ボブ・ディランが歌う、急変するIT産業
2015年7月27日 23:19

IT/エレクトロニクス/半導体産業はこれだから面白い。変化は目まぐるしく速い。つい数ヵ月前まで、世界の勝ち組と崇められたクアルコム社が社員の15%にあたる4700名のリストラ案を準備するようになった。ついこの前まで、中国のスマホ市場でトップに君臨していたサムスンが今年の第1四半期には4位に転落した。世界市場ではまだ1位だが、転げ落ちる時間は速い。かつてのノキアがそうだった。ノキアの前はモトローラがそうだった。パソコンのインテルは、パソコンの衰退がはっきりした今、中国のベースバンドチップとモバイル用のプロセッサメーカーのスプレッドトラム社の株式の20%を取得、ワイヤレス充電技術の開発など、さまざまな手を打っている。

 

テクノロジーとしても、半年前まで、世界中の半導体メーカーがこぞって、16/14nmプロセスにはFinFETテクノロジーを採用し、当たり前のように性能向上を期待していた。今、事態は変わりつつある。歩留まりがどうにも悪く、生産性が上がらなくなっている。代わって、22nm FD-SOIという別の技術が注目を集め、グローバルファウンドリーズ社は両方の技術を持ち始めた。

 

端末デバイスでは、タブレットが飽和してきた。何が代わって出てくるのか。それも見えつつある。最も有力なデバイスはウェアラブルやヘルスケアなどの端末ではない。やはりスマホである。それも画面が5~6インチのファブレット(Phablet)と呼ばれる大きさだ。ビデオを見るときはタブレットのように画面が大きければ大きいほど良いが、メールやSNS、通話になると最適な画面サイズが必要になる。これを提供するのがファブレットである。スウェーデンのエリクソン社が発行したEricsson Mobility Reportでは、消費者にアンケート調査した結果、用途によって画面サイズに最適値があることを報告している(1)

 

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1 スマホの画面サイズには最適値がある 出典:Ericsson Mobility Report

 

サービスの一つ、広告の世界では、パソコンからスマートフォンを使った広告の世界がのしてきた。スマホは便利なことに、ブラウザを立ち上げ、URLを入力するといった面倒な操作をすることなく、アプリで望むページに即座にアクセスできる。即座に個人を特定することもできるため、個人を狙ったビジネスを展開しやすい。もちろんそれだけに個人の秘密を絶対に守るセキュアな環境がマストである。

 

さまざまな分野の方たちが同じコンセプトを違う言葉で語っている好例がIoT(インターネットオブシングス)だ。IoT端末を使って、工場の生産性を上げようと考える人たちは、それを「インダストリー4.0」と呼び、IoT端末を使って変動の少ない電力システムを作ろうと考える人たちは「スマートグリッド」と呼ぶ。IoT端末から集まった大量のデータから想像もしなかった新しい発見を支援するツールを、ビッグデータを呼ぶ。インターネットというサイバーの世界と、センサで実世界(フィジカルなスペース)のデータを取りそれを実世界の活かすサイバーフィジカルシステムも同じ概念だ。製造業はモノを作って販売する、というビジネスモデルしかできなかったが、IoT端末を使って壊れないジェットエンジンや風力タービンを製造して従量制の課金を直接の顧客の上のレイヤーの企業から行うインダストリアルインターネットは、ビジネスモデルを変えるためのIoTシステムである。米国ではもうIIoT(工業用のIoT)という言い方が定着しつつある。

 

この世界は変化が速く、少し前に学んだことがすぐに陳腐化する。全く目が離せない。このような世界で、日本の大企業がすばやく勝負できるだろうか。できないなら、出来るようにするためにどうすればよいかを考え実行しなければならない。

 

15年ほど前、台湾のエイサーが社員数1万人を超えたのにもかかわらず、ディシジョンが速かった。そこで来日したスタン・シー会長にその理由を尋ねた。答えは、会社を完全に分社化し、各部門長に責任と予算権限を与え、会長はビジネスに口を出さない、ことであった。会長として、報告を聞くだけに徹しているのである。残念ながら日本の経営者は会長、相談役になってもすぐに口を出す。これでは社員にとって誰が社長なのかわからない。社員のモチベーションはぐっと下がる。大企業ほどこの傾向が強いから、企業は活性化しない。

 

モバイルの世界は、あまりにも速い。つい1年前は注目を集めた、中国の小米科技はもう伸びが鈍化している。3Gモバイルで一世を風靡したクアルコムがリストラを計画しているとは、1年前には想像もつかなかった。

 

ビジネスがあまりにも急速に進むモバイルの世界を、50年以上も前にボブ・ディランが歌で表現している。The times they are a-changin'(日本語では『時代は変わる』)という歌がそれだ。歌詞の最後の部分がまさに、時代の変化の速さを物語っている。

 

The slow one now will later be fast いま遅くてもいずれ速くなる

As the present now will later be past 今が旬でもいずれ過去になってしまうから

The order is rapidly fadin' 順番は急速に色あせ、意味がなくなる

And the first one now will later be last 今がトップの者はいずれビリになろう

For the times they are a-changin' だって時代が変わりつつあるから

 

つたない訳詞で申し訳ないが、意味をつかんでいただければありがたい。

                              (2015/07/27)