MEMSベンチャーが装置まで作ってしまう時代に
2012年9月12日 00:25

先週、千葉市幕張で開かれたJASIS(旧分析機器展)2012において、手のひらサイズの超小型IR(赤外線)スペクトロスコピーを製作した英国のPyreos社を取材した。スコットランドのエディンバラに本社を置く同社は、小さな設備を持つMEMSチップの開発企業である。半導体のプロセス装置を使ってMEMSをこれまで作ってきた同社が手のひらサイズのIRスペクトロスコピー装置を作ったのである。

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図 右端の手のひらサイズのIRスペクトロスコピーで古いウィスキーと新しいものを識別


東芝やルネサスエレクトロニクス、富士通セミコンダクターのような日本の半導体チップメーカーは装置まで作ることはほとんどない。半導体チップを設計・製造、パッケージして販売するだけだ。しかし、今年のCESでは、半導体メーカーであるはずのインテルがウルトラブックパソコンやタブレットまで作ってアピールした。もちろん、インテルはパソコンメーカーを顧客とする半導体メーカーであるからこそ、パソコンを製造販売することはしない。パソコンやタブレットを作る実力があることを示したのでもない。パソコンやタブレットを顧客がカスタマイズするための開発ツールという位置付けで作ったのだ。

 

昨今の日本の半導体メーカーと海外の半導体メーカーの最大の違いは、水平分業か垂直統合かではない。新しい半導体チップを使って何ができるかを示せるか、示せないかである。半導体チップを使えば顧客は新しい未来のシステムを手に入れることができる。そのことを半導体メーカーが自ら顧客に示すのである。

 

今、日本の半導体メーカーはIDM(垂直統合型デバイスメーカー)からファブライトへシフトしようとしているが、残念ながらそれだけでは成長していくことは難しい。新しい商品を企画していく力が伴っていないからだ。結局、インテルやクアルコムのような大手半導体メーカーは商品企画力が優れているために独自ブランドの半導体企業としてやっていけるが、日本のメーカーがファブライト戦略を採っても商品企画力が伴わなければ、ファブレスやファブライトのビジネスモデルではなく、単なるデザインハウスにすぎないのである。

 

デザインハウスというのは、顧客の言う通りの製品を設計する企業である。本来なら顧客の名前のブランドで収めてもよいのであるが、顧客ごとに個別対応しながら半導体メーカーのブランド名を付けている。しかし、その実態は顧客の言う通りの設計図を書いてあげるデザインハウスである。これに対してファブレス半導体メーカーというのは、自ら商品を企画して自社ブランドで売り出す能力のある企業のことをいう。だから、自ら企画し設計した半導体を使えば、こんなことができる、あんなことができる、と顧客に対して訴求できる。このためファブレス半導体メーカーは顧客の先を行くのである。

 

ファブライトと称しながらデザインハウスと同じ設計をするだけなら、インドのIC設計者に設計を依頼する方が安くて良いものができる。日本の半導体企業が大きな間違いをしているのは、ファブライトと称しながら、簡単な製造は自社で行い、難しい製造は台湾に依頼する。そして設計力を強化している訳ではない。これでは世界とは互角に戦えない。商品企画力にかけているからだ。

 

商品企画力があるということは、自分たちの新しい半導体を使えば、こんなこと、あんなことができる、と訴える能力があることを意味する。しかも実際に作って見せる。顧客のいいなりで作るだけのデザインハウスなら、もはや世界との競争力が全くないということになる。

 

半導体メーカーのエンジニアよ、少なくとも半導体の勉強はもうしなくていい、システムの勉強をしてほしい。システムの勉強をしてシステムを理解し、それを顧客に提案できるくらいにシステム力を付けてほしい。これが世界の半導体メーカーに勝てる唯一の道である。システム力が出来て初めて、顧客への商品企画力もつく。

(2012/09/12)