エレクトロニクス業界の最近のブログ記事

1000億円という途方もないスーパーコン補助金(続)

(2013年5月12日 20:16)

510日にアップした記事でさまざまなご意見をいただいた。私の舌ったらずの表現で誤解を生んだ所もあると思う。できるだけクリアにしていきたいと思う。

 

最大の問いかけは、なぜ100億円ではなく1000億円なのか、という点だ。京では、8CPUコアのSPARC64を基本ユニットにした構成だと思うが、まず市販のインテルやAMDのプロセッサではなぜまずいのか、マルチコアGPU(グラフィックスプロセッサ)も市販ではなぜまずいのか、ボトルネックはどこにあるのか、といった基本的な問いかけから始まっている。

 

引き合いに出したクレイの研究開発費64億円とは比べられないというご意見があったが、いくらなら妥当なのだろうか。誰もが納得のいく金額であればもちろん、問題はない。ただ、一般論として、お金はたくさんかければよいというものではない。補助金をやりすぎるとそれを充てにするビジネス体質が出来てしまい、国際競争力が弱まってしまうという問題もある。限られた予算で安く設計・製造するために知恵を絞ることこそ、国際競争力を高める。少なくとも成功した米国企業はそのようにしている。

 

スティーブ・ジョブズ氏は、かつてアップルを追われてNEXT Computer社を設立した時に設計・製造した高性能コンピュータは全く売れなかった。1990年前後の話だが、価格が1100万円以上もしたからだ。彼は、この失敗を教訓として生かし、アップルに戻されたあとに、iMacという低価格なコンピュータを世に出した。スケルトンという斬新なデザインにこだわると同時に、ユーザーが購入できる10数万円という手ごろな価格の製品に仕上げた。この製品は爆発的に売れた。その後のiPodiPhoneiPadも手ごろな価格にこだわり続けた。その上で、斬新なデザイン、あるいはあっと驚くようなGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)やビジネスモデルを生み出した。

 

手頃な価格というテーマは彼のNEXT時代の失敗から来ている。世界市場で売れるスーパーコンピュータ製品を作ろうとするなら、可能な限り少ない予算で高性能のコンピュータを設計する能力が求められている。これを世界のスーパーコン企業が争っている。

 

開発に必要な予算が少なすぎる場合には、ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授のように寄付を呼び掛けたり、企業とのコラボで資金を提供してもらったり、資金調達にも努力すればよい。世界に通用する企業、インテルやクアルコム、ARMといった半導体メーカーからエリクソン、シスコといった通信機メーカーに至るまで、無駄なお金は極力減らしている。

 

シスコシステムズの社長(CEO)が海外出張するのにエコノミークラスを利用する話は有名だ。日本とアメリカを飛ぶ間のわずか10時間程度の間に数十万円ものお金を使うことは有効利用といえるだろうか。例えば、飛行機代をエコノミー、ホテル代を1~2万円アップして1週間滞在してもこの方がコストは安く済む。加えて、ブランドのあるホテルだと顧客を呼んで商談に使える。さらにコーポレートディスカウントを適用してもらうように交渉すれば安く済む。

 

要は、限られた予算をいかに有効に使うかという問題である。これまで経済産業省の一つのプロジェクトで1000億円という高額のお金が使われたという記憶はない。1000億円は、いわば途方もなく高い金額レベルなのである。

2013/05/12

メイドインジャパンに一条の光

(2013年5月12日 09:35)

昨夜、NHKの「メイドインジャパン」を見て、ようやく日本の電機産業が世界を見据えたまともな動きをするようになってきたと感じた。その内容は、京都の中小企業(試作バレー)と大企業とのコラボ、パナソニックの小さな組織への改革、流れ作業の専門家ではなく全体を見渡せる人材を育成するための組織、京セラのアメーバ経営、海外への売り込みなどの事例集だ。

 

日本には優れたサプライチェーンがある。京都の中小企業の集まりのことは知らなかったが、東京大田区、東大阪などにモノづくりの基本となるサポーティングインダストリがある。例えば研究所や大学の研究室が、特殊加工の部品を作ってほしいと依頼すればたちどころに作ってくれる。こういった優れたサポーティングインダストリを持つ国は日本にしかない。米国や台湾のエレクトロニクス業界人からこう言われた。実際、アジアや欧米を回るとその通りだと実感する。

 

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京都の組織は、大企業(ローム)とのコラボで新しい小型燃料電池を作ろうという試みだった。コラボレーションは世界では当たり前。日本の下請けとは全く違う。対等な立場で互いに互いの強さを認め合い、協力してプロジェクトを進める。これまでの下請け構造では、大企業→1次下請け→2次下請け→3次下請け、というような縦構造であったために、変化に弱く、短いT2Mtime to market)を要求される製品では世界に歯が立たなかった。コラボでは相手を尊敬し合うことが大前提。上から目線という差別意識を解消することはコラボを成功させる上で欠かせない。

 

世界で成功している企業は、コラボの活用が実にうまい。32ビットマイクロプロセッサのIPと呼ばれる半導体上のプロセッサ回路のみをライセンス提供しているARMという英国企業は、設計するためのソフトウエアツールの企業、ソフトウエアそのものを開発する企業、そのIPを使う半導体企業、半導体を使うシステム企業、設計した半導体を製造してくれる企業、プロセッサ回路を半導体チップに組み込んで設計データ(マスクデータ)に組み込んでくれるデザインハウス、など実にさまざまな企業とコラボしている。自分は低消費電力で高性能なプロセッサIPを作ることに専念する。それも将来のプロセッサの姿(ロードマップ)も提示する。

 

日本はサプライチェーンからマーケットまでそこそこ揃っている珍しい国だ、と長い間米国IBMにいて現在台湾企業の社長になっている人から言われた。だからグローバル化する必要がなかった。今でもグローバル化に弱い。しかし、日本の市場は人口の減少と共に小さくなっていく一方である。企業はグローバルにも製品を売っていかなければ成長できない。このままでは「ガラパゴス」になりかねない。だからこそ、オールジャパンではなく、世界の知恵も集めて世界一コストパフォーマンスに優れた製品やサービス、品質を提供していくことが日本の産業が成長していくカギとなろう。

 

そのために顧客の要望を聞き、それを汲み取る力を持ち、それを工場のエンジニアに正確に伝えることが必要になってくる。これまで販売は代理店に任せ、顧客の声をじかに聞いていなかった大企業が実は多い。顧客のニーズを汲み取らなかったために売れない製品が多く、世界の企業に負けたところが多い。この反省に立ち、パナソニックは本社機能(アドミニ)を小さくし、現場(事業部)をいくつかまとめて重複製品を作らないようにするカンパニー制度を導入した。そして、製造の上流から下流、そしてシステムまで全体がわかる人材の育成に力を注いだという。

 

パナソニックの新組織も世界のエレクトロニクスメーカーがやっている手法に近い。予算権限を分散し、事業部がベンチャーのように機能する組織である。かつて、世界のパソコンメーカーであるエイサーのスタン・シー会長に、なぜディシジョンが早いのか、聞いたことがある。10年以上前のことだが当時もエイサーはすでに1万人以上の規模の会社になっていた。答えは「自分は経営に直接タッチせず、全て予算権限も含め分社した子会社に任せているから」と答えた。エイサーラボやASUSBenQなどの子会社がそれぞれの責任の元に経営しているから日常的な経営に口を出さないのである。日本の古い大企業はとかく自分の元に起きたがり、経営権限を委譲しないことが多かった。事業部制といっても予算権限が1000万円程度しかなければ何も自分で決められない。このためディシジョンに時間がかかっていた。

 

加えて、最近取材したドイツのインフィニオンでは、シニアエンジニアというべき40代後半から50代の人物が顧客の元に行き、要求を直接聞いてくる。リニアテクノロジー社でも同様だった。彼らは、将来の製品やサービスについて顧客と徹底的に議論し、次の製品をイメージしていく。専門しか知らないエンジニアではこの仕事は務まらない。技術は言うまでもなく、それを使うシステムや新しい市場、アナログもデジタルもソフトウエアも熟知している。だから2~3年後に顧客が望む製品やサービスの仕様を把握することができるのである。この役割をインフィニオンの技術者は「(技術の)トランスレータ」と呼んである。顧客の要望を工場のエンジニアに正確に伝えるからだ。こういった組織がこれまで日本にはなかったが、パナソニックの新社長は、システム全体を見渡せる人間がようやく育ってきた、と表現した。

 

NHKのその番組は最後に、水耕栽培の野菜工場を中東に売り込むという話を紹介しているが、ここで多く企業とのコラボレーション(エコシステム)を生かす。野菜工場を作った中小企業、中東に強い日揮、野菜工場をIT/エレクトロニクスで管理し品質を確保する日立製作所など、が集まって一つのプロジェクトに協力する。次は、世界の企業とのコラボを図ることで世界一の製品やサービスを売っていくことにつながるだろう。

2013/05/12

世界と比べて常識はずれな1000億円という高額のスーパーコン補助金

(2013年5月10日 00:43)

スーパーコンピュータに1000億円を国の補助金として出すというニュースを見て、常識外れの金額だと思った。国内におけるスーパーコン市場は富士通のその売上1000億円しかない。世界的にも100億ドル(1兆円)しかない小さな市場である。ここに税金で1000億円をつぎ込むのである。

 

さらに、世界のスーパーコンメーカーを見ると、スーパーコンを製造している富士通よりも小さなクレイやSGIなどが生き残っている。彼らは市販のCPUを超並列動作させ、CPU同士をつなぐ高速バスやインターコネクトを太くして高速化を図っている。CPUを自社開発しない。IntelAMDCPUプロセッサを購入している。いわば、コストを有効に使おうという訳だ。

 

クレイの2012年の年次報告書を見ると、売り上げは42100万ドル(約421億円)、研究開発費は6400万ドル(64億円)、販売管理費も含めた全コストを除くと利益は2900万ドル程度しかないが、インターコネクトハードウエア開発プログラム収入として13900万ドルが計上されている。これがいわば補助金だろう。すなわち、軍関係からの補助金が139億円程度と見積もることができる。

 

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クレイはこの程度の補助金で赤字を出さない経営をしている。研究開発費は64億円しか使わない。これで世界一のスーパーコンを開発するのである。コストを無駄に使わないようにするため、CPUには市販の製品を使い、速度のボトルネックになっているインターコネクト部分だけに技術を集中している。もちろん、超並列で動作させるために、マルチスレッド技術や、スケジューリング技術を駆使し、キャッシュコヒーレンシなどの技術を加味してレイテンシを短くする。実質的な速度を上げる努力をする。

 

これに対して、日本は世界一を目指すために1000億円もの大量の補助金を国家が出す、という訳だ。しかも研究開発費がこれだけの資金になるのなら、税金の有効利用とはほど遠い。何でも自社開発しようというスタンスは、競争力からはほど遠いのである。競争力は性能の高い製品を安く作ることによって付く。お金をかけりゃ、いいというものではない。

 

国は、この1000億円という要請を十分に吟味したのだろうか。スーパーコンで何ができる、という話はテレビでなされているが、それは何も今さら、という応用(いわゆる出口)を示しただけにしかならない。

 

そもそもスーパーコンピュータは科学技術計算に昔から使ってきた。解析的に解けない問題を偏微分方程式で数値解を求めて解く訳だが、時間や変量を細かく刻めば刻むほど精度は高まるが、計算時間がかかる。天気予報では地球上の3次元地点を細かく刻むほど予報の確度は高まる。パソコンでは時間がかかるからスーパーコンで計算しようという訳だが、独自のOSで動かしている以上、限られた人間しかスーパーコンを触れない。計算プログラムの前処理や後処理が必要なこともあり、今でも本当に早く計算できるのだろうか。クルマの衝突実験は今ではパソコンでシミュレーションしている。スーパーコンでなくても十分な性能を出せる。

 

かつては、ダウンサイジングの流れで、スーパーコンよりも安くて性能の劣るミニスーパーコンの方が、実質的には速かった。待ち時間がないからだ。この話は、市販のプロセッサの性能が自社開発していたゲートアレイロジックの性能よりも向上し始めた1980年代終わり頃から出ていたことは、「スーパーコンピュータ市場はなぜ小さいか」ですでに述べた。

 

日本の産業が世界と競争力を持って、戦えるようにすることが国の役割ではないか。ひたすらたくさんの補助金を出して無駄な開発を許すことによって、却って競争力を弱めてきたことは90年代から今日までの歴史が証明してきたことではないか。スーパーコンの補助金として1000億円が妥当だと判断した科学者、文科省をはじめとする霞が関は、その根拠を国民の前に示すべきではないだろうか。

2013/05/10

ニッポンをますますダメにするオールジャパンの発想

(2013年5月 1日 00:39)

425日の日本経済新聞の1面に「次世代TV21社連合、20年本放送へ技術確立」という記事を見て、こういったプロジェクトを立ち上げるという発想は20年以上遅れた意識だな、と思った。むしろこれでは絶対、世界には勝てないと確信している。なぜか。

 

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Globalpress主催e-Summit2013に集まった世界中の記者たちと主催者

理由は簡単である。パートナーを70億人の市場と組むか、わずか1億人の市場と組むかだけの違いである。地球全体の人口70億人の市場には日本の70倍、可能性を秘めた人たちがいる。わずか1億人の市場でチームを組むのとは訳が違う。日本の企業や研究所、政府機関だけを集めてもたがが知れている。まるで、黒船が来ているのに、日本にある武器だけで対抗しようとしていた江戸時代のやり方をほうふつとさせる。世界には、考えられないアイデアやスキルを持った人たちがたくさんいる。こんな当たり前のことを忘れているのではないか。

 

もちろん、日本には優れた技術やサービスがあることも世界では知られている。米国にしろ、英国やドイツ、フランスにしろ、台湾にしろ、どの地域の企業も自国だけで閉じこもっていては生きていけないことを十二分に知っている。だからこそ日本の企業と協力しようとして日本にやってくる。にもかかわらず日本だけで固まってしまうと、相手はどのように思うだろうか。疎外された気持ちになろう。日本企業とは組めないのかとも考える。

 

サプライチェーンからマーケットまでグローバルな企業とのパートナーシップを組むことはモノやサービスを外国にも売りやすい、資材は調達しやすい。3年前にプリンテッドエレクトロニクスで英国を取材した時、設計が得意な英国企業は、製造の得意な日本やドイツなどと組みたがった。また安く作るための量産工場は台湾が名人だから台湾と組む。アセンブリするだけの工場は中国と組む。それぞれの国に得意不得意があり、それを生かしたものづくりのエコシステムを構築しようとしていた。

 

世界の企業を取材していると、日本だけがまとまって何かを行うというプロジェクトは20~30年前のやり方である。今や自国だけで何かまとまってやろうとしている国は中国政府くらいしかない。その中国でも、企業は独自にグローバル化を図っている。例えば、広東省に本社を構える通信機器の華為技術は、携帯電話では世界的に有名で、現在スマホでトップを行くサムスンが最も警戒する企業の一つだ。ところが華為(ファーウェイ)は中国国内での携帯電話の市場シェアはトップ5位にも入らない。中国ではやはりサムスンがトップだと中国人記者が言っていた。ZTEも同様だ。中国国内ではさっぱり売れていないが海外ではぐんぐん携帯電話・スマホの売り上げを伸ばしている。

 

さらに今回のプロジェクトは4Kテレビという高精細のテレビに関する規格である。現状のHD規格よりももっときれいに見えるテレビである。一度この映像を見た人は必ずきれいな方へ流れるという意見を持つ。一方で、今のテレビ画面の品質で十分、という声もある。今のテレビよりもさらに高精細にして見るという要求は実はさらなる大型画面化にある。すなわち、70インチや80インチといった大画面でこそ4K/8Kの魅力がある。しかし、これだけの大型画面のテレビが必要な人はどれだけたくさんいるだろうか。逆に言えば、今よりももっと大画面が欲しいと思う人がいるとして、その人は今は高精細ではないから欲しくない、と考えているのだろうか。

 

どう考えても市場が拡大しそうにない分野で官民21社も集まってオールジャパンの組合を作るという発想そのものがマーケットを全く見ていないともいえる。

 

さらに言えば、日本の企業だけで規格を作り世界標準にしてしまおう、という考えも古い。従来のアナログテレビの世界は、NTSCPALという二つの規格がほぼ世界を占めていた。デジタルでは米国はATSC方式、欧州はDVB-T、日本がISDB-T、中国はDMB-Tとなっており、各地でばらばらである。4K/8Kになっても同様に勝手な規格になるだろう。というのはテレビの規格は各地の政府が口出しするからだ。

 

これまで政府も企業も標準化規格を作る場合、日本で作りそれをIECISOなどに申請して各国の合意を得ようとしてきた。しかし、これで受け入れられたことは極めて少ない。重要な規格であればあるほど各国政府の思惑が絡んでくるからだ。日本の提案する規格を欧州、米国などの国が受け入れることはまずない。あまり影響力のない製品ならそのまま通ることもあるが、それでは意味がない。

 

最近は、標準規格作りは最初から各国各企業が集まってゼロから作ることが多い。世界中の企業のエンジニアが1~2ヵ月に1~2回集まって規格について議論し出来るだけ早く、自社製品に採り入れようとする。標準規格を作るのは共通な部品やモジュールを使って安く作るようにするためである。だから、標準化会議に出席するエンジニアは真剣そのものだ。企業の利益にもろに関係するからだ。しかし、日本の企業は標準化の重要性を経営陣がわかっておらず、標準化委員会で海外出張を認められない、という声を聞く。

 

世界の企業が標準化規格を作るのに日本企業が参加していなければ、最初から蚊帳の外である。これでは競争力は生まれない。

 

スマートグリッドや電気自動車などで日本初の標準規格を作ろうという報道を見かけるが、霞が関主導で標準化は期待できない。官僚自身が、世界中の企業を毎月1回程度のペースで日本に呼び標準化を議論する覚悟があるのなら期待できるが。

 

そもそも標準化する目的は、汎用部品やモジュールを接続して、新しいシステムを安く作ることである。日本発の標準化には何の意味もない。世界発であろうと日本発であろうと、どうでもよい。早く標準化することで、それにつながる汎用部品やモジュールを作ったり、システムに使ったりすることで早く市場に出すことに意味がある。

 

だから、今回の4K/8Kを日本で標準化する意味もないし、21社が集まる理由もわからない。市場があるのかどうかもわからない。これまで通り、官僚の天下り先を見つけるためにプロジェクトを作るのであれば、官僚主導で進めている意味はよくわかる。しかし、これでは日本はますますダメになる。

2013/05/01

日本を救う手本はサッチャーさんの自由経済の推進にあり

(2013年4月10日 23:08)

英国の元首相マーガレット・サッチャーさんが亡くなられた。9日の日本経済新聞は、3面も使ってサッチャーさんの功績をたたえた。1980年ごろまでイギリスは、現在の日本と全く同じように沈みゆく国だった。十数年以上、労働党が支配して経済の活力が失われてしまっていた。「英国病」とまで揶揄された。今、日本はバブル崩壊後、問題を先送りし続けた結果、沈んでいる状態を指して、「Japanise」と言われている。今の日本と全く同じ状況だった。

 

サッチャーさんが行ったことは大きく分けて二つある。自由経済の推進と、金融自由化(ビッグバン)だ。特に自由経済の推進は、今の日本を救う道でもある。

 

自由経済の推進では、「民間企業が自分の責任で自由に市場に参入し、自由にビジネスをできる環境を作り出すことが国を豊かにする」というビジョンを掲げた。そのために規制を緩和し、誰でも参入できるようにした。となると、規制を握っていた政府の仕事がなくなり、担当した役人はクビになる。だから雇用を増やさなければならない。このため外資にたくさん来てもらう。日産自動車やNEC、富士通などがサッチャーさんの呼びかけに応じて英国へ工場を立てたのはこの頃だ。このようにして政府を小さくし、政府の権力を減らし、民間の活力を向上させた。

 

いまだにサッチャーさんを誤解している人たちがいる。特に後者の金融の自由化に関してだ。必要以上に金融を操作することによって、経済の基準となる金の価値、すなわち基準が揺らぐようになったのである。このビッグバンに関しては行き過ぎた面は確かにある。ビッグバンが、サブプライムローン問題からリーマンショックまでを引き起こした原因とされるからだ。だからと言ってサッチャーさんの経済の自由化まで否定することはおかしい。だから、問題をきちんと二つに分けて議論しなければ本質は見えてこない。

 

今はアベノミクスという、サッチャーリズムと同じ頃に米国で言われたレーガノミクスにあやかって名付けられた安倍政権の経済政策だが、今はまだ絵に描いた餅を眺めているだけだ。餅が本当にできるのかはこれからの実行力に現れる。

 

自由経済の推進と、それに伴う霞が関の力を弱めること、地方を活性化すること、はまさにサッチャーリズムそのものである。若者が起業するITの世界の活性度をもっとものづくりの世界に持って来なければならない。政府の補助金ばらまきという仕事も要らない。補助金を握っている役人も要らない。民間企業側は補助金をもらうという甘えの意識がグローバルな競争に勝てない体質を作るからだ。これまでのやり方もさっさとやめて、自助努力でできるだけ民営化し、お金を回していけるように自立を目指さない限り、いつまでたっても経済は回っていかない。霞が関がやるべき仕事は、民間企業が参入しやすい環境を作り、民営化できる仕事はできる限り民営化し、税金を投入しなくてもすむシステムを考え、自ら身を切る方策を打ち立てることだ。これが日本を救う道となるはずだ。ただ、霞が関の役人に任せておいてこれができるとは到底思えない。

 

本当の自由主義改革ができるのは本来、内閣である。同じ与党から足を引っ張られようが、野党から攻撃されようが、「鉄の男」と言われようが、自分の信念を貫くことこそ、安倍政権に求められる条件であろう。サッチャーさんを手本にしてほしい。

 

こう書くと格差社会を作る、とか格差を助長するという意見もあろう。しかし、自由競争をしながら豊かな社会を作りつつある欧米諸国と比べて格差の少ない日本がみんな一緒に沈んでしまうことがよいことだろうか。しっかり働き、世のため人のために尽くしている人たちが報われる社会を作り出し、きちんと税金を納める国作りこそ、国を豊かにするのではないか。安い賃金や補助金をもらいながら昼間からパチンコなどで遊んでいる人たちと、まじめに働き結果を出しながらも所得が比較的低い人たちとを一緒に議論してはならない。遊んでいる人たちに合わせて、みんなが一緒に沈んでしまうことこそ愚かな社会となる。

 

ご冥福を祈ります。

2013/04/10

日本の一人負けを分析する

(2013年4月 9日 21:02)

先週、米半導体工業会が20132月における世界の半導体売上高を発表した。それによると、前年比1.4%増の2325000万ドルだった。米国が1.6%増の448000万ドル、アジア太平洋が6.7%増の1324000万ドル、欧州は1.5%減の268000万ドルであったのに対して、日本は何と15.7%減の285000万ドルで一人負けだった。

 

スマートフォンが今は成長分野であるから、韓国や台湾などのアジア太平洋や米国はスマホ向けの半導体や部品、製造サービスで稼いでいるのに対して、日本はスマホ向けが全く弱い。せいぜいコンデンサや抵抗、コイルなどの受動部品がマシなだけだ。日本のスマホメーカーが世界では全く売れないからである。なぜ日本のスマホは世界から遠く離されてしまったのだろうか。

 

かつての携帯電話は、iモードで見られたように世界でもトップを行っていた。しかし、誰も付いていけないほど自分勝手な仕様であり、相手と一緒に決めることもしなかった。その根底にあるのは、技術最優先の考え方だからではないだろうか。

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例えば、国内の携帯電話メーカーが昨年まで売り物にしていた防水機能。今年のMobile World CongressではOリングのしっかりした構造を作り、アクセサリのケースをかぶせるだけでiPhoneGallaxyに防水機能を付けられるというケースがあちこちから出てきた。水深2mでもOK1mの高さから床に落としてもOKという。防水機能を携帯電話機自体に付けなくてもよいのである。

 

2007年にiPhoneがアメリカで発表され、日本に上陸する前に触らせてもらった。2本指で拡大縮小のジェスチャーを認識したり、指でページをめくる動作を読んでくれたりしたことにとても感激した。触って楽しい電話だ、と思った。ところがある技術雑誌は、新しい技術が何もない、これまでの技術の寄せ集めにすぎない、と切り捨てた。日本のエンジニアに取材した結果なのだろう。

 

しかし、私はこの電話の楽しさと任天堂のWiiの楽しさは共通するものがあると思った。共にヒット商品だった。共に楽しさを表現した。タッチパネルの操作も従来の1本指ではなく2本指で、しかもその動きまでも認識できていた。従来のタッチセンサではXYマトリクスの交点を認識するだけだったから単なる受動的なボタンにすぎなかった。iPhoneのタッチパネルはこれまでのタッチパネルとは全く違っていた。XYそれぞれを時間軸に沿ってスキャンするというタッチコントローラを導入して初めてできる技術であった。Wiiもバーを振ることで、その動作を表現した。

 

しかし、日本のエンジニアはこの「楽しさ」を理解できなかった。ここに問題の本質がある。ネットスケープの元となるモザイクというブラウザを発明したイリノイ大学の学生だったマーク・アンドリーセン氏は、楽しいブラウザを開発しようと考えていた。ノートパソコンの原型を50年前に考案したアラン・ケイは、楽しさを表現できるマウス、プルダウンメニューを発明した。

 

技術を極めることはユーザが求めることなのかどうか、エンジニアは考えているだろうか。自分が使って楽しいものなら、他人が使っても楽しいはずだが。実はここにヒントがある。マーク・アンドリーセンにせよ、アラン・ケイにせよ、楽しさを追求すると、新しい技術開発につながることを見出した。

 

スマホには楽しさを表す技術としてMEMSMicro Electro Mechanical System)加速度センサがある。画面を傾けると絵が90度傾くという楽しさだ。重力加速度を検出しているのである。傾いた時にXYの加速度の強さが変わることを利用している。さらにジャイロスコープは写真を撮る時の手ぶれ防止に使われている。また、Wiiのようにバーを回転させると画面も回転するのも同じジャイロのおかげだ。

 

ただし、こういったMEMSセンサは単なるセンサだけでは意味を持たない。MEMSセンサからの電気信号がどのような動作や命令につながるのかを判断・分離できるように信号波形が意味のあるアルゴリズムと対応させることも実用化には必要である。日本のエンジニアはとかくMEMSセンサの感度を上げたり、検出範囲を広げたり、モノを極めることにしか頭が行かず、信号を何にどう表現するかというところまで至らないことが多い。

 

しかも、極めたハードウエアが広く使ってもらえるようにするための、標準化やインターオペラビリティ(相互運用性)には関心を示さない。さまざまな国、さまざまな人に使ってもらえるようにするためには、部品やモジュール同士をつなぐ入出力インターフェースを標準化しなければならない。しかもA社の製品もB社の製品もC社の製品もみんなつなげることを確認するというインターオペラビリティを確保しなければならない。A社の製品同士しかつながらなければ製品は広がらない。NTTドコモの3Gの最初の失敗はまさにインターオペラビリティの欠如だった。世界中の製品が3Gで使えるようにするという視点が全くなかった。

 

スマホはこれから先ももっともっと伸びて行く。だからスマホに使うべき半導体を考えたり、スマホという、常にオンして常にネットにつながっているコンピューティングデバイスにどのような機能を載せると楽しいのか、ということを考えよう。スマホとテレビをどうつなげると楽しくなるか、スマホとクルマをつなげるとドライブがもっと楽しく安全になるか、こういったアプリケーションをブレーンストーミングしよう。そうすれば、日本からも楽しい「売れる」スマホが出てくる。

 

使うシーンを想定せずにひたすら技術を追求することに何の意味もないのである。

2013/04/09

 

ソニーの大いなる矛盾~解雇した人は天下り、解雇された人は路頭に迷う

(2013年3月28日 00:51)

サンケイニュースによると、美濃加茂市にあるソニーの子会社工場が今月末で閉鎖することに伴い、1000人以上の従業員や本従業員が失業状態になる恐れがあると岐阜県が発表した。工場で働く従業員は200~300名、製造請負企業7社の従業員350名、休職中の元従業員500名。合計10501150名が職を失う恐れがある。

 

昨日はソニーのニュースリリースとして、中鉢良治副会長が取締役を継続しながら、4/1から産総研理事長に就任の予定と伝えられた。ソニー子会社工場の閉鎖を決めた本人は天下りというか、産業技術総合研究所の理事長に就任すると同時に取締役も続投する。

 

ソニー経営陣はこのような人事を決めたことに従業員はどう思うか考えたことがあるだろうか。ソニーをダメにしたストリンガー会長が8億円という報酬をもらい、中鉢副会長でさえ1~2 億円はもらっていただろう。これが会社としての体裁を保っているといえるだろうか。経営陣に甘く、従業員に厳しい会社ではいったい誰がまともに働けるだろうか。

 

米国を取材していると、今や日本よりも温情な企業が多い。最もハイテクで活気のある地域としてシリコンバレーがある。ここでは「出世のリスク」がある。出世するほど首になるリスクが増えてくる、という意味だ。日本の企業やソニーの逆を行く。

 

出世するほど首になるリスクが増えることは米国では事実だ。経営に係わるほど報酬あるいは給料は増えるが、会社の業績が落ちてくると会社は給料の高い人間を先に切っていくのである。人件費削減効果が高いからだ。給料の低いものをクビにしてもさほど影響は出ないが、給料の高い方が効果は高い。だから出世のリスクを取りたくない人間は出世しないという選択ができる。

 

効果が高いことを会社に進言するのは株主であり、取締役である。企業の業績が回復すれば配当が戻り株主に還元される。米国では企業経営の基本は株主のために経営者が働くことだ。その株主は一般の消費者であることが圧倒的に多い。日本では一部の投資家、銀行、企業の持ち合いなど、一般投資家のための企業になっていない。株主から見て企業の支出を減らす効果的な方法こそ、高い給料の人間をクビにすることである。

 

ソニーのニュースを聞くと、給料の低いもののクビを切り、高いものを生かしておく。これでは支出が全く減らない。

 

かつての日本企業はクビを切るとその企業のイメージが悪くなり、働き手が減ることを嫌って簡単にクビを切らなかった。しかし、今は従業員のクビを切り、給料の多い経営陣を温存しておく。これでは支出は減らない。ソニーは業績が悪くなってもストリンガーCEOの報酬は減らさなかった。経営者が経営責任を取っていないのである。常識的には経営者がある年度に赤字を出せばクビか、報酬減額であろう。

 

ところが、ソニーに設置されている報酬委員会が実質的に機能していなかったために、赤字を出しても8億円をもらえるという大甘えの社長(CEO)が生きていけた。しかし、まともに働く従業員はやる気を失い、企業の活気は失せて行く。これでは企業はますますダメになる。ソニーは社外取締役制度を導入したが、残念ながらこれも機能していなかった。経営者が自分に甘く、社員に厳しい会社にしてしまったのである。これで社員のモチベーションは下がり、活気はなくなり、ソニーらしさは消えてしまった。

 

ではソニーはどうすべきか。まず、経営者が清廉潔白であり、社員のやる気を取り戻すような「武士は食わねど高楊枝」の精神を持つことであり、それがあって初めて経営者について行く社員が現れる。例えば部下に飯をおごる、という場合でも会社の金でおごるような上司や経営者では、部下は心の底からついては行かない。自腹でおごるのであればついて行く気にもなる。要は上に立つ者の本気度を社員・部下は見ているのである。

 

今回も副会長がぬくぬくと職を得ているような人事を見ていると、ソニー社員のやる気を依然、奪っていると言わざるを得ない。ある元ソニーの社員によると、この副会長は技術者のやる気を削いだ人だという。こんな人事を続けているとソニーはますます活気が失われていく。

 

今からでも遅くない。ぜひ清廉潔白な、世のため社員のために仕事をする姿を社員に見せつけてほしい。業績を回復させるまでは、報酬や給料を大きく下げるべきだという気持ちの経営者になってほしい。その代わり、業績が回復し大きな利益を出すことができれば、たっぷり報酬を受け取ればよいのである。これなしでソニーの回復はあり得ない。

(2013/03/28)

なぜMobileか理解し大潮流をつかむことがニッポン復活への一里塚

(2013年3月 1日 09:07)

昨年に引き続き、MWCMobile World Congress)に参加するためスペインのバルセロナにやってきた。MWCでは、世界の通信業界、エレクトロニクス・IT業界そして半導体業界の様子がよくわかる。結論は、あらゆる企業がみんな「Go mobile」である。 

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1 MWCの新しい会場

 

ビジネス業界みんながMobile とはどういうことか。最近でこそ、日本のメディアが新聞、テレビ、インターネットなどで採り上げるようになってきたが、MWCはかつてGSM Congressと呼ばれ、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった通信オペレータの集まりであった。GSMは欧州のデジタル携帯通信規格の名称である。いわゆる携帯電話がアナログからデジタル方式へ移行した時の最初のデジタル方式の規格といってよい。日本はNTTドコモが独自方式で世界の潮流とは別に走っていき、独自規格のままでやってきた。iモードで携帯インターネット時代を牽引してきたことは事実である。しかし「ガラパゴス」と揶揄され、世界から孤立してきた

 

世界の技術の潮流は、みんなでコラボレーションすることによって、低コストでモノづくり、サービスをしようと努めてきた。これに対して日本は技術さえ優れていれば、独自方式でも世界がついてくると変におごり高ぶっていた。このことは携帯電話に限らず多くの技術分野で見られる。例えばVTRやビデオカメラ、テレビなどかつて日本がリードした民生エレクトロニクスいわゆる家電で日本の産業が今沈んだことは誰しもよく知っている事実である。

 

VTRやビデオカメラではテープの読み出し書き込みヘッドを斜めに傾け、斜めにテープ情報を読み取ることで、映像と音声を同時に記録することができた。この斜めのテープを支えるメタルの軸を機械加工するというモノづくりを日本が極めており、他の国は参入できなかった。テレビでもブラウン管を効率よく生産する体制を日本が構築した。VTRが盛んになった1970年代後半から1980年代にかけて世界を見渡せば、米国と欧州だけが競争相手であり、アジアはまだ遅れていた。しかしアジア経済、アジアの産業が大きくなるにつれ、競争相手は増えてきた。日本はこのことに気付かなかった。80年代後半から、アジアの時代とも言われ、アジアへ欧米、日本企業は殺到すると同時にアジアを生産拠点にもってきた。

 

技術的には1980年代はアナログからデジタルへの変換がおこなわれてきており、デジタル化の波は90年代~2000年代に高まってきた。日本ではデジタル化への流れに乗ろうとして何でもデジタルにしようとしてきた。例えばデジタル時計。液晶に表示されるデジタル時計は70年代~80年代には一世を風靡した。現在でも多くの時計がデジタル方式で表示だけがアナログの顔をした時計になっている。世間ではこれをアナログ時計と呼んでいるが、中身はデジタルである。

 

なぜデジタルになってきたのか。この動きはシリコン半導体チップの動きとも連携している。シリコンのわずか数mm平方の小さな粒(チップという)の中にトランジスタを数百個から数千個、数万個、数十万個、数百万個、数千万個、へと集積できるようになってきたからだ。デジタル回路は基本的にアナログ回路よりもたくさんのトランジスタを用いて実現する。かつてはチップの上にわずかのトランジスタしか集積できなかったためにアナログを用いざるを得なかった。しかし、ムーアの法則(Moore's Law)と呼ばれるように、半導体産業は、わずかの大きさのチップにトランジスタを毎年2倍の速度で集積してきた。

 

元々半導体トランジスタは、pnp構造(電子の多いn型と、電子の抜け殻(正孔)の多いp型を並べた構造)の真ん中(ベース)を極限まで狭くしていけば増幅作用を持つはずだ、と考えた米ベル電話研究所のバーデン、ブラッテイン、ショックレイの3人組が発明したモノであり、生まれながらにして小さいデバイスである。顕微鏡を見ながらコレクタ(p)、ベース(n)、エミッタ(p)に電圧を与えると、やがて針は多くの電流を流すことができることを彼らは確認し、ノーベル賞受賞へつながった。

 

トランジスタはpnpnpnというバイポーラ型(npの二つの極性からなるため二つという接頭語であるbiと極性という意味のpolarが語源)から、より多くのトランジスタを集積しやすいMOSトランジスタへと変わってきた。MOSトランジスタをシリコンチップに集積するようになり、ムーアの法則が社会現象として成り立つようになってきた。抵抗やコンデンサなどの受動部品を数個使うよりもトランジスタを数万個集積する方が面積は小さいのである。

 

このように、産業界は多くのトランジスタ、デジタル回路を手に入れた。しかし、人間の五感はアナログである。人間そのものもアナログである。いくらデジタルに変更したからといって、人間が機械を扱う限りアナログ回路は決して消えない。米国には、「これからはデジタルエレクトロニクスの時代になる」、とElectronics誌などの専門誌で言われているそのさなかの1984年にアナログ専門の企業を立ち上げた所さえ出ていた。これが今や営業利益率4割を誇るリニアテクノロジー社である。

 

リニア社のことはさて置いといて、日本のエレクトロニクス経営者はデジタル技術の本質を見てこなかった。なぜデジタルなのか、アナログは消えてしまうのか、を理解していなかった。専門家にとって釈迦に説法かもしれないが、デジタル技術の良さは三つに集約される;圧縮できること、誤り訂正できること、そして集積しやすいこと。それ以外はむしろアナログの方が効率は高い場合もある。大学でさえ、90年代にはアナログを教える教師がほとんどいなくなった。今でもアナログ回路を教える研究室はまだ少ない。

 

デジカメやスマホ、パソコン、テレビ、ゲーム機、音楽プレーヤーなど全ての電子機器は図2のような回路ブロックで構成されている。この中で、「組み込みSoCシステム」という回路ブロック(デジタル回路)以外は全てアナログ回路である。ここは今でも特長的な機能を実現できる回路である。リニア社の業績が今でも良いのはこのアナログ回路にフォーカスしているからだ。

signalchain.jpg 2 電子システムの基本ブロック

 

デジタル回路部分は、ROMに焼き付けるソフトウエアと専用のハードウエア回路(周辺回路)だけが今や特長を出せる回路ブロックとなった。CPUOSなどは外から買ってきて標準品を使えばよい。こういった技術構造を理解してさえいれば、経営者はどこに力を入れて企業を発展させればよいかがわかる。日本の経営者がデジタル技術の本質を理解していなかったのは、この点が矛盾していたからだ。DRAMメモリほど多数のチップが求められないシステムLSIにメモリと同じように投資し、ソフトウエアやアナログ回路に投資してこなかった。いわば投資先を間違ってきたのである。すなわち無駄なお金を費やし、必要なおカネを回してこなかったといえる。これで世界の企業と勝てるわけがない。しかも今、アジア企業の力がついてきた。

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 3 電子インクと液晶の両面スマホ

 

このMWC展示会の出展社たちには、欧州、米国だけではなくアジアや中東からの参加も多い。あるロシアの携帯電話メーカーは、電源を消しても画面内容が消えない電子インクディスプレイと、通常の液晶ディスプレイの両面を持つスマホを開発して、注目を集めた(3)。新しい技術と産業の動きはやはり今年も見られた。ここに日本企業の存在感が乏しいことは極めて危険な兆候である。というのは、携帯(Mobile)分野こそが近未来の成長分野になるからだ。今や、デジカメや音楽プレーヤー、ゲーム機などは全てスマホに食われ、パソコンはタブレットに食われる運命にある。この分野をきっちり抑えなければ企業の未来、ひいては日本の未来は危うくなる。ちなみに世界の企業が考えてきた共通テーマは、「スマホ/タブレットの世界でわれわれは何ができるか」である。だから携帯分野とは無縁と思われた、オラクル、SAPIBMなどの企業が出展しているのである。

2013/03/01

バッテリの熱暴走対策に必要なこと

(2013年2月 9日 08:12)

ボーイング787のバッテリ事故調査によると、熱暴走(thermal runaway)であることが黒こげの原因として明らかになった。熱暴走は、パワーデバイスではよく起きる現象であり、数十年も前から見られた。筆者が半導体エンジニアであった当時、npnパワートランジスタを過負荷状態で長時間運転すると、熱暴走が起きることがあった。熱暴走とは何か。

 

文字通り、熱が暴走して制御不能になることである。例えば、大電流を流す電池を等価回路で表すと、図のように小電流の電池を並列にずらりと並べたようなものだ。電池の部分をトランジスタなどのデバイスで置き換えるとパワートランジスタになる。つまり、パワーデバイスも電池も小さな容量のセルを大量に並列接続したものといえる。

 

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川の流れに例えると、幅の広い浅瀬の川を想像しよう。川の中の石の大きさや重さ、地形などが均一なら岸から岸までの川は均一に流れ、波は立たないはずだ。しかし現実には流れやすい所と流れにくい所が出来てしまう。川水が増し、勢いが増してくると、やがて川は流れやすい場所に集中するようになる。終いには流れやすい場所にしか狭く流れなくなってしまい、流れやすい場所を取り囲んでいる小さな堤防が決壊してしまう。

 

熱暴走は、電流集中によって起きる。図の等価回路で全ての抵抗値が均一であれば、均一な電流が流れるが、どこか1カ所、抵抗値が下がるとすると、その部分の電流は流れやすくなる。やがて小さな抵抗に大電流が流れるようになり、抵抗は発熱する。デバイスの性質によるが、例えば半導体のpn接合(p型半導体とn型半導体とくっつけたもの)では温度が上がるにつれ、電流は流れやすくなるという性質がある。つまり、電池の材料によっては温度が上がるにつれますます、電流が流れやすくなり、さらに温度が上がりさらに電流も増え、やがて数百度もの高温になり破壊に至る。

 

今回の電池では電池そのもの、すなわち電池内部の材料や構造によってアンバランスが生じ、熱暴走に至ったのか、あるいは外部回路の制御が効かなかったのか、まだ結論は出ていない。しかし、対策は採れるはずだ。

 

原因が電池内部だとすれば、材料の温度特性を調べ、正の温度特性(温度上昇と共に電流が上がる)ではなく負の温度特性を持つ材料を探し、切り替えること、材料の特性バラつきを減らし均一性を上げること、電池の構造上で均一にリチウムイオンが流れるような構造を設計する、などの対策が必要になる。

 

外部回路だとすれば、電流を検出し電流が増えると、それを減らすための定電流回路を設けること、その検出回路のバラつきを減らすこと、さらに負の温度特性が働くように外部にバラスト抵抗(安定化抵抗)を付けること(ただし、消費電力は増える)、などの対策が必要となる。さらには、パワー(電力)を増やすために並列度を上げるのではなく、できるだけ直列接続して、並列度を下げ、電圧を高める方向で電力を上げていく方がより熱暴走を食い止めることができる。電力=電圧×電流、だからである。最適値があるはずだ。

 

例えば電気自動車では、わずか3.6~4.1Vしかないリチウムイオン電池セル1個を直列に100個くらい並べ350Vくらいまで昇圧している。もちろんさらに並列接続して電流も稼ぐが、電圧は高い方がパワーは出る。ただし電圧を上げ過ぎると、安全対策上、重い絶縁材料を増やさなければならず自動車のパワーが出にくくなったり、耐圧の高い電子部品が必要になったり、コストがかさむようになる。やはり最適値がある。

 

クルマ用のリチウムイオンバッテリシステムでは、4V弱のセル1個ずつ充電を検知し、過充電(すなわち発熱)にならないように制御している。ただし、検出回路の精度が低いと回路設計の余裕を十分の採らなければならず、電池容量をフルに使うことができなくなる。すなわち走行距離が短くなる。このため検出制御回路の高精度化の競争を米国半導体メーカーは繰り広げている。

 

今、熱暴走の原因特定を続けているのだろうが、人命にかかわるようなミッションクリティカルなバッテリに関しては、バッテリ内部であろうが、外部の制御回路であろうが、考えられうる全ての対策をとる必要がある。主な原因がわかったからといって、その部分だけ対策するようでは、また事故が起こり常に、イタチごっこになりうる。また、自動車用バッテリ関係者は対岸の火事では済まされない。改めてバッテリシステムの安全性をさまざまな角度からあぶり出し、対策を打つことが電気自動車普及に向けて求められよう。

2013/02/09

787機のバッテリ事故は、セルバランスが問題か?

(2013年1月22日 23:36)

別名ドリームライナー、夢を乗せて飛ぶといわれたボーイング787機の事故が相次いでいる。とうとう飛行停止となった。バッテリが黒こげになっている機体が多い。どうやら問題はバッテリかもしれない。なぜリチウムイオンバッテリが発火したのか。電気自動車のバッテリは大丈夫なのか。原因は特定できないものの、リチウムイオンバッテリに問題があるらしい。

 

リチウムイオンバッテリを搭載したパソコンがかつて火を吹いたことがあった。電池の電解液が漏れだすような衝撃や釘が刺さるというようなことがあるとリチウムイオン電池は一般に弱い。東芝のSCiBと呼ばれる電池はそれでも強いようだが。

 

リチウムイオンバッテリはなぜ不安定なのか。リチウムイオン電池1個のセルの起電力は3.6~4.1V程度ある。電力は電圧×電流だから、大電力が必要な場合には、電流を増やさず電圧をできるだけ上げる方法が一般的だ。電流を増やすと電線を太くせざるを得ないからだ。電線を太くすれば重くなり、遠くまで電力を運ぶことが難しくなる。コストもかかる。同様な考えで、自動車内でも配線が細ければ軽いためクルマの燃費改善にも高い電圧が望ましい。電気自動車や飛行機では、100個くらい直列接続し、350V程度まで昇圧する。電流を増やしたい場合には100個の直列バッテリを並列接続し並列度を上げる。いわゆる電池を直並列に数百、数千個接続して使う。数十、数百とセルが接続されたモノをバッテリスタックと呼ぶ(図)。

 

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図 バッテリスタックの例

 

こうなるとセル11個のバラつきが大きく影響する。初期的にセルの特性が揃った製品だけを使うとしても、実際に使って充放電を繰り返すうちにセル間のバラつきは大きくなる。一つのセルは100%充電されても別のセルが70%しか充電されていない場合は、100%に達したセルの充電を止めなければならない。この作業を怠ると、セルは過剰な電流によって熱せられ、危険な状態になる。このため、セルが一つでも100%に達してしまえば充電作業を止めなければならない。

 

このため、接続されているセルを監視し100%の充電が終わるセルをチェックし、充電を止める制御回路が必要となる。こういったセル間の状態を合わせることを、「セルバランスをとる」、という。航空機の場合は知らないが、電気自動車では十分な余裕をとるため、一つにセルがフル充電になると他のセルはまだ達していなくても、その時点で充電を止める。バッテリシステムではこの状態を「100%充電」という言葉でカタログなどに表示する。充電監視用の半導体ICは電気自動車では欠かせない。

 

電気自動車の走行距離が短いと言われるのは、十分なマージンをとっていることとも関係する。限られた数のセルでバッテリを構成し、十分なマージンを持って充電すると実際にはもっと使えるかもしれなくても、電荷は空になったと判断する。だから短い距離しか走れない。もちろん、金に糸目を付けずに大量の電池を詰め込めば、走行距離は伸びるだろうが、コスト的にそれはできない。

 

電池の電荷量の測定精度が上がればマージンを狭めることができ、限られた数の電池でも走行距離を伸ばすことができる。リニアテクノロジーが開発した第3世代のバッテリマネジメントチップLTC6804は測定精度を上げた。

 

ただし、こういったセルバランスの方式はパッシブ方式と言われるもので、最初に満充電になるセルがあれば、他のセルがまだ80%だとしても充電を中止し、フル充電のセルの電荷を捨て、すべて80%に揃えるようにする。いわば悪い方に揃える訳だ。そこで、アクティブ方式と呼ばれる方法のセルバランス技術が開発されている。これは、先にフル充電に達したセルの電荷を捨てずにまだ満充電に達していないセルに振り分ける技術である。無駄はないが、制御用のチップが必要となる。間もなくそのチップが出てくるだろう。

 

航空機ではどのようにセルバランスをとっているのか知る由もないが、今回の787機に使われたセルバランスが果たして適切だったのか、解明はこれからだろう。電気自動車の電池コストを安くし、かつ安全なシステム(適切なセルバランス)を設計することが電気自動車には必要になる。ここに知恵をつぎ込み、他社を寄せ付けない圧倒的な技術を確立することこそ、高い信頼性と、低いコストを両立させる技術になる。日本の技術に期待したい。

2013/01/22