非技術系の「デジタル」にも違和感
2015年6月17日 20:27

先日、「テクノロジー」という言葉に違和感を覚えるという記事(参考資料1)を書いた。早速、元エンジニアのトモダチから「同感、私はデジタルという言葉にも違和感を覚えます」、という意見をいただいた。この声にも全く同感である。事実、1980年から2014年まで、アナログICの出荷数量の方がデジタルICのそれよりも増え続けてきた。その数量の成長率もアナログの方が大きい。デジタル時代なのになぜアナログICの方が成長は速いのだろうか。考察してみよう。

 

デジタルエレクトロニクスという言葉を最初に聞いたのは、米McGraw-Hill(マグロウヒル)社が発行していたElectronics誌の記事を日経エレクトロニクスが翻訳した、1977~78年頃だった。その記事では、これからのエレクトロニクス技術はアナログからデジタルに変わっていく、というトーンだった。

 

1971年にはIntel4ビットのマイクロプロセッサ4004を発明し、Texas Instruments1トンジスタ/セル方式のDRAMを発明し、デジタルLSI時代は幕を開けた。それ以前は、TTL標準ロジックがデジタルICの数を圧倒していた。当初は、コンピュータエンジニアから「おもちゃ」と見られていた4004だが、8ビットの8080時代へと突入した。統計的な数字を持っていないが、70年代はデジタルICが増え続けたのだろう。特にDRAMメモリは容量が少なすぎて話にならないほどだったから、1Kビットから4K16K64K256Kと増加の一途をたどり、数量も月産1000万個、2000万個と増えていた。

 

80年代に入り、16ビットの80868028680386、そして32ビットの80486へと進化した。16ビットプロセッサ全盛の1980年代半ばに、デジタル時代には必ず人とのインターフェースに使われるアナログ半導体が求められるはず、との信念を持った男ボブ・スワンソン氏がLinear Technologyを創業した。アナログ専業メーカーのMaxim IntegratedIntersilなども設立された。Analog DevicesTIもアナログが強かった。

 

80年代後半になると、コンピュータエンジニアは半導体マイクロプロセッサを本気で考えるようになった。ゲートアレイなどのロジックでCPUボードを作るよりもIntel486Pentiumを購入する方が安くて高性能が得られるようになったからだ。

 

ところが、デジタルのマイクロプロセッサ技術の進展と共にアナログ半導体の数は増えていった。しかも、1980年から2014年に至るまで出荷された全IC総数の内、アナログ半導体の占める割合はずっと一貫して増え続けてきたのである()1980年には出荷されたICの総数の68%がデジタルで、アナログは32%だったが、2014年には47%がデジタルで53%がアナログ半導体と逆転した。今後の成長率でさえ、アナログICとマイクロコンピュータ(MCU/MPU)、MOSロジック、メモリという分類で見ると、アナログ半導体の成長率が最も高い年率平均8.9%2013~2018年を成長していくという予測がある。

AnalogvsDigital.jpg

 図 アナログICの比率は増え続けている 出典:IC Insights

 

これを物語るのは、時代はデジタルに向かってきているものの、使われる半導体はアナログの方が増加率は高い、ということだ。入力の光センサや圧力センサとそのインターフェース回路はアナログ、A-D変換器(コンバータ)もアナログ、D-A変換器もアナログ、そして出力の液晶ディスプレイドライバ、モータの駆動インバータ、無線のトランシーバ、など人間を含む外界とのインターフェースは全てアナログICで出来ている。

 

さらに2000年代に入り登場したスマートフォンはアナログだらけである。タッチパネルのタッチセンサやジェスチャーセンサ、画面を90度回転させると画像も90度する加速度センサ、電子コンパスに使う磁気センサ、カメラの手ぶれ防止に使うジャイロセンサなど、こういったユーザーエクスペリエンスと言われる機能は全てアナログ回路である。そして今、時代はユーザーエクスペリエンスの時代に入るとアナログICの需要はますます増える。人間の指タッチや、ポーズ、ジェスチャーなど楽しいしぐさを入力デバイスとして表現するようになってきたからだ。音声のマイクロフォンは音を電気に変換するセンサである。音声入力もますます増えていく。スマホやタブレット、IoT端末のユーザーインタフェースは全てアナログ主体の回路となる。だから、アナログICがこれからも増えていくのである。

 

スマホやタブレットのデジタル回路部分はコンピュータと同じ構造だが、その入出力部分はまさにアナログである。そして電源用IC(最近ではパワーマネジメントICと呼ぶ)もアナログであり、約4Vのリチウムイオン電池から、1.2V3.3V5V7Vなど10種類程度のDC電源を作り出さなければならない。もちろん、据え置き型の機器は100Vの交流から、やはりさまざまな種類の直流電源を作り出す。

 

要は、マイクロプロセッサとメモリ(ROM/RAM、ストレージ)、周辺の専用ロジック回路などはデジタルだが、それらは制御と演算を受け持つ。演算処理が終わると出力するためのアナログ回路が欠かせない。

 

以上のように、「デジタル機器」にはアナログICが山のように増え続けている。だからこそ、デジタル時代と言われることにエンジニアは違和感を覚える。おそらく、非技術系の使うデジタルとは、機器の中身はどうでもよく、表示が数字だとデジタルで、表示が色の濃淡やグレイスケールだとアナログと言っているだけではないだろうか。これからのIoT端末の中身はデジタルICよりもアナログICの方がずっと多くなる。

 

ただ、エンジニアが注意しなければならないのは、非技術系のデジタルこそがユーザーエクスペリエンスであるという認識ではないだろうか。厳密にはやはりアナログ回路なのだが、コンピュータや専用ロジックのようなデジタル技術一辺倒ではなく、非技術系の言う「デジタル」、すなわち技術系の言う「アナログ技術」に商品価値が移っていることに気が付くべきかもしれない。

参考資料

1.    非技術系の「テクノロジー」に違和感(2015/05/07

                                                   (2015/06/17)