エイブリックの社長が書いた「展職のすすめ」の本に共感
2023年3月29日 21:07

 「感じる半導体、アナログ半導体」のテレビコマーシャルでおなじみのエイブリックの社長兼CEOの石合信正氏の書かれた「展職のすすめ」(幻冬舎)を読んだ。本のタイトルを見た時、社長自らサラリーマンに対して転職を進めるのか、と思った。エイブリックの社員も読むかもしれないから、社長自ら転職を進めていると受け取られるのではないか、と思ってしまった。しかし、読んでみて、そうではないことに気が付いた。

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図1 石合信正氏が書いた「転職のすすめ」と、「日本の技術力を持つ半導体メーカーに外資系スピード感をとり入れたら働きがいのある会社に生まれ変わった」の2冊

 

 この本は転職ではなく、展職と序章で表現しており、発展する転職を表している。「転職を一度でも考えたことのあるビジネスパーソンに捧げます」、と言われても、やはり当初の懸念は消えなかった。なぜか。企業の人事評価が「昭和の大企業」のような年功序列ではなくジョブ型に変わってきたこと、さらに大企業でさえも倒産のリスクを抱えるようになったこと、も背景にある。「この会社に入ったからもう一生安泰」、という時代ではなくなってきたのだ。

  そうすると、あくまでも自分のスキルを磨くことがカギとなる。ただ単に転職を進めるのではなく、自分を成長させるために転職を石合氏はこれまで6回も繰り返してきたという。自分の成長を測るために自分自身の評価も行う。特にマーケティングで利用されるSWOTStrength:強さ、Weakness:弱点、Opportunity:チャンス、Threat:脅威)分析の手法を自分自身に当てはめてみる。自分の強さとは何か、弱点は何か、市場のチャンスはあるか、市場の脅威は何か。これらの指標を使って冷静に自己分析してみようと勧めている。

  この本では、転職する際の心構えや注意事項などはもちろん紹介されているが、転職しても45年はしっかり働くことを勧めている。転職はあくまでも自分の成長に結びつくものでなければならないからだ。半年くらいで転職を繰り返すだけでは何も身につかない。


仕事が楽しいと感じる会社にするのが経営者

 石合氏の本は実は2冊立て続けに発行されている。その前に読んだ本は長いタイトルで、「日本の技術力を持つ半導体メーカーに外資系スピード感をとり入れたら働きがいのある会社に生まれ変わった」(幻冬舎)であった。この本は、エイブリックの社長として、いかに社員を鼓舞してモチベーションを上げることに腐心していることがよく表されている。

  会社の仕事は楽しいと思わなければ、個人のモチベーションも業績も上がらない。社員がこの会社に来て働いてよかった、という気持ちにさせることが非常に重要である。このような気持ちを社員に持たせる経営者こそが実は会社の生産性を上げられるのだ。社長が社長室にふんずりかえっているようでは、社員は社長についていかない。社長が真っ先にやるべき仕事は、エンジニアやセールスパーソン、人事・総務・財務などで働く人をいかに鼓舞するかであり、彼らの自己実現を支援することだ。

  石合氏は、従業員がワクワクしながら働ける職場を従業員と一緒になって改革を進めたという。この結果、従業員の能力が大いに発揮されたことで、新製品の開発も進んだ。同時に利益を重視して、行き過ぎた低すぎる製品価格を元に戻すという活動も行い、営業職の考えをがらりと変えた。

  実は外資系半導体のトップを取材すると、同様に社員を鼓舞する社長が多く、日本の社長とは大きく違う。この本「~~外資系スピード感をとり入れたら~~」で出てくる社員がワクワクする職場、やらされ仕事ではない職場を実践している米国企業の経営者に、筆者はずいぶん出会った。これまで取材してきた米国企業と照らし合わせながらこの本を読むと、まさに我が意を得たり、という個所が実に多い。 

 いろいろなイベントやパーティでエイブリックの社員に会うと、みんながみんなぜひ取材に来てくれ、という。これまでこんなことを言う社員に出会ったことがなかった。面白い会社だな、と最初は思った。最終的に石合社長に取材し、話を聞くと合点がいった。エイブリックでは社員が社名だけではなく、社歌を提案した。それもギターやドラムを駆使したロック調の社歌である。面白いではないか。