セミコンジャパンには潜在的半導体ユーザーがいっぱいいた
2012年12月21日 23:17

半導体チップを作るための製造装置とそれに使う材料や部材の展示会であるセミコンジャパンが岐路に立たされている。半導体チップを作る工場を売却ないし閉鎖するようになってきたためだ。セミコンジャパンという展示会に来てもらうべき顧客は半導体メーカーのプロセス開発者であるからだ。かつては、プロセスエンジニアが装置を購入してきた。ところが日本の半導体メーカーはファブライトと称して製造を自ら弱体化させてきた。

 

プロセスエンジニアこそ、かつての日本の半導体をけん引してきたリーディングエンジニアだった。DRAMというメモリを大量生産していた頃は、メモリチップの設計と製造プロセスとは切っても切り離せない関係だった。だからこそ、プロセスエンジニアに買ってもらう製造装置を展示して動かしてみせるという意味があった。セミコンジャパンは1979年ごろに日本で開催され、今日まで続いてきた。

 

全盛期を迎えていた頃は、幕張メッセを全館借り切り、1~8ホールだけではなく縦に伸びる9~11ホールまで使った。今年は2~8ホールだけとなり、ブースの数は前年比12%減になった。セミコンジャパンを運営するSEMIジャパンは危機感を持つ。

 

製造装置を買っていたプロセスエンジニアは半導体メーカーを次々と辞めていった。プロセスエンジニアをリストラの対象とし、企業側は製造を放棄ないし弱体化させてきた。彼らはファブライトという言い方をした。ファブライトは製造設備を軽くするということである。しかし、日本の半導体メーカーが得意な分野は設計ではなく製造である。得意な技術を捨て、不得意な設計を残そうとしているのである。製造設備は1台数億円~数十億円するものもある。要は費用がかかるから製造を弱めようとしてきただけにすぎないのである。

 

「ここがヘンだよ、日本のITエレ業界!」シリーズの4回目で述べた資金調達できない経営者は、費用のかかる部門を切り離すしかできなかった。自分で資金調達に動かなかった、動けなかった。大田区や東大阪におられる一般のモノづくり経営者から見ると、資金調達ができない社長なんて信じられないだろう。できないから、費用のかかる分野が得意分野であるのにもかかわらず切っていった。これでは弱体化するのは無理もない。投資のお金が必要なら、投資家、金融関係、顧客など世界中を駆け巡って調達してくることが世界の経営者がやっている常識だろう。

 

半導体メーカー、特に製造部門が弱体化すれば、製造装置を購入しなくなる。だから製造装置の展示会は落ちぶれてくる。しかし、このまま手をこまねいてよいものだろうか。

 

一つのアイデアを提案しよう。これまでユーザーだった半導体メーカーのプロセスエンジニアを完全に無視して、製造装置をB2Bbusiness to business)ながら「最終製品」と再定義するのである。つまり製造装置を作る企業が最終的な顧客とする。となると製造装置を作るための部品や材料のメーカー、すなわちサプライヤが製造装置メーカーに技術や製品を展示する。半導体メーカーもサプライヤとなる。すなわち製造装置を作るためには半導体ICが欠かせない。ロボットアームを精度よく、高速で塵も出さずに動かすためには高精度な半導体は重要な部品となる。

 

現実に、セミコンジャパンに出展していた安川電機は、高速のロボットアームを使った部品のピック&プレースマシンを展示した。この高速ロボットアームは高集積半導体ICを使い、プリント回路ボード2枚にまとめることができたためだと、展示の担当者は述べている。

 

SEMICONJYasukawa.JPG

図 安川電機の超高速Pick & Placeマシンは、半導体ICが詰まった2枚のボードがカギ

 

半導体製造装置は立派な産業機械である。これまで長い間好調な業績を維持してきた米国リニアテクノロジーやマキシム、アナログデバイセズ、ザイリンクス、アルテラなどの半導体メーカーは、産業用分野をこれからの成長分野の一つとして重視する。さまざまな工場で使う機械やボードコンピュータ、産業ロボットなどは半導体ICの応用として安定成長している分野の一つである。日本の製造装置産業は半導体産業とは違い、国際競争力を持っている。トップテンランキングでも4~5社は入っている。東京エレクトロンや日立ハイテクノロジーズ、日立国際電気、大日本スクリーン製造、ディスコなど世界に誇れる企業は健在だ。

 

彼らは半導体チップを大量に使う半導体ユーザーでもある。だからこそ、SEMIはセミコンショーでの出展社として半導体メーカーを取り込むべきなのである。それを使うユーザーとしての安川電機、東京エレクトロン、アドバンテストなどなど、世界的な産業機械企業が君臨する。セミコンショーに半導体メーカーが出展し、機械メーカーに売り込むのである。幸い、800社程度の潜在顧客がこのショーに来ている。半導体メーカーにとってはビジネスチャンスが転がっていることになる。

 

半導体メーカーはICチップの使い方やカスタマイズするためのツールも一緒に売りこめるというチャンスになる。製造装置メーカーと半導体メーカーは互いに異なる立場から相補いながら未来の装置を描き、それに必要な半導体チップを議論する。ソフトウエアを駆使したフレキシブルな製造装置や製造装置同士をつなぐEtherCATCC-Linkなどの通信インターフェースにも半導体を売り込める。成長の期待は大きいのではないだろうか。幸い、日本の製造装置が世界的にも強いからこそ、弱くなった半導体メーカーとのコラボは日本の力を底上げしていく可能性はある。

2012/12/21