ARMプロセッサのWindows10パソコンが現実に
2017年6月 3日 21:21

パソコンでは、Wintelと言われるくらい、インテルとマイクロソフトとの結びつきが強かった。またAMDのようにIntel互換機を作る企業はいても、市場シェアはインテルが圧倒していた。このような市場にインテルではない、ARMCPUコアを集積したパソコンが登場するのである。しかもWindows 10OSを搭載している。ARMは、ソフトバンクが3兆円強を投資して買収した英国ケンブリッジを本拠とするCPUコア設計会社。

 これは、5月末にComputex Taipei において、マイクロソフトとクアルコムが共同で提供するモバイルパソコンについて発表したもの。クアルコムのSnapdragon 835ARMアーキテクチャをベースにしており、x86アーキテクチャ以外のCPUがパソコンに載るのはこれが初めて。Windows 10で使う代表的なアプリケーション、例えばマイクロソフトのオフィスなどをサポートしている。

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図1 クアルコムのSnapdragon  出典:Qualcomm Inc.


このアーキテクチャのパソコンは、ASUSとヒューレット-パッカード(HP)、レノボのパソコン大手3社から入手可能で、ファンレスのモバイルPCとなる。それはプロセッサとなるSnapdragon 83510nmプロセスで設計し、これまでの設計より消費電力が25%低く、35%も小さいからだ。その分バッテリ動作時間が長くなり、終日、常時接続・常時オン動作が可能になるという。10nmプロセスは、これまでのTSMCではなくサムスンがファウンドリで製造したようだ。

  クアルコムのSnapdragon 835には、ARMv8-A64ビットアーキテクチャCortex-A73ベースとみられるKryo 280 CPUコアを中心に、GPUAdreno 540)、DSPHexagon 682)、ISPSpectra 180)、x16 Gigabit LTEモデムなどを集積している。ダウンリンクは最大1Gbpsをサポートしている。Wi-Fi接続では、802.11acに準拠し2×2MIMOに対応している。

  レノボのPCおよびスマートデバイス、民生部門のジェネラルマネージャー兼VPのジェフ・メレディス氏のコメントをクアルコムは掲載し、「今日のパソコンユーザーは、バッテリ寿命をより長く求めてきており、いつでもどこでも使える能力も必要としています。加えて、これまでのノートパソコンよりも軽くて持ちやすいものが求められています」と述べている。今回のマイクロソフトとクアルコムテクノロジーズ (Qualcomm Inc.の子会社)の共同開発技術は、パソコンの未来を変える新しいクラスのデバイスだと絶賛し、ワクワクしていると語っている。

  Snapdragon 835CPU2.45GHzで動作し、DSPはセンサハブの役割を持つ。ISP(画像信号プロセッサ)は2個集積され、カメラの解像度によって使い分ける。デュアルのカメラでは最大1600万画素だが、カメラ1台分だと最大3200画素まで処理できる。GPUAPIは、OpenGL ES3.2OpenCL 2.0フル、VulkanDX12をサポートしている。Wi-Fi802.11a/ad/n/a/b/gをサポートしており、その周波数帯も2.4GHz5GHz60GHzと多岐にわたる。最大速度は867MbpsBluetooth 5.0GPS/GNSSもサポートしている。

  実は、クアルコムは昨年12月にマイクロソフトとノートパソコンとタブレットの開発で技術提携を結んでいた。さらにこの3月にもHPC(高性能コンピューティング)でも両社は提携を結んでいる。クアルコムのSnapdragonCPUコアはARMをベースにしたものだけに、ARMコアがスマートフォンから、タブレットやパソコン、さらにはスーパーコンピュータやサーバ向けなどのチップにも使われていきそうだ。

  SnapdragonCPUコアだけではなく、グラフィックスプロセッサやメモリも集積しており、マルチコアのような拡張性が優れている。CPUとメモリはできるだけ近い位置に置きメモリのバンド幅を1024ビットや2048ビットなどへと広げることで高速化を図れるため、1チップ上に集積するメリットはハイエンドコンピュータでも大きい。さらにクアルコムはFPGAのザイリンクスとも技術提携しているため、さらに高速化を図るとすれば、ソフトウエアではなくFPGAのハードウエア回路で演算を実行できる。クアルコムはハイエンドコンピュータにも進出するのは間違いない。ARMCPUコアはますます高速化が求められることになる。

                               (2017/06/03