エレクトロニクス業界の最近のブログ記事
楽しいクリスマスイルミネーション自作の季節がやってきた
(2012年11月16日 10:51)今年もクリスマスイルミネーションの季節がやってきた。私は1995年ごろからイルミネーションを自作してきた。半導体野郎を自称する私がクリスマスイルミネーションを手掛ける以上、光る半導体であるLEDを利用することをモットーとしてきた。秋葉原へ行って、できるだけ安いLEDを入手し、大量に並べて光らせる。どの店がどのLEDを大量に安く売ってくれるか、ずいぶん覚えた。
毎年少しずつLEDを買い足して、作品を作っていく。当初は赤、橙、緑、黄色しか手に入らなかった。各色50個単位でストリングを作っていく。当時の青色ダイオードは開発されたばかりで1個300円以上もした。50個で1万円を軽く超えてしまうため、当分手が出なかった。そのあと青色LEDの上に黄色い蛍光塗料を塗った白色LEDが登場した。現在のLEDランプと同じ構造のモノだ。

図 2階のLEDイルミネーションが自作
青色LEDに黄色い蛍光塗料を塗るとなぜ白色になるか。白色は基本的には赤、緑、青の光の三原色を混ぜることで実現するが、赤の光と緑の光を混ぜると黄色になることから、青に黄色の光を混ぜると、白色になるという訳だ。ただし黄色の光と一口に言っても赤よりの黄色だったり、緑よりの黄色だったりすると、白色が冷たい色や暖かい色に変わる。蛍光塗料がその決め手となる。基本的な青色LEDは変わらない。ただし、最近では紫色や紫外線LEDも出てきたため、波長の短い紫外線に赤、青、緑の色フィルタをかけることで白色にする方法もある。
ともあれ、1995年ごろ、LEDを点滅させるために、標準ロジックを秋葉原で買ってきて、点滅時間をRC定数を変えて調整し、LEDドライバ回路を作った。この回路を考える時が楽しくでしょうがない。家内から、「なんだか楽しそうね」と何度も言われた。回路を作り間欠動作を確認すると、今度は外に置くための防水対策である。ここが最も難しかった。試行錯誤で何とかソリューションを見出した。カギはいい加減にパッケージすることだ。きっちりとパッケージすると、パッケージ前の空気に含まれる湿度が悪さして却って金属部分が腐食してポロリと腐って落ちた。パッケージしなければ水が入る。決め手は、水が入らない程度に空気が流れるくらい穴をあけて収めることだった。
試作したLEDドライバ回路はプリント基板上に形成したもので、それをアルミのシャーシに入れた。あれから17年経過したが、いまだに壊れない。信頼性は極めて高い。CMOS標準ロジックは17年間、故障なしである。
LEDで故障するのは半導体部分ではなく、外部に出ている金属のリード線や、はんだ付け部分などの金属部分である。これが金属疲労を起こす。LEDを50個単位で直列接続すると、機械的なストレスによって金属リードがはがれたり、腐ってしまったりする故障が圧倒的に多い。クリスマスシーズンの1~2ヵ月間、LEDから外部に露出している配線やリード線が腐食する。pn接合の半導体が壊れることは雷などによるサージでも入らない限り一度もない。半導体は丈夫だなあ、とつくづく感じる。屋内に飾るLEDは実は17年間故障しなかった作品も多い。屋内では水分が少ないからだ。
半導体を知っていると、エネルギーバンドギャップから想定されるpn接合順電圧、それを直列接続してLEDにかかる直流電圧、さらに全波整流してアルミの電解コンデンサとコイルあるいは抵抗で一定にした直流電圧を割り出すことができる。直流電圧を測定し、直列接続できるLEDの個数を求め、動作させる電流を求め、バラスト抵抗値を決めた。これによって、極めて低い消費電力でLEDを光らせることを17年間続けることができた。
昨年は震災の影響であまり派手にせず、緑のLEDで、「Saving Power」という文字板を作った。今年は何にするか、考え中だ。この時が最も楽しい。昔のラジオ少年に戻った気分を楽しんでいる。
(2012/11/16)
エコシステムこそ、世界の勝ちパターン
(2012年11月12日 23:16)エコシステム、直訳すれば生態系という意味だ。環境に優しい、という意味ではない。生態系は、太陽、空気、水、生物が係わりながら一つの循環システムを作っている。動物が植物を食べ、体の中で循環した後、排泄し太陽と空気、バクテリアの力を借りて肥料となり再び植物となる。太陽、空気、水、生物はエコシステムの中で、いずれも欠かせない存在になる。この繰り返しシステム(sustainable system)が産業界にも当てはまる。ここに産業界を当てはめて、機器メーカー、OEM、顧客、製造装置メーカー、材料メーカー、開発ツールベンダー、ソフトウエア開発ハウスいった各企業がチームを作って新製品を開発する。各社とも得意とする技術を持ち、プロジェクトチームとして新製品や新サービスを作り出し、成長していく。このプロジェクトチームとなるシステムをエコシステムと呼んでいる。

エコシステムという言葉を最初に聞いたのは、2004~2005年ごろ、英国ケンブリッジにある半導体IPビジネスの雄、ARM社を訪れ、当時COOのTudor Brownさんを取材した中で言われた言葉だった。日本ではエコといえば環境に優しいという意味が主流だったためそう思い込んでいたが、やがて言っていることが何か変だと気が付き、聞きなおして理解を求めた。
ARMのビジネスは、半導体チップの中のマイクロプロセッサ回路だけをライセンスして販売・サポートする。携帯電話やスマートフォン向けの、いわゆるアプリケーションプロセッサやモバイルプロセッサ、組み込みシステムのプロセッサなどの制御プロセッサや演算プロセッサとして使われている。累積で300億個ARMのプロセッサコアを搭載したチップが出荷されてきたという。ライセンスしているメーカーにはクワルコムやTI、インテル、nVidia、フリースケール、ルネサスエレクトロニクス、富士通セミコンダクター、東芝などほとんどの大手半導体メーカーが含まれる。1台の携帯機器には数個のARMコアが使われており、特に携帯電話やスマートフォンには100%、使われていると言ってもよい。
ARMはプロセッサコアを半導体チップに組み込むために開発しやすいツールを提供する。また設計したプロセスコアがシリコン上で性能を本当に発揮できるのか、シリコンに集積して実際に試作してみなければわからない。このため製造専門のファウンドリ企業と組む。さらに、設計ツールを販売するベンダー、それを使ってソフトウエアをプログラミングしてくれる企業、LSI設計ベンダー、設計通りに書かれているかどうかをチェックする検証やシミュレーションのツールも必要だ。最終顧客の求めるLSIには、ARMのプロセッサコアだけではなく他の回路も集積されているため、全ての回路を搭載した時に顧客の望む性能が出ているかどうかも検証しなければならない。だから、ARMのプロセッサコアを使ってLSIを開発するためにはさまざまな専門家企業と一丸となって取り組まなければならない。だから、エコシステムが求められるのである。
これがARMだけではない。LSIが複雑になればなるほど、電子機器の機能が増えて複雑度が増せば増すほど、それぞれの専門の得意な企業に仕事を依頼しなければ求められる期日に間に合わなくなる。エコシステムはIPビジネスだけではなく半導体や電子機器ビジネスにも当てはまるのである。
なぜこういったエコシステムが勝ち組になるのか。かつては製品寿命が長く、家電品はテレビ、冷蔵庫、エアコン、ビデオプレイヤーなどは10年間使うことが前提だった。デジタル家電はわずか2~3年で新製品を買い替えるようになっている。また2~3年で性能・機能はガラリと変わるため、全く新しい商品が生まれたこととして受け入れる。商品寿命の短さは、メーカーにとってタイムツーマーケット(市場へ投入するまでの期間:Time to marketあるいはT2M)が短くなっているため、一つの商品を開発するのに自社だけでは間に合わない。他社の得意な部品や要素はライセンスを受けたり購入したりする。設計・製造するための装置やツールも専門メーカーから購入する。
この考え方は東京大学の藤本隆宏教授らが提唱する、擦り合わせ方式からモジュール方式への転換の時代に共通する。今はモジュールのようにインターフェースをハードもソフトも共通化し、ドッキングできるようになっている。まるで子供のおもちゃのレゴブロックのようにして組み立てていく。部品がなければ自分で作るのではなく外から買ってくる。日常生活では常識だ。しかし産業界では長い間、非常識になっていた。その結果、ビジネス機会を失い、開発しても市場へ投入できなくなった。無理に商品を出すと価格を下げられざるを得ない。これでは利益は生まれない。
世界的にT2Mが短くなっているため、さっさとエコシステムに則り開発、商品化することが他社に先駆けることにつながる。少なくとも先行者利益を上げることができる。全て自社で開発して市場に出した時はもう手遅れ、ビジネス機会を失ってきたのが日本の垂直統合システムだった。
エコシステムを作るには、ツールやソフト開発、サプライチェーンなどの世界のトップ企業と組む。必要な全ての分野で世界トップ企業を寄せ集める。日本に世界一がいなければグローバルに相手を求める。このためには海外の標準化委員会に顔を出しておき、海外の動きをいち早く社内に伝える。海外情報をいち早く活用できるのはインターネットの時代になったおかげだ。社内で即、活用すれば、同時開発・同時マーケティングが可能になる。
グローバル化対応が産業を活発に
(2012年10月22日 21:42)産業界において現在の日本と、アメリカあるいは欧州、アジアと比べて最も大きな違いは、失われた20年を反省し前向きの戦略を立てられないことではないだろうか。アメリカにやってきて、いろいろな国の記者と話をしているうちに、いまだに失われた20年をきっちり反省していないことに気がついた。失われた20年の反省とはグローバル化への対応である。

図 国内半導体産業はグローバル化対応のまずさで世界から置いてきぼりを食らった 次は民生電子産業だった
1980年代後半のバブル崩壊と共に、日本の半導体産業は徐々に崩れていった。半導体産業だけではない。民生用エレクトロニクス産業、IT産業も実は、じわじわと衰退しつつある。大きな要因はグローバル化に対応できなかったことだ。国内市場中心に製品を開発し、それを海外にもただ売っていただけであった。グローバル化への対応ができていなかったことによって真っ先に衰退してきたのが半導体産業であった。次に民生用エレクトロニクス産業がその影響を受け、ソニー、パナソニック、シャープが沈み始めた。通信産業では国内で極めて強かったNECが下降し始め、続いて富士通、沖電気がグローバル化への対応に出遅れた影響を受け始めた。
グローバル化は否が応でも日本に迫ってきているのにもかかわらずその対応を怠った産業から影響を受け始めているのである。先に影響を受けたのが半導体であり、時代の最先端を行くからこそ、経営のかじ取りを誤ると大きくその影響を受け衰退していくことになる。この傾向は次第に他の産業へも影響を受けていくだろう。B2B(business to business)の素材産業はまだしも、最終製品の産業、例えば農業や水産漁業、土木・建築産業、医療・薬品産業、エネルギー産業、交通産業などへもグローバル化の影響はじわじわと進んでいく。
世界の半導体産業は成長が止まらないのにもかかわらず、日本だけが落ちている、その実情を「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」(日刊工業新聞社刊)で報告した(図)。CEATECでの衰退、NECの業績不振、スマートフォンビジネスでの韓国企業の日本での躍進、こういった要素を見ているうちに、「グローバル化に対応していないことに衰退の原因がある」と気がついた。ということは、現在はまだグローバル化が進んでいない分野においてもいずれ同じことが起きることになる。
グローバル化に対応していない、とはどういうことか。一言でいえば、グローバルな視点で自社の強み・弱み・メガトレンドを分析せず受け身に流されその影響に対応していない、ことである。IBMは設計が最も強い場所を本拠地にすると考えインドのバンガロールを全世界のIBMの中で設計拠点に選んだ。マクドナルドは今最も安い牛肉を提供できる所を毎日リアルタイムで探し、オーストラリア、ブラジルなどから大量に仕入れ、世界各地に配送する。いずれもグローバルな視点で自社に最も有利な条件は何か、と考えている。
ところが日本では従来、国内で開発した商品を海外でも売るだけのビジネスをしていた。これをグローバル化と呼んでいた。しかし、日本の商品を海外に押し付けていただけにすぎないのである。海外の人たちが本当に欲しい商品作りになっていなかった。日本の商品が世界をリードしていた時代はこれでよかった。
しかし、世界の技術・文化・商品などのレベルが上がってくると、世界の人たちは日本の商品に満足できなくなった。世界の人たちが欲しい商品をどの企業よりも早く安く届けるために戦略を立て直し実行することが世界で勝てる方法になった。実際、世界の勝ち組を見ているとこのことに尽きる。この方法に対応できないことをグローバル化に対応していない、と私は表現した。
CEATECでの衰退は、日本の民生用エレクトロニクス産業の衰退とリンクしている。「CEATECが象徴する民生機器の凋落」で紹介した図が示すもう一つの意味は、日本の民生エレクトロニクス産業は、リーマンショックの後も回復していない、ことである。これは海外の民生用エレクトロニクス産業が活発になり、例えばCEATECと似たような展示会であるCES(Consumer Electronics Show)が成長し続けていることと全く対照的である。つまり民生用エレクトロニクス産業でも半導体と同様、世界は成長しているのに日本だけが成長が止まっている。
実は、世界のハイテク技術・製品・ビジネスモデルなどが変化しつつあることに日本はまだ対応していない。時代の変化は激しく、例えば商品の定義は変わりつつある。かつてコンピュータや通信機器は産業機器に分類された。ところが、今ではコンピュータはその中心がパソコンになり、通信電話機はスマートフォンになり、しかもどちらも民生機器に分類されるようになっている。では日本企業は、パソコンや携帯電話を民生機器と定義しているか。企業の集まりであるJEITA(電子情報技術産業協会)はこれらをいまだに産業機器に分類している。
半導体も民生機器もグローバル化の波が激しくうねっている。携帯電話は例えばかつて世界第1位のノキアも、2位だったサムスンも日本仕様に凝り固まっていた日本市場に参入できなかった。しかし、スマートフォンは米国のアップルや韓国のサムスンが日本市場でも主流になっている。世界の企業が日本市場に溶け込んできているのである。パソコンはデルやHP、レノボ、エイスース、エイサーなども日本市場にすっかり溶け込んでいる。海外市場に日本のパソコンの存在感はもうなくなった。
米国カリフォルニア州のシリコンバレーに来て、リニアテクノロジーを訪問し、新しい半導体ICのデモをするためのディスプレイモニターがCoby社製であったことに気がついた。Coby社はアメリカで設立された新しい民生用エレクトロニクスメーカーである。ファブレスモデルを使い、消費者が満足できる程度の性能を持つ製品を早く安く作り、最初はフォトフレームから参入し、モニターやテレビも作るようになった。アメリカでは民生エレクトロニクス産業はかつて日本に押され、いったん衰退したが、この10年くらいの間にVizio社やCobyなど新しい米国企業が民生エレクトロニクスで活躍しているのだ。
さまざまな産業がグローバル化を意識し、海外企業に負けないように先駆ける気持ちで製品開発、標準化作り、コラボレーション、企業買収など、グローバル化に必要な仕事を進めていただきたいと願う。半導体産業は他山の石である。
(2012/10/22)
日本の産業を心配する欧米の産業人
(2012年10月18日 22:49)米国西海岸シリコンバレーの(ロスガトスLos Gatos)にやってきた。久しぶりに会った人たちは一様に、日本はどうなっているの?と質問する。これまでにはなかったことだ。ルネサスエレクトロニクスには資金を注入して今にもつぶれそうな報道を読んでいるから、いったい日本はどうなるのか、どうなっていくのか、を心配している。
図 Los Gatosのダウンタウンの一つ Old Town
8月30日のブログ「ルネサスを巡る報道の在り方に思う」において、ルネサス報道問題を議論し、同意していただける人が業界には多いことに改めて確信を持った。経営的に見れば、技術戦略、製品戦略がようやく明確になってきたが、将来に向けて投資するにはキャッシュが足りないという状態であった。今にもつぶれそうという状態ではない。正確な報道がされていないためにルネサスは過少評価されていた。米国の産業人、欧州のジャーナリストたちは心配していた。正しい姿を伝えると、ホッとした様子を見せてくれた。
日本にいると、半導体は斜陽産業、という報道がなされているが、米国へ来るといつものように全く違う話がいっぱいある。活気に満ちている。デジタル電源を低コストで作るための新しいIC技術や、ユニークなMEMSファウンドリとIPビジネス、効率29%のフレキシブルなソーラーパネル(タブレットPC程度の大きさ)などが続々出てきている。
斜陽産業はむしろコンピュータである。サーバ市場は毎年縮んできている。パソコンはこの第3四半期は出荷台数ベースで-8~9%と縮んでいる。スマートフォンとタブレットは急速に立ち上がっているが、このブームは3~4年で終わるだろう。世界同時にブームになっているため、飽和すれば一斉に縮んでしまうからだ。コンピュータの出荷台数が減ることは、メガトレンドとして、仮想化技術とクラウド利用の進展がある。パソコンは、次々と新しい性能を追求する時代は終わったといえよう。
台湾の記者とも鴻海精密工業について、意見交換した。アジアを長いことウォッチしてきた私は、シャープと鴻海とのコンビネーションはうまい相補関係ができることを伝えると同意してくれた。すなわち、技術開発の得意なシャープと低コストで生産することが得意な鴻海との役割分担である。例えば、シャープはIGZO(In+Ga+Znの酸化物半導体)技術を鴻海が盗むのではないかと疑心暗鬼になっているように見えるが、IGZOの量産技術を鴻海に開発してもらえばよい。シャープには月産1000万個の液晶を生産できる能力はない。これまでは100万個レベルしか経験がない。シャープは量産ではなく次の技術を開発する。きちんと割り切った役割分担を行い、2重の開発や生産投資をするのではなく、それぞれが得意な分野に集中すればもっと効率は上がり、すごいチームが出来上がる。
また鴻海は台湾の記者は取材できない、取材したくない、とも言っていた。鴻海は少しでも批判記事が出ると、記者を訴えるという手段を常に駆使してきたからだという。鴻海は言論の自由を奪っているのである。こうも専制的だと将来は明るくない。アップルがサムスンと同様、鴻海を外すことになったら極めて危うくなる。台湾にはEMSやサブコントラクタの業務を喜んで行う文化がある。ブランドよりも実を取る。新しいNexas-7やUltrabook、Windows 8などさまざまなデバイスが今後出るようになると、全て台湾のサブコンが請け負う。アップルが鴻海を外す可能性はサムスンほど高くはないが、ないとは言えない。
原子力発電の見方に対して日本は一体どうするのか、についても聞かれた。原発廃止と容認はほぼ均衡しているか、廃止がやや多い、という国民の声を伝えた。産業界は廃止に反対しているが、原発は廃止してからも30~40年という同位元素の長い半減期があるためメンテナンスが必要であることも伝えた。
どの分野でも日本の正しい姿を伝えることが重要で、私の出張はその役割ではないかと思っている。特に欧州のジャーナリストは、経済効果がはっきり見えない欧州危機よりも日本のエレクトロニクス産業・半導体産業を心配している。日本がコケれば、世界は大きな市場を失うのである。日本につぶれてほしくない。これが海外の人たちの本音である。
CEATECが象徴する民生機器の凋落
(2012年10月15日 21:11)先週、CEATECに行かれた方はいつもと違う様子に気付かれたことだろう。私は、初日の特別公開日とウィークデイ最後の5日の金曜日に行ったが、いつもほどの人通りはいなかった。5日のブログでお伝えしたように、記者が集まるプレスセンターもやはり、まばらだった。昨年は、プレスセンターの机を独占して持ち物だけを置いて行く輩がたくさんいたが、今年はいつでも机を使うことができた。
CEATECが終わってから参加者をグラフ化してみた(図1)。CEATECの来場者数は、民生機器の国内出荷額とほぼ似たような傾向がある。このグラフはJEITAが毎月発表している民生用電子機器製品の出荷額、すなわち売上額を毎年1~7月の累計で表したものだ。今年の数字が7月までしかデータが出ていないため、2000年から2011年までの数字もすべて1~7月の累計数字を集めることで、グラフ化した。この累積統計手法は、季節変動を除外することができる。
図 CEATEC参加者推移と民生機器売上との相関
出典 JEITA、エレクトロニクスショー協会
これによると、ソニー、パナソニック、シャープなど民生用電子機器メーカーの売上の低迷が続いているが、それと共にCEATECの来場者も減っているのである。これは何を意味するのであろうか。
会社の経営が不振になったから、CEATECに来なくなったということは、CEATECで市場動向や技術・製品動向を調べなくなった、という意味である。企業が調子悪いから情報収集さえやめろと指示しているだろうか。YESなら、負のスパイラルに入りこみ、V字回復はさらに難しいだろう。上昇力まで削ってしまう訳だから。R&D経費と同様、情報収集の時間とお金をケチればケチるほど、将来の投資がなされないから、企業は沈む一方になる。
今の総合電機、民生電機がダメなのは、この負のスパイラルに入ってしまったからではないか。V字回復しようという気概が感じられない。研究開発経費や情報収集費用まで削ってどうやって今後の売上を増やしていくのだろうか。R&D経費カットで利益を出せば経営陣が株主などへの言い訳はできる。経営者自身が2~3年つつがなく過ごし首切られないように問題を先送りしたい気持ちが働くのだろう。しかし将来成長するのに必要な経費まで削ってしまえばその会社の将来を切り捨てることと同じである。
展示会での来場者の減少はセミナーへの来客が減少していることとも関係する。最新情報を取りそれを生かして将来の売上アップにつなげていく、ということが出来ていないのだ。最近はどのようなセミナーに参加しても来場者が少なくなっている。有料だけではない。多くの無料のセミナーでさえ来場者は減少している。ますます暗くなるばかりだ。
セミナーは単に技術情報を得るだけではない。人との出会いを通じて、人脈を形成するというかけがえのない仕事でもある。その負のスパイラルを断ち切らなければ、企業の不振はいつまでも続くということを経営者は推して知るべし。ここは経営者が勇気を奮って、巻き返していかなければならない。
低コスト技術こそ利益の源泉
(2012年10月 9日 23:06)性能だけを追求してもコストが高ければモノは売れない。競争力はつかない。良いものを安く作る技術が競争力を付ける。日本のモノ作りが今アジア勢だけではなく米国勢、欧州勢に負けているのは、良いものを安く作れないからである。良いものをより良くしても高くなるだけで、クライアントの要求から遠ざかってしまう。海外勢は良いものを安く作ることに集中しており、日本との差がはっきり表れている。
例えば、スティーブ・ジョブズ氏は、かつてアップル社を追われNext Computer社を設立、高性能なコンピュータを世に出した。しかし高性能を追及した結果、百万円以上の価格になった。これでは売れない。このコンピュータは失敗だった。彼がアップル社に戻った時、この失敗を生かした。どのようなカッコいいデザインのコンピュータでも、売れる価格になるように設計しなければ失敗に終わるということを学んだ。戻った後にヒットさせたiMacは斬新なスケルトンデザインながら13万円台と手ごろな価格になるように設計した。iMacは爆発的にヒットした。その後のiPod、iPhone、iPadにおいても手ごろな価格という路線は変わらない。
アップル製品の生産におけるコストダウンの圧力は極めて強いと言われている。これは安売り商品を作るためにコストカットをするのではなく、手ごろな価格で魅力的な商品を製造するためにコストカットする。利益を十分確保するためだ。利益が得られなければ事業は継続できない。社会のみんなに使える商品を提供し続けるためには利益を生み出さなければならない。日本企業は儲かっている時期でさえ、「利益なき繁忙」と言われることが多いが、利益を上げるためのコスト意識がアップルとは比べ物にならないくらい低いからだ。
アップルだけではない。インテルやTI(テキサスインスツルメンツ)なども製品を手ごろな価格(決して安くはないが手の出ない価格でもない)で製造するために、製造原価の徹底的なコストダウンを行っている。それは設計段階から始まっている。いかに無駄な設計をしていないか、ソフトウエアの行数を減らす技術を採り入れているか、製造工程でも無駄な工程はないか、独自の工程をできるだけ減らし、共通化できる工程を増やしていく。製品の設計からテスト方法、製造方法、生産管理方法、共通化するための標準化、など商品のシステム設計から生産工程、流通工程に至る全てのコストを常に見直し、低コスト化を追及している。
日本のモノ作りはまず、いいものを作ることから始まる。作れるかどうかわからないからコストは関係せず、まず作ってみるという姿勢だ。海外はいいものを低コストで作ることから始まる。限られた費用の中でいかにして仕様を取り込み、製造上でも低コスト化できないかどうかを探りながら製品を開発する。低コストで作るために設計から販売チャネルに至るあらゆる工程と手段に知恵を絞る。この差がコスト競争力となって後で現れてくる。標準化や工程や設計などの共通化はコストダウンの一環である。安く作るために共通仕様で標準化する。だから利益を生み出すための標準化には力を入れている。
新聞などでは「日本発の世界標準を作ろう」と政府が旗を振っている記事をよく見かけるが、ピント外れも甚だしい。企業にとって日本発であろうが世界発であろうが、どうでもよい。標準化仕様を誰よりもいち早くキャッチして採り入れ、手ごろな価格の製品をいち早く作り販売することが最も重要なのだ。これこそが世界の勝ちパターンである。そのためには、海外における標準化作業に一緒に取り組み、その最新情報を常に会社に伝え、製品開発に欠かせないディスカッションをする必要がある。成功例として、旧NECエレクトロニクスは世界で最初のUSB3.0インターフェース準拠の半導体チップを開発したが、これは標準化委員会に最初から参加し、その製品仕様情報を会社にフィードバックしていたからだ。
低コスト化は、早く開発して世に出すことともつながる。つい最近まで言われていたことだが、日本のメーカーに新技術を持って訪問すると、その技術を買おうとせず、対応した部長は「この技術ならウチでも開発できる」と自信満々に上層部に伝える。上層部は、デキる部長の言うことだからウチで開発しようということになる。これが負け組につながったのである。なぜか。その部長や上層部にはTime-to-marketの概念がなかったからだ。ある時期の内に発売しなければビジネスチャンスを失ってしまうことに気がついていなかった。日本のメーカーが自分の得意な技術に集中し、持っていない技術はたとえ自社開発できるとしても、その技術を外部からさっさと買わなければ、良い製品を良いタイミングで発売できない。製品トータルのコストを考えると、自社で開発するために必要なリソースをつぎ込む方が結果的にコスト高になってしまうことが多い。しかも決まった時期内に製品を出すことができずライバルに負けてしまう。機会損失、機会チャンスという考え方を導入しなければ競争には勝てない。
日本のメーカーは、最近ようやくこのことに気がついたようだが、海外勢とはもはや大きな差がついてしまっている。詰まる所、経営判断の遅さが招いた差である。コストを二の次にしたモノづくりをやっている限り、日本の競争力はいつまでもつかない。コストを念頭に入れた設計・製造の技術開発こそ、海外の勝ち組、インテルやクアルコム、TIなどが採り入れてきたモノづくりの手法である。日本の企業がこのことに早く気がついてほしい。
(2012/10/09)
黄昏CEATECの中に一条の光が見える
(2012年10月 5日 22:50)CEATECにやってきた。10月2日はメディアをはじめ特別招待日であった。今年は残念ながらこれまでになく記者の数は少ないように見えた。いつもなら初日にはメディアの仕事場であるプレスセンターは満員だが、今回は場所取りに苦労することはない。知り合いの記者も少ない。半導体、エレクトロニクス関係の記者はどこへ行ったのか。5日はもっと少なかった。事務局の調べでは10月2~4日までの3日間の来場者数は90,548名である。5日間で20万人を目指すと言っていたが、目標達成は難しそうだ。

図1 2012年10月5日(金)のプレスセンター 記者の数はまばら
このプレスセンターの状況は、現在の日本の電子産業をよく表してしている、と複数の参加者から言われた。日本の電子産業は縮小均衡を図ろうとして縮まる傾向が強い。昨年は、インテルとマキシム、国内のロームの3社の半導体メーカーが出展したが、今年はローム1社だけだった。家電のブースはもっとひどい。未来を感じさせる展示物やパネルが少ない。ただ単に高精細にしただけの4K2Kのテレビ、ジェスチャー入力、スマートホーム、どれもすでに発表されたものばかり。すでに今年1月のCES(Consumer Electronics Show)で見たものばかりですね、と業界のベテランの方から言われた。
ところが、大手セットメーカーのつまらなさに対して、意外と部品メーカーが面白いという声を聞いた。例えば、かつてコンピュータアーキテクチャを研究していた元エンジニアの人は、部品が面白いですね、と言っていた。確かに、村田製作所やアルプス電気、ミツミ、京セラ、TDK、太陽誘電などには人だかりがあった。海外では半導体メーカーがソリューションを顧客に提案するソリューションプロバイダに変身してきているが、日本では部品メーカーが提案型になってきている。村田製作所がジャイロスコープの制御技術の一つとして、自転車や1輪車の自動操縦を行う、「ムラタセイサク君」「セイコちゃん」は部品で何ができるかを見せた例である。今年も彼らを見ようと詰めかけた人たちは多かった。
私が最も面白いと感じた技術は、地方の中堅企業の技術だった。空間に静止画や動画を映す技術を広島市の株式会社アスカネットが開発したのである。これまで水の流れる滝や霧、煙など光が反射する空間にレーザー光を当てて映像を見せるという手法はあった。シンガポールのセントーサ島で見せるレーザーショーはこの原理を応用したものだ。しかし、全く普通の空間に映像を映し出す技術は今まで見たこともなかった。
このブースに集まる人たちは一様に、驚きの声を上げていた。これは微細なミラーを格子状に並べたもので、鏡の反射を利用しただけの光学系には違いないのだが、空間のある平面に映像を映し出し、その面に焦点を結ぶというものらしい。空間だからこそ、その画像に触ろうとすると手はすり抜けてしまう。だが、3次元テレビや3次元ディスプレイで見える虚像とは違い、写真が撮れるのである。出展社のアスカネットは実像だという。

図2 写真で捉えた空間面の画像
他にも、球状のインダクタと呼ばれる丸いコイルやトランスなども展示されている。ここも中堅企業の部品メーカーが作製したもので、二つの半球状のフェライトを合わせて球状にし、その中にコイルやトランスを入れている。フェライトでシールドしているため半導体トランジスタなどでスイッチング動作させてもノイズを出さない。これもアイデア商品だ。
これらに共通するのは、大手企業ではなく中堅企業のアイデア商品だということ。大手企業のセットメーカーからは新しいアイデアはもはや出てこなかった。この現象は何を意味するのであろうか。日本のモノづくり産業のイノベーションは大手から中小にシフトしているのではないだろうか。大手セットメーカーは毎日、リストラの話で終始していると言われている。もはやイノベーションは期待できない。でも中堅・中小企業にイノベーションを期待できるのなら、日本のモノづくり産業はまんざら悪くはない。むしろ、未来が見えてくるといえよう。
このことは、大手企業、下請け企業、孫請け企業、ひ孫企業、というように階層を構成してきた日本のモノづくり産業構造が崩れつつある時期に来ていることを意味するのかもしれない。海外では、大手よりも中小、あるいは中堅企業がサプライチェーンから顧客に至る企業までパートナーシップを結ぶエコシステムを構築することでモノづくりを成功させている。日本の大手セットメーカーや半導体メーカーなどは垂直統合にこだわり過ぎて、スピード経営、スピード決定ができない、ことが敗因となっている。大手セットメーカーに期待するのではなく中小、中堅企業が世界と戦えるようなインフラを整えることが日本のモノづくり産業を救う道になるのではないだろうか。
日本で独立した半導体専業メーカーはローム1社しかいない。残りは全て親会社の干渉、庇護の元で運営されており、独自に経営することが許されない。中小、中堅企業の元気のいいイノベーションを見る限り、一刻も早く親会社、旧財閥系銀行などからの独立を図る経営が求められる。いつまでも放置しておけばますます世界との競争に敗れ、社会主義的環境から抜け出すことはできなくなる。もちろん、霞が関からの影響を排除し、自由に市場へ参入して競争できる環境が産業にとっては望ましい。政府は自由競争するため世界と同じ土俵(税制・関税・優遇措置など)を整備することが日本の産業のためになる。補助金を配ることだけが能ではない。
(2012/10/05)
エンジニアよ、システムの勉強をしてほしい
(2012年9月20日 22:57)10日ほど前、メンター・グラフィックス・ジャパンが主催するTech Design Forum 2012に参加した。この基調講演の中で、MITメディアラボ副所長の石井裕氏は、さまざまな対立概念を紹介した。止揚(aufheben)することでより上位の概念にたどりつき、最終的に人類の幸せにつながっていくことをさまざまな視点から紹介した。
面白かった話の一つとして、技術が全てだと思うと問題が出てきて見えなくなることがある、と述べたことだ。この話では、システムと部品の関係を示すことで問題の所在を明らかにしようとしている。まず、戦闘機とジェットエンジンの関係では、戦闘機がシステムであり、エンジンが部品である。しかし、その戦闘機でさえ空母から見ると部品になる。空母には数十機もの戦闘機を収容できる。空母というシステムをうまく動かすために戦闘機という部品をうまく配置しいつどのタイミングで動作させるかという管理を行う。
ところが、その空母でさえ部品扱いになる。艦隊というシステムから見ると1隻の空母は部品にすぎない。艦隊は、いつどのタイミングでどの空母をどのような手順で動かすか、というシステム的な観点から管理する。

図 空母に載った数十機もの戦闘機 出典:米Navyホームページから
その艦隊でさえ、国家的な戦局という視点から見ると、部品となる。戦局は、いつ艦隊をどのような状況でどのような手順で動かすか、という視点で艦隊を一つの部品のように動かす。
この話と同様に、「デバイス」という言葉は部品屋から見ると、半導体チップであり、トランジスタである。しかし、コンピュータ屋は、マウスやディスプレイモニターをデバイスと呼ぶ。かつてこの違いはなんだろうと悩んだ時代があった。当時の私はシステムが理解できていなかった。半導体屋にとってシステムはそれを使った装置であるから、マウスのようなちっぽけな装置もシステムという。しかし、コンピュータシステム屋からみると、コンピュータと周辺のプリンタやマウス、モニターなどはシステムを組む上での部品、すなわち「デバイス」なのである。
結局、部品とシステムを考える場合、システム的な視点とは部品をどのように組み合わせて、ハードウエアを形作り、それを柔軟に動かせるようにソフトウエアで調整する。では何をハードウエアとして作り、ソフトウエアはどのような役割を持たせるか、というシステム的な視点が求められる。ここには、モノを抽象化してみるという訓練が必要であり、部品や装置だけを見ていてはシステム全体を鳥瞰することができなくなる。
日本のモノづくりは半導体に限らず、システムという視点が欠けていたのではないか。技術という細かいところにだけ目が行って全体を鳥瞰できなくなると、システムや相手が見えなくなってしまう。技術は素晴らしい、ここに技あり、という一つの技術だけを見ていては、システムとしてのバランスを見失ってしまう。性能、機能、品質、コスト、信頼性などのバランスが商品としての魅力になる。
ユーザーが求めるものは、部品ではなくシステムである。どのようなシステムが欲しいのかを見極めたうえで製品設計に入る。そのためにはユーザーのシステムに熟知していなければならない。それが理解できるようになると、どのような部品が必要になるのかがわかる。さらにその製品を広く展開したい場合や将来に渡り発展させたい場合には、ソフトウエアを導入しプログラムできるように考慮する。ユーザーには拡張性を持たせることで手ごろな価格で求められる製品になる。こうなると、ユーザーはサプライヤから離れなくなる。
半導体のような部品の世界では、システム=装置という考えしかなく、ユーザーがどのような装置を望んでいるかを半導体屋は求めていた。しかし、ユーザーが望むシステムはさまざまな装置を組み込んで一つのシステムを作ることかもしれない。そうなると部品屋は装置だけを見てもユーザーの意図をくみ取ることができないのである。
日本の半導体産業がシステムLSIとか、SoC(システムオンチップ)と呼ぶ半導体チップをビジネスとして成立させられなかったのは、システムを本当に理解していなかったからだ。ではシステムLSIを止めて未来は来るのか。実は、アナログやミクストシグナルの世界もデジタルやマイコンを集積しており、システムLSIとなっている。スマホの心臓部に使われるアプリケーションプロセッサ(別名モバイルプロセッサ)もシステムLSIといえる。つまり半導体ビジネスで勝つためにはシステムLSIを捨てるわけにはいかない。いろいろな半導体チップがシステムLSIになってくるからだ。
だから半導体屋はシステムを勉強しなければならないのである。今からでも遅くはない。半導体の勉強はもうほどほどにしてシステムの勉強をしてほしい。これが世界でも通用する半導体メーカーになるための第1歩である。
(2012/09/20)
電機メーカーの処方箋
(2012年9月 4日 22:04)シャープ、パナソニック、ソニーなどの苦境が伝えられている。ソニーは白物家電を持たない家電メーカーだ。家電メーカーでも白物家電を持つ企業はまだましである。白物家電にはMade in Japanの優位性がまだあるからだ。しかしソニーは苦しい。シャープでさえ白物家電比率が低い。どうすれば電機は回復するのか、考えてみたい。

図 CES2012におけるLGのブース スマートハウスでHEMSを提案
かつてはソニーのウォークマンやVAIOパソコン、パナソニックのVTR、東芝のDynabookパソコンなど日本製品が世界を席巻し、ブランド力も高かったが、今はサムスンやLGの方が世界的なブランド力は高い。米国の家電分野にも新たな企業が出ている。VizioやCobyといったメーカーは、新たに生まれたデジタル家電メーカーであり、いずれも工場を持たないファブレスだ。いずれもテレビ事業を持ちながら米国で成功させるべきビジネスモデルを持っている。日本のパナソニックや、ソニー、シャープのような旧態依然としたテレビ工場を持つやり方ではない。さらに米国ではGEも健在であるが、白物家電が中心で民生エレクトロニクスではない。
日本の家電メーカーが強いのは、もはやテレビやビデオ機器ではなく、冷蔵庫や洗濯機、エアコンなどの白物家電だ。冷蔵庫にインバータを導入し、モータの回転数をスムーズに早めたりゆるめたりして、消費電力を減らす。いわゆる惰性運転ではエネルギーをそれほど食わない。昨年の震災によりできるだけ夏休みを長くして1週間工場を止めた工場があった。その企業が空調をはじめ工場全体のスイッチを入れたら、工場を止めなかった年の方が消費電力は少なかったという。エアコンなどインバータ方式のコンプレッサは惰性運転する方が電力は少ない。クルマを時速40~50kmでだらだら運転する方がガソリンは減らないことと同じである。急発進、急加速ほどガソリンをまき散らしているものはない。日本の家電業界は、エアコンにインバータを導入して消費電力を減らしてきた。
白物家電が健闘している割にテレビやDVDなどの民生用電子機器は弱体化が激しい。その原因はそれほどの技術を必要としないからだ。液晶の大画面化をハイテクと勘違いしていたのである。液晶テレビは実は構造が単純だ。表示パネルは、液晶の画素と呼ばれるRBG(青赤緑)要素をひたすら並べたものにすぎない。画素数は細かければ細かいほどきれいに映る。しかし1画素を上手に設計すれば、同じ画素を敷き詰める訳だから、さほどの技術ではない。実は半導体メモリも同様だ。だから英語では、こういった産業をゴム印産業(ラバーインダストリー)と呼ぶ。ここにはもはや差別化技術はない。コモディティである。コモディティとなったテレビでアジア勢には勝てない。低コスト技術を開発してこなかったからだ。
今や日本製(made in Japan)がもてはやされるのはアニメや漫画など日本の独自性を持つ分野だ。テレビは日本が有利な理由は何もない。ソニーはドイツで行われた家電のショーIFAにおいて、画素解像度4K2Kのテレビを発表したが、テレビの解像度は高まり映像をより鮮明に見えることは見えるだけ。それ以外の機能もビジネスモデルも従来のテレビと何ら変わりはない。
では日本のテレビやエレクトロニクスメーカーはどうすればよいのか。モノづくりを捨てて文化や娯楽へ転換するのか。いや、もっと冷静に分析することが重要だろう。現実として、もはやブランド力はない。低コストでモノを作れない。アイデアは貧困。商習慣は日本でしか通用しない。こういった現実を直視し、それを変えていかなければならない。
まず、今まで通りの考え方を捨てることから始めよう。そこで、自社の強み、弱み、世の中の流れ、問題、を整理して進むべき道を各社が見つける以外にあるまい。横並びに日本の民生メーカーに並ぶだけでは共に沈んでしまう。各社が各自の道を探ることができなければやがて没落する。それでは従業員が悲しすぎる。経営者の責任で自社をどれだけ変えられるかが勝負となろう。
これはほんの一例だが、ドラえもんやハローキティのキャラクタ作者とコラボした商品(テレビやスマホ、スマートテレビなど)を世界へ売るとか、AKB48とコラボする商品を世界へ売るとか、思い切った変革を提案しなければ発展は望めない。いつまでもソニーやパナソニックが世界で望まれているブランドではないことを知ろう。世界における日本のプレゼンスを強調できる娯楽文化と家電メーカーがコラボレーションを図った商品開発は一考の価値があるのではなかろうか。そうすると日本のブランド力をどう生かすべきか、日本の強みをどう生かすべきかが見えてくるはずだ。
携帯無線4Gの次の5Gはどのような姿になるのだろうか?
(2012年8月23日 22:29)先月、YRP(横須賀リサーチパーク)が主催したWTP(ワイヤレステクノロジーパーク)2012の講師控え室で、他の講師の方と話をしている時に、「歴史を振り返ると、第5世代コンピュータというものは結果的にパソコンでしたね。携帯電話の4Gの次はどうなるのでしょうか?」と質問された。これまで高性能化ばかりに目を奪われてきた第5世代コンピュータの国家プロジェクトは何だったのだろうか。

図 バルセロナで開催されたMobile World CongressのSK Telecomブースは新4Gで話題
コンピュータは最初に生まれてから、第3世代まではメインフレームが主体だった。第4世代は性能的にはスーパーコンピュータだったが、ミニコンあるいはワークステーションだったのかもしれない。そして第5世代は、人工知能やパターン認識コンピュータではなくパソコンだった。この歴史はダウンサイジングというメガトレンドへ向かっていた。
半導体の取材を80年代から米国でも始めた時、メインフレームよりミニコンやオフコン、スーパーコンピュータよりミニスーパーコンが欲しい、というユーザーの声が強いと実感した。現実にメインフレームやスパコンは装置そのものの速度は速く高性能であるが、実際のコンピュータ運用では順番待ちをよく食らった。1台数億円もするメインフレームは大企業や大きな組織でみんなが使うため、オペレータにプログラムを手渡しても、3~4日待ってください、と言われるのが常識だった。スーパーコンピュータも同様だ。実際の計算時間よりも待ち時間の方が圧倒的に長かった。だから、コンピュータを使いたい人たちは、性能は少し落ちてもよいからもっと安い手軽なコンピュータが欲しいと思っていた。1台1000~2000万円程度なら一つの事業部で1台のワークステーションやミニコン、ミニスーパーコンを購入できた。性能はメインフレームやスパコンに比べると遅いが、待ち時間はなくすぐに使えるため、結果的に出力データを手に入れられる期間は早かった。ダウンサイジングはこのようにして80年代から90年代へとじわじわ進行した。
同時にムーアの法則に従って、半導体の集積度が上がり半導体プロセッサの能力も上がってくると、フォートランやコボル、C言語で書いたプログラムを走らせるコンピュータはメインフレームよりもずっと安いワークステーションやパソコンでさえも実行可能になりつつあった。こうなるとメインフレームもスパコンも特殊な用途にしか使われなくなり、これらの市場は縮まっていった。今のスパコンの国内市場は富士通のスパコン売上にすぎない。わずか100億円だ。
1980年代にコンピュータのダウンサイジングが言われ始めた時、日本の半導体はこういった動向に目もくれずメインフレーム向けのDRAMばかりを開発していた。米国ではインテルやナショセミなどがDRAMから撤退し始めた1984年に米国のマイクロンがDRAMに新規参入したため、取材を申し込んだ。その時、「われわれは日本が強いDRAMをメインフレーム用ではなくパソコン用途に絞って提供する」と開発思想を述べた。コンピュータのダウンサイジングを見越したマイクロン、さらにそこからライセンスを買ったサムスンがパソコン用の低価格DRAMに集中し、日本のDRAMメーカーが、ダウンサイジングというメガトレンドを見ずに高価なDRAMを作り続けていた。その10年後、20年後の勝負は、1980年代ですでに見えていたのである。
こういったコンピュータと半導体の歴史をリンクしてみると、日本の半導体メーカーが高価なDRAMをいつまでも追求してきたことが間違いだった。つまりはメガトレンドを見ずにひたすらDRAMの微細化を追求してきたことが間違いだったという訳だ。
では、携帯通信規格の4GすなわちLTE-Advancedの次はどこへ行くのだろうか。データレートは数100Mbps~1Gbpsにも達するのである。さらに数Gbpsを個人のスマートフォンやタブレットが必要とするのだろうか?ここに第5世代コンピュータの教訓を生かすべきだろう。その答えについてWTP2012でもいくつか芽が出ていたが、ここでは結論めいたことを言うつもりはまだない。答えを得るためのプロトコルを述べるなら、ニーズをつかむマーケティングをしっかり行うと同時に、世界のメガトレンドを把握するというだけは確かだ。
(2012/08/23)