エレクトロニクス業界の最近のブログ記事

2014年は成長戦略の結果が問われる年

(2014年1月 3日 15:38)

新年あけましておめでとうございます。

今年は、アベノミクスの第三の矢である成長戦略が問われる年になります。これまで小泉純一郎元首相の元では「経済特区」がありました。規制を緩和し、できるだけ多くの企業が参加できる自由ビジネスの地域でした。しかし、いつの間にか特区という言葉がなくなりました。

 

経済特区は、規制を緩和するモデル地区を設定し、そこで得られる成果を全国展開し、日本の規制を緩和して自由に参加できる市場を目指すものでした。しかし、いわゆる「役人のアリバイ作り」(特区を期間限定で作ったということだけ)に終わりました。

DSCN5240.JPG

 

安倍首相が本気で日本の経済を成長へ転換させるつもりなら、不要な規制は撤廃すべきなのは言うまでもありませんが、やはりさまざまな抵抗勢力が邪魔している様子が、薬のインターネット販売への規制等から垣間見えます。成長戦略には目標となる数字は出ていますが、どうやって達成するのか、達成するためにはどのような規制緩和が必要なのか、具体性はまだ見えません。ここでも、役人のアリバイ作りに終わらせないためにどうすべきか、という視点が見えません。また、経済特区の「未来」に関しても議論がありません。特区で得られた成果を全国展開することを考慮に入れなくては、日本の復活はあり得ません。

 

これまでの安倍首相の成長戦略はまだ『絵に描いた餅』のレベルです。実現していくためには、例えば、農業は従来の小規模農業ではグローバルな勝負ではできませんし、法人化を進め大規模化でコスト競争力を持たせ、さらに日本の農産物のとびぬけた美味しさを適正な価格で買ってもらうための仕組み作りまで含めた、「会社経営」のセンスが欠かせません。農業を法人化、企業化できるような仕組みを一気に持っていこうとすると反対勢力の抵抗に出会います。だからこそ、特区で成功モデルを作る必要があります。

 

おいしい果物を作るための化学的組成の制御、気まぐれな天候に対してフレキシブルに対応するためのIoTM2M、ワイヤレスセンサネットワークなどの仕組み作りと、ビッグデータ処理などITとの融合も必要になってきます。テクノロジーを使えば低コストでおいしい野菜や果物、肉などを生み出すことができます。ITに必要なエネルギー源を石油に頼らず、太陽、風力、エネルギーハーベスティングなどありとあらゆるテクノロジーを使い、農業に限定したITネットワーク作りが必要になります。

 

温度、湿度、風、時間的変化、植物の葉の湿度、土壌の湿度と温度など農業に欠かせないデータはさまざまあります。これらの相関というよりもビッグデータ解析によって、天気予報データを考慮に入れながら、膨大なデータをフィードフォワード的に予測しながら解析することでおいしい農産物を作り出します。国際競争力が高まることは言うまでもありませんが、得られたノウハウをIT化し、農業コンサルティングビジネスを輸出することさえできます。IBMならやるでしょう。

 

同じようなことが他の産業でも可能です。世界が成長しているのに日本だけが成長していない半導体産業は、まさに同様です。しかし、世界レベルに持ち上げることは可能です。古臭いこれまでのやり方を変え、世界と同じようなやり方に変えればよいのです。国内の半導体産業は、護送船団方式に乗った旧財閥系の企業が中心となっています。半導体ビジネスは子会社が請け負っています。変化の激しい半導体ビジネスでは、旧態依然とした親会社・子会社・孫会社といった企業体質がしみ込んだ旧財閥企業ではもはや対応できません。

 

例えば古い日本では、お客様は神様です。現代の世界では、お客様もパートナーの一人です。つまり、下から目線で顧客を見るとか、上から目線で調達業者を見下したりしてはグローバル競争に決して勝てません。経営判断が遅くなるからです。顧客も下請け業者(サプライチェーン)もパートナーであり、彼らと一緒に同時間を共有しモノを作っているのが世界の勝ち組企業です。低コストで、優れた製品を短期間に生み出すことができるからです。こういった世界のやり方を少しでも見習うためには、国籍、人種、男女、年齢など生まれながらにして決められた属性を認め合うこと、すなわち差別意識をなくすことが最も重要です。

 

つまり、世界の勝ち組企業は、よその国の企業とコラボレーションしながら、モノづくりを行い、世界にモノを供給しています。日本は時代錯誤的にオールジャパンということが今でもあります。日本国内に仲良しクラブを作って、どのようにして海外のコラボチームに勝てるでしょうか。陸上競技で言えば、ジャマイカと米国の共同チームと、オールジャパンが競い合うようなものです。

 

今年も日本を活性化するためのアイデアを提供していきます。日本の復活を望むのは日本企業だけではなく海外企業も同じです。日本が元気を取り戻さなければ世界経済が沈滞するからです。皆様からの活発なご意見、ご議論をお待ちしております。

(2014年元旦)

買収されて良かった~日本企業では先端技術を開発させてもらえなかった

(2013年11月20日 00:42)

今年の8月、富士通のマイコンとアナログの部隊は米国のNORフラッシュ半導体メーカーSpansion(スパンション)に買収された。それ以来、旧富士通のマイコン・アナログ部隊は、スパンション・イノベイツと名前を変えた。米国のシリコンバレーを本社とするSpansionの日本法人という位置づけではなく、Spansionという傘の下にスパンション・イノベイツ(マイコンとアナログ)とスパンション・ジャパン(NORフラッシュ)が入る、という組織になった。

 

いわば、富士通セミコンダクターのマイコンとアナログ部門はSpansionの一部門となったのである。この8月、一体どうなるのか、不安の声をスパンション・イノベイツの社員から聞いた。彼らはSpansionの考え方を全く知らなかったようだ。このため、社長兼CEOJohn Kispert氏が日本の市場や富士通に対してどう思っているのか、旧富士通の社員は不安気に思っていた。

 

John Kispert社長とは何度か東京でもシリコンバレーでもインタビューをしているし、東京と米国との間での電話インタビューも何度かある。彼は、日本が大好きな人間で、特に真面目に貪欲に働く人間が好きだ。組み込みシステム向けのNORフラッシュの日本のエンジニアをいつも、ものすごく優秀な(よくtremendousという表現をする)人たちのおかげで、日本市場に食い込めている、と評している。同時に、どう彼らのモチベーションを上げるか、新しい面白い仕事(チャレンジングでもあるが)を与えることこそ、経営者が行うべき仕事だという。エンジニアは仕事に没頭でき、幸せ感に浸れるだろう。企業は人なり、という昔の日本の企業経営者がよく言ったことをJohnは実践している。

 

このほど、日本のスパンション・イノベイツの会見(主催はスパンション社)があり、日本人社長にスパンションと一緒になってから、シナジー効果は出てきているのかどうかを質問した。というのは、この会見では新製品を発表したが、旧富士通セミの製品の延長でしかなかったからだ。今の段階ではまだ、スパンションの技術を採り入れていなかった。つまり買収によるシナジー効果はまだ出ていない。

 

ところが、である。現在の製品の次の製品にはスパンション独自のMirrorBitテクノロジーを組み込んだマイコンを出してくるようだ。富士通時代なら、プロセス技術は55nm技術どまりで、これ以上のテクノロジーの開発も発展も期待できなかったため、エンジニアのモチベーションも下がってしまっていた。ところが、スパンションは40nmテクノロジー、さらに28nmテクノロジーも進めていく、と社内で言っているという。これによってエンジニアのモチベーションは上がってきた。「われわれは先端技術をもっと開発できるのだ」というモチベーションだ。

 

もし、富士通にいたままだと、先端技術の開発は許されず、エンジニアは悶々とした毎日を送っていただろう。買収されて良かったと感じているのではないだろうか。富士通セミコンダクターのエンジニアの生の声を聞く機会があれば聞いてみたい。

2013/11/19

スマホ・タブレット用半導体はクアルコムだけじゃない

(2013年10月19日 22:00)

最近、半導体の新しい用途はないですかね?と聞かれることが多くなった。そのたびに答えていることは「スマホやタブレットに使われる半導体はアプリケーションプロセッサ(APU)だけでではないですよ。スマホの仕組みを理解すればもっといろいろなところに半導体が使われています。この市場は大きいです」だ。

 

スマホは世界中でブームになっており、今回の米国でもアップルのiPhoneは相変わらず人気の的だ。次に見かける機種はサムスンだ。逆に言えばアップルとサムスンに納入できるようなチップを開発すればよいのである。彼らの話に耳を傾ければよい。

 

今回の米国取材でも、欧州、アジアのジャーナリストだけではなく、半導体メーカーやEDAベンダー、組み込みベンダーたちと話をすると、みんなスマホ市場を狙っている。APUと通信モデムで圧倒的なシェアを持つクアルコムだけではない。スマホ内部のテクノロジーや、自分たちの家族がどのスマホを使っているかという話も聞くことができる。日本では、スマホはもうクアルコムの一人勝ちだから、狙ってもしょうがない、という消極的な意見や、世界的なテクノロジートレンドについて行ってはいけないといった意見を述べる学者先生もいる。やはり、井の中の蛙なのだ。

 

世界の大きなテクノロジーの流れと一緒に乗っていけば必ず一緒に成長できる。誰も見ていない分野に向けることは実は危険が極めて大きい。市場があるかないかわからないからだ。誰もやっていないところで一発当てる、という発想は博打である。マーケット指向の市場経済でマーケットを見ずして、どうして経済成長できようか。

 

今回の米国取材は、Globalpress Connection主催のEuroAsia 2013をベースにしている。このイベントで話をしてくれる米国の企業は、モバイルコミュニケーションを軸に、スマホやタブレットはいうまでもなく、IoT(最近ではInternet of Thingsとは言わずにInternet of Everythingということが多くなってきた)、通信インフラ系、クラウド、そしてビッグデータ解析といった分野まできちんと見据えて、それに向けたチップを製品化してくる。もちろん、これらのハードに共通する電源用ICもある。クラウドはソフトウエアを貸し出すASP(アプリケーションサービスプロバイダ)ではない。自動化・自律化したシステムをクラウド上に構築することがハードウエアメーカーには求められているのだ。

 

もちろん、数量の出る分野はスマホそのものだ。ただし、その分、価格は安い。となると、安い価格でも設計・製造できるチップ技術を開発する。一つだけ例を紹介しよう。2001年に設立されたSilego(シレゴと発音)Technology社は、2009年ごろまではインテルのプロセッサ向けのクロックICを作っていた。クロックICとは、文字通り時刻を刻むためのICである。パソコンなどのプロセッサは決まった周波数でさまざまな命令やデータを動かす。その周波数のパルスに同期して働く。従来は水晶発振器から基準の周波数のパルスを発生させ、クロックICがそれを逓倍(テイバイと読む)して、いわゆる1GHzとか2GHzなどと言われているクロック周波数を発生させる。だからこそ、プロセッサを動かすためにはクロックICはプロセッサとセットとして使われてきた。

 

ところが、インテル2007年ごろからクロック回路をプロセッサに集積するようになり、クロックICは不要になった。今年発表されている新型プロセッサはすべてクロック内蔵である。シレゴ社はさて困った。このままでは業績は落ちていくだろう。このためには新製品が必要だ。

 

そこで、シレゴは顧客といろいろな話をしているうちに、スマホのプリント回路基板の面積の無駄を見つけた。抵抗やコンデンサなどの受動部品や、CMOS標準ロジック、単体のトランジスタが結構使われており、数十cm2程度の基板面積を占めていた。スマホは動作時間を延ばすために基板面積を減らしても電池の面積を拡大したい。数十cm2の面積を1~2mm2に減らせばスマホの動作時間を延ばせる。そう考えた。

 

しかも、新しいプロセッサの開発から製品化までは数年ある。この間はクロックICも生産中のプロセッサに使わざるを得ないはずだ。だからこの間に新型ICを開発しなければならない。シレゴ社が開発したICは何とFPGAである。常識ではFPGAは高価だ。もちろん、ザイリンクスやアルテラのような何百万ゲート以上に相当するようなICは高価である。シレゴのFPGAはわずか数10ゲートもあれば十分、という声に応えた。顧客と話をしていると、「レジスタ8個分だけのICが欲しい」とか「ほんのわずかなカスタマイズだから単体の部品を集めて構成している」といった声を聞いた。こういったわずかな回路を数十ゲートのプログラマブルなFPGAで作れば、どのような客にも対応できる。

 

この考えがヒットした。2007年~2010年の間は売り上げがフラットだったが、この新型FPGAを出して以来、急

DSCN4130.JPG

速に伸びた。予想通り、クロックICの売上は急速に落ちて行き、2013年はピーク時の1/10にまで落ちそうだ。一方、1円単位で勝負する安い新型FPGAは、2009年以降、CAGR(年平均成長率)が46%と驚異的な勢いで成長してきた。この結果、会社全体としても2013年の売り上げは2009年の2倍になりそうだ。

 

シレゴの成功は顧客の悩みに耳を傾けたことにある。それを簡単に開発するためのソフトウエアツールも作った。これさえあれば、顧客は自分の好きな回路を簡単にしかも自由に設計できる。回路自身は簡単だから、この設計ツールは慣れると20分くらいで設計が終わるという。客の声に沿ってスマホを理解し、シレゴは市場を見つけた。諦めずにスマホの技術を理解し、市場を見つけることこそ、成功の王道である。ちなみにシレゴの社長は、「自分の名前は、Ilbok Lee(イルボック・リー)と言うが、イルボOKと言ってくれ」と冗談を言い、極めて明るい前向きの韓国系アメリカ人だ。

2013/10/19

今年のCEATECは静かだった

(2013年10月13日 12:54)

「今年のCEATECは静かだね」、とあるイギリス人から言われた。彼は数年間、日本に滞在した経験があり、かつてのCEATECを見てきた人間だ。今は英国に戻り、今回は久々に来日した。実際、初日のショーに来る人はかつてと比べると非常に少ない(写真)。民生の展示会そのものの傾向だろうか。であればInternational CESも同じように寂しいはずだ。ところが、CESはいまや大勢が来るようになっている。CEATECとは全く様相が違うのである。なぜだろうか。

 

DSCN3991.JPG

CESはかつて、Consumer Electronics Showとして新聞でも「家電見本市」と訳されている。しかし、昨年参加した時、報道関係向けの資料には、ショーの正式名称はInternational CESであり、CESConsumer Electronics Showと分解してはいけない、と書かれている。つまり家電見本市と訳してはいけないのだ。CESCESとして扱え、という訳だ。CESCConsumerだけではなく、ComputingCommunicationsなどの意味も含んでいるからだ。

 

International CESCEATECとは何が違うのか。CEATECに限らず、日本の展示会は開発品や新製品を見せるためのショーであることが多い。これに対して、海外の展示会は、展示するものではなく、商談するためのトレードショーである。完全なB2Bのイベントなのだ。だから、参加者数はあまり問題にしない。むしろ、Cクラスの人たちが、参加者の5060%を占める展示会だ、というアピールをする。Cクラスの人とは、CEOCTOCIOCFOなど経営者という範疇に入るエグゼクティブパーソンのこと。予算権限を握る人たちが多く参加するイベントであれば、もはやB2Bである。消費者が来る展示会はビジネスにはならない。だからCEATECに出展してもビジネスにつながらない、ということになる。実際、CEATECへの出展を取りやめた、ある企業は、ビジネスにつながらないことを嘆いていた。

 

日本は東京一極集中である。全てが東京に集まっているからこそ、東京に情報も集中する。あるアメリカ人がテキサスにいるときよりも東京に来る方がアメリカの情報がよく入る、と言っていた。ところが、アメリカでも欧州でも東京ほど、情報が集中する都市はほとんどない。このことはビジネスをするうえで、東京は極めて便利だが、欧米では20社の人と商談するため出張の予定を組むとなると一月くらいかかる。トレードショーでは、3日間で20社に会うことは簡単にできる。だから、出展社の担当者のスケジュール表を見せてもらうと、朝から夕方までびっしり詰まっている。B2Bのトレードショーに出展品に力を入れず、商談ルームに力を入れる。出展する大手企業は、商談室を20室も30室も作り、接待用の飲み物とおつまみを用意する。仮に担当者一人が15社のアポを持ち、常に20室が埋まっているとすると、わずか3日間で300社と商談していることになる。

 

CEATECでは4Kテレビやスマートフォンなどの展示が多く、そこに集まる人たちはコンシューマとして新製品を見ている。B2Bにはなっていない。商談には結び付きにくい。JEITAという工業会に入っているメンバーとして「お付き合い」で参加している企業が多いため、積極的な商談にするつもりのブースの作り方になっていない。

 

かつては電子部品や半導体の出展企業が極めて多かったが、なかでも国内の半導体企業は昨年同様、今年もロームだけだった。かつて出展していた日本企業が出展しない理由は業績が悪く「お付き合いする余裕がない」、という背景がある。ところが、海外企業もかつて常連だったTexas InstrumentsSTMicroelectronics、などはもはやいない。CEATECに来る来場者に魅力がないから海外企業も来ないのであろう。つまり来場者が出展者の顧客になるという関係ができていないのである。

 

この意味で、毎年2月にスペインのバルセロナで開かれるMWCMobile World Congress)は入場料が6~7万円、セミナーの聴講もセットだと15万円程度にもなる。それでも世界中から数万人が集まる。かつては第2世代の携帯電話規格であったGSM方式の通信オペレータの集まりであったが、今や通信機器(インフラ機器からモバイル端末、アクセサリ、半導体、部品まで)に関するトレードショーになった。ここではCクラスエグゼクティブが何万人来場した、と表現している。半導体ベンチャーや中小の企業を取材するときは商談ルームで行うことが多い。エリクソンのような大手インフラ機器メーカーの取材は、巨大な商談ルームで、新規開発機器のデモと説明について行う。スマホの展示はメインではない。

 

ここではモバイルブロードバンドを中心とするエコシステムが出来上がっており、部品から通信機器、通信オペレータに至るまで、それもハードウエアからソフトウエアまで、民生のスマホからインフラ系のソフトまで、完全なエコシステムが出来上がっている。これはビジネスとしては最高の環境になっている。

2013/10/13

「買収されてうれしい」企業もある

(2013年9月28日 20:14)

買収で勝った、負けた、はどうでもよい。東京エレクトロンとアプライドマテリアルズの統合のニュースに対しては、アプライド側が勝ち、東京エレクが負けた、というようなトーンの記事やブログが多い。大事なことは、1万人以上の社員の雇用を守り、事業を継続することである。世の中の役に立つ技術を開発してきた東京エレクが数年後に、パナソニックやシャープ、ルネサスのようになってもよいのか?

 

高く売れるうちに売り雇用を守ることこそ、優れた経営者がとるべき道であろう。エルピーダメモリが自力で立ち行かなくなり、企業再建を東京地裁に委ね、その結果米国のマイクロンテクノロジが資金を出すことになったことも同様である。再建を請け負った元社長の坂本氏は社員の首を切らないように頑張り、雇用を守った。坂本氏に対して、快く思っていない債権者も多い。しかし、地裁に委ねたということは、エルピーダの自力再生をギブアップしただけの話であり、債権放棄を含め、再生の道筋をつけたことは評価してよいだろう。

 

今回の東京エレクとアプライドの経営統合の話は現在取材中なので、詳しく今は書かない。近いうちに真相の裏付け記事を書くが、とりあえずは重要なことを忘れてはいけないことを指摘しておきたい。

 

2008年に英国の取材旅行において印象深い話を聞いた。ヘルスケアチップの先駆的ベンチャー企業であるトゥマウズ(Toumaz)社は、血圧や体温、心拍数を24時間1週間連続して測定し、そのデータを、スマホや携帯電話を通じてドクターに届ける、というビジネスを描いていた。この会社は、世界でも大学トップテンに入るほどの優秀なロンドンインペリアルカレッジのChris Toumazou教授とAlison Burdett講師(写真)


Alison Burdett (2560x1920).jpgが立ち上げたもの(参考資料1)。起業資金の一部は家族に出してもらった。ベンチャーキャピタルが日本と同様、あまり機能していなかったためだ。目標とするビジネスに向けて、当座の資金を得るためにデザインハウスを"アルバイト的に"やっていた。特にカナダの企業からデジタル補聴器の設計を受注してからは右肩上がりに成長していた。そろそろ、本業の目標設計に着手しようかと思っていた矢先、カナダの企業は補聴器設計を中止、注文がパタッと止まった。

 

そこで、トゥマウズ社は資金を集めるため、新聞広告を出し、自分の企業を買ってくださいと訴えた。幸い、大手が買収してくれたため、開発を本格的に始めることができた。2008年に半導体のオリンピックともいわれるISSCC(国際半導体回路学会)でヘルスケアチップについて講演し、翌年のISSCCで賞を受けた。講演したCTOAlisonさんは、今やBANbody area network)の世界的権威となっている。

 

要は、この小さなベンチャーは、高齢化問題、病院のベッド不足、病院たらいまわし、医療費削減、など現在、病院が抱えている問題を一気に解決できるヘルスケアチップの設計・生産まで持っていきたかったのである。その資金源のためなら、身売りも厭わない。米国のFDA(日本の厚生労働省に相当)の認可を2年前に取得、米カリフォルニア州サンタモニカにあるセントジョンズ病院で1年間臨床実験した結果、病気の早期発見・早期治療につながり有益な結果を得ている。経済的にも、入院患者の平均入院日数が6日間削減され、その結果コストは9000ドル(90万円)も削減できたと今年の6月に発表している。

 

2年前に米国のインターシル社を訪問した時、同社は画像処理技術を持つテックウェルを買収したのだが、テックウェル社から入社したエンジニアは自分の開発した技術をインターシルが買収して認めてくれた、と喜んでいた。ちなみにテックウェル社はシリコンバレーで日本人の小里文宏氏が起業したベンチャーであった。クルマのバックミラーに液晶パネルを組み込み、バックモニターとするデモを示した。

 

海外では日本と違い、大きな企業に買収されることは自分の技術を認めてくれたことだとして喜ぶケースもある。買収されることが必ずしも悪いことではない。むしろ自分の開発した技術が資金不足で世の中に出なかったり、閉鎖してしまったりするよりは、世の中に出し、世の中を変えるための半導体チップを開発して自己実現できるのであれば、買収されることはむしろ歓迎される。勝ち負けではない。

 

参考資料

欧州ファブレス半導体産業の真実、津田建二著、日刊工業新聞社発行


iPhone5Sに見る64ビットプロセッサの時代

(2013年9月11日 23:12)

日本時間本日の午前2時に発表されたiPhone5Sでは、64ビットのアプリケーションプロセッサが使われていることが明らかになった。スマートフォンに初めての64ビットプロセッサが使われたのである。iPhone5Sの技術を解き明かす。

無題.jpg

 

スマホに64ビットプロセッサとは! まずこのことに驚いた。パソコンに64ビットのインテルのプロセッサが搭載されて以来、まだそれほどの年数月は経っていない。今回アップルが搭載したのは、A7と呼ばれるアプリケーションプロセッサであるが、今回はアプリケーションプロセッサに加えて、もう一つセンサ信号処理用のプロセッサM7A7と共に使うコプロセッサとして搭載している。

 

M7は人の動きを鋭くキャッチする。歩いているのか、走っているのか、車を運転しているのか、全てわかる。ナビゲーションソフトとも連動し、クルマを駐車場に止め、歩き出したことを感知し、地図モードを車モードから歩きモードに切り替える。バッテリを長持ちさせるために、クルマに乗っていることをキャッチするとWi-Fi探索をやめる。また、しばらくの間iPhone5Sが動いていなければ、スリープモードに入ってネットワーク探索をやめ、電力を節約する。

 

M7は、加速度センサ(X,Y,Z軸に沿った直線的な動き)とジャイロセンサ(3軸について回転するような動き)、電子コンパス(北を示すN極を検知する磁気センサ)からの信号を検出・演算処理するもので、それらの組み合わせから、iPhoneユーザーがどのように動いているのかを知ることができる。その演算処理をM7A7と協調しながら実行するためにコプロセッサと呼ばれている。この演算処理するアルゴリズムにiPhoneならではの差別化技術をアップルは開発したのである。

 

iPhoneのようなモバイル端末に64ビットのプロセッサが使われたということは、DRAM容量をもっともっと増やせることを意味する。これまでの32ビットシステムだと232乗=4Gバイトしかアドレッシングできなかった。これ以上のメモリを積む意味がなかったが、64ビットとなると、264乗だから、ほぼ無限大(エクサバイト級)のDRAM容量を理論的には積むことが可能になる。現実にはコストとの兼ね合いになるが、動きセンサと処理コプロセッサを利用するiPhone5Sのユーザーエクスペリエンスは、これまでにないような楽しさを提供するだろう。

 

また、今回はゲームにおいて、本物感を出すためのグラフィックスプロセッサもA7には集積されている。アップルのホームページでその情報を見る限りかなり美しいグラフィックスなので、おそらくImagination TechnologiesのマルチコアのグラフィックスIPコアのPowerVRシリーズを集積しているに違いない。光の陰影処理が可能でまるで映画を見ているようなグラフィックスが同社のホームページに載っている。Imaginationはオートデスクの光効果のソフトウエアを開発した部門を数年前に買収し、当時はまだ消費電力の大きかったこの光処理をスマホレベルでも演算できるような演算アルゴリズムを開発したのであろう。

 

初期画面を出すための押しボタンにはサファイヤ結晶が使われている。サファイヤの薄くて丸いボタン板は、指紋をしっかりつかみ、その下に置かれたイメージセンサで指紋を読み取る。他人がiPhone5Sを拾って、このボタンを押してもiPhone5Sは動作しない。セキュリテイはバッチリだ。

(2013/09/11)

 

モノづくりの基本を経営者は理解せよ

(2013年8月18日 15:44)

モノづくりは、設計から始まる。モノづくり学会ともいうべき機械学会のある方がかつておっしゃっていた言葉だ。設計と製造の分離という言葉もあるが、モノづくりの基本は設計から始まり、製造につなげることだ。安易にファブレスやファブライトという言葉で、モノづくりの基本から遠ざかることは、日本の立場を悪くする。日本は何と言ってもモノづくりが得意な国だからだ。

 

モノづくりには、設計・製造ともにソフトウエアを導入することで作業効率を上げてきた。ソフトウエアはサービスに近い、という意見もあるが、ソフトウエアもモノづくりの一工程である。設計=ソフトウエアで、製造=ハードウエア、では決してない。ロボットやクルマなど機能を実現するためにハードウエアだけでやるのはあまりにも効率が悪いとなるとソフトウエアも導入してフレキシブルに新機種・新技術・新規格に対応しようとする。

 

だからこそ、モノづくりの基本をきっちりと理解していることが、国の方針を決める手助けになる。ところが、専門家と称する人たちがくせモノである。自分がこれまでやってきた狭い分野のことだけで全体を判断しがちになるからだ。例えば、スーパーコンピュータに1000億円もかけてコスト競争力のない製品を作るのに税金を投入することが本当に正しいだろうか。東京工業大学は最新のスーパーコンTSUBAME2.0を開発するのにわずか11億円以下で済ませた。性能は1100億円も使った「京」並みである。あるソフトを走らせると京以上、別のソフトなら京以下、という結果だという。にもかかわらず、「世界と比べて常識外れな1000億円という高額のスーパーコン補助金」という510日の記事において、専門家と称する人たちから、「素人が何を言うか」というようなコメントをいただいた。

 

逆に素人だからこそ、全体を見渡し、その正当性を評価できるのではないだろうか、という意見も私のもとに届いた。要は、どうすれば世界を相手に競争力のある製品を作り出すことができるだろうか、という課題に答えを出すことだ。そのためにはシステム全体と世界の競合メーカーの動向・仕組みを分析・評価し、地球規模の視点で判断することが国家の競争力をつけるために必要になってきたのである。そのような目で見ると、やはり1000億円という補助金は一つのプロジェクトに出す金額としては異常である。だからこそ、極めて小さなスーパーコン市場に1000億円も税金投入しても見返りが十分に取れるようなビジネス感覚でこのプロジェクトを再設計する必要があるのだ。

 

スーパーコンのようにあまりに小さい市場を相手にすることを考えるのではなく、もっと大きな市場、これからも大きく見込める市場に導入すべき製品、例えばスマートフォンやタブレット、などのワイヤレス製品を考えてみよう。小さな体積の中に、さまざまな機能を詰め込むわけで、しかも性能をもっと上げたいという要求に応える技術を開発する。ブラウザをもっとサクサク動かしたい、YouTubeをもっと高精細のきれいな大画面で見たい、コンテンツを持ち運びたい、いつでもどこでも楽しみたい、といった要求を満たす技術のカギを握るのはやはり、半導体チップだ。

 

米国カリフォルニア州サンディエゴに本社を構えるクアルコム社はスマホのアプリケーションプロセッサ(APU)のトップメーカーだ。CDMAの基本技術を持ち、さらにLTE、今後のLTE-Aにも集中開発投資し、他社を圧倒している。このAPUこそ、スマホの頭脳あるいは心臓となる半導体チップだ。このチップの中にCPUやグラフィックス回路、コーデック(圧縮・伸長)回路、ビデオ画像補正回路、音質改善回路、モデム(デジタル変復調)回路、RF(高周波)回路など実にさまざまな回路を集積している。極めて複雑な半導体回路だ。

 

このようなチップでは、設計から製造までの一連の工程があまりにも複雑すぎる。設計だけでも2~3年は優にかかる。だからクアルコムはファブレスという設計だけに集中する。製造は台湾のTSMCや米国のグローバルファウンドリーズという製造専門メーカーに依頼する。この設計図にはハードウエアだけではなく、ソフトウエアも乗っている。スマホではいろいろなアプリを搭載できるようにするため、半導体チップの設計図にアプリをダウンロードし動かすための仕組みを書いておく。

 

現在のスマホは10年前のパソコン以上の機能やメモリを持っている。それも例えばストリーミングビデオを無線で見られるように、小さなメモリ領域にビデオを入れるための圧縮アルゴリズムを導入し、メモリからのデータストリーミングを制御する。かつてのパソコンに入っていない機能まで入っている。

 

このような複雑なチップでは、設計も製造もするのではなく、別々に作業する方が、効率が上がる。これが設計と製造の分離である。半導体の設計工程では、システム仕様に基づいて機能をプログラミングし、バグを取り検証し終えたら(RTL完了という)、今度はハードウエアの回路設計に向かう。しかし全体のシステムでは、アプリケーションソフトウエアを載せられるようにミドルウエアや一部のソフトウエアも早くから開発したい。できればハードの設計が終わるのを待たないでソフト開発に着手したい。このためには、RTL完了後にハードウエアのモデルを作り、シミュレーションできるようにしておくと、ハードウエアをシミュレーションしながら、ソフト開発ができる。

 

要は、半導体回路の設計は極めて複雑になっているのだ。一方で、製造も複雑だ。回路の線幅が最先端の製品では、例えばインテルの第4世代のCore i7の場合22nmと狭い。この線幅を、波長193nmArFレーザーをフォトレジストに当てて描くのだが、波長より短い線幅をどうやって形成するのだろうか。狭すぎるスリットには光は入っていかないことは常識だ。縦波と横波という光の性質を利用すると、回路図の配線を全て一方向に揃え、クロスする配線は別に光を照射してクロス配線だけを形成する。光源の光の形を最適化しなければ回路パターンは描けない。この後、酸化膜(SiO2)などをエッチングしてほしい回路パターンを作るわけだが、要は製造もパターン加工の工程だけでも昔(10年前)よりも複雑になっている。

 

設計も製造も複雑になっているのにもかかわらず、製品寿命が短いため、早く製品を市場に出さなければ勝てない。日本の半導体が世界で負けているのは、早く製品を出すことができないからだ。根回しの日本では経営陣の意思決定の遅さもあろう、経営陣の技術に対する理解のなさもあろう、世界の勝ち組の仕組みを知ろうともしない経営陣の態度もあろう、世界のIT・エレクトロニクス産業のトレンドに目をつぶる傾向もあろう、情報というものの価値を理解できないこともあろう、要は、企業の仕組みすべてが今問われているのである。安易なファブライト戦略で世界に勝てるわけがない。もっと経営陣の賢い判断が求められている。

2013/08/17

スマホやタブレットを使った勉強は確実に成績が上がる

(2013年6月28日 00:06)

スマートフォンを使って勉強すると成績が上がる。こんな結果が日米とも表れてきた。日本では教育特区として認められている茨城県大子町と愛知県豊田市の二つの地域で、学校法人ではなく株式会社としてのルネサンス・アカデミー株式会社が行った実験でスマホ効果が出ている。この学校は通信制の高等学校だ。また、米国でも複数の学校ではっきりした成績に有意差がある。

 

AlteraFujitsuQualcomm 104.JPG

ルネサンスでは、20064月に設立された大子町の学校では、開校2年目に携帯電話を使った通信教育をやってきた。2011年からはスマホにも対応し、徐々にスマホに切り替えてきた。その結果、「勉強時間が長くなり、正答率も上がってきた」と、同校校長であり同社の代表取締役社長でもある桃井隆良氏(写真中央の男性)は述べる。スマホを11台提供するのは、ファブレス半導体メーカーのクアルコム社だ。

 

米国サンディエゴに本社を構えるクアルコムは、世界中の地域コミュニティに貢献する社会活動「Wireless Reach」に取り組んでいる。この活動は、起業家育成、公衆安全、ヘルスケア、教育、環境保全という五つのテーマの元に行われている。Wireless Reachの狙いは、クアルコムの技術を通じて人々の生活の向上と改善を実証することにある。現在、世界33カ国で84のプロジェクトを持っている。日本では他にヘルスケアで、血圧計とM2Mをつなげて医療の過疎地区と札幌医科大学を結ぶプロジェクトを行っている。クアルコムはM2Mモデムチップを提供し、血圧などのデータを無線で飛ばす。

 

さて、教育に関して、クアルコムは、米国の高校においてもスマートフォンを使って、2007年からパイロットプログラムとしてやってきた。学習の習熟度が30%アップしたという事例を得ている。ある生徒は、数学に全く興味がなく大学進学はとても無理と言われたが、スマホ学習により台数や幾何学で優れた成績を身につけ、全米の奨学金を得てノースカロライナ大学に無事入学できた、とクアルコムのWireless Reachイニシアティブ統括責任者のクリスティン・アトキンスさん(写真右の女性)は言う。

 

モバイル学習のメリットは、いつでもどこでも学習できること。日本のルネサンス高校のある女子生徒は、年の離れた赤ちゃんをあやしながら、スマホで勉強をして成績を伸ばしたという。教師への質問はスマホだと、聞くという抵抗が少ないだけではなく生徒同士でも学び合える。またゲームやクイズ感覚で楽しく問題を解くことができる。教える側は、選択肢問題は分析しやすい。例えば、やさしい問題なのに解くのに時間がかかり過ぎている、といったことを把握しやすい。またモバイル学習では動画や音声を利用して英語の書き取りやヒアリングの学習に効果が高いとしている。

 

日本の生徒の親は当初、携帯で勉強ができるか、と疑問を投げかけていたが、成績が上がっていくことがわかり、親の心配は杞憂に終わったと桃井氏は言う。ルネッサンスでは、動画の教材に生徒を登場させ、学習への親しみやすさを身に着けさせることも狙っている。201211月から始めたビデオ教材はスマホで繰り返し何度も学習できるため、学習効果も高い。また動画学習は理科の実験、体育、家庭科などだけでも効果的になると思われるが、さらに国語や数学にも応用しているという。

 

ルネサンスの生徒にアンケートをとってみると、いつもスマホで学習する生徒は52.7%いて、自宅にかえるパソコンで学習するのが22.7%いる。常にパソコンで勉強すると答えた生徒は21.6%しかいない。また、学力向上につながっているかという質問に対しては、そう思うが53.1%、変わらないは37.4%、つながっていないはわずか6.2%しかいない。

 

またフリーコメントでも「普通にノートを使う授業よりも数倍反応が速いから復習も簡単だし、やる気が出る」、「(スマホは)かなり身近な存在なので、学習するにも誰かと連絡をとるにもとても便利です。学習についてなど疑問があった時はすぐに担任の先生にメールをできるので安心しています」、「学習する場所を選ばなくてよいと思います。スマホやタブレットを使って漢字の書き取りなどができたら良いなと思いました」、などポジティブな意見が多いとしている。

 

この5月からクアルコムはタブレットも寄付し始めた。年末までに5000名の生徒に配布する計画だ。携帯からスマホに変えた時は学習効果が上がり、生徒の成績向上に有意差が出てきたが、スマホからもっと画面の大きいタブレットに変えると効果はさらに上がると期待されている。タブレットだと文字が大きいので本も読みやすい上に、良いコンテンツがあれば外から買うこともできる。

 

クアルコムはさらにAR(仮想現実)技術を使った実例も紹介している。例えば、「アヒルが草を食べ、排せつし、排せつ物が池の底にたまりCO2を出す。それを緑の草が吸収する、といった生態系を学習するのに、スマホでアヒルの写真を撮ると、アニメーションでアヒルが登場し、この生態系を表現したアニメ動画が流れる」とアトキンスさんは言う。またスマホでアジア芸術の歴史をアニメで学んだり、屋外環境の写真を撮るとアニメが流れたりするプログラムもある。

 

こういった学習を通して、クアルコムは、生徒にワイヤレスを体験してもらうことも狙いの一つになっている。こういったスマホやタブレットを生徒に使ってもらうことで、その感想をフィードバック、次の製品開発に生かすこともできる。決して無駄ではない。アトキンスさんによると、本社には9名の人間がWireless reachプロジェクトに専門に携わっており、日本法人にもプロジェクトの専門家がいる。日本では、教育とヘルスケアを実行している。

2013/06/28

スーパーコンピュータの補助金1000億円をジャスティファイする方法

(2013年6月18日 22:48)

先日、スーパーコンピュータ向けのマイクロプロセッサを開発してきたエンジニアと意見交換した。マイクロプロセッサは今や8コア、16コアの時代となっている。これらを並列に動かすためのソフトウエア作り、ハードウエア設計など技術的な課題は多い。単なる力づくで動かせる訳ではもちろんない。

 

だからといって、今のスーパーコンの補助金の額1000億円は、経済産業省が一つの国家プロジェクトに費やす予算規模(200~300億円)に比べるとやはりかなり高い。一般的に言って文部科学省の1プロジェクト当たりの補助金は相対的に高い。大失敗した大学発ベンチャープロジェクトの場合では、1プロジェクトに1~2億という途方もない補助金をばら撒いた。米国のベンチャーキャピタルが最初に出す金額の数100万円と比べると、とてつもない税金の無駄であった。

 

スーパーコンの競争では、昨年11月に富士通の「京」はすでにクレイのタイタン、IBMのセコイアに抜けれ、3位に落ちていた。今年の4月には中国の天河2号にも抜かれ、4位になった。天河2号は33.86 PFLOPS、タイタン17.6 PFLOPS、セコイアは16.32 PFLOPS、そして京は10.5 PFLOPSである。京の下にも米エネルギー省のMira10.1 PFLOPS、次がドイツのJuqueen5 PFLOPSと、スーパーコンの性能だけを争うのであれば、競争は激しい。

 

スーパーコンの新しい国家プロジェクトは、100 PFLOPSを目指そうというものだ。そのために1000億円の予算を付けようという訳だ。しかし、スーパーコンだけを見た市場はやはり小さい。

 

ではどうやって、この1000億円をジャスティファイさせるか。スーパーコンで開発された超並列処理プロセッサのハードとソフトの技術、熱設計技術などを生かして、ミニスーパーコンをビジネス用に作ってみたらどうだろうか。スーパーコンと違って安価である。一つの事業部の予算で購入できる金額だ。計算速度だけを見れば確かにスーパーコンよりも遅いだろう。しかし、待ち時間はない。いつでも使える。実行ボタンを押して帰宅すれば翌日、結果が出ている。実質的な計算時間はむしろ速いだろう。

 

富士通は、ブレードサーバー並みのフォームファクターを持つミニスーパーコンをビジネスとして科学技術計算が必要な現場に売り込むのである。今や金融分野でさえ、ブラック・ショールズの偏微分方程式を使って、金融派生商品、いわゆるデリバティブを予測する時代だ。ここにも使える。しかし、スーパーコンを使うまでもないという分野だ。

 

限りなくメッシュを切らなければ精度が上がらない気象予報や宇宙シミュレーションなどとは違い、ミニスーパーコンで十分達成可能な応用は少なくない。精度の高い流体力学の計算、自動車の風洞実験シミュレータなど偏微分方程式を活用する科学技術計算には向いている。パソコンでは遅すぎるが、スーパーコンだともったいない、といった用途に向く。市場が広がればSPARC64チップがスーパーコン以外にも売れる可能性も出てくる。スーパーコンプロジェクトをビジネス志向に変えることで、国際的な競争力がついてくる可能性も出てくる。

 

スーパーコンプロジェクトにビジネス開拓のマーケティング担当者を加えることで、国費の無駄遣いを、利益を生むビジネスへと変えていく。雇用が増え、自律的に会社として経営できるようになれば、生きた税金の使い方の見本にさえなれる。このプロジェクトから起業につなげ、雇用を増やせば税金は国民に還元されたことになる。

 

経産省の国家プロジェクトについても同じことが言える。プロジェクトが5年とか10年で終われば設備をどこかへ売ってしまい、更地に戻すことが多い。これでは、税金が生かされたのか無駄に終わったのかわからない。しかし、1社でも2社でも起業し雇用を生み出し、税金に頼ることなく自律的にビジネスが回るようにすれば、国民に還元されると見なせる。要は税金に頼らずに自律的にビジネスを回せるような仕組みを作ることを国家プロジェクトに組み込んでいくのである。こういったビジネス視点での国家プロジェクトを考えてはいかがだろうか。

2013/06/18

 

優秀な学生を簡単に見つける方法

(2013年6月 6日 21:34)

先月、とても優秀な学生(大学院生)が大勢いる場に出くわした。北九州市で開催された電子情報通信学会集積回路専門委員会主催の「LSIとシステムのワークショップ」において日本の半導体産業を議論する場に来ていた学生たちだ。

 

DSC_0040 (1280x850).jpg

今回のテーマは、従来の研究開発の技術テーマとは違い、日本の半導体産業を強くするためのアイデアをさまざまな見地から議論するものであった。回路や半導体を実際に研究していない私がお話しさせていただいたテーマは「世界市場奪還を睨んだVLSI研究開発戦略」であった。ここでは世界の勝ち組がどのようにして成功したか、これまで世界のさまざまな企業の技術やビジネス戦略を取材してきたことから見えてくる世界をお話しした。他には、東京大学の藤本隆宏教授がモノづくりに対するご意見や、一橋大学でイノベーション研究センター長をされている延岡健太郎教授が半導体産業を見る立場から講演された。

 

ポスターセッションでは大学の発表が多い。学生たちが自分の研究を大きな紙(ポスター)に描き、講演会場外のホールで紹介するのであるが、自分の研究のイントロを数百名の聴衆の前で1分間だけ発表した。この発表が優秀な学生を見つけるのに絶好の機会となっている。

 

この1分間のプレゼンを見ていると素晴らしい学生たちが実に多い。ここには人事権を持たない研究開発マネージャーがシンポジウム参加者として来ている。これは実にもったいない。大手企業はこういった学生に目星を付けておけば、優秀な学生を好きなだけ採用できる。こういった機会に優秀な学生を探している企業の人事権を持つマネージャーが来て、目星を付けた学生とじっくり話をすればよいではないか。

 

米国では1980年代からそういったリクルーティング活動を行っていた。半導体のオリンピックと言われるISSCC(国際固体回路会議)やIEDM(国際電子デバイス会議)に行くと、リクルーティングしている光景をよく目にした。素晴らしい講演をした学生が発表を終えると、企業の研究開発部長はスタスタと近づき、「今晩、一緒に食事をしないか?」、「明日のランチはどうですか?」と誘っている。一緒に飯を食いながら1時間も話をすれば、学生の研究状況、生活状況、家族状況、将来の希望など企業が知りたいことはほぼ把握できる。学生も企業がどのような研究に力を入れているのかがわかる。

 

こういった採用活動が派手になり国際会議で目に余るようになり、IEDMISSCCでは「アカデミックなコンファレンスだからリクルーティング活動を自粛するように」という張り紙を見かけるようになった。しかし、それでも「後で一緒に食事しよう」と誘っている企業人は後を絶たなかった。コンファレンスの主催者側が自粛を呼びかけても事実上、採用活動は行われていた。

 

ところが、日本ではこういった活動をいまだにほとんど見かけない。一つの理由は、大企業の人事権は「人事部」が握っているからだ。人事部などではセクショナリズムが強く、実際の現場の長に採用権を持たせていない企業が多い。こういった話をある外資系企業の方にお話ししたら、そのようなシンポジウムにぜひ行きたい、紹介してほしいと言われた。優秀な人材の採用はいつも悩みの種だからである。企業が中途採用などで一人採用するのにかかる経費は200~300万円にも及ぶ。

 

こういった企業の採用活動は、学生側にとってもメリットが大きい。就職活動に注力しなくて済み、自分の研究に没頭できるからだ。

 

今のところ、エレクトロニクスの世界で、学生に1分間のプレゼンの機会を与えているシンポジウムは、この電子情報通信学会の「LSIとシステムのワークショップ」と、STARC(半導体理工学研究センター)主催の「STARCシンポジウム」の2件しか知らない。しかし、この2件とも学生に1分間のプレゼンの機会を与え、さらにポスターセッションを設けている。ポスターセッションで学生と会話することもできるが、競争会社も来ているだろうから、やはり場所を変えてじっくり話を聞けばよい。

 

LSIとシステムのワークショップ」運営委員会のメンバーやSTARCとこの話をしてみたところ、どちらもこの提案に賛同している。問題は、このコンファレンスに来られる研究開発部門の責任者に人事権がないことだ。彼らが採用を決める裁量を企業側が与えられるだろうか。優秀な学生を採用するためにも企業の変革が迫られている。

2013/06/06