黄昏CEATECの中に一条の光が見える
2012年10月 5日 22:50

CEATECにやってきた。102日はメディアをはじめ特別招待日であった。今年は残念ながらこれまでになく記者の数は少ないように見えた。いつもなら初日にはメディアの仕事場であるプレスセンターは満員だが、今回は場所取りに苦労することはない。知り合いの記者も少ない。半導体、エレクトロニクス関係の記者はどこへ行ったのか。5日はもっと少なかった。事務局の調べでは102~4日までの3日間の来場者数は90,548名である。5日間で20万人を目指すと言っていたが、目標達成は難しそうだ。

 

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図1 2012105()のプレスセンター 記者の数はまばら

 

このプレスセンターの状況は、現在の日本の電子産業をよく表してしている、と複数の参加者から言われた。日本の電子産業は縮小均衡を図ろうとして縮まる傾向が強い。昨年は、インテルとマキシム、国内のロームの3社の半導体メーカーが出展したが、今年はローム1社だけだった。家電のブースはもっとひどい。未来を感じさせる展示物やパネルが少ない。ただ単に高精細にしただけの4K2Kのテレビ、ジェスチャー入力、スマートホーム、どれもすでに発表されたものばかり。すでに今年1月のCESConsumer Electronics Show)で見たものばかりですね、と業界のベテランの方から言われた。

 

ところが、大手セットメーカーのつまらなさに対して、意外と部品メーカーが面白いという声を聞いた。例えば、かつてコンピュータアーキテクチャを研究していた元エンジニアの人は、部品が面白いですね、と言っていた。確かに、村田製作所やアルプス電気、ミツミ、京セラ、TDK、太陽誘電などには人だかりがあった。海外では半導体メーカーがソリューションを顧客に提案するソリューションプロバイダに変身してきているが、日本では部品メーカーが提案型になってきている。村田製作所がジャイロスコープの制御技術の一つとして、自転車や1輪車の自動操縦を行う、「ムラタセイサク君」「セイコちゃん」は部品で何ができるかを見せた例である。今年も彼らを見ようと詰めかけた人たちは多かった。

 

私が最も面白いと感じた技術は、地方の中堅企業の技術だった。空間に静止画や動画を映す技術を広島市の株式会社アスカネットが開発したのである。これまで水の流れる滝や霧、煙など光が反射する空間にレーザー光を当てて映像を見せるという手法はあった。シンガポールのセントーサ島で見せるレーザーショーはこの原理を応用したものだ。しかし、全く普通の空間に映像を映し出す技術は今まで見たこともなかった。

 

このブースに集まる人たちは一様に、驚きの声を上げていた。これは微細なミラーを格子状に並べたもので、鏡の反射を利用しただけの光学系には違いないのだが、空間のある平面に映像を映し出し、その面に焦点を結ぶというものらしい。空間だからこそ、その画像に触ろうとすると手はすり抜けてしまう。だが、3次元テレビや3次元ディスプレイで見える虚像とは違い、写真が撮れるのである。出展社のアスカネットは実像だという。

 

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2 写真で捉えた空間面の画像

 

他にも、球状のインダクタと呼ばれる丸いコイルやトランスなども展示されている。ここも中堅企業の部品メーカーが作製したもので、二つの半球状のフェライトを合わせて球状にし、その中にコイルやトランスを入れている。フェライトでシールドしているため半導体トランジスタなどでスイッチング動作させてもノイズを出さない。これもアイデア商品だ。

 

これらに共通するのは、大手企業ではなく中堅企業のアイデア商品だということ。大手企業のセットメーカーからは新しいアイデアはもはや出てこなかった。この現象は何を意味するのであろうか。日本のモノづくり産業のイノベーションは大手から中小にシフトしているのではないだろうか。大手セットメーカーは毎日、リストラの話で終始していると言われている。もはやイノベーションは期待できない。でも中堅・中小企業にイノベーションを期待できるのなら、日本のモノづくり産業はまんざら悪くはない。むしろ、未来が見えてくるといえよう。

 

このことは、大手企業、下請け企業、孫請け企業、ひ孫企業、というように階層を構成してきた日本のモノづくり産業構造が崩れつつある時期に来ていることを意味するのかもしれない。海外では、大手よりも中小、あるいは中堅企業がサプライチェーンから顧客に至る企業までパートナーシップを結ぶエコシステムを構築することでモノづくりを成功させている。日本の大手セットメーカーや半導体メーカーなどは垂直統合にこだわり過ぎて、スピード経営、スピード決定ができない、ことが敗因となっている。大手セットメーカーに期待するのではなく中小、中堅企業が世界と戦えるようなインフラを整えることが日本のモノづくり産業を救う道になるのではないだろうか。

 

日本で独立した半導体専業メーカーはローム1社しかいない。残りは全て親会社の干渉、庇護の元で運営されており、独自に経営することが許されない。中小、中堅企業の元気のいいイノベーションを見る限り、一刻も早く親会社、旧財閥系銀行などからの独立を図る経営が求められる。いつまでも放置しておけばますます世界との競争に敗れ、社会主義的環境から抜け出すことはできなくなる。もちろん、霞が関からの影響を排除し、自由に市場へ参入して競争できる環境が産業にとっては望ましい。政府は自由競争するため世界と同じ土俵(税制・関税・優遇措置など)を整備することが日本の産業のためになる。補助金を配ることだけが能ではない。

2012/10/05