージセンサは長年、真空管式の撮像管が主流で、なかなか実用化できずに、学会を賑やかにさせていた。今はCMOSセンサが主流だったが、当時もCMOSセンサはあったがCCDセンサの方が光学特性で当時は優れていた。リチウムイオン電池の実用化も難しかった。小型部品の表面実装と多層配線基板技術の開発によって、さまざまな部品や半導体を小さなプリント基板に搭載できた。ソニーのハンディカムはまさに技術の結晶であった。

 

これに比べ、iPhoneを実現する上で新たに開発した技術は何か。2本指のタッチセンサだけであろう。タッチセンサそのものは決して新しくはないが、2本指で、しかもページをめくるような操作で写真や画像を見せたり、次の拡大、縮小するような動作でそれらを表したりした。技術的には、X軸とY軸方向に電子的にスキャンしており、そのスキャン速度で指の動きを検出したことが新しい。さらにその動きに意味を持たせたアルゴリズムを開発したことも新しい。

 

縦の画像を横にすると画像の向きも変えてくれる操作は、加速度センサで実現した。地球上では常に鉛直方向に重力加速度が働くため、加速度センサが重力を検知するのである。しかし、加速度センサはすでにクルマのエアバッグに使われていた。iPhoneの登場と同じころ、任天堂のゲーム機「Wii」にも加速度センサが使われていた。新しいテクノロジーでは決してない。

 

新しいテクノロジーは、おそらくアプリケーションプロセッサかもしれない。ブラウジングや検索するのにマイクロプロセッサの演算能力を大きく向上させた。またアニメやゲームを表現するグラフィックス演算も活用した。こういった演算機能は、消費電力を上げないことが必須条件だった。インテルのチップではなく、アームのCPU回路やイマジネーションテクノロジーズのグラフィックス回路が使われたのはこのためだ。インテルチップが性能を追求してきたのに対して、アームのCPUやイマジネーションのグラフィックス回路では性能はそこそこでかまわないが、消費電力の削減が絶対条件であった。このためアームなどは消費電力を下げる、もしくは上げずに性能を上げてきた。これが今のスマートフォンや少し前の携帯電話の要求にぴったりと一致した。消費電力の削減で電池を長持ちさせるためだ。だから、クアルコムのスナップドラゴンやメディアテックのプロセッサにアームのCPU回路が使われているのである。しかし、全く新しいアーキテクチャではない。ノイマン型コンピュータの域を出ない。

 

だからと言って、エンジニアの方がエライというつもりはない。むしろ、エンジニアはテクノロジーにこだわり、本当に売れるモノ、消費者の求めるモノを理解できなかった。もう、今の時代はテクノロジーよりもユーザーエクスペリエンスの時代に入ってきている。エンジニアが理解すべきは、テクノロジーではなく、ユーザーエクスペリエンスだ。このことについては、次回のブログで語ろう。

 

                                                      (2015/05/07)

   

なぜMEMSでも日本は弱いのか

(2015年4月28日 23:06)

421~22日、東京・両国でMEMS Technology Forum 2015が開かれた。その中で、なぜ日本はMEMSが弱いのか、という議論が語られた。その中で大学の先生が、三つの理由を挙げられていた;(1)バルクMEMSに固執しすぎ、(2)国との連携が不十分、(3)投資やビジネスでのディシジョンが遅い、という3点だ。この内、(1)と(2)に関しては同意できない。なぜか。

 

(1)は技術的な手法に関する問題であり、だからと言って日本が技術に弱い訳ではない。技術的には日本が優れている点は極めて多い。つまり、研究開発のフェーズでは日本の技術は劣っていない。しかし、ビジネスが世界から見て遅れている。

 

(2)は、国と連携すればビジネス的に強くなれる、と言っているようなものだ。これは全く違う。国家プロジェクトをたくさん作って、日本の半導体産業がますます弱体化してきた歴史があるではないか。国に頼るようなビジネスマインドでは世界とは戦えないのである。

 

(3)の経営判断が遅い、という点では全くその通りだが、この点は外国の方から言われたという。

 

つまり、以上のことから、大学の先生方は市場経済ビジネスを本当に理解しているのだろうか、と首をひねりたくなる。日本の国家プロジェクトに頼る体質と、かつて米国が連邦政府に頼って失敗した初期のSEMATECHプロジェクトとは共通する。市場経済は、企業が自分の判断で、責任を持ってビジネスを遂行するものだ。誰かに頼るとか、誰かのせいにするものではない。市場があるかどうか、自分でコストをかけて調査し、判断するものである上、市場が求めているアイデアを具現化し、製品化するのが基本だろう。

 

日本の大手半導体メーカーがMEMS市場に出遅れたのは、市場をきちんと把握しなかったからである。このためIoTInternet of Things)をベースとするセンサ革命の大きなトレンドを逃がそうとしている。MEMSに対しては、深いシリコンエッチングやメッキなどでシリコンLSIのクリーンなプロセスを汚したくない、という生産技術者の声もかつて聞いた。これは技術者が強く、技術を最重要視し市場を無視してきた態度であるといえる。つまり、MEMSプロセスがLSIプロセスを汚さないようにする方法を技術者が考えるという前向きの態度にならなかった。

 

これまでのMEMSビジネスは、インクジェットプリンタのヘッド(MEMS技術で作った微細な穴からインクを押し出す)や、テキサスインスツルメンツ(TI)が大成功を収めたDLPディスプレイ(DMD(デジタルミラーデバイス)のミラー部分をMEMS技術で作った投射型ディスプレイ)、自動車エアバッグ用の加速度センサ(微細なカンチレバー構造をMEMS技術で作る)、その他工業用のMEMSの圧力センサなどが主なMEMS製品だった。このため、プリンタビジネスに強いHPやエプソン、TIなどがMEMS市場のトップを占めていた。

 

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ところが、MEMS市場は、スマートフォンに加速度センサが導入されてから一変した。スマホの画面を縦から横にすると画像も一緒に動いてくれるが、これはMEMSによる加速度センサが地面に対して垂直方向の重力加速度を検出することを利用している。スマホに導入されると、1台にたとえ1個のMEMSが使われたとしても年間で数億個の生産が求められる。つまりコストダウンが強く求められ、特にSTマイクロエレクトロニクスなどはこの要求に応え、スマホに載せることができ、2013年の世界市場をボッシュと並んでナンバーワンの地位を獲得した。日本の半導体産業は、この動きについて行けていない。

 

MEMS技術によって安価なセンサができるようになると世界はどう変わるか。これまで価格の高い工業用のセンサも安価にできるようになると、これまで巨大な装置に3個しか搭載できなかったセンサを30個搭載できるようになる。工業機械に大量のセンサを付けられるようになると、ダウンタイムゼロの機械を運転できるようになる。これがGEの提唱するIndustrial Internetである。機械が故障する前にMEMSセンサで機械の異常を発見できるため予防保守(preventive maintenance)が可能になる。そうすると、例えば風力発電のタービンに多数のセンサを付けておき予防保守ができれば、何kW発電するたびに料金をもらうというビジネスモデルが可能になり、売りっぱなしの製品ではなくサービス込みのビジネスができるようになる。

 

だから今、センサ革命が始まった、と言われるゆえんである。残念ながら、日本の半導体大手はセンサ革命の認識さえなかった。しかし、希望はある。中堅の半導体企業である新日本無線(NJR)は1年数ヵ月の間にMEMSマイクロフォンを2億個生産し出荷した。もちろん、用途はスマホである。現在のスマホにはMEMSマイクが1台に3個程度入っている。スマホにはクラウドベースの音声認識機能がある。認識率を上げるためには周囲のノイズを打ち消す機能は必須だ。マイクを2個使い、周囲の騒音を二つのマイクで拾い、その内の一つのノイズを180度位相反転させるとノイズを打ち消せる。あるいは複数のマイクからのノイズを打ち消すためのアルゴリズムを開発している企業もある。

                                             

MEMS技術は、市場を見ながら開発していれば、ビジネスを成長させることができる。MEMSとそのセンサ信号から意味を抽出するアルゴリズム、そして楽しいユーザーエクスペリエンスと組み合わせると、面白いことができそうだ。これに音楽や楽器、映像などを載せるデバイスは、きっと楽しいユーザーエクスペリエンスを実現するだろう。このためにはソフト、ハード、サービス、ビジネスモデルなどの各得意なところとコラボレーションすることになる。仲間探しは極めて重要だ。アルゴリズムの得意な企業、IT系のユーザインタフェースに長けた企業など、これまでのハードだけのモノづくり産業の外にいる企業を見つけなければならない。セミナー、コンファレンス、講師との会話などなど、コラボの手がかりにコストをかけることを理解できる上司を説得する「粘り」も必要となる。とにかく、若手が外に出て、IT系の人たちと話せる環境を自ら作り出す努力が必要であろう。

                                              (2015/4/28)

   

いつまで原発・化石燃料を続けるのか、ロードマップ示せ

(2015年4月21日 23:28)

先週、ドイツのデュッセルドルフに泊まり、ビールの街ヴァールシュタイン(Warstein)近くにあるインフィニオンテクノロジーズを訪問した。来るときは、フランクフルトに到着、そこから航空会社の無料バスでデュッセルドルフまで2時間半かけてやってきた。その日はそこに泊まった。すでに時刻は午後8時を回っていた。

 

翌日、お昼頃の電車でまずゾースト駅に行き、そこからヴァールシュタインに向かうことになっていた。ゾースト駅までの切符を購入する時に、どこ行きの列車に何番線ホームで待つのかを聞くと、全て親切に教えてくれた。事前に、ドイツの列車は遅れることが当たり前と聞いていたので、それを覚悟していたが、拍子抜けだった。きちっと時間通りに到着し発車した。

 

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結局、フランクフルトからアウトバーン(高速道路)をバスでデュッセルドルフ、そして電車でゾースト、タクシーでヴァールシュタインと約450kmの道のりを移動して目についたことは、やたらと風力発電の風車が多いこと。ルート全体が緩やかな高原を移動していたのだが、高原の高いところには必ず風力発電がある。ドイツはむしろソーラー発電の多い国だと新聞報道などを読み思っていたが、どうも違うようだ。

 

2014年上半期におけるドイツの総発電量308TWhの内、風力が最大の31 TWh、バイオマス22 TWh、ソーラー18.4 TWh、化石燃料の褐炭が77 TWh、石炭56 TWh、天然ガス30 TWh、そして原子力47 TWhとなっている。やはり眼で見た様子と実際の数字とは合っているようだ。化石燃料、原子力とも減らす方向であり、再生可能エネルギーは増加傾向にある。風力・ソーラー・バイオマス・水力など再生可能エネルギーの比率は、14年上半期は28.5%という。前年同期は24.6%だった。ドイツは2025年までにこの比率を40~45%まで引き上げる計画だ。

 

日本はどうか。懲りずに原発の再稼働を進め、化石燃料の比率を上げている。ただ、再生可能エネルギーの比率が増えると、今のテクノロジーでは電力変動が大きくなるため、日本の電力会社はそれらの導入を渋ってきた。数ヵ月前に九州電力が太陽光の導入抑制を発表したが、電力会社のテクノロジーがまだスマートグリッド化していないため、変動を吸収できないのである。

 

テクノロジーが進歩しないと仮定すると、原発再稼働、を叫ぶことになる。今は10%程度しか導入できないのは、電力網(グリッド)が電圧と周波数の変動に弱いからだ。しかし、テクノロジーの進歩を考えると、再生可能エネルギーの変動を吸収するためのバッテリーや通信ネットワーク技術の導入し、さらに低コストで実現する技術開発を進めれば、10年後の2025年ごろにはかなり多くの再生可能エネルギーを導入できるようになる。その時点で、再生可能エネルギーの比率をさらに上げることができるようになる。そして、テクノロジーの進歩を考えると、さらに10年後には、50~60%くらいにできるようになるはずだ。

 

逆に、何の目標も持たずに、一つ覚えのように「原発再稼働」を叫べば、何年たっても技術を習得できず、先進国から脱落していくことになる。これでよいのか?

 

むしろ、いつまでに再生可能エネルギーを何%導入し、原発や化石燃料を何%に減らしていく、という目標を持ち、テクノロジーを開発することこそ、日本国の繁栄につながるのではないだろうか。そのためのロードマップを作り、着実に再生可能エネルギーを増やすための、ネットワーク技術とバッテリー技術の開発に力を入れていくべきではないか。

 

ネットワーク技術では、どのサブグリッドの発電所、あるいは消費所、バッテリーが今どのような状態にあり、どこからどこへ電力を輸送してやればよいのかをリアルタイムで把握し、リアルタイムで電力を融通し合う。比較的小さなサブグリッドを多数設け、各サブグリッドが地産池消の電力システムを構築し、ネットワークでつないでいく。まさに、東京大学の阿部力也教授が提唱する、デジタルグリッドのコンセプトそのものだ。つまり、これからは、再生可能エネルギーを大量に導入してもほとんど変動しないグリッドシステムを作ればよいのである。


これこそが未来を拓くテクノロジーとなる。このことで新たな雇用を生み、新たなテクノロジー開発を生み出せれば、日本はテクノロジー立国になることができる。

(2015/04/21)

 

参考資料

1.    連載コラム ドイツエネルギー便り、自然エネルギー財団(2014/09/25

http://jref.or.jp/column_g/column_20140925.php

 

   

現地集合・現地解散の海外出張も楽しい

(2015年4月19日 23:20)

今年の海外出張の予定は1月時点で、10月のEuroAsiaしか決まっていなかった。しかし、2週間前に突然の英国行きが決まった後、今度はドイツ出張と立て続けになった。いずれも企業の訪問取材である。企業の考え方、ミッション、狙い、目的、成果、経過、社員数、社員やトップの顔色や仕事へのスタンス、取材歓迎の仕方、などなど、展示会や学会発表では得られない生の企業情報が得られる点が大変面白く、また楽しい。

 

現地企業の人たちやメディアの記者たちと話をしていると、現地の企業文化だけではなく、考え方や生活文化さえも見えてくる。これまで知らなかったことも多い。誤解していたことも多い。だから海外出張では、できるだけタクシーを乗らない。バスや電車を利用すると現地の生活の様子が見えてくるからだ。

 

何度か行ったスペインのバルセロナやパリの電車に乗ると、駅での路上ライブはもちろん、電車がすいている時は、電車の中でさえ勝手にギターを弾きながら歌を唄っている光景はよくある。バイオリンも多い。たいてい、後でお金を入れてもらうように帽子をひろげて回ってくることもある。素敵な歌ならお金を入れることもあるが、聞きたくもない歌なら決して入れない。

 

ラテン系のスペインやフランスでは電車内で若い男女のキスシーンはよく見かけるが、それも若い男女だけではない。中年の男女でさえもキスしている光景を見かける。さすがにロンドンの地下鉄ではそのような光景は見られない。ドイツでも皆無だ。アングロサクソン系とラテン系とは全く違う民族だから、同じヨーロッパでも違いが見えて面白い。

 

今回の出張では、企業訪問の現地集合・現地解散という面白い形式の企業訪問だった。旅行会社に手配してもらうと、あまりリーズナブルな旅行計画をいただけないので、自分で手配した。それもネットの旅行関係のサイトから申し込むと、前回の英国出張のホテルのように一人前の値段で乏しい設備のホテルという、リーズナブルではないホテルを紹介されたので、今回は利用している航空会社からフライトチケットと関係するホテルを予約した。極めてリーズナブルな環境の飛行機とホテルであった。

 

一人旅の出張はいつもながら面白くて、ワクワクする。ホテルのある町はデュッセルドルフで、フランクフルトに到着した日は航空会社の無料バスでデュッセルドルフまで送ってもらい、ここに泊まった。翌日ここからデュッセルドルフ中央駅から電車に乗り、ゾースト駅まで直通で1時間半の電車に乗り込む。フランクフルトからだとゾースト駅まで3時間半~4時間かかる。デュッセルドルフの中央駅でまず腹ごしらえをしようと思い、手ごろなレストランを探した。黒パンやライ麦パンのサンドイッチを売っている店がとても多く、それはいつでも食べられるだろうから、アジアンレストランに入り、ナシゴレンをいただいた。リーズナブルでまずまずおいしく食べた。

 

この街に来たのは初めてで、切符の買い方もわからなかったため、自動券売機ではなく窓口に並んだ。窓口は日本の銀行と同じように整理券方式で順番が公平なやり方だった。自分の番になると、窓口では最も早い時間の列車を教えてくれたが、乗り換えが1回ある。ゾースト駅は初めていくところだったので、直通はないかと聞くとあった。そのチケットを買い、ついでに列車の地図もいただいた。

 

列車は時間通りに到着し、時間通りに発車した。電車が30分遅れることは当たり前と聞いていたので、逆に驚いた。現地駅でその企業の日本法人の方と偶然にも会い、同行させていただいた。

 

帰りの列車には、列車の鉄道地図をいただいたので、途中のドルトムント駅止まりの電車に乗り、そこで乗り換えデュッセルドルフ中央駅に戻った。ドルトムントは、大学で有名な街なので、なんとなく親しみがあった。かつて、日経エレクトロニクス時代にドルトムント大学の研究成果を何度か報道したことがあったためだ。もちろん、サッカーファンにはおなじみの街だろう。乗り換え時間が10分ほどしかなかったため、街を散策できなかったが、今後訪れる機会があったらこの街をゆっくり見てみたい。

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デュッセルドルフの街を翌朝、散策すると、ビスマルクの銅像があり、中央駅からこの銅像まではビスマルク通りと呼ばれている。その先を行くと、ライン川に出るが、そこへはデュッセルドルフ中央駅から地下鉄に乗って三つめのハインリッヒ・ハイネ駅を降りるのが早そうだ。この駅を降りると、辺りには人通りが多く、まるで銀座通りである。観光スポットの一つになっているようだ。おしゃれな店やカフェなどが立ち並び、時には怪しい大道芸人もいる。写真は、人がまるで中に浮いているように見える仕掛けである。なぜ浮いているように見えるのか、結局わからなかったが、ずいぶん多くの人が見物していた。蛇の形をした入れ物にコインを入れてほしい、としている。他にも怪しい大道芸もいたが、写真は撮らなかった。

 

午後2時にはホテルからフランクフルト空港への直通バスの手続きが始まった。ここから約2時間半で空港に到着する。長いバスの旅であるが、これもめったに乗れないので面白かった。車窓からは風力発電の風車がやたらと目につく。ドイツはソーラーがたくさんあると思っていたが、風車の方が圧倒的に多いことに驚いた。

 

昨年9月のドレスデンの見学では、かつて東ドイツを支配していた共産主義のために、キリスト教そのものがかなり失われ、無宗教の人たちが増えたと聞いた。第2次大戦の空爆によって受けた教会や銅像などの修復は、このため共産主義時代は全くなされていなかった。90年前後の冷戦雪解けと東西ドイツの統合によってようやく、修復工事が始まったのだという。今は修復されていた建物が多く、荘厳な建造物は心に響く。日本のお寺を回って感動するのと同じような気持になる。

 

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今回歩いた街は、全て西ドイツであったためか、古い建物が少なく近代的な建物ばかりで、少々がっかりした。裏返せば、激しい空襲を受け、古い建物がほとんど失われたともいえる。英国とはずいぶん違う。わずかに残された教会などの建物だけが歴史を感じた。

                                                                                                               (2015/04/19)