進歩するための二つの言葉
2012年10月 3日 21:59

8月に米国のソフトウエアベースの計測器や組み込み設計システムを開発しているNational Instruments社主催のNIWeekへ行って、書き足らないことがまだある。プレゼンが始まる前にスクリーンに流れるいくつかの言葉の中には、今の日本に役に立つものが多い。印象に残った二つの言葉を紹介しよう。

 

学ぶことをやめる者は年寄りだ。たとえ20歳であろうと、80歳であろうと

 人生いくつになっても学ぶという姿勢が大事なのである。以前NHKテレビで見たのだが、92歳のお年寄りの脳が成長していることが見出されたという。その方は、90歳になってから中国語の勉強を始め、学ぶことが楽しくて仕方ないと語っていた。

 

脳内にあるニューラルネットワークの神経細胞のつながりは、脳を使わなかったり、酒を飲んだりすると確実に切れていくと言われている。酒は飲んでも翌日また頭を使って仕事をすれば神経細胞はつながるため、若いうちの脳は退化しないように見える。ただ、その生活を60歳~70歳になってあまり脳を使わない生活を送っている状態で酒を飲み続けていると退化する恐れが十分ある。

 

酒はともかく、脳を使うというか、常に学ぶことをしていると新しいアイデアが次々と沸いてくることは確かだ。とかく若い柔軟な頭脳の時に勉強すればその勉強が身につくと言われるが、歳とは関係ないだろう。日本航空を立て直した稲盛和夫さんは今年80歳だ。日航の問題を把握し、解決案を考えさせると同時に的確な指示を与えてきた。考え、学ぶことができた。実際には大変お疲れになられたことだろう。

 

逆に若者が考え、学ぶことをやめたら、絶対に年寄りには勝てない。そのような若者だらけになったら国は衰退していく。若者の特権はやはり体力である。体力にモノを言わせて年寄りに負けないほど一所懸命勉強し、アタマを使って常に考える習慣を身につければ年寄りには勝てる。次の日本をリードできるのはやはり若者だ。学ぶことをやめたら年寄りだという言葉は真実をついている。



リスクを採らないというリスクほど大きなリスクはない

 リスクを採らないように採らないようにとして穏便に済ませようとすればするほど、それが積み重なっていけば大きなリスクになってしまうという意味である。問題を先送りすればするほど次第に経費がかかったり、却ってリスクが高まったりする。特に、日本の官僚機構、大企業の仕組みなど、出世した者ほどリスクを採らずに先延ばしにしようとする傾向が強い。2~3年で任期を全うすれば手厚い退職金や年金が待っているからだ。官僚や経営陣はリスクを採らない方が得する仕組みになっているのである。ここにメスを入れなければいつまでたっても借金は膨大になり、子や孫の世代が借金を払うことになる。払えなければ国家や会社は倒産の危機を迎える。

 

会社の方が国よりもまだましだ。資金を提供した銀行や株主が黙っていない仕組みを持っているからだ。今の日本国家にはそれがない。それでも、あとになってリスクを採らなかったばかりに現状の経営が悪化しどうにも手をつけられなくなった時のリスクの方がよほど大きい。売却したい部門は安く買いたたかれる。残った部門でさえも足元を見られ買いたたかれる。日本の借金である国債の問題も実はこういったリスクを負っている。

 

リスクは資金が豊富にあるうちに評価し、リスクを見込んだ原価計算をし直し、万が一のことがあっても組織を維持できるように正しい評価と計算をしておく必要がある。例えば、原子力エネルギーは安いという宣伝文句が嘘であることが3.11でわかった。安全を確保するための技術を使い、リダンダンシー(冗長構成)や誤り訂正技術、フォールトトレラントなどを駆使し、万が一の場合に備えて保険を強固にすると、実は決して安くはない。

 

IBMが環境対策に資金を投入し、工場内から有毒物や外のありそうな物質を絶対に出さないという方針で工場管理をしていた、という話をIBMの方から聞いたことがある。なぜコストのかかる環境対策にそれほど一所懸命になるのか、伺った。IBMは有毒物を工場外に出してしまった時のリスクを考慮したコスト計算を行っていた。そのリスクは、場合によっては会社の存続にかかわるリスクかもしれない。それよりも環境対策を万全にして有害物を工場敷地から出さない、ということにコストを費やす方が結局は安くなる、ということだ。

 

残念ながらわが国の原発の安全対策は不十分であり、今回被害に遭われた方々に対する補償なども原価計算に含める必要がある。これがリスクを採る安全対策になる。つまり、リスクを含めた原価計算をしなければ企業として存続できないはずなのである。それ抜きでコストを出すことには全く意味がないのである。このように計算し直すと、原子力の1kW当たりの電力はこれまでの計算値よりもずっと高くなるはずだ。それを国民に示すべきであり、それがないからいつまでたっても政府・行政不信になる。

 

リスクを採らないビジネスというものは本質的にあり得ない。ベンチャーを起業するリスク、企業を存続させるためのリスク、何にでもリスクはある。リスクを考えずに何かを事業を起こしてトラブルに見舞われると想定外という言葉で逃げる。リスクがあるからと言って問題を先送りしてはいつまでたっても解決しない。問題を先送りすることを英語で、Japanize(ジャパナイズ)というらしい。日本政府のやり方を指した皮肉である。

(2012/10/03)