240枚/秒のハイビジョン映像を表示できるIP
2016年3月 6日 20:47

野球やテニスのボールを追いかける映像シーンや、F1レースで時速200kmを超す猛スピードのレースの映像シーン、山の上からコースを一気に滑り降りる平均時速100km以上のスキー滑降競技、高速で動くシーンはやはり高速のフレームレートで見ることができると美しさは際立つだろう。これはもはやスマホの世界にやってきた。

 

超高解像度の4Kディスプレイで、従来の2倍高速の60フレーム/秒(1秒間に60枚の絵がパラパラ漫画のように変化する映像)で動かす動画を見ることのできる半導体IPが米国のベンチャー企業、アラサン(Arasan Chip Systems)社からリリースされた。従来の1080pのハイビジョン仕様だと、さらに4倍の240フレーム/秒という超高速動作のシーンを見ることができる。さぞかし、ブレることなく、くっきりときれいな高速シーンを楽しめるだろう。

 

アラサン社が開発したこの半導体IPは、SoC(システムオンチップ)集積回路(IC)に載せる回路ブロックのことである。今やSoCにはCPU(プロセッサ回路)やメモリ、GPU(グラフィックス処理回路)だけではなく、外部のチップと接続するためのインタフェース回路なども集積されている。これらの回路ブロックは、それぞれ独立した知的財産であるためIPIntellectual Property:知財)と呼ばれている。今回、アラサン社が開発したIPはこの高速インタフェース回路である。ディスプレイやカメラと直結でき、わずか3本ないし4本の配線接続でディスプレイやカメラとつなげることができる。

 

今回アラサンがリリースしたIPは、カメラ用のMIPI C-PHY v.1.0とディスプレイ用のMIPI D-PHY v.2.02種類で、これらをSoC半導体に組み込むと、プロセッサとカメラやディスプレイを直結して高速・高解像度の映像を映したり見せたりすることができる。それぞれ、最大17Gbps18Gbpsという高速のデータ速度をサポートしている。これほどの速度なので、4Kディスプレイだと60/秒の映像や、1080pのハイビジョン映像だと240/秒と高速の映像を示すことができる。

 

スマートフォンをはじめとする携帯機器では、MIPIMobile Industry Processor Interface)と呼ばれる高速シリアルインタフェースを使うことが多く、スマホ内部の配線本数を減らし、内部の配線をすっきりさせている。かつてはコンピュータ同士やコンピュータ内部でも配線のお化けでぐちゃぐちゃの塊が多かった。しかし半導体ICが高速になるにつれ、配線本数をできるだけ減らすことができるようになった。従来の数十本のパラレル配線からわずか24本だけのシリアル配線に代えることができるようになったからだ。その分、データの送受信は高速に2本線だけでデータを送るようにしなければならなかったが、ICの高速化でそれが可能になった。

 

スマホの中もコンピュータ(プロセッサ)が入っているから同様なのだが、何せスマホは小さい。だからこそ配線本数を減らしたい。このために高速シリアル配線のインタフェースが必要となったのである。その代表例がMIPIだ。MIPIがあればクアルコムのチップでもメディアテックでもどこのプロセッサでも使える。今回アラサンがIPをライセンスするのはプロセッサとディスプレイやカメラをつなぐMIPI仕様のインタフェースである。IPを使うのは半導体メーカーだけではなく、スマホメーカーやカメラ、ディスプレイメーカーも使える。

 

IPをライセンス供与するビジネスを行っているIPベンダーには、かつてコンピュータやシステムのアーキテクチャに携わってきた人たちが多い。コンピュータ事業がサービスも取り込んだ総合ビジネスへと形態を変えるにつれ、ハードのエンジニアはコンピュータシステムから半導体設計アーキテクト、さらにはIPアーキテクトへとビジネス業態は変わるものの、業務内容は変わっていないエンジニアも多い。IPビジネスは売上こそ大きくないが、ハードウエア技術のキモを握る業種になりつつある。

                                                          (2016/03/06