「電源規制レベルVIに気を付けて」
2015年6月28日 12:40

電源規制レベルVIをクリヤしなければ米国に電子機器を輸出できなくなる。「日本企業がそうならないようにお手伝いしたい」。こう述べるのは、デジタル電源を引っ提げて日本でのビジネスを進める米CUI社。日本とは25年の付き合いだと言う同社CEOMatt McKenzie氏は、ローパワーからハイパワーまでの製品ポートフォリオを揃え、日本市場をさらに強固にするためにこのほど来日した(1)

 

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1 CUICEOMatt McKenzie() 左は同社Global Marketing担当のJeff Schnabel氏

 

デジタル電源とは、デジタルで電源電圧を自在に制御できる電源、という意味で今は使われることが多い。当初は、電源回路の中をデジタルで制御する方式をデジタル電源と言っていた。電源回路は元々、出力の電圧変動をアナログ的にPWM(パルス幅変調)でパワートランジスタの入力を調整することで安定な直流電圧を供給する。パルス幅変調をアナログではなく、さらに非常に細かいパルスの数で幅を調整する方式が、かつてはデジタル電源と呼ばれた。その細かいパルスを作り出すのがDSP(デジタルシグナルプロセッサ)と呼ばれる、積和演算専門のマイクロプロセッサである。DSPが得意なテキサスインスツルメンツ(TI)は、DSPの新しい応用として、デジタル電源を提案した。

 

今や、マイコンやプロセッサを使ってデジタルコマンドで供給電圧を調整する電源をデジタル電源(Digital power supply)と呼ぶことが圧倒的に多い。電圧を供給するシステムの消費電力を削減するためである。ここではDSPを使うことなくコストを削減できる。電源への要求デジタルのコマンドはPMBusと呼ばれるプロトコルを利用して通信する。

 

CUI社は、電源機能をコンパクトにモジュールにまとめるモジュールや電源と電源用部品のメーカー。AC-DC電源に加え、DC-DCコンバータも手掛ける。一般の家庭やビルなどで使われている100Vの交流(AC)を12V5V24Vなどの直流電圧に変換する電源では1Wから、12kWといったサーバーラック用の電源までカバーする。DC-DCコンバータだと0.25Wの小型から600Wまで手掛ける。LEDの電源となるLEDドライバや、IGBTパワートランジスタを駆動するIGBTドライバもある。

 

狙う市場は、通信インフラ系やネットワーク機器、データセンターのサーバー、医療機器、工業機器など。製品ポートフォリオを広げることができたのは、高出力電源を設計・製造していたカナダのテクトロール(Tectrol)社を買収したことによる。もともとCUIは電力の低い電源を得意としてきた。この買収によって、製品ポートフォリオが広がっただけではなく、標準品の変更によるセミカスタム電源やカスタム電源に対する高出力製品にも対応できるようになった。

 

例えば、AC-DC電源として最も出力の高い3kW1Uラック対応の電源「PSE-3000-48」ファミリを先日リリースしている。標準的な1Uラックに収まる40.64mm×101.6mm×355.6mmの大きさで33.48W/立方インチの電力密度を持つ。直流48V出力だが、42V~55Vの範囲で調整できる。通信インフラやサーバー、ネットワーク機器などエネルギー削減の要求が強い分野に向く。50%負荷における変換効率は94%と高いからだ。この製品こそ、テクトロール社のリソースを使って開発したもの。1U19インチの電源シェルフには4基の電源を搭載し12kWの電源を並列運用できる。デジタル制御用の標準バス、PMBusバスを内蔵している。

 

デジタル電源は、長い間、なかなか広まらなかった。電源内のフィードバック回路にまでデジタルで制御することのメリットを見いだせなかったからだ。

 

デジタル電源の普及と、セカンドソースの確保を目的として、CUI社は村田製作所、スウェーデンのEricsson Power Modules社と一緒にAMPArchitects of Modern Power)グループと呼ぶコンソーシアムを設立した。通信インフラやネットワーク機器、データセンター向けにデジタル電源を普及させるための標準仕様を設定する。さらに互いにセカンドソースとなり、いろいろな顧客やコントローラ企業と次世代電源について共同で開発、議論する。

 

インテルのマイクロプロセッサやFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)など最も微細な製造技術を使う半導体チップでは、1V程度の電源電圧で10A程度もの電流を流すことが多くなってきた。このため、チップのそばに電源を置かなければノイズなどの問題で正常動作が難しい。電源電圧を下げなければ消費電力を許容範囲に収めることができないためだ。そこでPOLPoint of Load)電源も登場したが、CUI社はデジタルPOL電源も持っている。最近の製品例ではAMPグループが定めたteraAMP標準に準拠した90A1V出力のPOLデジタル電源(DC-DCコンバータ)がある(2)。出力電圧は0.6V~1.8Vで変えることもできる。モジュールの大きさはわずか、50.8mm×19.11mm×9.47mmで、4個並列接続して360Aまで拡張できる。

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2 1V90A出力のPOL電源モジュール 出典:CUI

 

米国ポートランド市郊外にある本社を拠点とするCUI社は、日本の顧客にレベルVI規制に気を付けて、と注意を喚起する。これは米国のDoE(エネルギー省)が定める消費電力に関する規制であり、これまではレベルV規制までだったが、2016年の2月からは一段と厳しいレベルVIに準拠した電源を持つ電子機器しか、米国へ輸出できなくなる。これは出力電圧に応じて規制される消費電力を規定した仕様である。動作時の平均電力効率と無負荷での最大消費電力を、出力電力に応じて決めている。McKenzie氏は、米国に輸出する日本の機器メーカーがレベルVIをクリヤできるように支援したいと述べている。

                                                                (2015/06/28