デジタル経済への転換で成長を図る英国(前編)
2017年1月13日 23:35

英国には、アイザック・ニュートンやジェームズ・ワットなど技術革新につながる大発明・大発見を行ってきた歴史がある。イノベーションは英国の強みである。イノベーティブな伝統的は今でも生きている。半導体ビジネスで新しいビジネスモデル「IPビジネス」を打ち立てたARM、ハードウエアを変えずにソフトウエアを変えることで様々な機能を実現するマシン「コンピュータ」の概念を打ち立てたアラン・チューリング、音楽の世界でもビートルズやローリングストーンズなど英国から生まれた。ボブ・ディランでさえ、英国ウェールズ出身の詩人デュラン・トーマスから、その芸名をとった。英国にはイノベーションが実に多い。ARMは日本と米国で稼ぎ、コンピュータは米国で誕生した。音楽では米国で英国ミュージシャンの活躍が顕著に表れた。

  しかし、悲しいかな、それをビジネスにつなげることはあまり得意ではない。だからこそ、商用化があまり上手ではない英国では、大学の優れた研究をビジネスにつなげ、経済成長を図ろうとするプロジェクトを進めている。ドイツのフラウンホファー研究所をモデルとした産学共同の仕組み「デジタル・カタパルト」である。カタパルトとは、Y字形の小枝にゴムを付けて小石を飛ばすパチンコのこと。「勢いをつけて成長する」という意味合いを含んでいる。

  この政府主導のプロジェクトでは、大学や国立研究所の基礎研究を商用化する道筋をつけるために活動する。特に研究に経済的価値を創出しようとしており、ビジネスや業界とのつながりを強めることに集中する。そのためには、公的機関と地方行政、大企業(多国籍企業)、ベンチャー企業などが協力して面白い研究とビジネスをつなげ、エコシステムが働くように取り計らっていく。

 

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1 デジタル・カタパルトの主席コンサルタントだったPaul Egan

 

 具体的には、英国全土にある大学や産業界をつなげ、商用化するためのエコシステムを形成する。英国には、800年以上の歴史を持つケンブリッジ大学をはじめ、昔からアカデミアに強いという伝統がある。「さらに工業界のプレゼンスと、商用化のエコシステムがあり、それぞれが専門的な拠点を持っているため、それらの間でシナジー効果を創出できる」とデジタル・カタパルトのPrincipal Consultant(主席コンサルタント)であったPaul Egan(ポール・イーガン)氏(1)は言う。

 このデジタル・カタパルトは英国全土で11ものプロジェクトがあり、それらがつながっている。高付加価値製造(High Value Manufacturing)プロジェクトは全土にあり、ケンブリッジには高精度医療プロジェクト、スコットランドにはオフショア再生可能エネルギープロジェクトなどがある(2)。高付加価値製造では、航空機エンジンを製造しているRolls Royceから一人のベンチャーまでもが揃っている。さらに、細胞と遺伝子治療カタパルト、などがある。スコットランドにあるオフショアの再生可能エネルギープロジェクトでは、企業に電力エネルギーを提供し、研究開発に生かす。英国の中央にはエネルギーシステムのカタパルトがあり、ここに多くの発電企業が集まっている。ここでは発電に関するテクノロジー開発が行われている。

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2 英国全土に広がるデジタル・カタパルト拠点 出典:Digital Catapult

 

 金融の街、ロンドンには、デジタルエコノミーの企業が集まっており、ここでデジタル経済を強くしていく。2016年はじめのEconomist誌によると、英国におけるデジタルブロードバンド化はわずか7%しかなく、韓国の11%強に比べると低い。ここで古い経済をブロードバンド化したデジタル経済に変換していかなければならない。デジタル経済に変換すれば経済を活性化できる。簡単に言えば、デジタル・カタパルトとは、英国経済のデジタル化を支援することだといえる。

                              (後編へ続く)

                             (2017/01/13