GoogleがAlphabetに変える真意は?
2015年8月12日 21:37

Googleが社名をAlphabetに変え、しかもホールディングカンパニー(持ち株会社)になると発表した(参考資料1)。Alphabetというホールディングカンパニーの下に、GoogleYouTube、新企業をインキュベートするためのX lab、ドローンを使った配送システムのWing、投資会社としてのVentures and Capitalなどがぶら下がる格好になる(1)Alphabet Inc.CEOは創業者の一人、ラリー・ページ氏(写真左)、社長はもう一人のサーゲイ・ブリン氏(同右)が担う。

page_brin.jpg

Fig.jpg

 図1 持ち株会社の構造 今後さまざまな事業会社が横展開する

Googleはなぜこんな面倒くさい組織変更を行うのか。Googleの狙いは二つある。一つはホールディングカンパニーにすることで将来、損失の出た事業部門があり、一方で大きな利益を生む事業部門がある場合、税金は大きな利益の部門が背負うことになる。しかし、ホールディングカンパニーにすると、赤字の部門と黒字の部門を相殺して利益は小さくなり、税金対策になる。もちろん、こんなケチなことのためにホールディングカンパニーにする訳ではない。もう一つの狙いである事業の拡大が最も大きい。

 

会社という組織は、定款が必要で、定款から外れる業務を遂行することはできない。事業を広げる場合には、株主総会で定款を変えることを了承してもらう必要があるが、定款を書き替えなければならない。しかし、この手も実はセコイ。新規の成長事業のたびに定款を書き直さなければならなくなるからだ。ホールディングカンパニーにしておけば、新規の成長が見込める産業を創出したり、参入したりすることが容易になる。しかも、資金を提供するベンチャーキャピタル部門も用意している。

 

では、Googleもとい、Alphabetはどのような事業に乗り出したいのか。まずはインターネットを主たる事業としなくてもよい分野であろう。もちろん、今の成長産業でインターネットを外すことはできないが、それを主要な核とする必要はなくなる。これまでは検索をベースにインターネットを使う人を拡大し、広告モデルを適用することで成長してきた。インターネットを使う人を増やすために、LinuxベースのアンドロイドOSを無料で提供しスマートフォンを誰にでも作れるように開放した。YouTubeを手に入れ、動画を見る人を増やし、やはり広告モデルを適用した。Google Mapを作成するためにクルマを改造しただけではなく、自動運転までも可能なようにした。

 

こうなると、ソフトウエアやインターネットだけではなく、ハードウエアも作りたくなる。もう手放しはしたが、かつてモトローラモビリティを買収してスマホやタブレットも作った。独自のドローンでさえ作れるレベルに来た。自動運転車の生産もいよいよ視野に入る。当然、電気自動車だろうし、自動車メーカーを買収する可能性も高い。

 

ハードとソフトを手に入れると今度は得意なサービスをもっと進めることができる。写真を無料で無制限保存できるサービスGoogle Photoや、行動を予め予想してサービスを提供するGoogle Nowなどのサービスも最近立ち上げた。Google Nowは、アップルのProactive Assistantと同様に、例えば朝起きると、その日の天気を知らせ、道路や鉄道の混雑状況を知らせてくれるという「行動先読み」サービスだ。アマゾンの『あなたの読みそうな本』を勝手に見つけてくれるサービスと似ている。

 

Google NowProactive Assistantのような機能は、マシンラーニングを使った演算セントリックな機能であり、センサと一緒に使うと新しいエクスペリエンスを提供する機能となりうる。最近、こういった機能をコンテキストアウェアネス(Context awareness:文字通り、文脈を読み解釈し次の手を理解するという意味)と呼んでいる。センサによって人の行動パターンを知り、マシンラーニング装置で演算を行い、その人の次の行動を予測してサービスを提供する。まさに、ソフトウエアとハードウエアとサービスを一体化して使う機能である。

 

Googleは今後、ハードウエアを強化するに違いない。ソフトウエアとサービスは得意とするところだからだ。では、どのようにしてハードウエアを強化するか。最も可能性が高そうなことは、ハードの企業を買収することであろう。先ほど述べたように、モトローラ買収で一度失敗しているから、今度は慎重にやるだろう。

 

では、どのようなハードウエア事業を設立するのか。まずはドローンの設計会社、次に自動運転のEV(電気自動車)を作れる企業、さらにはドローンにせよ、EV車にせよ、ハードウエアとソフトウエアのカギを握る半導体の設計会社、を設立することになろう。今やスマホのアプリケーションプロセッサが大きな地殻変動を迎えており、Qualcommの天下が崩れかけている。Googleが他社と差別化するための半導体チップは、おそらくマシンラーニングをリアルタイムで行えるような演算リッチながら、専用のプロセッサ+FPGAを持つシステムLSIになろう。どのような設計会社が可能性高いかに関しては、発言を差し控えておく。いずれにせよ、ハードウエア会社はファブレスであることは間違いない。電子機器ならEMS、半導体チップならファウンドリが担ってくれるからだ。少ない投資でハードを手に入れられる時代になってきたことが、Googleにとっては追い風となる。

 

参考資料

1.    Google Announces Plans for New Operating Structure (2015/08/10)