東北大、新産業起こしを本格的に開始
2019年11月24日 11:07

寄稿


 東北大学は既存の青葉山キャンパス(仙台市青葉区荒巻字青葉)の西側に広大な新青葉山キャンパスを現在、整備中だ。そして「新青葉山キャンパスを"グローバル・イノベーション・キャンパス"にするという目標を基に強力な産学連携体制を推進している」(大野英男東北大総長、図1)という。

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図1 大野英男東北大学総長


大学がビジネスを仲介 

 このグローバル・イノベーション・キャンパス(注1)を目指す組織的な産学連携では「B-U-BBusiness-University-Business)という研究大学を中核・仲立ちとした異分野の企業群が組織連携する連携モデルを実践する」と、東北大の青木孝文理事・副学長(企画戦略総括・プロボスト、図2)は説明する。

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図2 青木孝文理事・副学長(企画戦略総括・プロボスト担当)

 

 このB-U-Bモデルは、1029日に、東京都千代田区内で開催された「東北大学オープンイノベーション戦略機構シンポジウム2019」の中で概要が公表されたもの。青木理事・副学長は、オープンイノベーション戦略機構長を務めている。


モデルは半導体研究のCIES 

 このB-U-Bが目指すイノベーション創出を図る組織的連携の原型になったのは「新青葉山キャンパス内にいち早く設けられた先進的な半導体チップの国際研究開発拠点である国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)である」と青木理事・副学長はいう。このCIESは、遠藤哲郎教授がセンター長を務め、AI(人工知能)・IOT(モノのインターネット技術)に向けた極限の低電力半導体チップの開発などを目指す国際研究開発拠点だ。 

 このCIES は、2013年に新青葉山キャンパス内にいち早く研究開発拠点を竣工し、2016年にIT・輸送システム融合型エレクトロニクス技術の創出を目指すOPERAProgram on Open Innovation Platform with Enterprises, Research Institute and Academia)プロジェクトをJST(科学技術振興機構)から委託されたことから、外部資金によって研究開発拠点を運営する仕組みができ上がった。 

 詳細は公表されていないが、このCIESは大まかには企業などの外部組織からの30億円の寄付や文部科学省系や経済産業省系の大学・企業の大型共同研究プロジェクトなどからの運営資金などによって、研究開発拠点棟を整備し、これまでに300億円超の先端研究開発設備を整え、1年間当たり約15億円の外部資金による運営費を確保しているとみられている。 

 こうした先端的な研究開発環境が整備された結果、具体的な社名は公表されていないが、日本の半導体製造企業やその製造装置・機器企業、半導体材料企業などがそれぞれ参加し、さらに米国などの半導体関連企業などの海外企業も参加している模様だ。この結果、CIESはグローバル対応の共同研究契約・知財管理態勢を整え、「集積エレクトロニクス分野での川上から川下までの企業群が国際的な産学連携コンソーシアムを構築している」という。


マテリアルサイエンスがB-U-Bを実施

 このCIESで学んだ産学連携コンソーシアムの運営法などを基に、東北大はライフサイエンス分野やマテリアルサイエンス分野でもオープンイノベーション態勢を構築しつつあると、青木理事・副学長は説明する。 

 このマテリアルサイエンス分野のB-U-B組織連携のさきがけとして、東北大は201895日に非鉄金属大手のJX金属と組織的連携協定を提携している。この組織的連携は、JX金属が20186月に東北大発ベンチャー企業のマテリアル・コンセプト(仙台市)に出資し、半導体の次世代配線材料技術分野での組織的産学連携を始めたことが契機になっている。この組織的産学連携では、当面は銅系の半導体の配線材料の最適化・高性能化を目指し、さらにその先にある新しい"ネクスト銅"金属材料系の半導体の配線材料も研究開発し。実用化するというシナリオを描き、研究開発と事業化の活動を進めている。

 この東北大発ベンチャー企業のマテリアル・コンセプトは、東北大大学院工学研究科の小池淳一教授の研究成果を基に、20134月に設立された企業だ。同社は、東北大のインキュベーション施設内に入居し、代表取締役の小池美穂氏の下で、銅系の半導体の配線材料の事業化を進めている。小池教授は同社のCTO(最高技術責任者)取締役を務めている。 

 同社は201434日に産業革新機構(INCJ、東京都千代田区)が第三者割当増資として6億円を上限とする3億円(推定)を出資したこと契機に、銅系配線材料の開発や事業化の事業資金を得て船出した(注2)。 

 JX金属は東北大の青葉山新キャンパス内に半導体の配線材料研究棟を建設し、20206月をメドに東北大に寄贈する計画を進めている(図3)。建設総額は10億円の見込みで、4階建て、総延べ床面積は約4000平方メートルの建屋の計画だ。JX金属としては、同研究棟が、東北大を中核にベンチャー企業を含む国内外の企業や研究機関などの産学官が結集し、次世代配線材料技術分野でのイノベーションを創出するインターコネクト・アドバンストテクノロジーセンター(ICAT)として、革新材料技術や非鉄産業関連の産学官連携拠点となることを目指している。

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図3 次世代配線材料技術分野でのイノベーションを創出するインターコネクト・アドバンストテクノロジーセンター(ICAT)の模式図 出典:JX金属

 

 JX金属が東北大と組織的連携協定を結んだ背景には「青葉山新キャンパスには世界的な半導体の研究拠点である国際集積エレクトロニクス研究開発センターなどがあり、さまざまな情報交換、人材交流が見込める点を高く評価したからだ」と説明する。

 さらに、東北大の新青葉山キャンパス内では、次世代放射光施設の建設が始まり、"官民地域パートナーシップ"に基づく整備を始めている。2023年の運用開始を目標に、次世代放射光本体の開発などを進めている。

 技術ジャーナリスト 丸山 正明


注1)東北大が設けたオープンイノベーション戦略機構は、20189月に文部科学省が始めたオープンイノベーション機構の整備事業に採択されたことを契機に設けた戦略的組織である。201812月から活動を始めている。文科省のオープンイノベーション機構の整備事業には、これまでに8大学が採択されている。

注2)この時のINCJの出資は、ベンチャーキャピタルの大和企業投資(東京都千代田区)との協調投資として実行された