テクノロジーよりユーザーエクスペリエンスの時代
2015年5月12日 20:26

ユーザーエクスペリエンスの時代に来ている。テクノロジーよりも楽しいユーザーインタフェースが市場を支配している。もはや、何ナノメートルの半導体を使っているとか、月産何万枚のスループットの工場で生産されるとか、ほとんど意味をなさなくなってきた。CPUはクロック周波数を競わない。消費電力が大きくなるだけだからだ。

 

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図 タッチすると音の出るポスター、音の出る櫛、ピアノ音の出る本

ユーザーエクスペリエンスという言葉が使われるようになったのは、iPhoneが誕生してからである。iPhoneをはじめとするスマートフォンの画面の拡大縮小を2本指の操作(ピンチイン・ピンチアウトという)では、静電容量型タッチパネルを利用している。しかし、エンジニア、特に日本のエンジニアは、iPhoneが登場しこれを見た時、「新しいテクノロジー(技術)は何もない」と言い切った。その通り、タッチパネルの歴史は数十年に及ぶ。キーボードがなく、画面に映し出されるソフトキーボードで入力するが、これとてテクノロジーという点では何も新しいものはない。画面を90度傾けると画像も90度変わってしまう機能もついた。これとて、加速度センサで重力加速度を検出しさえすれば実現できることは容易に想像がつく。新しい技術ではない。昔からある。

 

ところが技術者ではない消費者や一般のビジネスマンから見ると、全く新しいテクノロジーを導入した携帯電話が登場したと思った。私はこんな楽しい携帯電話なら欲しい、と即座に思った。全く新しい画期的な技術は何もないiPhoneに、なぜ魅力を感じたのか。楽しさを表現しているからだ。これを最近では、ユーザーエクスペリエンスと呼ぶ。

 

日本のエレクトロニクス産業がダメなのは、新しい原理で動作する材料やデバイス、トランジスタ、半導体、部品などを「技術」と呼んでおり、ユーザーエクスペリエンスを新しい機能だと考えなかった点ではないだろうか。性能は、動作速度が速く、消費電力が低い、という能力を追求するが、それをテクノロジーだと錯覚していた。しかも、長い間、このことに気が付かなかった。今でも気が付かずに性能追求に一生懸命になってテクノロジーを開発しているエンジニアはいる。実は国家プロジェクトがそうだった。高性能・低消費電力・高集積・微細化、これらを先端技術だと錯覚していた。国家プロジェクトが失敗した要因の一つともいえる。


続く