携帯無線4Gの次の5Gはどのような姿になるのだろうか?
2012年8月23日 22:29

先月、YRP(横須賀リサーチパーク)が主催したWTP(ワイヤレステクノロジーパーク)2012の講師控え室で、他の講師の方と話をしている時に、「歴史を振り返ると、第5世代コンピュータというものは結果的にパソコンでしたね。携帯電話の4Gの次はどうなるのでしょうか?」と質問された。これまで高性能化ばかりに目を奪われてきた第5世代コンピュータの国家プロジェクトは何だったのだろうか。

 

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図 バルセロナで開催されたMobile World CongressのSK Telecomブースは新4Gで話題


コンピュータは最初に生まれてから、第3世代まではメインフレームが主体だった。第4世代は性能的にはスーパーコンピュータだったが、ミニコンあるいはワークステーションだったのかもしれない。そして第5世代は、人工知能やパターン認識コンピュータではなくパソコンだった。この歴史はダウンサイジングというメガトレンドへ向かっていた。

 

半導体の取材を80年代から米国でも始めた時、メインフレームよりミニコンやオフコン、スーパーコンピュータよりミニスーパーコンが欲しい、というユーザーの声が強いと実感した。現実にメインフレームやスパコンは装置そのものの速度は速く高性能であるが、実際のコンピュータ運用では順番待ちをよく食らった。1台数億円もするメインフレームは大企業や大きな組織でみんなが使うため、オペレータにプログラムを手渡しても、3~4日待ってください、と言われるのが常識だった。スーパーコンピュータも同様だ。実際の計算時間よりも待ち時間の方が圧倒的に長かった。だから、コンピュータを使いたい人たちは、性能は少し落ちてもよいからもっと安い手軽なコンピュータが欲しいと思っていた。11000~2000万円程度なら一つの事業部で1台のワークステーションやミニコン、ミニスーパーコンを購入できた。性能はメインフレームやスパコンに比べると遅いが、待ち時間はなくすぐに使えるため、結果的に出力データを手に入れられる期間は早かった。ダウンサイジングはこのようにして80年代から90年代へとじわじわ進行した。

 

同時にムーアの法則に従って、半導体の集積度が上がり半導体プロセッサの能力も上がってくると、フォートランやコボル、C言語で書いたプログラムを走らせるコンピュータはメインフレームよりもずっと安いワークステーションやパソコンでさえも実行可能になりつつあった。こうなるとメインフレームもスパコンも特殊な用途にしか使われなくなり、これらの市場は縮まっていった。今のスパコンの国内市場は富士通のスパコン売上にすぎない。わずか100億円だ。

 

1980年代にコンピュータのダウンサイジングが言われ始めた時、日本の半導体はこういった動向に目もくれずメインフレーム向けのDRAMばかりを開発していた。米国ではインテルやナショセミなどがDRAMから撤退し始めた1984年に米国のマイクロンがDRAMに新規参入したため、取材を申し込んだ。その時、「われわれは日本が強いDRAMをメインフレーム用ではなくパソコン用途に絞って提供する」と開発思想を述べた。コンピュータのダウンサイジングを見越したマイクロン、さらにそこからライセンスを買ったサムスンがパソコン用の低価格DRAMに集中し、日本のDRAMメーカーが、ダウンサイジングというメガトレンドを見ずに高価なDRAMを作り続けていた。その10年後、20年後の勝負は、1980年代ですでに見えていたのである。

 

こういったコンピュータと半導体の歴史をリンクしてみると、日本の半導体メーカーが高価なDRAMをいつまでも追求してきたことが間違いだった。つまりはメガトレンドを見ずにひたすらDRAMの微細化を追求してきたことが間違いだったという訳だ。

 

では、携帯通信規格の4GすなわちLTE-Advancedの次はどこへ行くのだろうか。データレートは数100Mbps1Gbpsにも達するのである。さらに数Gbpsを個人のスマートフォンやタブレットが必要とするのだろうか?ここに第5世代コンピュータの教訓を生かすべきだろう。その答えについてWTP2012でもいくつか芽が出ていたが、ここでは結論めいたことを言うつもりはまだない。答えを得るためのプロトコルを述べるなら、ニーズをつかむマーケティングをしっかり行うと同時に、世界のメガトレンドを把握するというだけは確かだ。

 2012/08/23