4年連続増収・増益が見えた国内半導体メーカー
2016年5月26日 23:43

リーマンショック後の電機産業は低迷が続き、回復したと宣伝しているところでさえ、減収・わずかな増益という企業が多い。そんな中、3年連続増収・増益で成長路線を行く半導体メーカーがなんと日本にいる。減収・増益とは、売り上げが減りながらも、リストラと経費削減の効果で利益を何とか出しているのにすぎない。つまり全く成長していない企業が多いということだ。

 

日本の経済がほとんど成長していない中で、成長しているということは、世界と十分に戦っていけているという意味である。その成長している企業とは、新日本無線(NJR)という中堅の半導体メーカーだ。2016年も増収・増益の見通しを崩していない。

 

524日に東京有楽町の国際フォーラムで開催されたUMC ジャパンフォーラムの招待講演(1)で、新日本無線(NJR)の小倉良社長が2012年に赤字を出したが、その後、増収・増益でやってきた、その秘訣を語った。肝はUMCとのコラボレーションだった。小倉社長は自らを「戦略もなく行き当たりばったりでやってきた。戦略的なUMCを利用させてもらっている」と自嘲するのだが、とんでもない。アナログのファウンドリとしてのUMCをうまく活用し、例えばスマートフォン向けのMEMSマイクを年間2億個も生産、出荷している。

 

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1 新日本無線 代表取締役社長の小倉良氏

 

小倉社長のすごいところは、自社の強み、弱み、市場トレンドなどを営業の意見を聞きながら分析し、成長シナリオを描くところだ。いわばSWOT(強さ・弱さ・チャンス・脅威)分析をしっかり行っている。残念ながら日本の大手電機の経営者は本当に自社の強み、弱み、市場トレンドをきちんととらえているだろうか。市場と自社のテクノロジーを理解しているだろうか。

 

NJRは、リーマンショックの余波がどっと押し寄せた2012年の大赤字までAV機器向け半導体の比率が30%を超えていた。それらを減らし、伸びそうな車載・工業用・通信(スマホ)を増強してきた。Si CMOS456インチと「みんなが手放したウェーハサイズ」(小倉社長)であり、このほかにも6インチGaAsラインやSAW(表面弾性波)フィルタ、MEMSなどを手掛けている。スマホ用では、送信と受信を切り替えるためのスイッチとなるGaAsLTE3Gなど周波数帯を選択する場合のSAWフィルタ、音声認識率を上げるために周辺騒音を打ち消すMEMSマイクなどを生産している。CMOS回路のアナログ・デジタルをはじめとする8インチ以上の大きなウェーハに対してはファウンドリとしてのUMCに製造を依頼する。

 

一方のUMCも従来のデジタルだけではなく、アナログやRF(高周波)、MEMS、パワーなどを手掛けるようになり、しかも従来のストラテジックパートナーだけしか付き合わなかった昔の殻を破り、さまざまな企業とパートナーになるように変わってきた。このことはNJRにとっても喜ばしいことで、2009年以来パートナー同士のWin-Winの関係を築いてきた。

 

小倉社長は「従来通りの製品しか設計・生産していなければ売り上げは必ず下がる。だからコストダウンなどでシェアを上げるデフェンス戦術で、落ちた分をカバーする。しかしそれだけではなく、成長を見込める分野へ広げていくことが大事」と述べた。成長のエンジンとなるのはクルマであり、産業機器である。

 

クルマ用と言ってもNJRの得意な製品はアナログやパワー、MEMSであるから、クルマのダッシュボードのヘッドアップディスプレイやフロントディスプレイ用の電源、すなわちパワーマネジメントICや、オペアンプ/コンパレータ、その他などである。これらはクルマ用にはもちろん、産業機器にも使われ、成長してきた。第4世代のプリウスには30以上のチップが搭載され、トヨタ自動車工業の広瀬工場から優れたサプライヤーとして表彰されてきた。つまり、自分の得意な製品を成長分野に売り込み製品売り上げを伸ばしてきた、といえる。

 

どうやって成長分野へ伸ばせたか。0.5~0.6µm以下の微細化が必要な製品はUMCを活用し、それ以上の寸法のデバイスは自社で生産する。微細化投資する力がなかったからだという。だからこそ、身の丈に合った戦略を立てている。UMCとの共同開発の例として、8インチのアナログで高耐圧製品UD50では、50Vの高耐圧プロセスやアナログ、ロジックのCMOS ICなどを共同開発した。しかも、少ないマスク数で他社並みの性能の製品を生産することでコスト競争力が付いた。ローノイズCMOSオペアンプでも共同でプロセスの改善に挑み、最高性能のチップの量産に成功した。またGaAsスイッチはコストがかかるため、RF-SOI技術の導入によりコストを下げていく。

 

小倉社長は「UMCは話のできる相手であり、不測の事態でも協調できる相手として信頼している。品質が良いのは当たり前で、日本UMCには感謝している」と講演で語っていた。

 

台湾のプロ野球チームが日本と試合して、最後に観客に対してお辞儀をしていた姿を目に焼き付けている野球ファンは多いだろう。台湾には親日家が非常に多い。UMCP.W. Yen社長兼CEOは半導体ビジネスを成功させるコツとして、宮本武蔵の映画と言葉「我以外、皆我師(自分以外の人や物でさえ、全て教師である)」を紹介した。謙虚な態度で学ぶことの大切さを武蔵から学んだとして、Yen社長は謙虚な姿勢を失わない。これこそ、日本の経営者が見習わなくてはならない点ではないだろうか。かつて、米国半導体が日本にやられて日本を学ぶ経営者が現れたが、今の日本の大手企業経営者は米国や台湾から何かを学んだのだろうか。

                                                                  (2016/05/26)