ソフトバンク、RPAロボットも提供
2017年10月21日 22:30

業務改革が叫ばれている。広告会社最大手の電通に入社した女性社員、高橋まつりさんが1年目に自殺したというニュースは日本の会社組織を震撼させた。高橋さんの職場では、上司による叱責の日常化や嫌がらせ(意図的に間違えた指示を出す)というパワーハラスメント(参考資料1)によって、やる気(モチベーション)が失われ、自殺に追い込まれた。それ以来、残業時間を減らそう、業務を改革しようという機運は高まっている。

しかし、上司や経営陣がノー残業デーを設ける、残業時間に制限を設けるなどしても、社員の仕事が実際に終わらなければ、まじめな社員はコーヒーショップでサービス残業を続けることになる。これは業務改革ではない。見かけ上の残業時間を減らしても、社員のやる気がそがれるような仕事の与え方をするようでは、企業の生産性は上がらず売り上げは決して伸びない。プレミアムフライデーも強制退社にすぎない。どこかで業務を片付けなければならない。

そこで、「残業止めよう」という単なる掛け声ではなく、ITをうまく使って、単純作業をロボットに肩代わりさせ、残業時間を実際に減らせる手段が登場した。これが最近新聞やメディアを賑わせているRPARobotic Process Automation)である。

社員の業務を見直し、例えばファックスやメール、ウェブ、手紙などさまざまなメディアを通じて入ってくる情報を一つのエクセルファイルに打ち直すような単純作業は、ロボットにやらせ、社員はもっと自分がやりがいのある仕事に打ち込めば、生産性はぐんと上がる。やる気も出る。 

こんなロボット(ソフトウエアロボット)は、誰しも望むところ。このRPAロボットを実は1年くらい前から稼働させている企業が増えている。ソフトバンクがRPAホールディングスと提携し、そのコラボレーションの第1弾商品「SynchRoid」(図1)をこのほど発表した。RPAホールディングは、すでに4000体以上のソフトウエアロボットの導入実績を持つRPAテクノロジーズ㈱を傘下に持つRPA分野の大手企業だ。

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1 ソフトバンクが提供するRPAロボット、SynchRoid 出典:ソフトバンク

RPAとは、ソフトウエアロボットによる業務の自動化の意味であり、事務職の単純作業を人間に代わって代行しようというもの。デジタルレイバー(digital labor)とも言われ、最大手のRPAテクノロジーズ社はBizRoboという製品を提供してきており、ソフトバンクは、RPA社以外にも3~4社のソフトウエアロボットを使ってみたが、BizRobo製品は直感的に作りやすい、とソフトバンクは言う。BizRoboではプログラミングを知らない人でも、使う表の中の項目などを覚えさせるだけでロボットを作れるという。

一般に企業内でシステムを組む場合、業務の要件を定義し、システム要件を定義することから始め、システム導入までに半年から1年もかかる場合が多い。これに対してRPAはわずか1~2週間でロボットを1体作れるという。しかも、システムの専門家ではなく、営業や総務など業務部門の人が短期間の訓練でロボットを作れるようになる。

このロボットはAI(マシンラーニングやディープラーニングなど)と比べても、学習させる必要がなく、業務担当者が自分でロボットを作り、自分で単純作業をロボットに任せようというもの。だからITシステムに疎い者でもプログラミングを学ぶことなく、ロボットを作ることができる。

ソフトバンクでは、すでに社内の業務改革にソフトウエアロボットを使ってきた。社内実験ではさまざまな失敗を繰り返し、「しくじり先生」で見られるような業務のワナも経験してきたという。すでに26部門でロボットが活動し、単純作業から解放されているとする。各部門では、RPAを推進するリーダーを決め、RPAを習得させ、さらにほかの業務や他部門などへ拡張していくとしている。

ソフトバンクでは、この1カ月前での集計では、1289件の業務改善のアイデアがあり、そのうち358件の開発プロジェクトができ、152人のロボットを作れる人間を育成できた。その結果、一月当たり9000時間削減できたとしている。

RPAの良い点は、導入によってイノベーションを感じる、それを拡散する、そして新しいイノベーションを共創する、ことだとしている。

今回、ソフトバンクは自社で成功したRPA導入を他社にも提供するという新ビジネスを売りにする。同社が111日から提供するのはパッケージサービスであり、自分でロボットを作れるように育成するプログラムだ。導入支援のワークショップから始まり、開発スキルのトレーニング、そして開発エンジニアの派遣、導入のトレーニング、そして検定試験を行う。サービスパッケージは2種類あり、スモールスタート向けのライトパックと、本格導入向けのベーシックパックがある。ライトパックでは開発者を一人育成する1ライセンスであり、1年間に90万円で提供する。ベーシックパックでは最大10ライセンスを与え、毎月60万円で提供する。まず働き方改革をRPAで行い、単純労働を止め付加価値のある商品設計やデザインなどの業務へと人間はシフトさせる。

ソフトバンクは、業務自動化のロードマップを描いている。まずはこのRPAによる提携作業の自動化だ。次がAIを使った非提携作業の自動化、さらに将来はビッグデータ解析などによる高度な自律化へ向かうとしている(図2)。ソフトバンクはIBMとも提携しており、IBMAIマシンである「ワトソン」を使える。このワトソンとRPAを使う業務も想定しており、例えば、顧客から新規注文に必要な見積もり依頼のメールを受け取ると、ワトソンがその内容を解析し理解したら、RPAが見積書を自動作成する、といったシーンだ。実際にこの場面にワトソンとRPAを使ったことで、従来なら15分かかった作業がわずか3秒で終わったとしている。

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図2 RPAは業務改革の第一歩 ソフトバンクは将来AIも想定

 小売店では、ハードウエアロボットである「ペッパー」とRPAとのコラボについても実験しており、こういった経験もビジネスにつなげていく。

(2017/10/21)

 

参考資料

1.    「過酷電通に奪われた命、女性新入社員が過労自殺するまで」、AERAdot20161018