ブランドで勝負し始めた台湾企業
2017年6月18日 12:51

 台湾はこれまで、ブランドをあまり前面に押し出さない「黒子ビジネス」が得意だ。例えば鴻海精密工業は、アップルのiPhoneiPadを量産してきた。TSMCは世界の半導体の製造を一手に引き受ける請負企業(ファウンドリ)だ。パソコンでさえ、エイサーやマイタックはかつて、HPやデル、コンパックなど米国パソコンメーカーの製品を製造してきた。つまりブランドよりも実を取る黒子ビジネスを手掛けてきた。

  しかし最近は、エイサーやASUS(エイスース)、HTCなど独自ブランドの製品を出す世界的なブランド企業も登場してきた。元々ASUSBenQなどの企業はエイサーから分離独立した企業だ。616日には東京駅近くのKitteビルで「2017 Taiwan Excellence in Tokyo」が開催され(図1)、エイサーやASUSなどのIT/エレクトロニクス企業に加え、楽器のサキソフォーンでは世界市場シェアの1/3を握るリエンチェン・サキソフォーン社、椅子にもなる折り畳み式の杖を設計製造するTaDaチェア社などが製品を展示した。女優の田中千絵さんも応援プレゼンに駆け付けた。

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  図1 台湾で活躍する女優の田中千絵さん


 「台湾エクセレンス」とは、品質とデザイン、研究開発、マーケティングという4つの項目すべてを満たす優秀製品の認定書のようなもの。全て台湾ブランドを全面的に押し出す製品群だ。日本の認定ならたいてい、品質と性能や消費電力などのスペックを満たす製品や技術などを表彰したがるが、マーケティングという市場に当てはまっているかどうかという認定が台湾らしい。というのは台湾ビジネスに限らず世界のビジネスでは、まず受け入れられる価格の製品にするための技術を開発するからだ。日本はまず性能を優先し、時にはコストを度外視しても性能や技術を優先することもある。

  台湾のビジネスはこれまでブランドにこだわらず、実を取る作戦で、パソコンビジネスやスマートフォンビジネス、半導体ビジネスを成長させてきた。すなわち、これまでの黒子ビジネスを20年以上やってきてノウハウを取得し、高度な製造力を身に着けてきた。これによって付加価値をつけられるようになった。しかも収益率(利益率)の高い企業が多い。

  また東南アジア市場(アセアン)では、台湾企業が25000社も進出しており、ベトナムには7000社も進出しているという。つまり海外でもその存在が知られるようになりつつある。

  TAITRA(台湾貿易センター)の戦略マーケティング処 処長の陳英顯氏(図1)は、これまで培ってきたハードウエアとソフトウエアを合わせたソリューション提案ができるほどになり、収益率の高い企業も増えてきた、ときれいな日本語で言う。今のIT・エレクトロニクスはまさにソリューション提案へと流れているため、世界のトレンドに乗った動きである。 

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 図2  TAITRA戦略マーケティング処 処長の陳英顯氏

 

 台湾は、海外企業とコラボしながら発展してきた企業が多い。シャープを買収した鴻海精密工業は元々、アップルのコンピュータ「マック」のキーボードやディスプレイケーブルなどを製造してきた企業である。1990年のはじめに早くも中国に進出した。人件費が安く、言葉が共通しているということで中国での生産に取り組んできた。アップル社の結びつきはこの頃から強かった。今やiPhoneiPadなどの生産を一手に引き受けており、東芝のNANDフラッシュの直接の顧客でもある。今のところ、黒字ビジネスに徹しており、ブランディング製品にはシャープの名前を利用する。

  日本では、黒子ビジネスは少ない。かつての三洋電機くらいなものだ。デジカメでは三洋が製造したオリンパスブランドの製品は一時トップを行っていたことがある。一般的には社名を隠す日本メーカーは極めて少ない。黒子ビジネスを嫌う傾向が強いため、ビジネスチャンスを失ったことも多い。例えば、半導体の製造だけを受け持つファウンドリビジネスである。製造が得意な日本の半導体企業は、製造に特化するファウンドリビジネスに参入できなかった。水平分業という世界の流れに乗らず、いつまでも垂直統合に固執したため、ファウンドリだけのビジネスのチャンスを失った。

  台湾ビジネスは、格好よりも実を取る。黒子ビジネスを厭わずビジネスに徹してきた。ブランドを表面に出さなくても鴻海やTSMCのような製造専門の世界的な企業に成長したところがある。

  今回の台湾エクセレンスはブランドを全面的に押し出す作戦であり、これまでの台湾のビジネス戦略とは明らかに違う。消費者向けの製品を作っているエイサーやASUSなどはブランドを重視する。さらに電動自転車や精密機械も設計・製造できる力をつけてきたようだ。台湾がブランド力を確立するには、低コストで生産する製造力だけではなく、ソリューション提案もさることながら、さらにビジネスモデルの創出もできれば鬼に金棒となる。そのためには日本の製造業よりはITベンチャーとのコラボの方が、世界的にはビジネスを成長させるための面白い組み合わせになる可能性がある。

2017/06/18