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NEWS&CHIPS|国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト、メディアコンサルタント津田建二の事業内容~技術・科学分野の取材・執筆(国際技術ジャーナリスト)
標準化は「作る」から「従う」時代へ
2016年5月29日 09:30

新聞などで「日本発の標準化を作ろう」とか「オールジャパンで標準化を」といった文章を見ると、何と時代錯誤なのだろう、と常々思っていた。現在の標準化は、世界の産業界にいる企業がみんなで作り従うものに変わってきている。時代錯誤と言ったのは、このことにまだ気づいていない業界・部門が多いからだ。

 

かつてのVTR製品では、日本ビクターが開発したVHS方式がソニーのベータ方式に勝ち、事実上の標準規格(デファクトスタンダード)となった。パソコンでも、インテルのx86アーキテクチャとマイクロソフトのMS-DOSがデファクトスタンダードになった。だから日本でもデファクトスタンダードや標準規格を作ろうと思ったのかもしれない。しかし、残念ながら時代はもう変わっている。もはやデファクトスタンダードは存在しえない時代に入り、標準規格は1国でできるものではなくなっている。このことに速く気が付いてほしい。

 

無線LANWi-Fi)は、IEEE802.11/a/b/g/n/ac/ad/pなどの規格があるが、誰が主導権を持つといった性格ではない。USB1.0から3.0、そしてType-Cなどの規格へと発展している。これらをはじめとする様々な規格は、世界中のプレイヤーみんなで決めたものだ。それらは、基本的に入出力を合わせることに集中している。つまり、製品全体ではなく製品の入力と出力のハードウエアとソフトウエア(プロトコル)を揃えることが現在の標準化である。

 

インテルが世界のトップメーカーになったのは、x86アーキテクチャがIBMに採用されたからだという説はあるが、それだけではない。東京大学の藤本隆宏教授のグループが分析したように、PCIバスというメモリやチップセットと共通の通信バスをハードウエア(配線)とソフトウエアで統一することを提案したことも大きい。CPUとチップセットを作るインテルはそれ等のチップにメモリを買って来れば誰でもパソコンを作れるようになった。台湾のエイス-スエイサーラボなどの企業は、チップセットを設計し大きく成長した。メモリは日本や韓国から買えばよい。パソコン産業に誰でも参加でき、発展した。

 

重要なことは、入出力の仕様をオープンにして、みんなが周辺部品や装置を作ることでパソコンを安く作れるようになったことだ。この入出力を開放しながらもインテルCPUの中身はブラックボックスにしたまま、公開は決してしない。これがオープンイノベーションである。仕様をオープンにするからと言って装置やデバイスの中身の技術を公開することでは決してない。入出力だけをオープン、共通にすることによって、さまざまな企業のさまざまな製品をつなげられるようにすることで産業全体を発展させたのである。

 

これからのIoT時代に向けて標準化を霞が関などが言い始めているが、標準化は世界中のプレイヤーがみんなで決めることであり、日本だけで決めることではない。どうせ、後でひっくり返されることはわかっているから日本だけで標準化を進めることは、むしろ時間の無駄である。標準化を進めるのなら、世界中のプレイヤーが参加できる会議を毎月主導して開く覚悟が求められる。その気がないのならやめるべきだ。

 

標準化は、今や良いものを安く作るための技術の一つになった。だから世界みんなで力を合わせて規格を統一する。入出力がそろっていれば、それらを独自に設計する必要がなく、自分の得意な分野に集中すればよい。これが世界のテクノロジーの流れになっている。この流れに乗れば、良いものを安く作ることができる。残念ながら日本には、この標準化さえ理解していない経営者が多い。良いものを高く作る日本には、人件費の高いアメリカや欧州が良いものを安く作れることを知らない経営者がまだいるのである。

 

新しい標準規格を決めた後には、A社の製品とB社、C社の製品などがすべて本当につながるかどうかのテストをする必要がある。時間かかる作業であるが、前にも紹介したように(参考資料1)このインターオペラビリティ(相互運用性)が次に重要な作業となる。ここにも十分な時間をかけてテストすることで、規格策定時には気が付かなかった詳細な手続きやプロトコルにミスや不明瞭なところが浮き出てくる。こういった細部のことまでも検証し修正して初めて実際の製品に適用となる。だからインターオペラビリティ作業は世界中の企業同士で行う。

 

こういった作業を経ることで、共通部分を安く作り、自分の企業は得意な技術に特化して差別化できる製品を作る。これが良いものを安く作るための標準化である。

 

DSCN1093.JPG

図1 ベル研究所所長でありノキアのCTOであるMarcus Weldon博士


先日、ベル研究所(現在の半導体トランジスタを発明し、シャノンの通信理論を打ち立てた研究所で、現在はノキア社所属)のマーカス・ウェルダン所長(ノキアのCTOも兼務)(図1)が最近のトレンドを紹介した中に、標準化がかつて「リード」した時代から「フォロー(従う)」時代に来ていると述べた。私は、我が意を得たり、と思った。彼は、使われていない標準規格、標準化はたくさんあるが、それはビジネスの価値がなかったからだ、とズバリ語った。つまり、日本発の標準化案を作ってもビジネス価値がなければ全く意味がない。日本発の標準化案が認められたことを喜んでいた人たちがいたが、ビジネスという視点が全く抜けていた。

 

繰り返すが、標準化はあくまでも良いものを安く作るために必要なテクノロジーであり、日本発には全く意味がない。ウェルダン所長のいうようにビジネス価値がない標準化は決して使われない、ことを強調しておく。


参考資料

1.    日本はBluetoothを復活できるか(2016/04/01

                                                               (2016/05/29