買収されて良かった~日本企業では先端技術を開発させてもらえなかった
2013年11月20日 00:42

今年の8月、富士通のマイコンとアナログの部隊は米国のNORフラッシュ半導体メーカーSpansion(スパンション)に買収された。それ以来、旧富士通のマイコン・アナログ部隊は、スパンション・イノベイツと名前を変えた。米国のシリコンバレーを本社とするSpansionの日本法人という位置づけではなく、Spansionという傘の下にスパンション・イノベイツ(マイコンとアナログ)とスパンション・ジャパン(NORフラッシュ)が入る、という組織になった。

 

いわば、富士通セミコンダクターのマイコンとアナログ部門はSpansionの一部門となったのである。この8月、一体どうなるのか、不安の声をスパンション・イノベイツの社員から聞いた。彼らはSpansionの考え方を全く知らなかったようだ。このため、社長兼CEOJohn Kispert氏が日本の市場や富士通に対してどう思っているのか、旧富士通の社員は不安気に思っていた。

 

John Kispert社長とは何度か東京でもシリコンバレーでもインタビューをしているし、東京と米国との間での電話インタビューも何度かある。彼は、日本が大好きな人間で、特に真面目に貪欲に働く人間が好きだ。組み込みシステム向けのNORフラッシュの日本のエンジニアをいつも、ものすごく優秀な(よくtremendousという表現をする)人たちのおかげで、日本市場に食い込めている、と評している。同時に、どう彼らのモチベーションを上げるか、新しい面白い仕事(チャレンジングでもあるが)を与えることこそ、経営者が行うべき仕事だという。エンジニアは仕事に没頭でき、幸せ感に浸れるだろう。企業は人なり、という昔の日本の企業経営者がよく言ったことをJohnは実践している。

 

このほど、日本のスパンション・イノベイツの会見(主催はスパンション社)があり、日本人社長にスパンションと一緒になってから、シナジー効果は出てきているのかどうかを質問した。というのは、この会見では新製品を発表したが、旧富士通セミの製品の延長でしかなかったからだ。今の段階ではまだ、スパンションの技術を採り入れていなかった。つまり買収によるシナジー効果はまだ出ていない。

 

ところが、である。現在の製品の次の製品にはスパンション独自のMirrorBitテクノロジーを組み込んだマイコンを出してくるようだ。富士通時代なら、プロセス技術は55nm技術どまりで、これ以上のテクノロジーの開発も発展も期待できなかったため、エンジニアのモチベーションも下がってしまっていた。ところが、スパンションは40nmテクノロジー、さらに28nmテクノロジーも進めていく、と社内で言っているという。これによってエンジニアのモチベーションは上がってきた。「われわれは先端技術をもっと開発できるのだ」というモチベーションだ。

 

もし、富士通にいたままだと、先端技術の開発は許されず、エンジニアは悶々とした毎日を送っていただろう。買収されて良かったと感じているのではないだろうか。富士通セミコンダクターのエンジニアの生の声を聞く機会があれば聞いてみたい。

2013/11/19