やはりArmは半導体ICチップを販売することに
2026年4月 5日 15:04

 半導体IPベンダートップのArmがやはり半導体チップを販売する。同社CEORene Haas氏(図1)が、プライベート会議「Arm AI Everywhere」において、それを発表した。AIデータセンターでのエージェントAIチップとして「Arm AGI CPU」というブランド名で売り出す。

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1 arm CEORene Haas氏 出典:Arm AI Everywhereから撮影

 

 これまでは、半導体ICを設計するファブレス半導体やIDM(設計から製造まで手掛ける半導体メーカー)を顧客として、IP(知的財産)をライセンス販売するビジネスを行ってきた。半導体でいうIPとは、ICの中の価値ある一部の回路のこと。Armのビジネスモデルは、半導体メーカーにIPをライセンス販売し、それを購入した半導体メーカーがICを設計し量産し始めると売上額の一部をロイヤルティ収入としていただくというものだった。

  このため、歴代のArmCEOが来日するたびに、IP販売だけではなく半導体ICチップも販売しないのか、と尋ねると、半導体IC全体を設計すると顧客と競合関係になってしまうからやらない、と決まって答えていた。ArmはあくまでもIPビジネスにこだわってきた。Arm創業者で会長兼CEOであったRobin Saxby卿にお会いした時は(図2)、本当はファブレス半導体ビジネスを始めたかったが、資金不足のためIPのライセンス販売というビジネスモデルを打ち立てた、と話してくれた。1990年前半の話だ。

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2 Arm 創業者Robin Saxby卿の名刺 撮影筆者

 

 ところが、2023年頃からICチップの高集積化が進むと、Armの様子が少しずつ変わってきた。2023年にArmCPUGPU(グラフィックプロセッサ)、ISP(画像処理プロセッサ、NPU(ニューラルプロセッサ)などの回路を集積したCSSCompute SubSystem)と呼ぶ巨大なIPを発表するようになった。その時、これはIPではなくもはやICチップだと思った。マルチコアCPUGPU、周辺回路などを集積した巨大な集積回路(IC)だったからだ。しかし、Armはその巨大な回路をIPと呼んだ。

  最初はモバイルコンピューティングのプラットフォームと表現した。その後、データセンター向けのArm CSS Neoverse、クルマ向けのArm CSS Zena、そしてAI PC向けのArm CSS Lumex、と続々用途ごとに使われるSoCに向けた巨大なIPを発表した。このCSSは、ロイヤルティ事業売上げの20%以上を占めるようになったとHaas CEOは述べている。

  それまでのArmCPUコアやGPUコア、ISPコアなど個別のIPをライセンス販売していた。それがCPUコアやGPUコアなど複数の異なるIPコアを集積する「プラットフォーム」をライセンス販売するビジネスに変わってきた。


ICチップ販売の理由は?

  そして3月に開かれたArmの開発者会議というべき「Arm AI Everywhere」においてICの一般販売を宣言した。これまでのIPを半導体メーカーにライセンス販売する、というビジネスモデルから、顧客の領域にまで踏み出した。なぜ、顧客の領域まで進出したのか。

  この答は、ArmがなぜCSSに力を入れるのかに関連する。100億トランジスタを超えるような超高集積なICになると設計が極めて難しくなる。例えばマルチコアプロセッサの設計では、デュアルコアやトリプルコアくらいまでなら一般の半導体設計者でもできるようだが、8コア以上のマルチコアを使うSoCを設計するのはかなり難しいため、Armに設計してほしいという要求があったため、と述べている。だからCSSを開発し顧客に提供するのだという。

  確かに、ハイパースケーラと呼ばれるクラウド業者CSP(クラウドサービスプロバイダ)は、自分で半導体を設計できないため、設計を請け負うデザインハウスに依頼する。例えばGoogleBroadcomに依頼している。Broadcomは大量のGPUAIプロセサを並列に動かす場合に欠かせないネットワークプロセッサを設計・販売している。また、MarvellAWSMicrosoftなどのハイパースケーラに設計を請け負っている。

  半導体チップの一般販売には、その布石ともいうべき出来事があった。Meta(旧Facebook)のためにSoCチップを設計したのである。Armはチップメーカーになった。さらに、これまで半導体後工程の工場に力を入れてきたマレーシア政府とパートナーを組み、半導体IC設計拠点パークの一角に入居することを決めた。ファブレス半導体企業として活動するためだ。Armはまず、「Arm CSS」をライセンス提供する。この拠点で、ArmArmベースの半導体SoCを設計できる人材1万人を養成する。


これからはAIエージェントの時代

  Armがチップの一般販売に乗り出す、もう一つの理由は、エージェントAI向けのAIチップがまだ登場していないためだ。AI時代では特にAIエージェントが重要な役割を持つようになるとCPUが重要な役割を果たすようになる、とHaas CEOは述べている。その理由はこうだ。「AIで使われるエージェントは、クエリー(リクエストなどの命令)として働き、一連の答えを得て戻ってくる。しかも単なるクエリーではなくワークフローのタスクとしても働き、しかもスケジューリング機能も持つ。一言でいえばスケジュールに基づいて働くのがエージェントである。つまりCPUと同じ役割を持つ。だからArmはエージェント機能を持つCPUを開発し販売する」。

  Haas CEOはまた、GPUをはじめとするAIアクセラレータを、次のように表現する。「GPUなどの)AIアクセラレータは、大量に並列動作させて、トークンをまるでダンプカーのように大量に押し出してくる」。これに対してCPUは手順に従ってワークフローを処理していく。この外販チップは、x86CPUを使うコンピュータと比べて、性能が2倍になるという。

  Armは、AIエージェント向けのCPUチップでは先行するが、NvidiaIntelAMDなどの半導体メーカーとは競合関係になる。このチップ販売はハイパースケーラの顧客と話し合いして決めた、とRene Haas CEOは述べているが、この選択は、凶と出るか、吉と出るか、歴史を待たなければならないだろう。

 

参考資料

1.    "Arm Everywhere CEO Keynote", Arm Company, 2026/03/24

https://www.arm.com/company/arm-everywhere