B2Bへと舵を切ったCEATEC 2018
2018年10月19日 23:46

CEATECの雰囲気が大きく変わった。日本の電機産業には本物の経営者がいない。電機産業は、日本では斜陽産業となった民生市場から自動車・産業向けへと舵を切ったはずなのに、切り切れていなかった。今回のCEATECはようやくB2B展示会へと変わりつつある。

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図1 CEATECは来場者がようやく下げ止まった 昨年より2.6%増加した

  元々、CEATECの前身であるエレクトロニクスショーでは部品がメインでB2Bの様相を呈していたが、80年代、90年代へと民生主体に変わりつつあった。ところが民生市場がデジタル化へシフトするにつれ、日本からアジアへとシフトし、中国へと完全にシフトしてしまった。デジタル化に出遅れた日本は、テレビとパソコン、携帯電話(スマートフォン)の3大ビッグ市場を失ったのである。

  これまで半導体は、これらのビッグ3市場へ向けて出荷していたが、国内の大得意客であったパナソニックやソニー、シャープなどの大手電機が没落したため、一緒に沈んでいった。リーマンショック後にこのことに気が付いた半導体メーカーは、顧客を求めて国内から海外へと切り替えてきた。今のところはアジアや中国が主な顧客だが、米国・欧州はむしろこれからといったところだ。

  今回のCEATECでは、IoTAIが登場したため、それに向けたソリューションを提供することに力を注ぎ始めた。半導体ビジネスでは単なる製品を展示しても意味がなくなった。最終製品を作るための開発ツール(ソフトウエア+ハードウエア)も潜在顧客に提供する方向へと変わってきているが、ようやく国内でも製品+開発ツール+サポートサービスというソリューションビジネスへと変わりつつある。開発ツールがあれば潜在顧客は「私でも差別化できるシステムを開発できるじゃん」と思えるようになる。

  IoTAIも民生向けは時間的にずっと遅れるだろう。まずは企業向け、産業向け、社会向けが優先される。AIは勝手に学習して人間を支配するものでは決してない。学習させるためには例えば画像のどの部分を入力したいのかを指定したり、他のデータと紐づけしたりするなど、人間の手による前処理が欠かせない。IBMは、AIAugmented Intelligence(人間を補強する知恵)と呼んでおり、人間の仕事を補助してくれるツールと位置付けている。

  今年のCEATECで面白かったのは、ディープラーニングのフレークワークChainerを開発したプリファードネットワークスが、フレームワークを用いて顧客のディープラーニングを使ったシステムをサポートする顧客ごとのビジネスから、一般売りのアプリケーション(外観検査装置の不良を見つけるソフト)のサブスクリプションモデルへと広げたことだ。AIビジネスは始まったばかりだが、先行企業は早くもビジネスモデルを広げようとしている。

  AIやディープラーニングのようなデータ分析手法は、最終的にビッグデータを分析して可視化するIoTシステムとはなじみ(親和性)が良い。もちろん、クラウドともなじみが良く、これからの5Gともなじみが良くなる。5G時代の1msというレイテンシは魅力的だ。

  部品メーカーはIoT向けのさまざまなセンサを開発しており、地震センサ、新型超音波センサや24GHzのドップラーセンサやレーダセンサ、紫外線センサ、ワイヤレスセンサ、125GHzのサブテラヘルツを利用するCMOSレーダセンサなど、変わったセンサが多数見られた。これらは部品メーカーならではの新型センサで、テクノロジーの進歩と共に出てきたものといえる。

  またアナログ半導体のJRC(新日本無線)はエネルギーハーベスティング用の920MHzの電波を受信、回路に電源を与え、センサ回路の情報を載せて送信する、というワイヤレスセンサを展示、エイブリック(旧セイコー電子工業)は、ボルタの電池のアイデアと、チャージポンプ回路を組み合わせて、電池レスで水分量を測るセンサトランシーバを展示していた。また、ロームは地震センサを展示していたが、地震の揺れとそれ以外の揺れを区別する回路を構成し、地震だけを検出するセンサを作った。まさにセンサとアナログ回路のアイデアである。

  部品メーカーの村田製作所は、NAONAと呼ぶデータ解析システムを昨年のCEATECで細々と展示していたが、今年は大々的にアピールしていた。これはマイクを通して会話する人間の感情を定量化して可視化しようという試みで、働きやすい環境作りに一役買っている。

  データ分析、ディープラーニング、さらにはRPA(ソフトウエアロボットによる事務作業の自動化)などもCEATECに登場、働き方改革の切り札ともいえるさまざまなテクノロジーが登場し、社会問題の解決を目指す。真のB2Bの時代に突入したCEATECであった。

(2018/10/19)